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2-38 二章エピローグ おじゃまします!

 マーキスとの戦いから三日が過ぎ、竜一と水瀬は夕暮れの商店街をゆっくりな歩幅で歩いている。


「ここを通ると三日前のことを思い出すな、竜一」

「あれからまだそれくらいしか経ってないのか。あそこらへんは一日一日が濃密過ぎて時間感覚狂うんだよな」

「それな。朝から晩までずっとイベント続きで、次の日は死ぬほど寝たもんな」

「俺なんかその前日の夜からだぜ? ホント、死ぬかと思ったよ」


 閑散としている商店街は人通りもまばらで、夕焼けが二人を照らすと大きな影を作りだす。間伸びした影を竜一がボーッと眺めながらボヤくと、水瀬は悪戯めいた顔で応答する。


「まぁ、これも生徒会長たちのおかげだな。森でマーキスと対峙した時、竜一一人だったら今回はマジでヤバかったかもね」

「俺だってあの時闇雲に残るなんて言ったわけじゃねーからな? 会長たちが来てくれること前提で残ったわけだし」

「あ〜そうそう。あの時策はあるって言ってたのって会長たちのことだろ? でも何で会長たちが来るって竜一はわかってたんだ?」


 水瀬がオレンジ色に染まる空を眺めながら、マーキスと対峙した時のことを空に描く。あの瞬間は竜一の勢いに押されて任せたが、水瀬としては竜一がなにを持って会長たちのことを策と言ったのか見当がついていなかった。


「いやな? 会長たちって選抜戦が始まってから、毎日学校に遅くまで残って、朝は早くから来て仕事してるって言ってただろ?」


 竜一が地下でベルモンドで捕まってたのを救出してくれたのは、朝早くから生徒会が仕事をし、学校の違和感に気付いてくれたからだ。そのことはその後の事情聴取で確かに言っていたのを水瀬も思い出す。


「まぁ言ってたな。でも、学校に遅くまで残っていることと、俺らが森で乱闘してるのに気づくのはイコールにならなくね?」

「それも事情聴取で会長が言っていたアレだ。会長、学校の裏の森に侵入者がきたら自分に通知が来るよう結界張ってたろ?」

「あ〜なるほどな」


 つまり、竜一が積極的に森に入っていったのは、生徒会長千歳が設置した罠に自ら掛かり、異変を知らせていたということらしい。


「しかも、あの時間にあれだけの人数が森に侵入したんだ。あの会長だってこれはおかしいって流石に気付くだろうと思ってさ」

「竜一もちゃんと考えてたんだなぁ」

「ちゃんとってなんだちゃんとって!」


 得意気に語る竜一の作戦に、ついつい少し感心してしまう水瀬は朗らかに笑う。

 すると、閑散とした商店街に大きな人集りを発見する。竜一にとっては予想通りで、水瀬にとっては予想外なほどの混み具合のそこは、二人の第一目的地である。


「さって、水瀬。俺はこの主婦たちを相手取り、最奥にある今日の特売品、『タマゴ』を買ってくる。きっとこの戦いは生死を別つほどの死闘となるだろう。水瀬、覚悟はいいか?」

「はいはい御託はいいからさっさと買ってこいホラ『身体能力向上魔法(フィジカルブースト)』」

「んぎゃーーーーーーっ! 水瀬、いきなりはやめてぇ!」


 久しぶりに水瀬から素の身体能力向上魔法(フィジカルブースト)を受けた竜一が、身体中を痙攣させ雄叫びをあげている。

 しかしこうしている今も主婦たちは特売品のタマゴを一個、また一個と奪い去って行く。


「クッ! 水瀬、こんなことしてる場合じゃあねぇ! 本気で行くぞッ!」

「はいはい」

「ハァァァッ! 固有限定魔術(リミットオブソウル)、『生命の輝き(デスペラードハート)』!」


 身体中の筋肉をフルに稼働させた竜一が、歴戦の戦士たち(おばちゃんの群れ)へと突撃して行く——。


◇◇◇


「それで竜一、タマゴは何パック買えたの?」

「に……二パック……」


 店の外にある自販機の前で待機していた水瀬の前に帰ってきた竜一は、まるでホムンクルスたちと戦闘したかのようにボロボロとなって帰ってきていた。


「ここに毎日通ったら、良い鍛錬になりそうだな……グフッ」

「なんやかんや余裕あるじゃないか竜一」

「前回は負けたからな……リベンジが果たせてよかったぜ」


 前回とは、以前この近くで見境兄弟が同級生たちにからかわれた際、タマゴが割れてしまい、竜一が代わりに買いに行った時のことである。

 その時は竜一の惨敗であったが、今回は比較的勝利と呼んでも良いのだろう。満足そうにしている竜一が上機嫌で商店街の通りを歩いている。


「水瀬は優の料理始めてだよな。中々うまいんだよあいつ」

「そういえば、竜一が捕まる前日はあいつらの家で食ってたんだもんな。呑気なもんだよまったく」


 あの日帰ってこない竜一を心配していた水瀬が、溜め息交じりに肩を落とす。


「だから悪かったって! 今日これから食べれるんだから許してくれよ」

「そういう問題じゃないんだけど……はぁ。まぁいいけどさ」


 焦る竜一を追い越すように、水瀬は呆れながら歩の進める速度を上げる。

 今日は見境兄弟の家で、約束通り一緒に食事をするのだ。竜一が前回のリベンジが如くタマゴを手に入れたのはそのためである。


 また、水瀬としては今日で二人とちゃんと話し合い、出来れば仲直りしたいと思っている。見境源氏がインターフェイス研究所惨殺事件の犯人ではないという二人の主張を、水瀬は信じることにしたのだ。

 あの日、見境兄弟が話していた時の目は、明らかに嘘を言っていない目であった。別に、水瀬には人の嘘を見抜く能力や、真琴のように相手の考えを読める能力があるわけではない。それでも、あの二人が嘘を言っていないというのはわかる。

 むしろ、世間では歴代の犯罪者とまでされている父をそこまで信じ、潔白を証明するために行動する二人は、ただただ純粋なのだ。そこに裏も表も存在せず、ひたすらに真っ直ぐなのだ。


 だからこそ、水瀬は二人を信じようと決めた。


「まっ、それに、あいつら死ぬほど弱かったしな」

「水瀬にそれを言わせるって、相当だよな」


 マーキスらとの事件後、翌日は事情聴取を受け、その翌日……つまり昨日、竜一と水瀬は見境兄弟と試合を行ったのだが、その結果は二人の言う通りであり。


「竜一が鉄屑もって近づいたら優は頭抱えて震えだすし」

「穂乃絵はそれに怒って突進したところに水瀬の身体能力向上魔法(フィジカルブースト)が直撃して痙攣するしな」


 ほぼ観戦者のいない試合会場では、千歳の声援だけが響いていたのを鮮明に思い出す。誰に対しても分け隔てない千歳は、あの事件のあと見境兄弟に事情を聴くと、これまたすぐに打ち解けたようで、試合では竜一らより見境兄弟を応援していたくらいだった。


「千歳会長の背中も特に問題なくすぐ治療できてよかったな竜一」

「まぁよかったけど、水瀬、あの人を怒らすのはやめような?」

「あの事件以来、竜一はそればっかりだな」

「水瀬は直に見てないからそんなことが言えるんだ! あれは本当に鬼だぞ!? 悪魔より怖い存在だったぞ!?」


 事件後、治療を受け一日だけ入院することになった千歳へお見舞いに行った竜一は、途中記憶がないという千歳へ事の顛末を話したのだ。

 というのも、どうやら千歳の固有限定魔術(リミットオブソウル)——『地獄に咲く一輪の花(ヘルタースケルター)』は千歳本人でも制御できず、感情の振り幅が限界を超えた時、発動してしまうものらしい。その際の記憶は全くなく、いつも目を覚ますと辺りは凄惨なことになっているため、なるべく使わないようにしていると、顔を赤くした千歳が恥ずかしそうに言っていた。


「それとバディを組む木戸先輩も、やっぱりすごいんだろうな」

「あぁ、それは言えてるな」


 マーキスとの戦いで、千歳が最後の最後で正気を取り戻せたのは木戸のおかげだろう。千歳の脈打つ銃に鋼鉄の装甲がついていたのがその証拠である。


「ほんと、先輩方は頼りになること」


 夕焼けを仰ぐように見る竜一は、自らの先がまだまだ果てしなく続くことを実感し、これからの苦難に身を強張らせたくなる。

 が、そんな竜一の考えを知ってか知らずか、隣の水瀬は特に気にする素ぶりも見せず、竜一の笑いかけると。


「ま、オレは竜一が一番頼りになるけどな」


 ニヒっと笑う水瀬の顔は夕焼けと逆光で竜一からはよく見えなかったが、やはり水瀬はとても美しく、どう見ても美少女のそれであり。


「水瀬、抱きしめて良いか?」

「良いわけねーだろ! キメ顔でなに発情してんだ気持ち悪りぃ!」


 相変わらず間抜けなことを抜かす竜一に、心の片隅で安心を覚える水瀬の頬は、夕焼けに染められ少し赤く紅潮しているようだった。

 そうこうしているうちに、最終ゴール地点、見境兄弟の住むアパートに辿りつくと、底の抜けそうな階段を登り、柵が今にも壊れそうな廊下を進んだ二人は、目的の部屋のチャイムを鳴らし。


「い、いらっしゃいませ、灰村……先輩、み、水瀬先輩」

「遅いわよ全く。お腹減っちゃったじゃない!」


 玄関のドアを開けると、兄弟が揃って二人のお出迎えをしてくれた。

 こんな日が来ることを待ちわびたように、こんな日が来ると信じられないように、少し照れた笑いで迎える兄弟に、二人は満面の笑みを浮かべて——。


「「おじゃまします!」」


空っぽの胃が満たされるように、兄弟は嬉しそうに二人を迎え入れた。

はい、これにて二章完結です!

次回から三章がスタートしますので、どうぞお待ちください!


二章のご感想等もお待ちしていますので、お気軽にどうぞ!

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