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魔物の世界で青年はステータスをインフレさせる  作者: 上七川春木
1章『青年は冒険者を夢見る』
17/31

16 「青年は冒険者の朝を迎える」

投稿を再開します。


 小鳥の声が聞こえる。

 淡い光が、目蓋の上に乗っている。

 もう朝になったのか。

 アルバートが目を開けると、そこには最近になって見るようになった、木製の天井があった。


「うあ~」


 うなり声を上げながら、両腕を天井に伸ばす。

 そうしてベッドから起き上がると、机に置いてある水差しから直接水を飲む。

 のどを潤すと、水差しを机に置く。

 そしておもむろに、部屋の窓を勢いよく開け放した。

 刺すような日差しと、顔を叩くほどの喧騒が、アルバートの眠気を完全に覚ます。

 視界の先に見えるのは<町の壁>。

 視線を落とすと、ひしめく様に建っている建物。

 そして、様々な武器と鎧を身に着けて、そこを闊歩する者たち。

 冒険者だ。


 ここは冒険者最大の<壁の町>、カクタス。

 その最東端の街であり、<壁の街>にある四つの主要門に臨在する、四つの冒険者の集いの街の一つ。

 イーストエクセリス。

 冒険者たちはもっぱら、東の街と呼んでいるが。

 今は、そこの宿屋にいる。


 アルバートは、一週間ほど前にこの街にたどり着いた。

 そして、宿を取った後、冒険者組合に登録した。

 冒険者組合は、冒険者をする上で必ず入らなければならない組織で、他の組織と重複で登録することができる、素晴らしい組合だ。

 例えば、元商人のアルバートは当然、地元の町にある商業組合入っていた。

 普通であれば、複数の組合に同時に登録することなど不可能。

 それは、組合への裏切りに他ならない。

 しかし、冒険者組合だけは例外で、アルバートが商業組合に所属したまま、冒険者組合に所属することが可能になる。

 アルバートにとってそれは朗報だ。

 商業組合を通せば、親方のチャップリン商会との取引がスムーズに行えるのだから。


 アルバートは、カバンの中に入っている黒パンとチーズ、干し肉を水で喉に流し込む。

 剣、盾、メイスなどの装備や道具の確認を素早く行う。

 そして、そのままカバンを背負うと、宿屋を後にした。

 この先の日にちの料金の前払いもしているため、宿が無くなる心配はない。

 だが、普通の宿屋に防犯性などあったものでは無い。

 荷物は全て持ち歩くのが、当たり前だ。

 同じ宿の客が盗人に化けるなど、日常茶飯事なのだから。


 アルバートは表通りに出ると、冒険者組合の建物を目指す。

 あまり高い宿ではないので、組合とは少し遠めだ。

 朝から、ひどい混みようを見せる通りを進んでいく。

 一番多いのは冒険者、そしてそれを狙って一儲けを企む商人。

 治安を維持するための衛兵も多い。


 通りの両端にある屋台や商店からは、引っ切り無しに声掛けが響く。

 だが、アルバートがそれに乗って、寄り道をすることは無い。

 ここに来てから一週間、釣られて何かを買うこともなかった。

 冒険に必要だと思われるものは、初日にすべて買い込んだ。

 ここに来る前から必要だと思っていたもの。

 それと、見落としがある可能性を踏まえ、冒険者組合にいた冒険者に聞いて回って用意したものを全てだ。

 その際に、少し酒代が必要になったが、必要な経費というものだろう。


 他のすべてを無視して、冒険に励む。

 これは冒険者として、称賛されることかもしれない。

 しかし逆に、心に余裕を持っていないのも事実。

 ただまあ、これは仕方がないことと言えるのかもしれない。

 アルバートが冒険者になってから、まだ一週間しか過ぎていない。

 まだまだ、お上りさんであることは否定できないし、当たり前とも言える。

 一か月も経てば、他のことにも目を向けることもあるだろう。


 アルバートは立ち止まる。

 目の前には、冒険者組合の看板を下げる建物があった。

 この東の街、イーストエクセリスの要となる組織の拠点。

 それに相応しい構えをした、大きな石造の建物だ。

 貴族の屋敷なのでは、と勘違いしかねないほどの大きさ。

 最初に見たときは、一瞬呆けてしまったほどだが、今でもその威容には息を飲まずにはいられない。

 大口を開けた入り口からは今も、何人もの冒険者が出入りを繰り返している。

 朝方だからだろう。

 冒険者のほとんどは、早朝に組合で用事を済ませてから、壁の外に出立する。

 そして、日の暮れる前。

 夕方あたりに、冒険を済ませて帰ってくるからだ。


 アルバートは、こぶしを握り締めると、大股を開けてその中に入っていった。

 今日の冒険の始まりだ。


※主人公の装備に関する文を、一つ足しました

「剣、盾、メイスなどの装備や道具の確認を素早く行う。」


お読みいただきありがとうございます。

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