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3−4 困り笑顔

 大型連休中ということもあるのか、街中は人が活気付き様々な人が行き交う。そんな人々をカフェのテラス席で眺める水瀬は、氷が溶けて少し薄まったアイスカフェラテを口に含む。

 水瀬の目の前には何故か真琴と穂乃絵が横並びに座り、いつの間にとても仲良くなっているようだった。


「お姉さま、コレありがとうございます! とっても美味しいです♪」

「そ、そう。それならよかったわ。まさか何の迷いもなく一番高いのを頼んでくるとは思わなかったけれど……」


 満面の笑みを浮かべる穂乃絵に、さすがの真琴も苦笑い。というのも、どうやら穂乃絵はこのカフェでもっとも高い飲み物に、呪文のような長い長いトッピングを注文したらしく、真琴もただ見ていることしか出来なかったらしい。

 日頃貧しい生活を送っているからか、気前よく奢ってくれた真琴を穂乃絵は「お姉さま」と慕うようになっていた。


「真琴ちゃん、そいつ甘やかすと調子乗るから程々にした方がいいよ」

「水瀬先輩は黙っててくれません?」

「ほらっ! こいつオレにはこうなんだよ!?」

「いっそ清々しいまでの豹変ねぇ」


 水瀬にはキッと睨む穂乃絵も、真琴にはにこやかなスマイルを見せる。

 しかしそのスマイルを信用していないのか、そもそも真琴の方が数枚上手だったのか。意にも介さず真琴は水滴が滴るアイスコーヒーを喉に流すと、「さて」と一拍置き。


「これからどうする?」

「どうするって?」


 可愛らしく首を傾げる真琴に、思わず水瀬も首を傾げておうむ返しをしてしまう。


「だってせっかく女子が外で三人も集まったのよ? 女子会しなきゃ勿体無いじゃない」

「えっ、女子か——」

「女子会ですか! 良いですね!」


 水瀬の言葉を遮るように、穂乃絵が身を乗り出すように真琴の提案に賛同する。


「でしょ? 穂乃絵ちゃんとももっと仲良くなりたいし、葵ちゃんも良い機会だと思って……って葵ちゃん?」

「女子会……女子会……」


 ブツブツと俯きながら呟く水瀬に真琴の言葉が届いていないのか。「女子会」というワードに反応しひたすら繰り返している。


「お……お姉さま? 水瀬先輩に女子会とかのワードはどうなんです?」

「ん〜、私の勘が正しければ、そうねぇ。まぁ見てて」


 穂乃絵的には「女子会」などの女子特有のワードは、水瀬のNGワードと捉えているのだろうか。これまで自分は男であるということを前提に振舞ってきた水瀬を見ていると、そう思うのも仕方がないというもの。

 しかしこれまでの水瀬との付き合い、そして最近の水瀬の様子から真琴はある仮説を立てている。それは——。


「ま……まぁ、真琴ちゃんや穂乃絵がどうしてもやりたいって言うなら、オレも女子会? に参加しても良いかなぁ……って。えへへ……」

「水瀬先輩ちょろ……」


 『水瀬葵は女の子として振る舞いたい』——真琴の仮説はほぼ確信に変わる。竜一といるときや、学校での暮らしでの水瀬は当然男として振舞っている。しかし、ふとした瞬間の水瀬の表情の変化を真琴は見逃さない。

 教室で女子たちが髪をいじり合っている様子を見ている水瀬。女子の霊服を羨ましそうに見ている水瀬。そして先ほどもあった、女の子らしい服への憧れの視線。

 水瀬葵が本当に女の子になりたいと思っている——さすがの真琴もそこまでは考えていないだろう。しかし、確実に水瀬の中で何かが変わりつつある。そう真琴は機敏に察知しているからこそ、自らが女子会を提案し。


「じゃあ決まりね。まずはランチに行きましょ!」


 水瀬は誘われたから仕方なく女子会に参加した——と言う状況を作ったのだ。案の定ウキウキで乗ってきた水瀬を見て、真琴も頬が緩んでしまう。


◇◇◇


 街中のカフェを出た一行は、ランチを取りに真琴がよく使うカフェ&バーへと入店した。シックな作りの店内は、所々に観葉植物が置かれ、大きめな窓から差し込む太陽の光が程よく店内を照らす。隣接している川辺が南国を彷彿とさせる作りとなっていることから、女子たちの間でも人気のようだ。

 昼時を少し過ぎたからか、混雑はしているが待つこともなく席に着いた三人は、手早く食事を済ませ。


「いやぁ、よく混んでるなぁ」

「大型連休中だからねぇ。待たずに入れてよかったわぁ」

「お姉さま、私ここのお料理代を払う持ち合わせがありません……」


 気にしないでと苦笑する真琴に穂乃絵が思わず抱きつく。


「穂乃絵、お前真琴ちゃんを金ヅルなんかにしたら許さないからな」

「水瀬先輩に対してじゃないんだから、そんなことするわけないじゃないですか」

「オレならするの!?」

「ふふ、仲良しねぇ二人とも」

「私が仲良しなのはお姉さまだけですよ〜」


 穂乃絵の水瀬金ヅル発言に水瀬が驚愕していると、それを見て真琴が和やかに笑う。真琴から見たら、どうやら仲良しが故にじゃれ合っているように見えているらしい。それを否定してみせる穂乃絵に、ふとある事を思いついた水瀬は、少し意地悪な表情を浮かべ。


「ふふふ、穂乃絵ちゃん。そんなこと言ってて良いのかな?」

「どういう意味ですか」


 水瀬の表情がイラつくのか、ムッとした表情で反論する穂乃絵に、水瀬は勝ち誇って言う。


「真琴ちゃんの固有限定魔術(リミットオブソウル)は相手の考えを読む力だ。お前が嘘をついていたら真琴ちゃんにはすぐバレるぞ」

「あっ、そうだった……。あれ、マジなんですか?」

「……えぇ、大マジよぉ」


 注目ペアの真琴なだけに、穂乃絵も真琴の固有限定魔術(リミットオブソウル)については知っていたらしい。

 水瀬の言葉に真琴が一瞬だけ沈黙するが、すぐ柔和な笑顔を穂乃絵へ向ける。まるで取り繕ったような真琴の笑顔に、さすがの穂乃絵も頰を引きつらせ。


「へ……へぇ……。でで、でも私本当に真琴先輩と仲良くなりたいですからね? し、信じてくださいね?」

「えぇ、信じるわ。……と言うか、そもそも常に相手の考えを読んでいるわけじゃないから心配しないで。あれ結構疲れるのよ」


 真琴の取り繕ったような笑顔が次第に困り笑顔に変わっていく。どちらかと言うとその笑顔の方が真琴らしく、やはり先ほどの取り繕った笑顔はまるで何かを隠すような不自然さを強調していた。


「そ、そうなんですね、……はぁ。水瀬先輩、あんまり真琴先輩の固有限定魔術(リミットオブソウル)のこと、人に言わない方がよくないですか?」

「えっ、そ、そうなのかな?」


 穂乃絵の言葉にキョトンとする水瀬は、その言葉の真意が伝わっていないのか、しかし何かしら不味いことをしたのかもしれないと感じ取ったらしい。少し気まずそうに水瀬が真琴の方へチラと見ると。


「大丈夫よ葵ちゃん。そんなの慣れっこだし、葵ちゃんみたいに気にしないでいてくれた方が私は嬉しいわ」


 水瀬の心配を優しく溶かすように、真琴が相変わらず困り笑顔で諭してくれる。


「昔は色々あったけど、リューくんやウィルくんに助けられて、もう気にしなくなっちゃったから」

「昔って、何かあったんですか?」

「お前人には言うくせに、自分も結構他人のプライベートにズカズカいくよな」


 穂乃絵が興味津々に真琴に問いかけたので、さっきのお返しとばかりに水瀬もツッコミを入れる。


「別に話しても良いんだけど、そろそろお店でた方が良いと思うわ」

「あ、ほんとだ。また混んできた」


 真琴が入り口を見やると、順番待ちのお客が大量にいた。席に時間制限をつけられている訳でもないが、やはり待っているお客さんがいるのに長いするのは申し訳ないと思ったのだろう。

 真琴が水瀬と穂乃絵にウインクを一つ送りながら荷物をまとめ。


「その話はまた今度の女子会でしましょ。私もお話整理してくるから」

「良いですね! 楽しみにしています!」


 笑顔のまま、真琴が伝票を持ってお会計へ向かう。穂乃絵の分の支払いもあるためだろうが、どうにもいつもの真琴らしくないと、一番の女友達である水瀬は勘ぐってしまう。まるでこのお話はここまでと言わんばかりに、その場を離れた真琴の表情はもう見えない。


◇◇◇


 店外へ出ると、太陽がもっとも高く上がっているのだろう。すっかり気温も上がった初夏のようなこの気候に、三人はついつい身体を伸ばしてしまう。


「さーて、これから何しようかなぁ……て、真琴ちゃんどしたの?」


 両手をあげて伸びをする水瀬を、真琴がジッと見つめている。


「いえね、葵ちゃん。あなた……」


 言い淀む真琴は言葉を選んでいるのか。それとも躊躇っているのか。ゴクリと喉を鳴らす真琴の真剣な表情に、思わず水瀬や見ているだけの穂乃絵も硬直して唾を飲む。

 決心がついたのか、ゆっくりと口を開いた真琴が両手を水瀬に向けて突き出しながら……。


「葵ちゃん、あなた……胸、大きくなってない?」

「えっ?」


 むんず、と真琴が水瀬の胸を鷲掴みにする。

お読みいただきありがとうございます!

少しづつ、竜一と水瀬以外にもスポットを当てられるようになってきました。

まぁ本筋は竜一と水瀬なので、あまり脱線しすぎない程度に、でも本筋に絡めながらやっていきたいです。


ご感想等あればお気軽にどうぞ!

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