5 「青年は地下で遺跡を見つける」
普通はこの辺りでようやく一話、本当に短いですね。
タイトルを「青年は冒険者を夢見る」から「魔物の世界で青年はステータスをインフレさせる」に変更しました。
「うわあああぁぁっっ!」
急斜面を転がり落ちる。
ごつごつとした岩肌は全身にぶつかり、全身に傷を刻んでいく。
しばらく落ち続けると、遂に地面に叩きつけられた。
「ぐうっ!」
全身がしびれる。
アルバートは痛みで顔を歪ませた。
地面と衝突した衝撃でしばらく動けそうなかった。
少しすると、急に落ちた混乱からも冷める。
あたりを見渡す余裕ができるようになった。
アルバートは、地面に伏したまま頭を上げる。
すると目の前には、石でできた古びた建造物が広がっていた。
目を見開いて、息をのむ。
アルバートは、様々な物語や伝記を集めていたが、
町に地下があることも、このような遺跡が建てられていたことも聞いたことが無かった。
「いつっ」
体を打ち付けた痛みを感じながら体を起こすと、地面に突いた手が砂を握りこんだ。
周りを見ると、体の下とその周りには砂が敷き詰められていた。
勢いよく地面に衝突した割に重傷を負うことが無かったのは、この砂が衝撃を緩和してくれたからかもしれない。
やっと体が動くようになる。
立ち上がるが、そのときふらりと体が揺れる。
さっきの落下で酔いは醒めたかと思ったが、どうやら予想以上に飲みすぎたのかもしれない。
まだ酔いが残っているようだ。
興味のままに、アルバートは安全かどうかも分からない遺跡の中に入っていく。
どうやら酒は無謀を後押しする効果があるのかもしれなかった。
蜘蛛の巣とホコリを払いのけながら奥へと進む。
どうやら遺跡には特殊なヒカリゴケが生えているようだ。
暗くても近くはうっすらと見える。
どんどんと進んでいく。
いつの間にか元来た道も分からなくなっていたが、
酒が入っているアルバートはそれに気づくことができない。
「あれは……?」
何かが目に入った、キラリと光るもの。
アルバートは吸い寄せられるようにそれへと向かっていく。
どうやら棚があるようだ。
棚の前にある茶色い布の幕を払い、光の正体を暴く。
それは青色の結晶体だった。
正三角形を八つ張り合わせたような綺麗な八面体の結晶。
透き通る青は向こうの景色がわずかに見えるが、
それよりも目に入ったのは結晶体の中央に瞬く光の粒だった。
「驚いた、こいつはまるで星の集合みたいだ」
アルバートは結晶体を手に取り、それを色々な角度から見まわす。
「なんなんだこりゃあ……」
食いもんじゃないよな、と言いながら、
アルバートは結晶体に噛みついてみるが、うんともすんともしない。
溜息を吐きながら、手のひらの中にある結晶体を眺める。
すると突然、結晶体が光りだす。
アルバートの全身に、電撃に打たれたような痛みと衝撃が走った。
「うわっ、なんだ!?」
思わず結晶を放り捨て、叫び声を上げる。
ちくしょう、と毒づきながら、すぐに放り投げた結晶体を拾い上げようとする。
しかし、ピクリと手を止めて恐る恐る結晶を掴むことにした。
結晶を手に取る。
また、あの痛みに襲われることは無かった。
「どうなってんだ……?」
手にある結晶は、さっきと違いがあった。
青色と星のきらめきが無くなって、無色透明になっていた。
ちらりと、さっきこの結晶を拾った棚が見える。
アルバートがそこを覗くと、今持っているものと同じ無色透明の結晶がいくつも残っていた。
どうやら最初に見たときは、結晶の青い光で見えていなかったらしい。
アルバートは、眉を寄せると溜息を吐く。
もう十分だ、と言って手に持った結晶をズボンの右ポケットに入れ、棚にある他の無色透明の結晶を三つほど掴むと左ポケットに入れてそこを後にした。
※文章を一部改変しました。12/27
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