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プロローグ

初投稿です。どうぞよろしくお願いいたします。


※改稿いたしました。

 齢にしてまだ5歳ほどだろうか。立ち込める炎の中、大人が5人は擦れ違える程の廊下の真ん中で、少年は泣き叫びながら最も信頼するその女性へと抱きついていた。

 辺りは砕けたガラスが散乱し、吹き荒れる炎は酸素を奪い、そこらかしこには焼き焦げた死体が転がっていた。

 時折遠くからは何かが爆発する音がする。恐らくこの施設のどこかで炎が誘爆したのだろう。崩壊するのも時間の問題だ。


「○○ー! ○○ー! ゴホッゲホッ、怖い、怖いよぉ!」


  少年は必死に叫ぶ。大好きなあの人へ。


「大丈夫よ、あなたは強い子。私との約束、忘れたの?」


 ジリジリと炎は二人を包み込む。この場が全て炎の海になるのもそう遠くない。しかし、その女性は少年へ微笑んだ。己が命の危機であろうに、所々で火傷の痕が見受けられる腕で少年を優しく包み、あの約束をもう一度確認する。


「忘れてない……忘れてないよ! ○○との約束だもん!」


 少年も泣くのを必死に堪え、女性の腕の中で顔を見上げる。


「偉いわ。……きっといつか、あなたのそれが役に立つ日がくる。きっとあなたの前に、あなたを支えてくれるパートナーが現れる。そしてきっと、あの約束をーー」


 女性が言うと、真横から大きな崩壊音が鳴り響く。見やれば崩れた壁面の奥に一人の男性が立っており、女性と少年を見下ろしていた。


「もう時間のようね。○○、私の可愛い子。きっといつか……きっといつか……」


 女性は最後のその時を慈しむように、力一杯優しく少年を抱きしめると、少年の頭を撫でていた指先から小さな光を発つ。

 すると、少年は糸の切れた人形のように瞼を下ろすと、そのまま意識を失ったのだったーー。


 ーーーーーーーー。


◇◇◇


「今日で俺は転校してしまう。だから、この思いをキミに伝えたい! 茜さん、好きです! 付き合ってください!」

「ごめんなさい水瀬くん。私、イケメンが好きなの」


 たった今見事にフラれたこの男の名前は水瀬(みなせ) (あおい)、高校二年生。

 一年間通っていた、ここ松宮高校魔法科を訳合って去らねばならず、後悔を残さんと自らの想いを吐露し、そして散ったところである。


「やはりイケメン……。この世はイケメンなのか……」


 水瀬はイケメンが大の嫌いだった。

 イケメンなら何をやっても許され、どんな発言でも受け入れられる。

 例えば、イケメンが女子の頭を撫でればそれだけでその女子は恋に落ち、水瀬が同じことをやればその瞬間セクハラ変態野郎のレッテルを貼られる。

いや、傍から見れば水瀬自身の見た目はさほど悪くない。というより普通だ。それなのにこの評価の変わりようである。つまり、イケメンというのは特権階級であり、最強の免罪符なのだ。

 そんな単純な世界の理から目を背けたこの男は、無謀にも純粋な想いをぶつけてしまい――。


 ――意気消沈の男は、夕焼けに染まる帰り道を一人トボトボと歩いていた。


「今日がオレの最終登校日だってのに、誰も一緒に帰ろうとしないってひどくない? 唯一友達と思ってたオタ仲間たちも、ゲームの発売日だからってさっさと帰っちゃうしさ。……何のゲームの発売日だったっけかな。まだ売ってるかな?」

 

 フラれた腹いせもあり、水瀬もゲームを買うことを決意する。今急いで行けばまだ友人たちもいる可能性がある。フラれた傷を友人とゲームで埋めるべく、次第に足取りも軽くなる。

 彼のオタク友達が言っていた店は大通りに面するビルの一角。このまま住宅街を歩いて道なりに進んでも大通りには出れるのだが。


「確かこっちから行くと大通りまで近道だったよな」


 一度買うと決めたら心が躍る。大手通販サイトで予約した新作のゲームが、発売日になってようやく出荷し始める現象に耐えられないのと同じく、一刻も早く手に入れたい衝動を抑えられなかったのだ。

 歩いていた住宅街からビルとビルの隙間の裏路地に入る。裏路地には室外機やゴミ箱などが置かれており、予想通りあまり心地の良い道ではなかった。が、今や彼の頭の中は新作のゲームについていっぱいだ。次第に歩くスポードも上がる。

 水瀬が鼻歌交じりに狭いT時路の突き当たりを曲がると、突如目の前にツンツン頭の学生と思わしき男が現れ、


「うわ!」

「あっ!?」


 ドンッ! と勢いよくぶつかった。水瀬が足早に歩いていたのもあるが、ツンツン頭の学生は全力で走ってきていたのだろう。ぶつかった際の衝撃で、お互いカバンを投げ出すほど派手な転び方をしてしまった。


「大丈夫か!? すまない、ちょっと今急いでて。ごめんね!」


 ツンツン頭の学生は忙しなく立ち上がると、目の前のカバンを乱暴に拾い上げ、水瀬の歩いて来た道を駆けて行った。


「イテテ……。なんだったんだアイツは?」


 水瀬が打った尻を撫でながら立ち上がると、ツンツン頭の学生が来た方からまた3人ほどの男が走ってきた。


「おい坊主、ここに頭がツンツンした学生服の男は通らなかったか?」


 ドスの効いた、低い声音の黒服を身にまとったオールバックヘアの男は、いかにも堅気とは遠そうなやつらであった。あのツンツン頭の学生がなぜこの様なおっかない連中に追われているのかは謎だが、水瀬は素直に答える義理もなく、


「このまま真っ直ぐ、路地裏のさらに奥の方へ入って行きましたよ」

「よし、お前ら、あっちにいくぞ!」


 ツンツン頭の走って行った方とは違う道を教えてしまい、オールバックの男の後ろにいた二人が路地裏の奥の方へ走っていく。

 オールバック風な黒服の男が水瀬をじっと睨みつけ、


「このことは忘れろ。良いな」

「アッハイ」

 

 忠告だと言わんばかりの声音で男が命令した。ひどく低い声音は威嚇も込めているのだろう。

 顔は覚えたぞ、とでも言っているかのような熱い視線から葵は目を逸らす。と、手に一万円を握らされ、去り際に男が再度水瀬を見てから他2人の黒服の後を追う。


「これは、口止め料ってことですかね」


 予期せぬ臨時収入を手に、彼はゲームを買いに再度歩を進める。


 ◇◇◇


 ――帰宅後、水瀬葵はまたしても意気消沈していた。


「やっちまったよ……」


 そう、自分のだと思っていたこのカバンが、別の誰かのカバンだったのだ。


「財布と定期はズボンのポケットに入れてたから、帰って来るまで気づかなった……」


 いったい何時からこのカバンにすり替わっていたのだろうか。

 学校を出るまでは確実に自分のカバンだったと水瀬自身記憶していたのだが、


「やっぱりあの時のツンツン頭のだろうなぁ」


 放課後の路地裏、あの時にツンツン頭の学生とぶつかった際にカバンから手を放してたのを思い出す。


「にしても、あいつもまさか俺と同じ、《フェアリー少女 マジカルまみか》の作中で使っているオリジナル限定カバンを使っていたなんてなぁ。あいつとは話が合いそうだ」


 まさかの同族と分かり、なんだか嬉し恥ずかしい複雑な気分を味わいつつ、カバンの中に持ち主の名前や住所のわかるものがないか探してみる。

 が、カバンの中にはこれといった目ぼしいものが見つからない。それどころか、あるのは古めかしいハードカバーの本が一冊のみ。


「持ち主の情報はなし……か。俺のカバンも個人情報載っているのはなにも入っていないし、相手も困ってるだろうなぁ」


 打つ手なし。どうしたものかと考えるも、相手の持ち物はこの本一冊のみ。水瀬もカバンには大したもの入れてないことを再度頭の中で確認し、一つの結論に導く。


「まっ、いっか。とりあえずゲームしよ。この真ん中の子がヒロインかな? かわいいなぁ、やっぱり現実の女はいらないやな!」


 考えるのが面倒くさくなった水瀬は、その古めかしい本を無造作に投げ捨て、先ほど買ってきたゲームを袋から取り出す。

 フラレたことがまるで正解であるかのように自分の中で正当化へ導くも、ゲームのディスクを取り出すと同時にとても重要なことに気づいてしまった。


「俺明日そのまま違う学校に行くんだから、もうゲーム機含め荷物全部向こうの寮に送っちゃったんだった……。俺はアホなのか! 今日はフラレたり人とぶつかったりヤクザみたいな人に絡まれたりと散々な一日だったのに、最後にこの失敗……。なんてツイてないんだ」


 新作のゲームで高まった気持ちの吐きどころを探すも、今の彼の部屋にはなにもない。あるとすれば、先ほど放り投げたあのツンツン頭の本のみだ。

 何の気なしに、水瀬はその本を手に取り、パラパラと中身を覗く。


「んー、これは相当昔の魔術書かな? 攻撃魔術に状態異常魔術、色々な魔術の詠唱や説明が載ってるけど、なんだろうこれ。ここに載ってるのはどれも見たことない魔術ばかりだな……――んん!?」


 学校で習う魔術や図書館で見る魔術書とは異なるその古めかしい本に、水瀬はある一つの魔術から目が離せなくなった。

 その魔法の名は、


「永続……変異魔術……?」


 その本によると、永続変異魔術とは、通常の変身魔法とは異なり、どちらかと言うと呪術に近いものらしい。

 というのも、変身魔法とは想像したものに対し自らの魔力を体の表面に具現化させ、一時的に変化をさせるもの。つまり、自分の魔力が尽きたらそこで変身は強制的に解除されてしまう。これは小学生でも習う常識だ。

 しかしここに書いてある永続変異魔術とは、自らの魔力を体内に練り、骨格から器官まで、全て作り替えてしまうものらしい。つまり、魔力が尽きても効果が続く。というより、そのものになってしまうというもの。

 

「こんな素敵な魔法が、なぜ世に出回っていないんだろう。ってそりゃ永久的に変わるんだから、危険すぎて出回らないわな」


 と一人で自問自答を繰り返し気を逸らすが、先ほどから違和感が抜けないでいた。

 他のページもパラパラと見やるのだが、なぜかこのページにだけ目が離せないのだ。まるで引き寄せられてしまうように。まるで脳とは別に本能が求めているかのように。

 本を持つ手に力が入る。思考はどこか遠くへ飛び、肉体だけが勝手に動きだし。


「想像せよ、我が肉体よ。創造せよ、我が欲望よ。汝の求める存在を顕現せし者よ」


 開かれたページ『永続変異魔術』の詠唱が口から綴られ始め。


「我が魂の玉座にて、今一度その盟約を解き放たん。その姿は……――」


 自身の内から魔力の高まりを感じる。感じたことのないその高揚とも言える干渉は、やがて頂点を迎え。


「約束のために」


 知らず知らずのうちに詠唱を唱えていた水瀬は、刹那、身体が紫色に輝きだす。それと同時に、身体中の骨が軋み脳が焼けきりそうなほどの激痛が走る。通常の人生に置いて、絶対に体験しないものであろう痛みが彼を襲った。


「アアアアァアァァァアッ! ぐっ、ンアアアッ!」


 身体中から鳴ってはいけない音が聞こえ出す。まるで骨という骨が一度バラバラに分離され、それをパズルのように再構築しているかのように。まるで身体の肉をドロドロに溶かし、型に流し込むかのように。

 徐々に痛みがなくなっていく。いや、感じなくなってきていると言ったほうが正しいか。

 次第に意識が朦朧とし、まるで真っ暗な闇の中を漂うような浮遊感を味わいながら、彼は記憶にない記憶の海へと落ちていく。

 約束ってなんだっけ。

 誰としたんだっけ。

 思い出せない。あれはーー。


「ーー先……生」


 水瀬葵の運命を変えた、そんな日の出来事だった。

ご感想、アドバイス等お待ちしております!


※改稿いたしました。

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