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1-14 双頭の犬

「さてだ。とりあえずここから脱出しよう。こいつらに手を出しちまったんだ。もう禁呪書物を渡すだけでは無事に返してくれないだろう」


 鼻から垂れる血を拭いながら、竜一は真剣な表情で水瀬へ告げた。

 竜一の判断は正しいのだろうと、夕刻に買った霊服を身に纏った水瀬も厳しい目つきで竜一を見やりながら同意する。

 そもそも、今回禁呪書物を渡す理由は水瀬を取り返すためだ。このような暴挙を犯す者たちに禁呪書物を渡せば、どれだけの被害が起こるのかわからない。

 今はこの廃工場を脱出し、魔導騎士団なり学園なり、正規の場所に相談へ行くのがいいだろう。


「そもそも、理事長が出張なんて行っていなければこれもすぐ渡せたんだけどな」


 そう、本来であればこの禁呪書物は竜一の父親から理事長へ届けるよう言われて預かったのだ。

 しかし当の理事長といえば、なぜか週明けまで出張ということで学園におらず、それまで竜一たちが預かっていたのだが、


「もうオレ、禁呪書物関連で振り回されるのはゴメンだよ……」

「あぁ、俺も同意見だ」


 とにもかくにも、水瀬の情報からこの集団のボスは今ここにいないということを得た竜一。

 依然廃工場裏手での爆発の原因はわからないが、そっちの方にこの集団が向かったのは確認している。

 幸い、水瀬を襲っていた男――雅也は不意をつく形で気絶させることに成功した。

 二人は部屋を出ると、竜一の来た道を引き返すことに。

 すると、突如先ほどの部屋の壁が内側から勢いよく破壊される。二人は直撃こそ受けなかったが、その衝撃に反対の壁側へ吹き飛ばれた。


「あぁ~、イッテーじゃねーの~。おぉ?」


 内側から破壊された部屋からは、先ほど確かに気絶させたハズの男が頭から血を流し、竜一らを見下すようにゆっくりと出てきた。


「危うく俺死んじゃうとこだったのよ~? ん~? この責任、どうとってくれるのかな~?」

「お前、気絶してたハズじゃ……」

「あ~しっかり気絶してたぜ~? まぁ俺様くらいになるとあの一瞬でも対物理防御魔法(プロテクトウォール)を貼るくらい造作もねぇけどな~」


 竜一が殴り飛ばした直後にでた青い光、アレはやはり雅也が魔法を発動させているものだったらしい。

 話もそこそこに雅也は右手を竜一らへ向け、人差し指から、


「とりあえず痛かったぜ~? 灰村ぁ。――死ね」


 黒い塊を発射させた。


「危ない竜一!」


 瞬間、水瀬が竜一の前に対魔法防御魔法(マジックシールド)を発動させる。

 対魔法防御魔法(マジックシールド)が展開されたと同時に黒い塊が接触し、その両方が砕け散る。


「な!? オレの対魔法防御魔法(マジックシールド)を破壊した!?」

「ヒヒッ……」


 通常、防御魔法とは魔力をそれのみに錬成したものなので、攻撃魔法などより瞬間的な防御力は高いものとされている。

 しかし両者の魔法が相殺された今回の場合は、その攻撃魔法の威力がどれだけ高いものだったかを示す格好の機会となり、


「水瀬、逃げるぞ!」

 

 竜一が来た方には雅也が立ちはだかる。故に、竜一と水瀬は廃工場のさらに奥へと逃げることとなった。

 竜一が水瀬の手を取り、駆ける。


「あ~、んだよ逃げんのか~? さっきの気概はどこにいったんだよ灰村ぁ」


 まるで猛獣が獲物を狩るように、雅也は顔を嗜虐的に歪ませ、後を追いかける。

 しかし雅也の足取りは遅く、ともすれば歩いてさえいた。

 その余裕も当然だろう。竜一たちが走り出した方角は一本道であり、出口からはどんどん離れて行っている。

 そして、今竜一らが走っている方角から水瀬にはわかるのだ。そこには、


「竜一、こっちはダメだ! この先は――!」


 竜一が正面の大きなドアを開け放つと、そこは三十メートル四方もある大きな空間だった。

 天井近くの窓からは、あいもかわらず月明かりが差し込んでいる。

 ここは先ほど水瀬や銀次がいた場所だ。

 竜一は水瀬の手を引っ張り、部屋の中ほどまで入ると、


「行き……止まり?」

「セイカ~イ」


 部屋の入り口には雅也がドアに背中からもたれて笑っている。


「この部屋なら戦うのにうってつけだ。そんなに俺様と殺り合いたかったなんて、お前イカしてるぜ~?」


 相変わらず嫌らしい笑みを浮かべる雅也は、両手の先に魔法陣を展開させていた。

 竜一と水瀬がそれに警戒するも、その魔法陣はどうにも見覚えあるものだった。

 そう、霊装を異空間から取り出す魔法陣だったのだ。


「紹介するぜ~。こいつは俺様の相棒『オルトロス』ってんだ。どうだ、ここの装飾とかイカスだろう~?」


 見ると、それはまるで中世の海賊たちが持っていた銃を連想させる二丁のフリントロック式の銃だった。

 いや、霊装とは使用者のイメージを具現化させたもの。その点を考えると、実際のフリントロック式の銃みたいに一発一発装弾するという手間はないだろう。

 オルトロスに備えられている金色の装飾が怪しく光り、


「さっきまで撃ってたのはコイツを使わずに撃つ簡略型のもんだ。今度はあのシールドでも防げるかわかんね~ぞ~、女ぁ!」


 突如、雅也が右手に持つオルトロスの銃を水瀬へ発泡する。

 撃ちだされた玉は同じ黒い塊だが、今度は先ほどより大きく、野球ボールほどの塊が水瀬を襲う。

 警戒はしていたものの、放たれたオルトロスの弾は先ほどとは比べるまでもなく速い。水瀬は対魔法防御魔法(マジックシールド)を展開しようとするも半瞬遅く、今度こそシールドを突き破られそうだと逡巡するが、


「くっ! ドレスチェンジッ!」


 竜一が霊服に着替えると同時に愛剣『鉄屑』を取り出し、鉄屑の面でオルトロスの弾を受け止める。

 水瀬の対魔法防御魔法(マジックシールド)を破るほどの魔力弾は鉄屑を貫通まではいかずとも、金属同士がぶつかったような高い衝撃音を発し、受け止めた竜一を遥か後方壁まで吹き飛ばした。


「竜一っ!?」

「ギヒッッッ!」


 その隙を逃さんと、雅也は両手のオルトロスを竜一に狙いを定め、引き金を引く指に力を入れる。

 雅也の顔が獲物に食らいつくが如く猟奇的に歪む。同時に発射された二つの黒い塊が射線上に竜一を捉えたのを確信したのだ。

 しかしその射線上の中間よりやや後方、半透明なピンク色の膜、いや板が魔力の残滓を飛ばしながら黒い弾を受け止める。


「……ほ~?」


 水瀬が間に割って入り、先ほどの対魔法防御魔法(マジックシールド)にもう一枚対魔法防御魔法(マジックシールド)を展開していたのだ。


「うっ……! でもこれはッ!?」


 しかしそれも一瞬のこと。雅也の黒い魔力弾は高密度の魔力の塊、または専用の魔法なのだろう。水瀬の二枚がけ対魔法防御魔法(マジックシールド)の魔力と干渉し、小規模な爆発が水瀬を後方へ吹き飛ばした。

 先ほどの竜一とは比較にならない速度で吹き飛ぶ水瀬。壁へ激突したら怪我ではすまないだろう。

 すると、


「全く、無茶をするな。キミたちは」


 ポヨン、と水瀬の顔にクッションのようなものが当たる。

 その感触はどう考えても無機質な塊の壁などではなく、とても柔らかい、それでいて何とも本能が刺激される質感がした。


「大丈夫葵ちゃん!? 良かった、間に合って……」

「真琴……岩太郎、お前らなんで!?」


 竜一は瞳孔が開くほど目を開け驚いている。

 水瀬がその至福なクッションから顔を上げると、学園のマドンナ、竜一の幼馴染清水真琴が泣きそうな瞳を浮かべていた。

 竜一の隣に立つ岩太郎はいつもの如く余裕の笑みを浮かべ、竜一を見下ろしている。


「真琴ちゃん? ……でもなんでここに。というかどこから?」

「え? 普通にそこの壁破壊して入ってきたんだけど」


 水瀬と竜一が真琴の指す方を見やると、竜一の倒れてる十メートルほど先の壁が破壊され、外とつながっていた。


「壁を壊した瞬間に葵ちゃんが爆発に巻き込まれてたのが目に入ったから、自分に身体能力向上魔法(フィジカルブースト)疾風魔法(エアライド)をかけて受け止めにきたの。あのまま壁に激突してたらせっかくの可愛い顔に傷が付いちゃうものね!」


 真琴は安心させるかのようにいつもの笑顔を水瀬へ向ける。

 どうやら水瀬の魔法と雅也の魔力弾が爆発した際に、同時に壁が破壊されたことで竜一と水瀬は気付かなかったようだ。

 そんな二人を竜一は唖然として見ている。

 とりあえず、と岩太郎が前置きを置くといつものすまし顔が一変、かつてないほどの怒りをそのスマートな顔立ちに浮かべ、言う。


「そこのアナタ。どこの誰だか知らないが、僕のライバルたちをいいように弄んでくれたみたいじゃないか。やることなすこと、あまり関心しないな」


 岩太郎のその言葉のどこに喜ぶべきポイントがあるのか。雅也は先ほどとは比べられないほどの邪悪な笑みを浮かべ、


「お~お~。雑魚がワラワラと湧いてきて。でもいいぜぇ? お前らはそいつらと違うみたいだ。覚悟はできてんだろうな~? せいぜいすぐには死なないでくれよ~?」


 両手のオルトロスを手で回しながら、心底楽しそうにする雅也。

 その雅也を軽蔑するかの如く、岩太郎はハッキリと告げた。


「覚悟? あぁ、そんなのとっくにできているよ。キミをこのまま生かして帰さないってね!」


 言い終えると同時に、岩太郎と雅也が攻撃を発した。

主人公誰だっけ?


お読みいただきありがとうございます!

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