3−11 相談
「ふぅ……」
水瀬が一拍起き、落ち着きを取り戻すためアイスカフェオレを一口含む。先ほどの村田の発言で未だ動揺を隠せない水瀬は何とか平静を保とうと試みるも、中々難しい。
「とにかく、オレらはそんなんじゃありません」
「そうです。今は、い・ま・は、信頼し合えるバディです」
「お前はホントにもう口を開くなバカヤロウ」
今は違うと言う竜一の顔は、それはそれは凛としていた。
と、その二人のやりとりを村田が不思議そうな表情で見ている。
「あの先輩、そんな表情で見られても、ほら、オレこんな格好しているけど男ですし、こいつと付き合ってるとかそんなこと」
「あぁ、そのこと何だけど水瀬くん。僕には隠さなくていいよ。キミ、本当は女の子何だろう?」
「!?」
村田の言葉に水瀬と竜一が表情を変える。これまで水瀬は女の子のようだと疑われることはあっても、相手に確信を持って言われたことがない。しかし村田は今、確かに確信めいたものを持っているのだろう。言葉尻は言い切り、あとは相手が認めるのを待っている状態と言うのが受け取れた。
水瀬の頰に一滴の汗が流れる。
「なぜ、そう思うのです?」
「なぜって、僕は医療系魔道士だよ? さっきキミの足を治療した際、安全確認のため簡易的に身体をスキャンさせてもらったんだが、その結果がどう考えても男のそれとは考えにくくてね。なに、キミが男として生活しているのには何か事情があるのだろう。別にこれを言いふらしたりすることはないから心配しなくていい」
柔和な笑顔を浮かべた村田は、表情こそ優しげだが、その声音は真剣なものであった。どうやら本当に言いふらしたりする気はないらしい。
「……」
「沈黙と言うことは、正解と受け取って良さそうだね。さて、では次の質問だ」
水瀬が回答に困り、言葉を呑んでいても表情で察せられてしまうのだろう。村田は正解と受け取ると、続けて持論を述べる。
「水瀬くんと最初に会ったのは先日の保健棟、そしてあの三木先生の診療室だ。保健棟に訪れること自体は特に珍しくもないことなのだが、一般の生徒が三木先生のところに訪れるというのは正直中々見ない。あの人は古代魔術の専攻だからね。さてここで一つ、僕の中で疑問が生まれる。女性である水瀬くんが男と偽り学生生活を送る中、度々保健棟で古代魔術を専攻している三木先生に診察してもらっているのは一体どういった理由なのか」
淡々と語る村田の口調が、次第に早くなっていく。どうやら村田は自分の世界に入ると言葉数が多くなるみたいだ。
徐々に水瀬の確信に迫られ、汗がさらに一滴、もう一滴と流れだす。と、ここまで村田との会話には基本的に沈黙を守ってきた竜一が口を開き。
「どんな理由であろうと、あんたには関係ないだろ。それこそ、医者を目指しているなら診察に訪れてる患者のプライベートを探ろうなんて、とてもいい趣味とは呼べないぜ?」
ついには敬語すら崩し本格的に威圧を始めた。本来なら水瀬は竜一を諌めるところであるが、確信に近づいている現状では竜一の助け舟は大変ありがたいものなのだろう。
しかし、そんな竜一の威圧・眼圧を涼しい目で受け流し、村田は続ける。
「もちろんだとも。僕も医者を志すものとして、そのようなことは決してしたくない。だが……だがしかし冬香のためにもッ……!」
「冬香……菊川先輩がなぜそこで?」
竜一が村田の隣で黙っている菊川をチラと見やる。依然、菊川は俯きその表情を伺うことはできないが、しかしよく見ると村田の袖を握りしめている。村田の表情も先ほどまでの余裕な様相は消え失せ、何やら緊迫している様子であった。
「冬香は……実は冬香は」
「ーーくん、りっくん。いいの、そこは私が」
村田が話そうとするところを菊川が制すと、ゆっくり深呼吸した後、ポツポツと話し出す。
「実はちょっと前から私の中で異変があって……時期としては今年に入ったくらいからなんだけど、時折意識を失う時があるの」
「……それは本当に入院された方がいいのでは?」
「ちち違うの。そう言う意識喪失ではなくて、なんて言うのかな。夢遊病? みたいな感じで、私の意識はないんだけど、行動はしている……みたいな……。意識を失う直前と違う場所に立っていたり、物が移動していたりって言うのが頻繁に起きるようになったの」
意識はないが行動はしている。その話を聞いた竜一と水瀬が最初に思ったのは生徒会長・千歳沙月の固有魔導秘術『地獄に咲く一輪の花』であった。あれも千歳自身の意識は失うのを思い出す。
「最初は一人の時しかならなかったんだけど、ある日りっくんといる時に、その、少しガラの悪い人たちに絡まれてしまって……その時に……なってしまったの。その時の状況をりっくんから聞くと」
「あれはとても冬香と呼べる人間ではなかったんだ。まるで別人のような……そう、全く異なる人格が芽生えたような」
竜一が聞く限り、やはり状況としては千歳の『地獄に咲く一輪の花』がとても近い。
「菊川先輩の固有魔導秘術はそういった制御の効かないものとか、そう言うことですか?」
「? いえ、私の固有魔導秘術は『反射鏡』。ただ触れたものを反射させるだけのものよ。とは言っても、そんな強い魔法とかは跳ね返せないんだけれど」
千歳の件を知らない菊川らからしたら、竜一の質問の意図はよくわからないだろう。しかし、竜一が聞く限り菊川の固有魔導秘術はそれほど強力なものではなく、千歳の様なものではないだろうことは考えられた。
「話を戻すと、僕はそんな冬香を見てすぐ病院へ連れて行ったんだ。しかし原因はわからず、だから現代医術ではなく、古代魔術に詳しい三木先生に相談することにしたんだ」
「それがこの前三木先生の部屋で会った時か」
コクリっと村田と菊川が頷く。
「キミが女性であるにも関わらず、男性として振舞っていること。そしてそのキミがわざわざ三木先生に訪ねていること。この二点が、もしかしたらキミも冬香と何かしら似た症状で、何かしらの情報を知っているんじゃないかと思い、こうして場を設けたと言うわけだ」
確かに水瀬は魂が二つあり、おそらく二つの人格を内包している。それに加え三木のところに通っていれば、村田がもしかしたらと思うのも無理はない。
しかし、菊川の症状は水瀬とは多少異なる。おそらく別の症状だろう。
「そうでしたか。……すみません村田先輩、オレが三木先生のところに通っている理由はやっぱりお話できませんが、どうやら菊川先輩の症状にお助けできる情報は持っていません」
「そう……か。うん、いや良いんだ、ありがとう」
肝心な部分を話せない水瀬であるが、本当に情報を持っていないのだろうと言うことは伝わったらしい。村田は一瞬残念そうな表情を見せるが、またすぐさま爽やかな笑顔に戻す。
「戦闘が得意でない僕らがここまで勝ち残ったのは、彼女のもう一つの人格があったからなんだ。……治癒魔道士を目指している僕だからこそキミたちには先に言っておく。出来るだけ僕らは人を傷つけたくない。無理だとは思うが、可能なら棄権してくれないか?」
水滴滴るコップ内の氷が溶けたのか、カランと乾いた音が沈黙のテーブルに鳴り響く。
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