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3−12 わからない

 試合会場控え室。あと30分程でベスト4を決める『灰村・水瀬ペアvs村田・菊川ペア』の試合が始まる。竜一と水瀬は普段からあまり作戦と言うものを立てるタイプではないので、こう言った時間は基本的に各々の好きなことをして過ごしている。

 しかし、今回は何とも奇妙な気持ちで試合に望む形となり、二人はテーブルを挟んでイスに座していた。


「なぁ竜一、村田先輩の言っていたことってどう言う意味だったと思う?」


 神妙な面持ちで語る水瀬の言葉に、竜一が一拍考える素ぶりを見せるが、両手を肩まで上げお手上げだと言わんばかりにジェスチャーをする。


「どう言う意味も何も、それだけ自分たちに自信があるってこったろ」

「本当にそうなのかなぁ」


 竜一の回答が意にそぐわなかったのか、水瀬は相変わらずウンウンと唸っている。竜一はあまりその点に関して興味がないのか、愛剣鉄屑を磨いていた。


「村田先輩と菊川先輩も、オレたち同様注目されていなかったからあまり情報も集められなかったんだよな。唯一手に入った前回の試合映像も、村田先輩たちが追い詰められたと思った瞬間、何が起きたかわからないまま一瞬で勝負が決まってたし」


 水瀬がテーブルの上に投げ出してあったスマートフォンでその試合映像を眺める。やはり、何度見ても決定的な部分は映っておらず、傷だらけの二人が逆転勝利をしているだけだった。


「菊川先輩の……例の症状も気になるんだよな。村田先輩はまるで別人のようにって言ってたけど、それが関係しているのか……?」


 数日前、水瀬らは村田・菊川ペアと話した際、菊川の謎の症状について相談を受けていた。その症状はまるで生徒会長千歳沙月の『地獄に咲く一輪の花(ヘルタースケルター)』のようであったが、どうも様子が異なる。いや、細部の部分は一緒なのだが、菊川の話では自身の固有魔導秘術(リミットオブソウル)はそんな意識を飛ばすような強力なものではないと説明されてるのだ。


「そのあと、出来れば棄権してくれと言いたいことだけ言って、二人は帰っちゃうんだもんな。オレらとしたら何が何やら……」

「……」

「竜一はどう思うん」

「なぁ、水瀬」


 と、竜一が動かしていた手を止め、目線は鉄屑に向けたまま。


「何で村田さんは、菊川さんを元に戻したがってるんだろうな」


 ボソッと、ずっとそのことを考えていたのかのように言った。


「何でって、そりゃあ村田先輩は菊川先輩の彼氏何だし、彼女がそんな目にあったら何とかしたいって思うだろ」

「そうなのか?」

「そうだろ。現にオレだって元に戻りたい、男に戻りたいって思って行動してるじゃないか」

「ん〜……」


 何か竜一の中で腑に落ちないらしく、水瀬の言葉も上の空。脳筋の竜一が珍しく思案を続けていると、試合開始時刻となるアラームが部屋中になり響く。


「まぁこれ以上は考えても仕方ない……か。水瀬、気合い入れて行くぞ」

「お前に言われたくないわっ!」


 二人は同時に立ち上がり、控え室を後にした。


◇◇◇


「さぁやってきました第5回戦! 今回はダークホース対ダークホース、ある意味最注目のペア同士の試合となります!」


 水瀬らが試合会場に入場すると、アナウンスと同時に歓声が湧き上がる。これまでほぼ注目をされなかった竜一たちであるが、この試合でベスト4が決まるとなるとさすがに観客も集まるようだ。

 ほぼ同タイミングで入場した村田らも、最初は面を食らっていたが、試合フィールドに辿り着く頃にはいつものような柔和な笑顔を浮かべていた。

 審判である宮川を挟み両チーム相対すると、村田が口を開き。


「やっぱり……来たんだね」

「まぁな。俺らも俺らで勝たなきゃいけない理由があるし、アンタらに負けてはいられないんでな」


 たった一言だけ会話すると、お互い踵を返しスタート位置へと足を進める。


「いいぞ竜一、三年生だろうと気迫は負けてなかったぞ!」

「……まぁ、な」

「?」


 覇気のない返事を返す竜一に、水瀬が若干の戸惑いを感じるも、宮川の掛け声と共に試合フィールドが展開されて行く。

 コンクリートの床が盛り上がり、乾いた地面が広がるその様はまるで荒野のようだ。そこらかしこでは無造作な形をした岩の柱が盛り上がり、ねずみ返しのようなものも見られる。以前はこの荒野にも河が流れ、岩柱のねずみ返しはその跡なのだろうということが伺える。

 拓けた場所はパッと見た感じでは見受けられず、大胆な試合展開は望めないフィールドが形成された。

 フィールド形成が完成した数秒後、試合開始のブザーが鳴り響く。


「さぁ第5回戦、試合開始だぁ!」


 アナウンスの絶叫と共に、戦いの幕は切って落とされたのだ。


「竜一、今回は岩陰が多いからきっと先に見つかった方がやられるぞ。二人一緒に行動してーー」


 岩陰に隠れた水瀬が後ろにいるはずの竜一に語りかけるも反応がなく、振り向くとそこにはすでに竜一がいなくなっていた。

 慌てた水瀬が辺りを見回すと、丁度自分の上で何かの着地音が聞こえる。岩柱のてっぺんへ目を配れば、竜一が立っていたのだ。


「あ、あいつ……『生命の輝き(デスペラードハート)』で一気に上まで飛びやがったな……でもあんな見渡しの良いところにいたら、向こうからだって丸見えだろうに」


 岩柱のてっぺんで竜一が辺りを見渡す。おそらく千里眼や音霊も発動し、先手を取られる前に白兵戦へ持ち込もうとしているのだろう。神経を研ぎ澄まし辺りを見回すと、突如竜一が岩柱から岩柱へ飛び移り移動を始めた。


「あっ! ま、待て竜一! 一人で行くなって。待てーーーー!!」


 忍者のように岩から岩へと飛び移る竜一に声をかけるが、お構い無しに竜一は飛んで行く。

お読みいただきありがとうございます!

少しでも面白いと思っていただけたなら、大変励みになりますのでブックマークや評価をよろしくお願いいたします!


感想もお待ちしております!


※追記:0話プロローグを大幅改稿しましたので、ご興味があればどうぞ

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