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3−17 本心は……

 先ほどまでの静寂さとは打って変わり、荒野にはけたたましく爆発音が鳴り響く。


「急になにぶちギレてるんですか先輩!」

「急にもなにも、何本当にりっくん撃ってんのよ!」


 逃げ惑う水瀬を、空中に浮遊したもう一人の菊川が追随しながら魔力弾を連射している。


「だだだ、だって先輩が『撃つなら勝手に撃ちな』って……」

「そのあとの会話で明らかにそんな雰囲気じゃなくなったでしょ!」

「そんな理不尽な!」


 時折直撃しそうな魔力弾は、なんとか対魔法防御魔法(マジックシールド)で対応できている。しかし、今の水瀬には攻撃を防ぐので精一杯であり、攻撃しようものなら菊川の『反射鏡(ミラー・ザ・タッチ)』で返り討ちに合ってしまうだろう。


「先輩! お互い決定力不足みたいですし、一回落ち着いてお話を!」

「決定力不足はあんただけでしょ、早くくたばりなさい!」


 水瀬の攻撃力は言わずもがな、菊川自身も治癒魔道士ならではの攻撃魔法未取得と言う二人には、相手を倒すと言う点に置いて非常に手段が乏しい。魔力弾の打ち合いと言うまさに泥仕合のような展開に、試合を観覧していた観客たちも次第にまばらになってきている。


「だいたい、あんた達ムカつくのよ! あんたの相方は年下のくせに馴れ馴れしいし、説教まがいなこと言ってきて。あんたときたらそんな容姿していながら、男だか女だかよくわからないことしてるし!」

「いや、オレにはちゃんとわけが」

「うるさいっ! 口答えするなっ!」

「ヒィッ!?」


 もはや試合内容とは関係ないことまで持ち出してきた菊川の怒りは止めることが出来ないだろう。口を挟めば挟むほど、菊川の怒りはヒートアップする。


「それにあんた、完全に身体は女でも心は男ってわけじゃないんでしょ? じゃなきゃ映画館であんな格好しないものね!」

「え!? いやオレは男のつもりで……ってそっちの菊川先輩もそのこと覚えてるんですか!?」

「あたしは表に出ていなくても常にそっち側は見てるわよ! それに男と二人で出かけるのにあんなおめかしして、それで『オレは男のつもりです〜女の子じゃありません〜』なんて通じるわけないでしょ!」

「うっ、何も言えない……」


 菊川の怒声に呼応するように、霊装杖から射出される散弾のような魔力弾は、岩柱の至るところを蜂の巣と化していく。


「それに、あんたも灰村の気持ちは知ってるんでしょ? あんた、あの子の気持ちを弄ぼうとしていない?」

「!? それは、そんなつもりは……ッ!」

「じゃあ、あんたにその気はあるの?」

「……オレは竜一を信頼しています」

「それはバディとしてであって、パートナーとして……異性としてではないでしょ」


 突然の菊川の詰問に、水瀬も言葉が詰まる。正直なところ、水瀬自身そのことについてはあまり深く考えないようにしていた。竜一の好意は確かなもの、それは水瀬も認識している。それはパートナーを組む者としてこれ以上ないほどの信頼だ。

 ……だが、じゃあその先があるかと聞かれたら、水瀬は何も言えなくなるだろう。そもそも、竜一とパートナーを組むことになったのは水瀬が男に戻るためだ。万が一戻れなかった場合は竜一とお付き合いをすると言う条件こそ飲まされたが、竜一は水瀬の願いが叶うよう誠心誠意行動している。例えその結果、竜一自身の望みが叶わないとしても。

 じゃあ現在、水瀬は竜一の気持ちに答えられているだろうか。いや、とてもそうとは言えないだろう。好意を持たれると言うのは非常に心地の良いもので、それはまるで……。


「あなた、灰村くんの好きという気持ちに甘えているでしょ?」

「!?」


 水瀬自身も薄々気づいていたーーだがそれを自覚すれば、自分はひどく矮小で薄汚い人間であると言うことも自覚してしまう。だからこそ水瀬はそのことに触れず、考えないようにしてきたのだが。


「自分を無条件で好きでいてくれる人の上で、胡坐をかくのは気持ち良い?」

「ちが……」

「求められるってのは承認欲求が満たされるものね。自分は好意がなくても、相手に好意があればそれを維持したいと思うのは同じ女として共感はするわ」

「ちが……う……」

「でもその関係って、いつまで続くのでしょうね。その関係が壊れたら、二人はどうなっちゃうのでしょうね」

「違う……違う違う違うッ!」

「違わないわ、あなたは灰村くんの気持ちを利用している。今はギリギリのラインでなんとかやってるけど、いつか崩壊するわ。断言してあげる」

「ーー!?」

 

 ハッキリと言われてしまった。水瀬が心の奥底では気づいていたことを……。

 いっそのこと、自分は元男だと言ってやりたい。そう言う理由があるから仕方ないんだと言ってやりたい。……しかしそれでは何も解決しないだろうことは水瀬もわかっている。菊川に弁明したところで、いつか崩壊すると言う予想が覆る訳ではない。もし言ったとしても、それはただ単に自分の心に言い聞かせ、一時の心の安寧を手に入れたにすぎない。……仮初の平和だ。


「だから、途中で崩壊して無様に負ける前に……ここであなたたちを終わらせてあげる!」


 『あぁ、これはこの人なりの優しさなのか。いつか訪れる崩壊と、それに伴う敗北。きっとそれを味わったら二人はとてつもない痛みを伴うだろう。だからこそ、この人はまだ傷が浅く済む今、何とかしようとーー』


 菊川は浮遊を辞め荒野に足を着けると、両肩に展開されている4枚の反射鏡(ミラー・ザ・タッチ)で水瀬を囲むように展開する。反射鏡(ミラー・ザ・タッチ)に行く手を阻まれ、立ち止まった水瀬に向け、菊川はこれまでより大きな魔力弾を生成すると、水瀬へ向けて射出する。


「踊り狂いなさい--『鳥籠のワルツダンス・ダンス・エンディング』」


 菊川の詰問に油断したのか、対魔法防御魔法(マジックシールド)の展開が遅れた水瀬は、間一髪で魔力弾を回避するも、その先で待ち構えていた反射鏡(ミラー・ザ・タッチ)により跳ね返ってきた魔力弾が水瀬を襲う。

 避けては反射され、また避けては反射されーー。終わることのない死のステップが、水瀬を襲う。

お読みいただきありがとうございます!

裏菊川さん、ちょっと嫌なところをついてきますね……


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