3−9 慣れない
「おいおい、すごい人だな。竜一、あいつら全員斬り捨ててこいよ」
「何てこと口走ってるんだよ水瀬は……」
大型連休中だからだろうか。映画館には意外にも人がごった返しており、道すがら気不味かった竜一と水瀬も顔を見合わせる。
複合施設の上階に位置するこの映画館はアクセスの良さから人気のデートスポットらしい。竜一らがあたりを見回すと、どこもカップルだらけである。
「……なぁ竜一、この状況で今のオレらって、やっぱり周りからそう見えるの……か?」
「え……?」
一つの疑問を水瀬が投げかけると、やはりと言うべきか。せっかく気不味さが解消された空気にまたしても水をさしてしまう。
再度お互いが顔を赤くしながら俯いてしまうも、水瀬が何とか話題を振り直す。
「と、ところでだ。もらった映画のチケットってどんな映画なんだ? オレSFとかアクションとかの超大作系が好きなんだよなぁ!」
「あ、あぁなんだっけか! 俺もロボットものとかファンタジーな物とか好きなんだけど」
竜一がポケットにしまった映画のチケットを取り出すと、水瀬も気になっているのか、竜一の持っているチケットを覗き込むように見る。
「ん〜なになに? 『笑顔の対価〜君がくれたもの〜』だって。な、なんかすごい重そうなのきたな……」
映画のチケットにはベッドに横たわる水瀬ほどの年齢の女性と、その傍らで手を握り微笑む竜一ほどの年齢の男性が描かれていた。
明らかにSFやアクション、果てはロボットものとファンタジーとはかけ離れたそのアイキャッチに二人の間に沈黙が流れる。
と、苦笑いをしながらも、竜一がふと何か気づいた表情を浮かべると口を開き。
「……と、とりあえず水瀬はそこのベンチに座って待っててくれ。入場券の交換と飲み物買ってくるよ」
「え、オレもついて行くぞ?」
「大丈夫大丈夫。チケット売り場は人すごいしさ。じゃ、待っててくれ」
「あ、ちょ竜一?」
そう竜一が言うと、水瀬が声をかけるも小走りで大勢の人が並んでいるチケット売り場へと向かう。
一人残された水瀬は、とりあえず言われた通りすぐそこにあったベンチを腰を下ろすと、ずっと気になっていた足の違和感を見やりながら独りごちる。
「イタタタ、ヒールってほんと足が痛くなるな。……竜一はオレが足痛くなってきたの気づいてたのかな?」
水瀬がふくらはぎをマッサージするように揉みながら、列に並んでいる竜一を見つめる。普段履かない靴、しかもヒールのあるパンプスだ。普段使わない足の筋肉が悲鳴を上げ始めていることに、竜一はどうやら気づいていたらしい。
「ほんと、あいつは筋肉バカだよな」
自分で言ったことがおかしいのか、ふふっと笑った水瀬は少し嬉しそうな様子でいた。
「しっかし、ふくらはぎが痛いのもそうなんだけど、どっちかと言うとこっちのがヤベーよな」
水瀬が足の先へ神経を集中させると、ヒリヒリとした熱い痛みが込み上げてくる。どうやら慣れない靴のせいで足の先や踵が靴擦れを起こし始めているらしい。
まだ皮が向けてはいないだろうが、それも時間の問題だろう。このまま歩き続ければ今日中には皮も向け、歩くのも困難になるに違いない。
「幸いここはショッピングモールだし、あとでスニーカーでも買いに行くか……イテテ」
歩いている時はそれほどでもなかったが、一回意識をしてからと言うもの、足の痛みがどんどん強くなってきている。
「やっぱり女の格好なんてするんじゃなかっ」
「おや、キミは?」
ふと、水瀬へ向けられたであろうその声に反応すると、背の高い細身な男性と、古典的な瓶底メガネをしたこれまた細身な女性が立っていた。
「ん〜? あの、キミはって……オレらどこかでお会いしたことありましたか?」
「ハハハ、次の対戦相手である僕らを覚えてないなんて、本当に大物だなぁキミたちは。先日三木先生の部屋でもすれ違ったじゃないか」
「あぁ〜? はっ!? あぁ、お前ら!」
「お? 思い出したかい?」
「誰だ?」
「えぇ……」
心底わからない表情をする水瀬に男はうなだれるように肩を落とす。
隣にいる瓶底メガネの女性はその様子をオロオロしながら見つめる様子から、相当気弱な性格なのだろう。か細い声を絞り出すようにして男を心配する。
「しょ、しょうがないですよ村田くん……私たちあんまり派手な試合してないですし」
「まぁそうだが、ここまで記憶に残っていないと落ち込むなぁ」
水瀬が二人の会話と先ほどの男の言から考えるに、どうやらこの二人は水瀬らの次回の対戦相手らしい。
困った笑顔を浮かべる男は、さてと一言言うと、水瀬の前に膝を着き、水瀬の痛めた脚へと腕を伸ばす。
「!? な、なんだこの野郎痴漢か!?」
「こんな公衆の面前でそんなことするか! いいからジッとしていなさい!」
「え、ででも……あイテテ!」
男が水瀬のきめ細かな肌をもつ脚に触れると、おもむろにふくらはぎを押したようだ。痛がる水瀬を見て男が笑う。
「ハハハ、いくら可愛くても、男の子がこんな格好で慣れない靴を履いたらそりゃ筋肉痛になるわな。似合っているが何かの罰ゲームかい?」
「ううううるせぇ!」
案の定女装をしていると思われ、水瀬の顔がタコのように赤く染まる。すぐさまその場を離れたい気持ちもあるが、脚の痛みですぐさま動けそうになかった水瀬は逆ギレするように涙目で男を睨むと。
「笑うなら笑え! どうせオレは変態……あれ?」
「笑いなどしないさ。僕らは人々の気持ちを尊重する役割だからね。ところで脚の痛みはどうだい?」
男が水瀬へ微笑むように言うと、脚から手をソッと離す。
すると、水瀬が先ほどまで持っていたふきらはぎの痛みや脚の先の痛みがすっかり消えていることに気づく。
「あ、あれ、痛くない?」
「そう、よかったよかった。治癒魔道士の面目躍如と言ったところかな」
「治癒魔道士……あ、思い出した!」
ふと、治癒魔道士と言う単語で思い出したかのように水瀬は声をあげる。
「お前ら……いやあんたたち、医療系魔道士なのにここまで勝ち上がってきた異端ペアの村田陸斗と菊川冬香じゃないか!」
「やっと思い出してくれたか……」
医療系魔道士はその魔法の性質上、戦闘は不向きとされてきたため裏方に徹する場合がほとんどである。一つ一つが繊細なその魔法は、刻一刻と状況が変わる戦闘中には、唱えることが難しいからである。また、攻撃力自体を持たない魔法がほとんどのため、相手にダメージを与えることができないのが常である。
「あんたらの速攻治癒魔法は見たら忘れられないからな。いやほんとすごいな、ありがとう!」
水瀬が脚を見やり意識を向けると、先ほどまであった痛みはすっかり消え、靴擦れしそうだったかかともすっかり元どおりになっていた。
「どういたしまして。でも傷や痛みをとっただけだから、その靴に慣れないとまた痛めるだろうから気をつけるんだよ?」
「はい……気をつけます……」
先ほどまでの喧嘩腰だった水瀬は何処へやら。傷を治してもらったと言う手前、村田の注意を素直に受け入れる。
すると微笑みはするものの、村田が難しい顔をしており、隣に立っている菊川が困ったように村田を覗き込む。
「村田くん、どうしたの?」
「いやね、水瀬くんなんだけど、治療した感じ、なんかどうにも女性の身体つきのように思えて……」
「「えっ?」」
村田のその疑問に、菊川だけでなく水瀬も思わず声をあげてしまった。
お読みいただきありがとうございます!
予定していたよりだいぶ投稿が遅れてしまいました……本当にすみません……
年度末は辛い……。
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