表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔物の世界で青年はステータスをインフレさせる  作者: 上七川春木
1章『青年は冒険者を夢見る』
15/31

14 「青年は酒場を去り、友人は語る」

※プロローグを追加しました

※それに伴い、第一話も文を変更しました。


「冒険者か、いつかそうなる気はしていたよ」


 エドワードは、しみじみとした声でそう呟く。

 ここはいつもの酒場。

 机を囲んでいるのは、アルバートとエドワード、そして親方の三人だ。

 親方は、酒を飲んでいるときは寡黙になる。

 話すのはもっぱら、アルバートとエドワードだ。

 しかしそれは、ただ黙っているのではない。

 親方はとても聞き上手で、酒を飲むと饒舌になる二人には、とても相性がいいと言えた。


「お前もそう言うのか。そんなに分かりやすかったかねえ」


 アルバートは、口をへの字に曲げる。

 その分かりやすい拗ね方に、エドワード声を出して笑った。


「そりゃあね。君は色々な物語を集めてたけど、それは冒険者や魔物に関することがとても多かったし。たまに空を見上げてぼうっとしてた時も、決まって壁の方を向いていたからね。強く望んでいたのは分かったよ」


 エドワードはにっこりと笑う。

 でもまさか本当になるとは思わなかったけどね、と声を溢した。


「なるほどなあ。全然気づかなかった」


 アルバートは息を吐くと、手に持ったエールをぐびりと呷った。

 そして、コップを机に置く。


「それじゃあ、俺はそろそろ行くよ。準備をしなきゃならねえからな。親方、お先失礼します」


 アルバートは、そう言って酒場を後にする。

 冒険者になることを決めたアルバートは、最近はその準備に追われていた。

 これからも、この準備に行くのである。


 アルバートが去った後の酒場の机には、エドワードと親方が残る。

 酒場の周囲は、いつものように騒がしい。

 ばか笑いが、そこら中から聞こえてくる。

 なんだかいつもより、少し大きく声が響くように感じる。

 エドワードは、親方に尋ねる。


「親方は、どう思ったんですか? アルバートが冒険者になることに」


 親方は手に持ったエールを少し飲みこむと、目を閉じる。


「俺は、こうなる時が来ると思っていた」

「確信してたってことですか、なぜです? 確かにアルバートは、冒険者と外の世界に強く惹かれていたようではありますが」


 親方は頷くと、エールを飲みほした。

 エドワードは気になっていた。

 エドワード自身が考えた限りでは、アルバートが冒険者になることを決定づける物は無かった。

 親方は何かに気づいているのだろうか。

 聞き逃すまいと、耳を澄ます。

 すると、親方は驚くべきことを口にした。


「感だ。あえて言うならば商人としての感だ」

「感ですか?」

「そうだ。俺は昔、アル坊が冒険者になると直感した。だからその時から、冒険者の町カクタスに支店を建てるための準備を始めた。一か月程度で支店を立てられるのはそのためだ」

「それだけで準備をしていたのですか、何年も前から!?」


 不思議か、と親方は呟く。

 不思議などと言うものではない。

 もしアルバートが冒険者にならなかったら、何年もかけた準備は無駄になる。

 今回は無駄にはならなかったが、勝ち目の薄い賭けであることに違いは無い。

 感一つに数年の年月をかけることは、エドワードには理解できなかった。


「感は重要だ。お前も長く商売の世界に身を浸していれば、いずれ分かってくる。俺は感に何回も救われてきた」

「しかし、それでアルバートがその通りに冒険者になっても、すぐに死んでしまうとは思わないのですか?」


 エドワードが、アルバートが冒険者になることにあまり賛成していなかったのは、主にこれが理由だ。

 エドワードも、冒険者について調べてみたことがある。

 そこで驚いたのが、冒険者のあまりの死亡率の高さだ。

 冒険者は最初の一年で半数が死亡し、十年間生き残っているのは十分の一に満たない。

 当たり前だ。

 冒険者は町の外へと出かけ、冒険をする職業だ。

 冒険者が外に出る町は、外の魔物がギリギリ人類でも対抗できる強さである、非常に珍しい町であるのは有名だが、それでも危険であることに変わりはない。

 エドワードはアルバートに死んでほしくなかった。

 なにせ十年来の親友だ。

 生きてほしいに決まっている。

 ただ、アルバートの冒険者や町の外に対する強い憧れも知っていたため、反対するにできない状況だった。


「エド坊、お前あいつがそんなに柔な奴だと思っているのか?」


 親方は目を開けて、わずかにほほ笑む。


「あいつはあんななりだが、非常に計算高く、そして恐ろしく冷静だ。故にそれが冒険者を始めるということは、絶対に何かそれを解決するすべを持ってる。だから俺はあいつにかける価値を認めたんだ」


 エドワードは親方の言葉に、しばし考える。

 確かに、アルバートは一見ちゃらんぽらんに見えなくもない。

 だがその実、頭の中では様々なことを考えている。

 エドワードも最初のころは、そのギャップに驚かされたものだった。

 ただ、親友としてやはり心配はせざるを得ないが、それでも少し心が軽くなった気がした。


「それでは乾杯しましょうか」

「ああ、そうだな」

「彼の冒険者人生と」

「商会の躍進に」


 エドワードと親方はエールを掲げる。


「乾杯!」





お読みいただきありがとうございます。

もしよろしければご感想、ブックマーク等よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ