18 「青年は独りで冒険に向かう」
あとは、掲示板で新しい情報がないか確認するか。
組合の中央に取り付けられた掲示板には、冒険に関する細かな情報が、随時張り替えられている。
このような新鮮な情報は、非常に重要なものだ。
冒険者が壁の外に出る前に組合に寄る理由の多くが、この情報を確認するためである。
これを確認するか否かによって、生存率に大きな違いが生まれる。
どうやら最近、<カクタス草原>東部の奥に生息する邪な小鬼の中に、平時より若干強い個体が散見されているらしい。
今日通り抜けるつもりの所だ。
普通とは違うということは、何らかの理由が必ずある。
用心するに、越したことはないだろう。
いつもより速度を落として、慎重に進むべきか。
そのようなことをアルバートが考えていると、横から声が掛かってくる。
「アルバートか、奇遇だな! どうだ調子は」
「ああ、順調だとも。お前も元気そうで何よりだ、ライス」
特徴的なだみ声ですぐにわかった。
振り向くと、髭面の肌の焼けたおっさんが陽気な笑顔で笑っていた。
筋骨隆々の大男。
背中には大きな鉄盾を背負い、腰に取り回しの良さそうなメイスを下げている。
このライスという男は、アルバートが冒険者の必需品を尋ねて回ったときに、仲良くなった男だ。
面倒見がよい性格のようで、いろいろなことを教わった。
ただその分、なかなかの酒代が掛かったが。
「そりゃあ良かった! どうだ、今日は一緒に行かないか。仲間は俺が説得するからよ」
冒険者が、冒険当日に仲間を増やすことはまずない。
冒険には、大きな危険が伴う。
それを回避するために、仲間内で計画を練り、役割と連携をしっかりと憶えた後で冒険に出るからだ。
いきなり新しいメンバーが加わるのは、それを崩す恐れがあるため危険であり、どれほどその人物が優れていようとも、パーティーでは異物となる。
もちろん熟練の冒険者であろうライスが、それを解っていないはずもない。
それでも自分のパーティーに誘うのは、本当に面倒見がいいのか、自身があるのか。
ともかく、パーティーメンバーを説得すると言っていることから、仲間内での信用は厚いものがあるようだ。
ただ、アルバートはその提案に、首をよこに振る。
「悪いな、先約があるんだ。また今度誘ってくれ」
「そうか、当たり前だな。それじゃあ、そうさせてもらおう」
そう言ってライスは腕を振り、人ごみの中に消えていった。
アルバートは苦く顔を歪めると、組合を後にする。
そのまま<町の壁>の方に足を向けた。
そして、ただ歩いているだけではもったいないと、組合で買った資料を読んでいく。
前をまるで見ていないのにも関わらず、この人のひしめく大通りで誰かにぶつかることは無い。
まるで水か風の様に、するりするりと人ごみの中を流れるように進んで行く。
そのため、すぐに壁の門までたどり着いた。
例え人が何十倍に大きくなろうとも、軽々と通り抜けられるほどの大きな門。
この先が冒険者の憧れた、外だ。
町の結界がある限り、魔物は町の中には入ってこれない。
そのため、日の出ているうちは門はずっと開けっ放しだ。
門の周りには、待ち合わせをしていると思しき冒険者が無数に立っている。
武器の手入れをしていたり、道具の確認をしていたりと姿は様々だ。
しかし、アルバートはそれらには目もくれず、門を目指す。
そうして、門の下にいる衛兵に通行税を渡す。
魔物の跋扈する外に行くのに、通行税を取ろうなんておかしなものだと思う。
まあ、領主もどうにかして税収を上げようと、必死なのだろう。
少額であるし、それほど問題は無い。
「一人か?」
「外で待ち合わせしてるのですよ」
衛兵が訝しげな声で尋ねるが、アルバートはすぐにそう答える。
衛兵は、そうかとだけ言って興味を無くす。
そうしてアルバートが門をくぐる。
お読みいただきありがとうございます。
もしよろしければご感想、ブックマーク等よろしくお願いします。