2-11 最底辺っ!
帝春学園第一闘技場。
竜一と水瀬は観客席の上層。見晴らしの良い席と言えば聞こえは言いが、実際は遠すぎて試合内容がよくわからないような観客席上層位置で試合を観戦していた。
その試合とは。
「真琴くん、今だ!」
「はぁい! 『圧縮風刃』!」
岩太郎・真琴ペアの第一試合であった。
元々校内ランク9位の岩太郎、校内ランク11位の真琴は選抜候補としての呼び声も高く、その評判通り危なげない試合を見せてくれた。
竜一らが試合を観戦しづらい位置に居るのも、注目度の高いこの二人の試合を見ておこうと大勢の生徒が押し寄せていたからだ。
「なんだかんだ言って、やっぱり真琴ちゃんと岩太郎は強いねぇ竜一」
米粒のような真琴らを直視するのは諦め、闘技場に設置されている大型中継モニターへ目を見開くようにして見ているのは水瀬だ。
「まぁ、いってもアイツ等は校内でも有数の実力者だからな。性格がアレなもんで忘れるけども」
特殊技能魔法『千里眼』で直接試合を見ている竜一は、水瀬の問いにさも当たり前のように答える。
中学から一緒にいたであろう竜一にとって、真琴と岩太郎はどう映るのか。そんなことが一瞬水瀬の頭によぎるが、気づけば試合が終了したであろう歓声が闘技場を包み、頭からすっぽりと消え去った。
「あっ、試合終わったみたい。快勝だったみたいだし、控え室に下がった二人に会いに行こうよ」
「ん? あー、そうだな。一回戦如きでとかドヤ顔で語られそうなのが目に浮かぶが、水瀬が行きたいなら行こうか」
「素直じゃないなーもう」
試合が終わったというのに、何かしら神経を集中させていた竜一が渋々承諾をする。
観客たちより一足先に席を後にした二人が闘技場廊下を歩いていると、前方から竜一より少し背が低いであろう男子と、水瀬より少し背が高いであろう女子が歩いてくる。
男子は前髪が目元まで垂れ、目の奥が見えず猫背で自信なさげに下を向いている。隣の女子の方は肩まで伸びた茶色い髪に手グシを入れながら何やら不機嫌そうに小言を言っているようだった。
「ほら、来たわよ優! 一発カマしてやるんじゃなかったの!?」
「いいい一発カマすなんて言ってないよ穂乃絵ちゃん……。ただ一言挨拶だけでもしておこうって僕は提案しただけで……」
「あぁもう焦れったい! 対戦相手に挨拶するって言ったら威圧をかけるって意味に決まってるでしょ! 少し見直したと思ったらすぐこれなんだから!」
何やら揉め事をしている……というより茶髪の女子が一方的に隣の男子に言い放っているみたいであった。
「なんか大変そうだなぁ。巻き込まれないうちに早くいこうぜ竜一」
「……」
小声でそう水瀬が言うと、竜一は何かを考え込むように黙りながらその二人を見やっている。
すると竜一は何某か思い至ったのか、その二人の方へ歩み寄ると。
「こういうのはね、気合が大事なのよ! き・あ・い! だから早く」
「なぁアンタら。さっきから俺らのことをずっと見ていたようだけど、何か用か?」
「行くわ……よ――って、灰村竜一!? ほらぁぁああぁああぁあ優がグズグズしてたから先手を取られたじゃないのー!」
「あわわわ、ごごごめん穂乃絵ちゃん」
穂乃絵と呼ばれるその女子が隣の男子――優の襟首を掴んで頭をグワングワンと揺らしている。
話しかけた竜一もさすがに困惑しているようだが。
「お、おい?」
「ふんっ! そっちから話しかけるなんていい度胸ねこの最底辺! この私を知っての狼藉かしら?」
穂乃絵が竜一を見上げると、真琴ほどではないが女性としては十分な、いや平均より少し大きいであろうその胸を張り、高らかに返事を返す……が。
「狼藉って……いや誰だアンタ」
「あらっ!?」
「そりゃあ知ってるハズないよ穂乃絵ちゃん~……」
当然竜一の知る由もなく、穂乃絵は顔を赤くして尚怒っているようだ。
「あああアンタ! 次の対戦相手であるこの私を知らないと……そう言い張るつもり!?」
「次の対戦相手……ってことは、アンタらが次の対戦相手、『見境 優』と『見境 穂乃絵』だったのか?」
「今更気付いたの!?」
今度は驚愕の表情を浮かべる穂乃絵は、まるで百面相が如くコロコロと変わる。
隣にいる男子――見境 優は依然としてモジモジと下を向いているようだが。
「くっ、まさか試合前に精神攻撃を弄してくるとは……汚い、さすが底辺汚いわ! 正々堂々勝負もできないわけ?」
「汚いってお前……」
涙目を浮かべ、キッと睨みつけるようにする穂乃絵はきっと黙っていれば美少女なのだろう。
しかしその口が塞がれることはなく。
「まぁ良いわ。そう――私は次のあなたたちの対戦相手でもある見境 穂乃絵。覚えておきなさい!」
「ちなみに穂乃絵ちゃんは校内ランク305位、僕は302位なので、灰村くんたちとほぼ同じ最底辺です。どうぞよろしくお願いします」
「なにバラしてんのよバカ優ぅぅぅぅ!」
校内ランク314位の水瀬と315位の竜一にとって、一応二人は自分たちより上ではあるが、ここら辺はもはやドングリの背比べ。
その事実は竜一の気持ちを解きほぐすには十分で。
「なんだ……お前たちも同類の人種かよ。仲良くやろうぜ」
「は、はい。どうぞよろしくお願いしま」
「仲良くなんかするわけないでしょこの最底辺! この屈辱は必ず晴らさせてもらうから、覚えておきなさいよぉぉぉぉぉ!」
竜一と優が握手をしようとする刹那、穂乃絵が優の襟首を掴み泣きながら走り去って行ってしまった。
「な、なんだったんだ竜一。まるで嵐のような子だったけど」
「俺にわかるもんかよ……」
時折遠くから聞こえる『最底辺っ!』という罵倒は、今だ涙ぐんだ声であった。
今回は短いけど比較的早く投稿できたぞ……。
新キャラも出てきたから、皆さんどうぞよろしくね。
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