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魔物の世界で青年はステータスをインフレさせる  作者: 上七川春木
1章『青年は冒険者を夢見る』
19/31

18 「青年は独りで冒険に向かう」


 あとは、掲示板で新しい情報がないか確認するか。

 組合の中央に取り付けられた掲示板には、冒険に関する細かな情報が、随時張り替えられている。

 このような新鮮な情報は、非常に重要なものだ。

 冒険者が壁の外に出る前に組合に寄る理由の多くが、この情報を確認するためである。

 これを確認するか否かによって、生存率に大きな違いが生まれる。


 どうやら最近、<カクタス草原>東部の奥に生息する邪な小鬼(ゴブリン)の中に、平時より若干強い個体が散見されているらしい。

 今日通り抜けるつもりの所だ。

 普通とは違うということは、何らかの理由が必ずある。

 用心するに、越したことはないだろう。

 いつもより速度を落として、慎重に進むべきか。

 そのようなことをアルバートが考えていると、横から声が掛かってくる。


「アルバートか、奇遇だな! どうだ調子は」

「ああ、順調だとも。お前も元気そうで何よりだ、ライス」


 特徴的なだみ声ですぐにわかった。

 振り向くと、髭面の肌の焼けたおっさんが陽気な笑顔で笑っていた。

 筋骨隆々の大男。

 背中には大きな鉄盾を背負い、腰に取り回しの良さそうなメイスを下げている。

 このライスという男は、アルバートが冒険者の必需品を尋ねて回ったときに、仲良くなった男だ。

 面倒見がよい性格のようで、いろいろなことを教わった。

 ただその分、なかなかの酒代が掛かったが。


「そりゃあ良かった! どうだ、今日は一緒に行かないか。仲間は俺が説得するからよ」


 冒険者が、冒険当日に仲間を増やすことはまずない。

 冒険には、大きな危険が伴う。

 それを回避するために、仲間内で計画を練り、役割と連携をしっかりと憶えた後で冒険に出るからだ。

 いきなり新しいメンバーが加わるのは、それを崩す恐れがあるため危険であり、どれほどその人物が優れていようとも、パーティーでは異物となる。


 もちろん熟練の冒険者であろうライスが、それを解っていないはずもない。

 それでも自分のパーティーに誘うのは、本当に面倒見がいいのか、自身があるのか。

 ともかく、パーティーメンバーを説得すると言っていることから、仲間内での信用は厚いものがあるようだ。

 ただ、アルバートはその提案に、首をよこに振る。


「悪いな、先約があるんだ。また今度誘ってくれ」

「そうか、当たり前だな。それじゃあ、そうさせてもらおう」


 そう言ってライスは腕を振り、人ごみの中に消えていった。

 アルバートは苦く顔を歪めると、組合を後にする。

 そのまま<町の壁>の方に足を向けた。

 そして、ただ歩いているだけではもったいないと、組合で買った資料を読んでいく。

 前をまるで見ていないのにも関わらず、この人のひしめく大通りで誰かにぶつかることは無い。

 まるで水か風の様に、するりするりと人ごみの中を流れるように進んで行く。

 そのため、すぐに壁の門までたどり着いた。

 例え人が何十倍に大きくなろうとも、軽々と通り抜けられるほどの大きな門。

 この先が冒険者の憧れた、外だ。


 町の結界がある限り、魔物は町の中には入ってこれない。

 そのため、日の出ているうちは門はずっと開けっ放しだ。

 門の周りには、待ち合わせをしていると思しき冒険者が無数に立っている。

 武器の手入れをしていたり、道具の確認をしていたりと姿は様々だ。

 しかし、アルバートはそれらには目もくれず、門を目指す。

 そうして、門の下にいる衛兵に通行税を渡す。

 魔物の跋扈する外に行くのに、通行税を取ろうなんておかしなものだと思う。

 まあ、領主もどうにかして税収を上げようと、必死なのだろう。

 少額であるし、それほど問題は無い。


「一人か?」

「外で待ち合わせしてるのですよ」

 

 衛兵が訝しげな声で尋ねるが、アルバートはすぐにそう答える。

 衛兵は、そうかとだけ言って興味を無くす。

 そうしてアルバートが門をくぐる。





お読みいただきありがとうございます。

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