3−20 何なんだろうか
試合で傷ついた生徒たちは、試合終了後に保健棟に運ばれる。当然、試合中に意識を失った竜一らも保健棟に運ばれた。
「−−ん? ここは……」
「おや、目覚めたみたいだね」
竜一が目を覚ますと、視界正面には白衣姿をした村田の姿がある。竜一の記憶では、つい先ほどまで激闘を繰り広げていたハズ。しかし横たわる自分、白衣の村田、明るい蛍光灯。それらを合わせると、試合はとっくに終了したことがわかる。
「……先輩、結果は?」
「自分の容体よりまず試合結果が気になるなんて、あまり褒められたことではないが……まぁ気持ちはわからんでもない。その結果は彼女に聞くといい」
村田が小言混じりにそう言うと、ドアの方を見やる。すると、ドアを開けて入ってくる者がいる。竜一が目を向けると、所々に湿布や絆創膏を貼り、傷だらけではあるが元気な姿をした竜一の大事な相方、水瀬葵であった。
「お、竜一目が醒めたか。大丈夫か?」
「お、おう。まだ頭がちょっとクラクラするけど、時期に治るだろう」
元気そうな水瀬が竜一の顔を覗き込んでいる。
「それより水瀬、試合はどうなった?」
水瀬の傷だらけの姿を見た竜一が、より一層心配そうな表情を浮かべる。最近では竜一と水瀬の間で、戦闘は竜一、サポートは水瀬と言う立ち位置が確立されていた。だからこそ、戦闘担当である自身が倒れ、サポート担当である水瀬に戦闘をさせたことが心配だったのだろう。
水瀬は胸を張り、得意気な表情で大きく鼻息を吹き鳴らすと、
「オレだって、やるときはやるんだぜ。オレらの大勝利だ!」
「愛してるぜ水瀬!」
「どさくさに紛れて抱きつくなこのヤロウッ!」
先ほどまでクラクラすると言っていた竜一が、即座に横に立つ水瀬へ抱きついた。
「あ、あの、ここは一応病室なので、あまり暴れない方が……」
竜一が声のする方を見やると、そこには村田と同様白衣の姿をした菊川の姿があった。
「あの……灰村くん、容態はどう?」
「あ……はい、大丈夫っす」
竜一が今回の試合で最後の記憶を思い出す。そう、口角を吊り上げ、菊川の特徴的な瓶底メガネは投げ捨て、目元が隠れるほど長い前髪をかき上げた菊川の姿である。
だが、今の菊川は初めて会った時や試合開始直後のような、気弱で大人しく、優しい彼女であった。
「その……本当に皆さん申し訳ありませんでした。また私のせいでたくさん傷つけてしまって……」
深々と頭を下げた菊川の声は涙まじりのように震えていた。罪悪感を感じているのだろうか。つくづくこっちの彼女は争い事が苦手なのだろう。
「やめてください菊川さん。試合なんですから、菊川さんは当たり前のことをしただけっす!」
「そそそそうですよ! 菊川先輩が謝る必要性なんてどこにもないです!」
謝られると言うことを全く予想していなかった竜一と水瀬が、しどろもどろになってしまう。
「でも……」
「それより、菊川さんには聞きたいことがあるんです」
尚も謝ろうとする菊川を、竜一が静止する。
「私に……?」
「はい、菊川さんは覚えているかどうかわからないですが、もう一人の菊川さんに入れ替わった時、彼女は言っていたんです。固有限定魔術には秘密があるって」
試合中、もう一人の菊川が言っていた。『固有限定魔術にはアンタたちがまだ知らない何かがある』と……。
「その秘密について、菊川さんは何か心当たりはありますか?」
竜一の質問に、菊川が俯きがちに頭を悩める。
固有限定魔術の秘密。もう一人の彼女から出てきた発言を解明すれば、なぜ菊川に別人格が現れたかがわかるハズ。そのことは優秀な彼女ならすぐに気づいたのだろう。
だが、眉尻を下げた彼女が申し訳なさそうにすると、
「ごめんなさい。私には思い当たる節がないわ」
熟考の結果、わからないのなら仕方がない。恐らく彼女にも本当に検討がついていないのだろう。
「そうですか。でもきっと菊川さんの別人格が言っていたことですから、その点を突き詰めれば何かわかるかと思います」
「ありがとう灰村くん。気を使ってくれて」
わからないなりにも、今回の試合で多少得るものがあったことに満足がいったのだろう。菊川の表情も柔和になる。
一方、竜一は少し残念そうなままでいるが。
「冬香、彼らも一応怪我人だ。今日のところはここら辺にして、詳しく話すのは今度にしよう」
「詳しくって、まだ何か俺らに用があるんすか」
「用も何も、冬香の秘密をキミたちは知っているんだ。これからも原因究明に協力してもらうよ」
「え、これからもってちょっ−−!」
不穏な言葉を残しつつ、菊川を連れて颯爽と村田は出ていってしまった。
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