15 「青年は旅立ち門をくぐる」
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すでに、あれから一か月がたった。
もう準備は済んでいる。
目の前にはゲート。
すべてを飲み込み、吐き出す魔法の門。
今も目の前で、多くの人間や馬車が行き来している。
相変わらず、活気のある場所だ。
アルバートは唾をのむ。
これが、冒険の入り口。
新たな冒険へのはじまりとなる。
もう街の皆とは、お別れを済ませた。
街を出るとき、予想以上の人数が集まっていて、驚いたのを覚えている。
何十人もの人たち。
アルバートの視界を埋め尽くすように、集まっていたのだ。
アルバートの交友関係は、物語を聞きまわっていたせいなのかアルバートが思ったより広かった。
どこからか、アルバートが冒険者になることを聞きつけてきたのだろう。
アルバートにとっても、大人数に見送られるのは、少し気恥しいものがあった。
ただ、それ以上に嬉しかったのは事実だ。
自分の趣味が、これほどに人たちとの繋がりを作れたこと。
そして、これほどの人たちが、自分に期待してくれているのが、嬉しかった。
多くの人が集まり、街の出入り口はお祭り騒ぎ。
しかしその中でも、エドワードと親方は普段と変わらなかった。
エドワードは相変わらず微笑んでいたし、親方はいつもの仏頂面のままだった。
それを見て、浮ついた心が引き締まる。
親方によると、まだ支店を出す準備が追い付いて居らず、エドワードが冒険者の町カクタスに行くのは少し後になりそう、とのことだ。
みんなと、握手を交わしていく。
順番に、一人ずつ。
いろいろな声をかけられた。
頑張れ、とか。
期待してる、とか。
元気でやれよ、とか。
今度はお前が物語を主人公として語ってくれ、なんていうものもあった。
そして、みんなからの声援を背に受けてアルバートは旅立ったのだ。
アルバートは背負ったバックを手で触る。
布と紐で作られた、簡素なバック。
ここにみんなから贈られた、餞別が入っている。
中身を詳しく調べるのは、宿についてからだ。
背にはもう一つ、一回り小さいバックを背負っていて、そこにはアルバートの日用品などが詰め込まれている。
アルバートが、冒険者として必要と思ったものだ。
清潔な布や、ナイフなどが入っている。
アルバートは、広場の中央にある時計を確認する。
もう時間のようだ。
頬を両手で叩いて気合を入れる。
「よし!」
その様子を、周りに歩く何人かの人が、ほほえましいものを見るような目を向けていた。
初めて都市に来た、おのぼりさんのように映っていつのだろう。
しかし、興奮したアルバートがそれに気づくことは無い。
足を大きく踏み鳴らし、ずんずんとゲートに近づいていく。
そして、人の列に並ぶ。
ここが窓口だ。
ここで手続きをして、ゲートをくぐることになる。
少しすると、すぐアルバートの番になった。
非常に早い。
ここの役人は優秀なようだ。
それはそうか、ともアルバートは思う。
ここは交易の要所。
その日、一日にいったい何人がゲートをくぐるかで、町の収益が変わってくる。
優秀な役人を配属させるのは、当然のことだ。
アルバートは窓口で、一つの羊皮紙を差しだす。
「これは?」
役人が羊皮紙を受け取ると、そこに書かれた文面を読む。
役人の目が、僅かに見開かれたのを、アルバートは見逃さなかった。
これが領主の城の謁見の間で聞かされたことの、二つ目。
そして、アルバートが冒険者になることを決めた、大きな要因の一つ。
ゲートの、課税免除認め証だった。
ゲートを通るために必要な、顔が青くなるような額の税金を、免除してくれる証書だ。
アルバートが、冒険者になることを望んでいると知った領主が発行してくれたものだった。
とはいえ、免除されるのは、この町の税金のみ。
ゲートで徴収される税は、ゲートを通る前の町と、ゲートを通った後の、町の両方で払わなくてはならない。
つまり、ゲートの通行税は半分となっただけと、とらえることもできる。
しかし、これも大丈夫だ。
領主の城で聞かされたことの、三つ目。
それは、莫大な報奨金だった。
情報が封鎖されているとはいえ、アルバートが町を救ったのは事実だ。
人類の全てを殺戮できる魔物を、倒したのだから。
だからこそ、それに見合った報奨金が支払われた。
これは、ただの商人見習いにはあまりに大きな額。
気を失うほどの金額で、アルバートもそれを聞かされたとき、気を失いかけた。
それこそ、アルバートが今から門商を始められるほどの額だ。
このお金があれば、通行税の半分を払うことはもちろん、宿の心配も飯の心配も、一生しなくていい。
アルバートは、そのお金の大半を自分の所属する商業組合に預け、今はそのほんの一部を持ち歩いている。
アルバートは、大事そうにズボンのポケットに手を当てる。
そこからは、ジャラリとお金の音が聞こえてきた。
手続きが終わると、課税免除認め証が返される。
それを、丁寧にバックにしまった。
そして、もう目の前に迫っているゲートを見上げる。
唾を大きく呑み込み、そこに向かって進んでいく。
ゲートの中は、不思議な寒色に輝いており、見通すことなどできない。
この先に、冒険者の町カクタスがある。
冒険が待っている。
アルバートは意を決して、光の中に飛び込んだ。
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