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魔物の世界で青年はステータスをインフレさせる  作者: 上七川春木
1章『青年は冒険者を夢見る』
11/31

10 「青年は忍んで剣を振るう」


 集合する眼球蟲(キュアネ・ヌエンブ)が衛兵の死体のある場所に来た。

 しかしそこに人影は見当たらない。

 左右に農家、道に死体があるだけで、何かがいるわけではない。

 集合する眼球蟲(キュアネ・ヌエンブ)は全ての眼球をギョロギョロリと運動させると、その場から遠ざかっていった。


「ふう、死ぬかと思った」


 アルバートは被っていたボロ布から抜け出すと、息を吐きだす。

 寸でのところで地面に落ちていたこの布を見つけられなければ、ダメだったかもしれない。

 それにしてもこの布は上手く隠れられるらしい、あの魔物に気づかれないとは。


 アルバートはすぐさま近くの農家の陰に身を隠す。

 農家の中に隠れることも考えた。

 だが、逃げ場のないところに隠れるのはまずいだろう。


 それにあの魔物に遮蔽物は意味が無いようだ。

 少し農家の中に顔を入れて確認したところ、血の匂いが漂ってきた。

 家は全く壊れていないのに中の人は死んでいる。

 いったいどのようなことをされたのか見当もつかないが、

 分かっているのは、その何かをされたら自分は死んでしまうということだけだ。


 あまり時間はかけられない。

 あの魔物の力が、一人を対象にしたものでなく無差別のものだった場合、非常に危険だ。

 <町の壁>に煌々と輝くかがり火。

 おそらく、あの魔物を探しているのだろう。

 そしてあの魔物を探す衛兵隊がここを見つけたとしたら。

 衛兵隊が魔物に見つかることになるのは確実である。

 魔物は衛兵隊を殺すだろう。

 魔物の力が対象を取らない無差別のものであると、

 そのときアルバートもまとめて殺されてしまう。


 どうすればいいか。

 そう悩んだとき、いつの間にか握っていたボロ布が目に入った。




  集合する眼球蟲(キュアネ・ヌエンブ)がアルバートの方へと近づいてくる。

 理由は分かっている。

 アルバートがまた大きな物音を立ててしまったからだ。

 アルバートは息をひそめる。

 見つかってしまわないように。


 見つかったら殺されてしまうだろう。

 怖い。あの魔物が近づくのが怖い。

 ひそめている息が震える。

 全身もガタガタが震えそうになるがそれはどうにか根性で鎮めた。

 体が動いてしまうと、あの魔物にバレかねない。

 あいつは今本当に近くにいる。

 肉の脈打つ音や眼球の蠢動(しゅんどう)する音が聞こえてきそうだ。

 さらに近づいてくる。

 もうこれ以上ないほどに近い。


 そう思うとアルバートは、思い切り剣を突き出した。

 肉を裂く感触がする。

 気持ち悪くて吐きそうになる。

 耳元で、金属を裂くような音が炸裂する。

 悲鳴だ。

 自らの肉体が傷ついたゆえの悲鳴。

 あまりにも大きくて耳が壊れそうだ。


 剣を突く、突く。

 温かい液体が顔に、全身に降り注ぐ。

 一心不乱に突き出し、(えぐ)る。

 あまりの恐怖と興奮でもうすでに悲鳴も聞こえなくなった。

 ただ剣を突く。


 突く、突く、突く。




※文章を一部改変しました。12/27


お読みいただきありがとうございます。

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