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3−19 極小

 水瀬の身体から大量の魔力が溢れ出る。いや、これは魔力を意図的に捨てている状態だろう。水瀬が唱えた『身体能力向上魔法(フィジカルブースト)』は、普通にかけたならば扱える者はいないと断言できる程の支援魔法である。また、どれほどその効果を小さくしようとしても、余程身体を鍛えた者でないとそれも扱いきれない。

 もし、水瀬自身に身体能力向上魔法(フィジカルブースト)をかけたならば、身動きが取れなくなるだろう。

 だからこそ、捨てるのである。コントロールできる範囲でも使いこなせないのであれば、自身の唱えた身体能力向上魔法(フィジカルブースト)のうち、その大部分を捨てる戦法に躍り出た。

 身体能力向上魔法(フィジカルブースト)に込められた魔力を、まるで搾り取るように。今必要なのは、本当の残りカスで十分であると。


「ふ……ふひひ……。オ、オレもついに自分の身体能力向上魔法(フィジカルブースト)を使えるようになった……ぜ……!」

「使えるようになったって、あなたメチャメチャ魔力捨ててるじゃない!」


 どうやら必要以上に魔力を捨ててしまったらしい。

 水瀬の身体自体は身体能力向上魔法(フィジカルブースト)の恩恵を受け、菊川の『鳥籠のワルツダンス・ダンス・エンディング』をギリギリ回避する程度には向上している。

 だが、今後攻撃する程の余剰魔力が水瀬にあるかと言うと。


「正直動くだけで精一杯ですね」

「大見得切っといてなんて情けない!」


 水瀬に残された攻撃は、恐らく霊装の拳銃に込められた3発のみ。その3発で、全ての攻撃を跳ね返す菊川を倒さなければいけない。


「ーーでも、やらなきゃいけないんです!」


 身体能力向上魔法(フィジカルブースト)のおかげでなんとか『鳥籠のワルツダンス・ダンス・エンディング』を避けれている水瀬は、魔力弾が正面に跳ね返ってきた瞬間を見計らい、拳銃から魔力弾を一発撃ち込むと、衝突した魔力弾同士が爆発する。


「っち、まだ余力はあったか。でももうそれも残り少ないんじゃない?」


 水瀬の残り魔力の少なさ、残弾の少なさもほぼ見抜かれていると受け取っていいだろう。菊川の魔力弾が消滅し、四方に囲まれていた反射鏡から抜け出すと、水瀬は一目散に走り出す。


「あらあら、また鬼ごっこ? そう言うのを、往生際が悪いって言うのよ!」


 菊川が反射鏡を両肩に戻すと、再度浮遊し水瀬の追跡をする。


「身体が軽い……さすがに岩柱の上までジャンプできそうにないけど、あそこまで逃げ切ることくらいはできそうだ」


 水瀬の背後から追跡してくる菊川は浮遊しているが、速度的にはほぼ同じくらいだろう。いや、菊川の方が少し早いだろうか。水瀬が魔力も尽き始め、試合も終盤に差し掛かっていると判断したのだろう。浮遊する魔力のリソースを多めにしたのか、先ほどよりも浮遊スピードが速くなっていた。

 また、こちらも魔力リソースを多めに割いたのか、先ほどと同じサッカーボール程の大きさをした魔力弾を幾つも射出する。牽制の意味も込めているのだろうが、岩柱に当たった魔力弾はその壁面を大きく削り、今にも岩柱を倒しそうな程の威力であった。そして、


「速く落ちなさい!」

「!?」


 射出された魔力弾のうち、一発が水瀬へ目掛けて一直線に飛んでくる。


「ク……ッソッ!」


 水瀬は半身を翻すと、残り2発しか入っていない拳銃を構える。確実に当てるため、飛来する魔力弾を出来るだけ引きつけてから発泡すると、菊川の魔力弾と水瀬の魔力弾の衝突で発生した小爆発に、水瀬の身体は吹き飛ばされた。

 投げ出されるように身体を跳ねた水瀬は、岩柱に背中からぶつけ、ようやく止まることが出来た。


「ーーッゴホ、ゲホッ! あぁ……クソ、手加減しないなぁ……あの人は」

「試合に手加減もヘッタクレもないでしょ」


 膝が震え、身体もよろめき、頭から流れた血で片目が潰れながらも、何とか起き上がる水瀬の目の前には、既に菊川が到着していた。

 両肩の反射鏡を水瀬の左右に設置すると霊装杖を真っ直ぐ水瀬へ受ける。


「背面には岩壁、左右には私の『反射鏡(ミラー・ザ・タッチ)』……もう逃げ場はないわね」


 勝ち誇ったように口角を吊り上げ、菊川が笑みを浮かべる。

 ……だが、それは水瀬も同じであった


「……気に入らないわね。そんな満身創痍なくせに、なんでそんな笑っていられるのよ」


 自分の勝利を確信している菊川が、水瀬の笑みに苛立ちを覚える。

 それもそうだろう。水瀬は先ほど菊川から受けた背中の傷に加え、体力も魔力もほぼ限界に陥り、今の魔力弾の小爆発を間近で受けたのだ。身体はボロボロで、立ち上がることすら難しい筈だ。

 だからこそ、水瀬の諦めないその眼の光が、菊川を苛つかせるのである。

 

「…………」

「ふん、答える余裕もないってのね。まぁ良いわ、今楽にしてあげる」


 そう菊川が言うと、杖に魔力を込める。先ほどより一回り大きいその魔力弾は、当たれば確実に水瀬の意識を飛ばすことは出来るだろう。


「終わったら治療くらいしてあげる。じゃあね」


 菊川の魔力弾が射出されたーーその瞬間、水瀬の足元に小さな光が灯ると、


「……フィジカル……ブー……スト……最小……」


 時間にしてホンの数秒ーーいや、コンマ何秒の時間だろう。だが、水瀬のうちに残された一握りの魔力を、自らの足元に灯すと、目の前の魔力弾をしゃがむように下へ回避する。


「なに!? まだそんな力がーー」


 水瀬に避けれらた魔力弾は、真後ろにあった岩壁に衝突すると、先ほどよりも大きく抉られた。


「もうどうしようもないだろうに、いい加減ッーー」

「先輩、……この岩柱が何なのか……覚えてますか?」

「はっ?」


 菊川が周囲を見渡すと、何やら見た地形である。そして、少し離れたところに菊川のバディにしてボーイフレンド、村田が倒れているのが目に入ると、


「お前……まさかこの岩柱はーーッ!」


 魔力弾に抉られた岩柱は軽快にひび割れる音をたてると、ついには抉られた部分から折れ、正面にいる菊川目掛けて倒れてくる。


「この岩の裏側には、竜一の大きな斬撃を跳ね返した跡があります。先輩の魔力弾が、倒壊の最後の一押しになったみたいですね」


 瞬間的なスピードを出せない菊川には、この倒れてくる岩柱を避けることはできないだろう。そう、菊川に出来ることは一つだけである。


「ーーッ!? 『反射鏡(ミラー・ザ・タッチ)』戻って! これを跳ね返して!」


 全ての反射鏡を倒壊する岩柱へ向け、迎撃する他なく。


「結局、竜一が残してくれたモノに救われて、やっぱりオレは竜一に甘えているのかもしれません」

「なっ、ちょ、ちょっと待ってッーー!」


 全神経を岩柱へ向けている菊川へ、水瀬が拳銃を突きつけ。


「でも、それって悪いことじゃないと思うんです。だってワタシたちはーーバディ何だから」


 唯一開いている片目で、チラと倒壊した岩柱の裏で倒れている相方を見やると、水瀬は少し照れたように笑いながら、最後の一発を極力優しく発泡する。

 そして、小さな魔力弾が頭部に当たった菊川は、跳ね返した岩柱の隣に並ぶように倒れると、起き上がることはなく。


「ししし、試合終了〜〜〜〜〜!!!!」


 観客が少なくなったこの会場内に試合終了を告げるアナウンスが反響した。

お読みいただきありがうございます!

ついに水瀬が一人で敵を倒しましたね。長かった……。


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