4 「青年は闇に落ちる」
アルバートは、酒場から帰宅の途に就いていた。
エドワードは、親方に言い渡された仕事を朝早くからやらなければならないようで、すでに帰っている。
まあどちらにしても、帰る場所は二人とも同じだ。
子供のころ丁稚として商店に入ったころから、二人とも店の二階に寝泊まりしている。
普段は親方も一緒に飲みに行くことも多い。
しかし、どうやら重要な商談が夕方から入ったとのことで、今日は欠席だった。
少し遅くまで飲みすぎたかと、アルバートはあくびをかみ殺して足を進める。
ふと前を見るとその視線の先。
少し前で何人かの人間が何かをしているように見える。
目を凝らしてよく見てみる。
どうやら、三人の男たちがどうやら地面にうずくまった一人に、暴行を行っているようだった。
「おいおい、何してんだあいつら……っ」
普通はアルバートとてこのようなことはしない。
向こうは三人、立ち向かったとして勝てる道理はない。
アルバートは子供のころとは言え一時期英雄を目指した身だ。
普通の人以上のヒロイズムはある。
しかし、それは無謀をしないと言う訳ではない。
おそらく普段であればいつも常駐している衛兵の待機所に行くか、見て見ぬふりをして通り過ぎるだろう。
しかし、今日は普段よりも多くの酒を飲んでいたためだろうか。
多少気が強くなっているのか、そのまま突っ込んでいってしまう。
「やめろよお前ら、みっともない」
アルバートは一番近くにいた男の肩を掴んで、暴行を止めようとする。
「あん? んだよ、文句あんのかよこの酔っ払いがっ!」
肩を掴まれた男はすぐにアルバートの手を乱暴に振りほどく。
その顔はトマトのように真っ赤に染まっており、
アルコールが回っているのは明白だった。
「なんだ、そっちのほうが酔っ払ってんじゃないか」
「んだとてめえ……っ!」
そうするとこの会話を聞いたほかの二人も暴行を止めてこちらの方を注目し始めた。
「まあまあ、落ち着こうぜ。短気はいいことないって言うしな?」
「この野郎……」
「ふざけてんのか?」
どうやら完全に頭に血が上ってしまったようだ。
アルバートはあまり口が上手くなかった。
エドワードなら、上手くなだめられたのかもしれないと思わなくもないが、それは意味のない例え話。
そういえばと、地面にうずくまって暴行を受けていたやつは大丈夫かと思い声をかける。
「おいあんた大丈夫か、って」
建物の隅にいたはずの人物は、その人影がもはやない。
少し遠くの方に目を凝らすと、この場から一目散に逃げだす人の背中が見えた。
「あらー、逃げちゃったのね……」
アルバートもさすがに開いた口が塞がらなかったが、そのような場合ではない。
今の今まで暴行をしていた三人に視点を合わせる。
「てめえのせいで逃げちまったじゃねえかよ!」
「ふざけんなよこの野郎っ!」
「やっちまうぞ!」
「お、おいおい落ち着こうぜ、な?」
アルバートは、何とかなだめようとするが、
それはもはや、狼の目の前で肉を隠すようなものだ。
三人の中で一番前にいる男が、アルバートに殴りかかってくる。
アルバートはそのこぶしを慌てて避ける。
そして近くの路地裏に逃げ込もうとした。
この辺りは、アルバートにとっては庭のようなものだ。
それは、たとえ裏道であっても例外ではない。
しかし走り出した瞬間、アルバートはもう一人の男に背後から突き飛ばされた。
自分の走り出した方向に突き飛ばされたものだから、アルバートはもんどりうって転がり近くの石壁に激突する。
全身に走った衝撃と痛みに、何とか立ち上がろうとその石壁に手をつく。
すると突然石壁はぼろりと崩れた。
そんな馬鹿な、と思う暇もなくアルバートはバランスを崩す。
そして、そこに空いた真っ暗な穴から真っ逆さまに落っこちていった。
※文章を一部改変しました。12/27
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