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魔物の世界で青年はステータスをインフレさせる  作者: 上七川春木
1章『青年は冒険者を夢見る』
12/31

11 「青年は絶望を刺し貫く」


 いったいどれだけ時間がたっただろうか。

 疲労で剣を持てなくなったときには、あいつはもう動かなくなっていた。


 アルバートはその上に乗っかていた肉塊から這い出る。

 その手には剣と、あのボロ布を握っていた。

 アルバートは地面に寝転がってボロ布をかぶり、魔物の真下から攻撃を行っていたのだ。


 あまりの疲労に地面に座り込んだまま背後を振り返る。

 するとそこには血だまりに沈んだ魔物の体があった。

 その幾つもの目は濁り切り、四肢と尻尾は力なく投げ出されている。

 すでに死んでいるのは明白だった。


「ははっ……」


 その笑い声は前のものとは異なり、絶望ではなく喜びだけがそこにあった。


「やった……やったぞ。俺は勝った、こいつに勝ったんだ!」


 アルバートは笑い声を上げる。

 それは生き残ったことへの喜びだった。

 絶望を乗り越えたことへの。

 そして、街のみんなを救えたことへの歓喜の笑い声だった。


「俺がこの手で……」


 アルバートは、血に塗れた自分の手を見つめた。

 魔物の下で戦ったことによって全身は体液や肉片でずぶ濡れだったが、今はそのようなことは全く気にならなかった。

 そのまま呆けたように手を見つめていると、不意にアルバートのステータスが表示される。



=========================


固有名:アルバート・コリン

種族名:人


Lv:913

HP:31955

MP:31955


物攻:6299

物防:395

魔攻:13876

魔防:25029

速度:5290


スキル:

なし


=========================



 アルバートは、目を見開いた。

 その数値は、さっき見たものとはまるで違うものになっていたからだった。

 先ほど倒した魔物、集合する眼球蟲(キュアネ・ヌエンブ)ほどではないが、それでも人間から見たらばかげているような数値だ。


「はは、まさかな……」


 アルバートは笑いながら、手をついていた地面をこぶしで軽く叩いた。

 ドゴンッと音が鳴り響く。

 その地面はこぶしの形に深くへこむ。

 砂煙が立ち(のぼ)り、顔を軽く叩いた。

 アルバートは顔を笑みの形に固めたまま、顔を青くする。

 しばらくして、現実に復帰したアルバートは、顔を何回も横に振って立ち上がった。


「オーケーオーケー、大丈夫だ。なに、別に悪いことじゃないさ、少し気を付けながら生活していけばいい」


 そう、これは悪いことではない。

 むしろいいことなのだろう。

 何せ、これでアルバートが冒険者になることをあきらめていた原因の一つが、解決したのだから。


 アルバートはそうして壁の方に向かって歩き出す。

 もうすでに魔物は倒すことができた。

 ならばここに魔物の死体があることを衛兵に伝えなければならない。

 もう脅威は去ったのだ。

 あのかがり火の近くならば、一人や二人の衛兵くらいすぐに見つけることができるだろう。

 しばらく農道を進んでいくと、またもや衛兵の死体を一つ見つける。

 あの魔物にやられたのだろうか。

 アルバートは冥福を祈るとその横を通り過ぎる。


「まさかあれがもう一体いるとか言わないだろな……」


 アルバートは自分の立てた最悪の仮説に顔を青くする。

 もしそうであれば事態はまたもや絶望へと舞い戻る。

 アルバートのステータスも高くはなったが、それでもあの魔物には及ばない。

 活躍したボロ布も、血で塗れて使い物にはなりそうにない。


 アルバートは遂に壁の前までたどり着いた。

 そしてそれを見た瞬間、その顔を驚愕に歪ませることとなった。


 アルバートがたどり着いた目の前の壁。

 それには、大穴が開いていたのだ。

 人一人よりもはるかに大きな大穴。

 そう、ちょうどあの集合する眼球蟲(キュアネ・ヌエンブ)が入れそうなくらいの。


 アルバートがその大穴に目を奪われていると、いつの間にか何かの気配が近づいていた。

 それにようやく気が付くと、アルバートは腰を落として身構える。

 もう逃げだせる距離ではない。

 もう一体の集合する眼球蟲(キュアネ・ヌエンブ)なのか。

 そうならばせめて一矢報いてから死んでやる。

 そう決意を固めていると、急に強い光が視界に差し込んできた。


「おい、アルバートじゃないか! なぜおまえがここにいる!?」


 その気配の主は衛兵だった。

 それも、壁の外の魔物が見たいためにアルバートが通い詰めた待機所にいた、仲のいい衛兵の一人だった。

 彼がアルバートを壁の上に連れて行ってくれたのだ。


「ジェラードさん」

「血まみれじゃないか! 何があった!」


 その言葉に、アルバートは何とかニヤリとした笑みを浮かべると、言い放った。


「……最高のことさ」





※文章を一部改変しました。12/27


お読みいただきありがとうございます。

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