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3−5 コンプレックス

「ふぎゃあぁ!?」


 真琴に胸を揉みしだかれている水瀬が、あまりの唐突さに奇怪な雄叫びを上げていた。


「ん〜、やっぱり前より大きくなってるわ……」

「真琴ちゃんっ!? 揉んでる、揉んでるよ!? 見られてるから待って……待ってってばぁ!」


 鷲掴みにされている水瀬の胸は、確かに女性らしい胸が存在していることが明らかなほどのうねりを見せていた。

 その光景に通りすがりの男性たちは視線が釘付けになっているのだろう。思わず足を止め見入る男どもでいっぱいだった。


「葵ちゃん、前にアウトレットで買った下着はどうしてるの?」

「あの下着、普段はつけてなくて〜というかまずその手を止めてぇ!」


 水瀬の悲痛な叫びが通じたのか、パッと真琴が手を離すと、顔を真っ赤にして涙目の水瀬が両手で胸を隠している。


「今も下着つけてなかったけど、葵ちゃん普段からつけてなかったの!?」

「う〜……。だって、これまでは制服で、しかもブレザー着てたから胸なんて目立たなかったし、体育でもまだ上にジャージ羽織ってたからバレなかったし。と言うかそもそもワタシ胸ちっちゃいし……」

「水瀬先輩、地味に胸の大きさ気にしてたんだ……」


 涙目の水瀬は語りながら真っ赤な顔を次第に青く変え落ち込んでいく。胸を隠す両手で自らの胸を掴むと、その控え目な大きさにまた落ち込み始める。


「そんなことないよ葵ちゃん! 葵ちゃんの胸、確実に大きくなってるよ! 今揉んだ感じだと確実にカップ数は上がったね」

「……本当に?」

「しかも先輩なぜか嬉しそうだし……」


 若干引いている穂乃絵をよそに、真琴がその対照的な胸の前で手をグッと握り水瀬に力説する。どうやら直接揉んだから間違いないようだ。

 真琴のその言葉になぜか胸の奥から喜びが湧いてきた水瀬は、その感情が男としての水瀬から見て違和感があるのだろうか。フと我に帰った水瀬が先ほどの感情をかき消すよう目線を逸らし。


「でででも、別に胸なんか大きくなってもオレには関係ねーし?」

「葵ちゃん、谷間とか作ってみたくないの?」

「作りたいです!」

「水瀬先輩即答ですか!?」


 真琴の魅力的な言葉に、ついつい食い気味に答えた水瀬は、ある意味とても男らしかった。


◇◇◇


 再開発が進んだ駅前では大型デパートが軒を連ねて、大型連休ということもあり人がごった返していた。道行く人は皆大型連休のセールで買い込んだのか、たくさんの買い物袋を手に持っていた。


「な、なんかみんなお洒落だな……」


 水瀬がこの姿になってから、こういった人混みに身を投じるのはあのアウトレットモールでの買い物以来である。あれから多少なりとも時間が経ち、心境の変化を少しづつ感じ始めた水瀬は、以前に比べ見える景色の違いに大きな戸惑いを隠せないでいた。


「な、なぁ。オレ変じゃないかな? ダサくない?」

「別に変じゃないわよ? ボーイッシュな格好が好きな女の子にしか見えないもの」

「そ、そう? なら良いんだけど……」


 道なりにある大きなお店のガラス張りで、水瀬が自分の格好を不安気にしている。真琴としては特段おかしなところは見受けられないのだが、この不安こそが水瀬の変化の一つだろう。自分が「女の子」であることを意識しているのだ。

 が、そんな水瀬の不安を尻目に、隣で歩いている穂乃絵の方が暗い顔をしていた。


「別にいいじゃない先輩は。私何て上から下まであのどこにでもあるあの大手アパレルショップの安物よ……個性も何もないわ……」

「ほ、穂乃絵ちゃんは大丈夫よ。可愛いから」

「可愛いかどうかじゃないんですお姉さまぁ!」


 涙目の穂乃絵に、思わず真琴も苦笑する。


 再度歩くこと数分、大型複合施設に三人は入ると、先頭の真琴が真っ直ぐ向かったのは目的地である女性用の下着売り場だ。

 オープンに展開される店内に、店の前を通る男性客はだいたいが気まずそうな顔をするか、「俺別に気にしてませんし?」みたいな平静を装っている人ばかりだ。

 まだ水瀬も男だった頃、そしてまだ女に成り立ての頃、こういった店の前を通るのは気恥ずかしかったのを思い出す。だからといって今も別に慣れた訳ではない。慣れた訳ではないのだが、不思議と疎外感は受けていなかった。


「こ、こう言うお店は何度来ても緊張するな……」

「ほら葵ちゃん見て見て」


 入店すると真琴が真っ先に手に取って見せたのは、テレビCMや雑誌などでもよく見かける『寄せて上げるブラ』と言うやつだ。

 透き通るような淡い水色をしたその下着は、女性らしさをより強調させるようなしっかりとしたデザインに、思わず水瀬も息が漏れる。


「な、なんか普通のブラとあまり変わんないな」

「水瀬先輩まだまだですねぇ。全然違いますよ」


 これまで女性用の下着などそこまでしっかりと見たことがなかった水瀬としては、どれも同じ物として見えてしまう。どうやら根っからの女子たちである真琴と穂乃絵たちにはその違いが明白らしいが、水瀬としては如何せんわからないでいた。


「ほら葵ちゃん、手に取って見たらわかるわよ」

「ん……お? おぉ本当だ! なんだコレ!」


 水瀬が真琴から寄せて上げるブラを受け取り内側を覗く。すると、窪みの内側だと言うのになぜかしっかり膨れているその正体に、水瀬もハタと気づく。


「ふふふ、それがかの有名な『パッド』と言うやつよ!」

「ここ、これがパッドか!」


 男たちに淡く儚い純真を作り上げる存在『パッド』を初めて刮目した水瀬は、ある種の感動を覚えていた。男の視点からでは、女性たちがパッドを仕込んでいるかどうかなど見分けることは難しいだろう。まだ男だった頃は男友達と、女生徒の急に大きくなった胸の谷間に猥談の花を咲かせていた。


「結構柔らかいんだな……穂乃絵はコレ使ってるのか?」

「そこで私に振る!? ま、まぁ基本使ってますが……なんか水瀬先輩に言うのは恥ずかしいですね……」

「今更照れんなよオレらの仲だろ?」

「下着談義する仲になった覚えはないんですが」


 若干顔を赤らめている穂乃絵の胸元に水瀬が視線を向ける。初めて会った時からそこそこ発達している胸だなとは思っていた水瀬だが、穂乃絵の使っている下着にもパッドが入っていると思うと無性にこそばゆい感覚になり。


「——ハッ」

「ちょっとなんで私の胸見ながら鼻で笑ったんですか」


 ついついバカにした表情をした水瀬に穂乃絵も思わずイラっとする。

 次に水瀬が真琴の胸元を見ると、その豊満な胸もパッドで盛っているとなるとちょっとショックだなぁなどと思案してしまう。すると、その思考でも読んでいたかのように、真琴は笑顔を崩すことなく。


「私は基本パッドをつけないけど、まぁ安定させる程度のパッドを使う時もあるわ」

「安定させる?」

「えぇ、パッド自体はそもそも胸を盛る以外に、胸の位置を安定させたり、筋が痛まないようにする使い方もあるのよ。今日の葵ちゃんは盛る用のを買いに来ているけどね」

「へぇ……パッドにも色々あるんだなぇ……」


 真琴の下着談義に、思わず感心をしてしまう水瀬。男の頃ではきっと知る機会もなかっただろう。しかし、今となってはそれも生きていく上で必要なことなのだろうと無意識に自覚する。


「あっ、でもこの寄せて上げるブラはパッド以外にも、背中や脇から胸にお肉を集めて固定する機能もあるから、それで盛れるのよ」

「お肉を集めるとかなにそれこわい」


 真琴の言っている単語の意味が理解できない水瀬が思考を停止し怯えてしまう。


「ん〜、百聞は一見に如かず……ね。とりあえず一旦つけてみましょ?」


 真琴が寄せて上げるブラを持って試着室の方へ向かう。


 試着室の隣で真琴が店員に水瀬が初めてこういった下着を着用すると言うことを説明すると、その後店員がその下着の着用方法について詳しく水瀬に伝えてくれる。


「葵ちゃんわかった?」

「う、うんなんとか?」

「じゃ、私たちは店内見てるからゆっくりしてね」


 そう真琴が言うと、水瀬を試着室へ押し入りカーテンを閉める。

 こうした試着室で女性用の下着をつけるのはこれで2回目である水瀬は、やはり慣れない状況に胸が高鳴る。

 上着を脱ぎ上半身を裸にした水瀬は、目の前の鏡に映った自分を見るとそっと胸に手をやり。


「というか、やっぱり胸大きくなったのバレるんだ……これからどうしよう」


 以前より大きくなっていたのは水瀬自身も薄っすらと気づいていた。しかし対処のしようもなく、また気恥ずかしいという意識の方が強かったのか。誰にも相談できなかったところで真琴に気付いてもらえたのは不幸中の幸いだろう。


「でも胸が大きくなったって言われて、正直嬉しかったんだよなぁ。オレ、どうしたんだよ」


 男として生活したい。その意識としては正直胸があるのは邪魔でしかない。しかし、一方で胸が成長した——つまりより女性らしく変化していたということに、小さな喜びを見つけている自分もいる。相反するその気持ちは今水瀬に折り合いをつけるのは難しいだろう。

 水瀬自身、どうするかということに答えを見つけられないまま、しかし『女性らしい格好をしたい』という最近の悩みには今回の件は沿うものだったらしく。


「まぁでも、とりあえずつけてみるかコレ」


 壁にかけてある寄せて上げるブラを手に取った。

はい、なんだこの話は!

自分で書いててなんの小説かわからなくなってましたが、水瀬には必要な話だと思って割り切っていただけるとありがたいです。


ご感想等ありましたらぜひどうぞ!

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