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3−21 垂直チョップ

 扉が静かに閉まった病室には、水瀬と竜一だけが取り残されていた。

 村田が最後に言っていた「これからも〜」という部分に一抹の不安を感じる両者であるが、今そのことは頭の片隅に追いやった。竜一は水瀬に、水瀬は竜一に聞きたいことがあったからだ。

 一瞬の沈黙が病室を覆うと、二人の目と目が合う。その目線から、表情から、お互い聞きたいことがあるのだろうというのが見て取れる。これもバディとして積み重ねてきた結果だろう。

 どちらが先に話題を提供するか、日本人ならではの譲り合いを水瀬が脳内で繰り広げていると、竜一が見兼ねたのか、いつもの元気を取り戻しながら口を開く。


「いやぁ、それにしても水瀬すごいな! あの裏菊川さんに一人で勝っちゃうんだもんな。俺だったらぶっちゃけ為す術もなくやられてる自信まであるぜ」

「そんなところで自信持たれると、この先非常に不安なんだが」

「そうは言ってもよ、あの何でも反射するってのは俺みたいな接近戦主体にはキツイぜ? 最初の鏡1枚ならまだしも、裏バージョンだと5枚に増えてたからなぁ。死角なしって感じだったわ」


 確かに竜一のように攻撃種類が乏しい魔道士では、あの固有限定秘術(リミットオブソウル)反射鏡(ミラー・ザ・タッチ)』に対抗するのは難しいだろう。最初の1枚なら、火力やスピードを上げ、力技で対抗することもできなくない。だが、5枚となるともうどうしようもなくなる。それこそ、相手が反応できない速度が必要となる。そんなことは、今の竜一には到底できやしない。


「言っておくけど、オレだってあの鏡に対処できてたわけじゃないぞ? 身体能力向上魔法(フィジカルブースト)で何とか攻撃を避けて、最終的に岩柱落っことしただけだからな」

「まぁそれでも結果勝ってるんだから大したもの……ん? 水瀬、自分に身体能力向上魔法(フィジカルブースト)使ったのか……? 使えるようになったのか……!?」


 水瀬の不意な情報に、竜一が跳ねるように身体を起き上がらせると、水瀬の両肩を掴んで大きく揺さぶる。


「ままま待てっ! 使えるようになったって言っても、本当に最終手段みたいな感じだぞ!? 一回でも使うと魔力がほとんどなくなるんだから、実践的ではないと自己評価しているところだ」

「それでも使えるようになってるんだ! スゲーじゃねぇか水瀬! 成長してるんだな!」

「え? あ、あはは。そんな手放しに褒められると、それはそれで照れるな」


 竜一が瞳孔を開き本当に嬉しそうな表情で褒めるため、水瀬的には(その表情が)ちょっと怖いが、しかし褒められるというのは悪い気がしない。

 

「水瀬はどんどん成長していってるな。最初の頃は全力の身体能力向上魔法(フィジカルブースト)しか使えなかったのに、いつの間にか俺でも制御できる程度までコントロールできるようになって、そして今では自分にもかけられるように……」


 次第に、竜一の顔に雲が差し込む。


「でも、俺はずっと変わらない。何かあれば接近接近、鉄屑を振り回すことしかできない。今日なんて、支援魔道士を目指している水瀬にアタッカーを任せちまった。俺だけ、成長していないな……」


 俯く竜一の表情を水瀬が伺うことはできない。だが、竜一の中で何かが引っかかっているというのは感じ取れる。

 水瀬としては今回の竜一を責めるつもりは毛頭ない。寧ろ、竜一の最後の岩柱への斬撃がなければ、水瀬は打つ手がなく負けていたのだ。チーム戦なのだから、フォローし合うのは当然である。

 だが、そういうことではないのだろう。今の竜一は自分を責めているのだ。不甲斐ない自分を、好きな子を守れなかった自分を。どんなに威張ろうと、強がろうと彼もまだ高校生である。好きな子の前では強くありたい。男の子なら誰でも持つ感情だ。水瀬にもその感情はよくわかる。

 しかし、その感情がわかる一方で、水瀬の中には別の感情も合間見る。それが何なのか、水瀬自身も理解していないだろう。理解していないからこそ、胸の内から湧き出るその感情に自然と沿うよう、彼女は両肩を掴まれた竜一の手に、自らの手を重ね、


「竜一、これが成長って言えるのなら、それは竜一のおかげだと思ってるよ」

「……俺の、おかげ?」


 水瀬の言葉に、竜一がゆっくり顔を上げる。


「うん。だって、竜一がいなかったら、オレは自分の支援魔法を使う機会なんてほとんどなかった。自分のロマンだけ追い求めて、それをどうにかしようなんてしなかっただろうさ」


 水瀬は竜一の目を見つめると、恥ずかしいのか頬を赤らめてしまう。だが、これは水瀬が先ほどから言いたかったことに繋がることであった。だからこそ、水瀬は恥ずかしいという思いを感じながらも、言葉を綴り、


「それに、竜一はいつもオレを助けてくれた。いつもいつも、竜一がオレを……。だからね、ワタシも力になりたかったんだ。竜一に助けられるんじゃなく、竜一と肩を並べられる相方でありたい。竜一がワタシを最高の支援魔道士にしてくれるなら、ワタシは竜一を最高の魔道士……違うね、最高の……騎士にしたい。そう、思ったんだ」

「騎士……?」


 呆ける竜一を見て、水瀬が照れたように笑い、


「うん、だって竜一、正直魔道士って感じじゃないもん」


 菊川に言われたこと−−「利用している」という言葉。水瀬の中では正直なところ、まだ消化仕切れていない。ある意味で核心を付いているその言葉を、完全否定できるほど水瀬は自分の心を整理できていないのだ。

 だが、言いたいことは言えた。その言葉たちがどんな意味を持つのか、水瀬自身わかっていない。また竜一を利用しようと、胸の内で企んだ結果言った言葉なのかもしれない。それとも……本当に別の『何か』かもしれない。

 水瀬の顔を見て惚けていた竜一は、大きく唾を飲み込むと、次第に瞳孔が開き始め、


「な、なぁ水瀬」

「な、何だよ……」


 頬を赤らめた水瀬の瞳を飲み込むような目力で見つめると、期待と歓喜を込めた一言。


「今のは告白ってことでいいんだな!?」

「ざっけんなゴルァアアアアッ!!」


 竜一の脳天に水瀬の垂直チョップが炸裂した。

お読みいただきありがとうございます!

水瀬くんちゃんさん、中身が複雑になってきました!


どうぞ今後ともよろしくお願いいたします!

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