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2-25 逃走

「……おやおや? どちら様でしょう。私、見境優さんと穂乃絵さんに会いにきたのですが」


 半開きのドアから顔を覗かせた水瀬は、口調とは裏腹に一瞬だけ怪訝そうな表情を浮かべたその男を睨み付ける。


「あなたはどちら様でしょう。お二人のご友人ですかな?」

「どちら様はこちらのセリフです。あなたこそ、どちら様でしょうか」

「おぉこれは失敬失敬。私、マーキスと申します」


 大仰な身振りを見せ、名乗りを上げるその男はまるでダンスパーティーのお誘いにでも来たようにお辞儀をすると、口元を歪ませて微笑む顔を上げ――言った。


Iris(アイリス)第三部隊隊長マーキスと申します。見境ご兄弟を……処分しに来ました」

「――ッ!? 身体能力向上魔法(フィジカルブースト)!」


 ハッキリと「処分する」と宣言したマーキスに、水瀬が最大限の身体能力向上魔法(フィジカルブースト)を放つ。

 淡い光に包まれたマーキスは、本来であれば強靭な力を手に入れているところだろう。しかし、水瀬の身体能力向上魔法(フィジカルブースト)を受けたことにより、その肉体は上昇率に耐え切れず、痙攣を起こし始める。


「……ほう、身体能力向上魔法(フィジカルブースト)でこんな使い方を。これは新しいですねぇ実用性も高そうです」

「ほざけ! おい竜一、見境兄弟! 今だ、行くぞ!」


 たたらを踏んで廊下の柵へ身を委ねるマーキスは、その身に起きている現象を冷静に分析し、ともすればその効果を楽し気に体験していた。


「ナイスだ水瀬! 作戦通り!」


 そのチャンスに見境兄弟を脇に抱えた竜一が飛び出すと、水瀬が首元に捕まりそのまま二階の柵を飛び越える。

 『生命の輝き(デスペラードハート)』を発動させていた竜一でも四人を抱えての着地はきつかったのか、足元をぶるぶるとさせながらも何とか脱出に成功した。


「よし、あいつはまだ動けないだろう。とにかく逃げるぞ!」


 現状の四人で相手の隙を突き、動きを封じられるのは水瀬だけだったため、賭けではあったがさすがは水瀬の身体能力向上魔法(フィジカルブースト)。その効果は絶大で、今も尚痙攣して動けないであろうマーキスは、二階から悠然と――見下ろしていた。


「なっ!? なんであいつもう動いてッ!?」

「ふむ……。そういう展開ですか。――いいですね、いいですよ。私、狩りも趣味でしたね。逃げ惑う相手を追い込みいたぶり、そしてその命をもらい受ける。それはそれで好きなシチュエーションです。いいでしょう許しましょう」


 すると、隠れていたのか霊装を携えた集団が辺りから現れた。


「さぁ、この私から逃げ切ってみなさい!」


 恍惚な表情を浮かべるマーキスが宣言すると、魔導士の集団が襲いかかってきた。


◇◇◇


 裏通りを全力で駆ける四人の背後には魔導士の集団が迫ってきていた。


「ちょっと! これどこまで逃げるのよ! というかどこに向かってるのよ! あ、そこ右に曲がれば大通りに出れるわ!」


 裏通りを走り続けているのには理由がある。というより、裏通りしか行けないのだ。


「――ッ!? クソ、まただ!」


 表通りに出れる道には決まって魔導士の集団が待ち構えているのだ。背後からも魔導士の集団が迫っている中、無理やり突破しようとすれば挟み撃ちに遭う形になり、全滅するのは時間の問題だ。

 故に、四人は裏通りを走り続けなければならないのだが。


「表通りに出れなくても、このままいけば学校へは行ける! 宮川先生たちには連絡入れてあるし、向こうもこちらを探しているハズ……今度は前から来たぞ!?」

「そこ、左に脇道あるから入って!」

「でもそこ進んだら学校の裏に行くぞ!」

「捕まるよりマシでしょ!」


 大通りには出れず、時折三方から魔導士の集団が押し寄せ、まるでどこかへ誘い込まれているように進む竜一らは、しかし走る以外に道はなく、足を止めることはできなかった。


「あ~もう! オレ体力には自信ないのにぃ!」

「ぼ、僕もぉ……」

「だらしないわよアンタら! 男でしょ!」

「え? あっうん……オトコダヨー!」

「なんでそこで片言なのよ!」


 さりとて、魔導士という性質を取り除いてもこれだけ走れば足が棒になり始めるのは無理もない。

 実際、普段から走りこんでいる竜一や、常に活発に動き回っている穂乃絵はまだ余裕があるが、どちらかと言うとインドアな水瀬と優にはこの逃走劇はキツイものがある。

 あと10分もすれば二人は精魂疲れ果て動けなくなるだろう。何とか学校まで近道ができないかと竜一は逡巡する。現在の位置は丁度帝春学園の丁度裏側に当たるだろうか。それだけ聞けばすぐ近くにあるように感じるが、帝春学園は正面以外森で覆われている。つまり、学校の裏側と言ってもその間には森があるのだが。


「このまま裏通りを逃げ続けても埒が明かない。それに学校に行くにはいつか大通りに出なくちゃいけないが、奴らの傾向から出させてくれないだろう……」


 これまでも二度三度、いやもっとだろうか。大通りに出ようとすると魔導士の集団は決まってそちらに待機していたのだ。

 奴らも人目につくのは避けたいのだろう。だからこそ、こうして裏通りを行くよう追っ手を差し向けているのだろうが。


「あっ、ちょっと! また三方から追っ手が来たわよ!」

「なに!?」


 竜一が視線を巡らすと、前方背後右からと追っ手が迫ってきているのが見えた。しかし肝心の左手側は森だ。逃げ場はない。

 ここで追っ手と応戦するべきか、しかし囲まれている現状で戦っても結果は見えている。ならば、選択肢は一つしかないだろう。


「どうするのよ灰村……先輩!」

「灰村先輩!?」

「み、水瀬先輩……それ今驚くところ……ですか」

「水瀬先輩!?」


 穂乃絵と優の先輩呼びに驚愕と歓喜を繰り返す水瀬を他所に、逡巡していた竜一が覚悟を決めると口を開く。


「みんな、この森を突っ切るぞ」

「ハァ!? アンタ本気!? 夜の森とか危険以外の何物でもないじゃない……それにちょっと怖いし……」

「なんだ穂乃絵、ビビってんのか?」

「ビっ!? ビビビビビって何かないわよ! あぁ良いわよ行ってやろうじゃない!」

「竜一、この子ちょっとチョロくない?」


 四人は左手側を向くと、その暗闇が続く森へと足を踏み入れた。


お読みいただきありがとうございます!

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