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STG/I  作者: ジュゲ(zyuge)
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第五話 アラート

 ゲートが光に包まれると次の瞬間にはコックピットにいる。

 コックピット内がFPS視点で、それ以外はTPSのようだ。

(それにしてもリアルなFPS視点だな・・・画期的。あるようでなかった)

 自分の鼻がわずかに見える。

 実際の目のように周囲はボヤけ、見えているようで見えていない状態。視点を動かすと視線の中央付近がもっともハッキリ見え周辺部へいくほど自然にピントが甘くなっていく。視線を下げると下げた量に合わせ上半身、下半身も見える。言うなれば実際の自分視点と同じように見えている。

(オッホ、設定通りとはいえ巨乳だな俺)

 腕を動かそうとしたが動かない。

(揉め・・ないと。ま、そりゃね)

 手は操縦桿に固定されている。

「待て、待て、待て、待てよ・・・」

 公式をざっと見た時に目の端に映った記事が思い出される。

「ビーナス、ちょっといいかな」

「どうされました?」

 メインモニターの右下、操縦桿の奥にビーナスが立体ホログラムで出る。

(すっげ!すっげ!かっけ~・・・)

「このゲームってさ、Webカメラ対応じゃなかったっけ」

「はい」

「それってさ、なんかこ~・・・動きがシンクロしたりするの?」

 カメラ使った認識技術はここのところ急速に進歩しているのを知っていた。

 既に顔や表情のトラッキング技術はあるし、何より映画でモーションキャプチャー技術が既に定番となっており、そこに認識技術が上乗せされることは十分に考えられた。

「します」

「マジすかー・・・・(Webカメラ速攻注文しよう)どこまでトレースするのかな?」

「アングルによるけど、上半身はトラッキングします」

「うわー・・・・神ゲー・・・)」

「どうしたのですか?」

「おっ・・・いや」

(危ない危ない。『オッパイは揉めるの?』って聞きそうになった。ま、無いわわな)

「・・・」

「興奮しすぎて漏れそ」

「アラートはキャンセル出来ませんので強制的に出撃してしまいます」

「あ~大丈夫、たとえだから・・」

「そうですか出過ぎたことを申しました」

(ビーナスちゃん可愛ええ~。なんという謎技術だ。この部分の技術だけで一体どれだけビジネスが出来るか。こんな無料の過疎ゲーにこれほど膨大な技術をつぎ込むなんて。寧ろゲームしなくてもこれだけで遊べるだろ。ていうかギャルゲーでいいんちゃうん?)

 STGが出撃ゲートに移動している。

(おっほ~ヤバイ!リアルで心臓がどきとき!手汗ヤバイ!)

「チュートリアル以外やってないようですが大丈夫ですか?」

 ビーナスがまた立体的に浮かび上がった。

 どうやら喋る時だけ出るようだ。しかも自然で、いつの間にかいるし、いつの間にか居なくなっている。その辺りもよく考えられている。

 彼はマニュアルを読まないタイプだった。わからない時に読む。攻略wikiも読まない。詰んだ時だけ参考にする程度。どのゲームでも暗黙の了解があるのは知っていたが、それはやりながら覚えればいいと考えていた。読んで理解したところで土台ちゃんとは出来はしない。自分なりに攻略法を探し、自分が出来る方法を模索することそのものをゲームとして楽しんだ。

「やりながら覚えるよ」

「わかりました」

(にしても盛り上げるね~このゲーム、リスポーンの仕様とか糞過ぎるけど、まるっきり最高と最低が同居していると言えばいいか・・・でも興奮する、このAIやパートナーにしてもこの出撃ゲートのディティールといい凄すぎる。圧倒的量感だ。過剰に演出しないのが逆にリアル)

 出撃体勢が整う。

 鳥肌がたった。

「じゃあ、いこうかビーナス!」

「了解。ホムスビ、発進します!」

(うへービーナスちゃんカッケー!)

「発進!」

 幾重にも連なる発光体のリングを通り宇宙空間に出る。

(ヤベー!カッコイイ!興奮で漏れる!)


 STGは速度を増し、無限にも煌めく星の光がミキサーに飲まれていく。


 僅か何秒でもない光のミキサーを抜けると、


 次の瞬間には目的地にいた。


「・・・おおおお」


 アステロイドベルトなのか隕石が多数浮遊している。

(それにしても宇宙の無限感がヤバイな。すげー寂しい)

「味方は・・・あ、いた」

 船名にダンゴムシと表示が出る。

 不特定の味方、似たレベルのプレイヤーの近くにリスポーンする仕様のようだ。

 ビーナスがサブモニターに顔をだす。

「不在のようです」

「え?なんでわかんの」

「先方のサポーターとコンタクをとりました」

「すげ~な。不在で・・・ヤツは何してるの」

「ログアウトされたようです」

「はっ?」

「直近の戦績からすると常習のようですね」

「リーバーか?過疎ってるのにリーバーってどういうこと。アラートって参加報酬ってそんなに凄いの?」

「いえ、参加報酬は最後まで戦線にいた登場者に限られます」

「ならどうしてだ?・・・どう思う」

「BAN対策かもしれません」

「え?なんで」

「一ヶ月に一度も出撃しないとSTGを剥奪されます」

「なるほど・・・にしてもアラートでログアウトって、どこにでもいるな~。BANしちまえよ」

「時間があまりませんが、交戦中の宙域まで移動しますか?」

「頼むわ」

(うっへ、思わず女言葉になっちまった。

 これって外見も女だし、声も女だと錯覚してくるな・・・)

 基本的なSTGの操作はサポーター頼みと言っていい。

 ほとんどの操舵はサポーターが行うが、段階的にマニュアルにすることも可能とあった。

 搭乗員はほとんど射撃手みたいなものだろう、サイトウはそう考えた。

 ただし疑問もある。

 これほどのAIなら、AIが戦った方がいいのではないだろうか?

 ま、そうなるとゲームとして成立はしないが。

 それとも戦闘もAIが相当な部分で補助してくれるのか?


(それにしても移動するだけで見とれる・・・凄いゲームだ。バーチャルツアーでも売れそうだ)


 流れる星々、

 横切る隕石、

 そして緻密に描画された宇宙空間を見ながらため息が漏れた。


「到着しました。最前線で交戦中のようですが圧されてるようです」

(マジかよ・・・こんな状況下でド新参が出来るのってなんだ?)

「ビーナス、このゲームで新参者は何したら喜ばれるかね」

「偵察はどうでしょうか?」

「偵察?個々が索敵って出来るよね。ソナーだっけ」

「可能ですが、継続的な偵察には索敵ポッドの敷設が重要です」

「そうなん?敵のマークも出てるよ」

「それは交戦中のSTGがマークしたものです。敵をマークするには索敵ポッドを展開するか、ソナーをうつか、直接敵をマークする必要がありますが、継続的にマークするには索敵ポッドを展開するしかありません」

「そんなのやってるんじゃ・・・あ~ないか」

 他のゲームでもそうだった。

 ベテランになればなるほど機体装備が整い戦闘へ特化していく。

 一部のプレイヤーだけが特殊な方向性へいき、索敵等の地味な行為は他人任せになる。

「現在作戦区域の索敵ポッドカバー率二%」

「うわ、悲惨。よし、やろうじゃん。レーダー配布とピザ配りは得意だし。あ、そもそも・・・装備してないじゃ」

「標準装備のオプションは索敵ポッドです」

「いいね!じゃあ、まずはココだ」

(確か、オプション兵器は・・・)

 彼はキーボードの”F”キーを打鍵する。

 STGの底部が展開されポッドが射出された。

「クリアです」

「よし。うん?・・・そこまで索敵範囲は広くないんだな」

「これが標準となります」

「いっそ動態センサーとかあればね~」

「ありますが・・・御覧になりますか?」

(あれ?そんな記載あったかな)

「うん、見せて」

 モニターがほとんど真っ白になった。

「うわ・・・こりゃ無理だ」

 恐らく隕石の欠片や、STGの破片、敵の残骸なのか浮遊物が多すぎるせいだ。

「ポッドめっちゃ大事やん」

「はい。ですが戦果は低いので皆やりたがらないようです」

「なるほど・・・あるあるだな。よし、やろう!次は君が置いてくれ。このゲームでの王道配置を見てみたいし」

「わかりました」

(勢いで言ってみたが出来るんだ。だとしたらどうして戦闘も出来るはずだ。これほど人間みたいなAIなら余裕で全部自分で出来るだろ)

 現代のゲームはAIが強くなりすぎて、本気でAIが戦うと人間は手に負えないことは彼も知っていた。だから手加減をしているのが現状だと。強すぎるAI、賢すぎるAIを嫌悪する人も少なくないし、そもそも過ぎればゲームバランスを破綻させる。

(でも俺は冷めるんだよね・・オフゲーならともかくオンラインでNPC相手ってのは)


 ビーナスの置き方に何も言わず見入る。


 一部疑問に感じながらも、自分なりに考えてみる。最前線は圧されながらもかなり抑えられているようで彼の近辺に敵影はなかった。徐々に前線へと近づいていく。時折、チラリと敵影が見えても味方が処理してくれているようだ。

(待ちプレイヤーか?)

 それにしても・・・。

「一向に味方に遭遇せんのだが・・・」

「宇宙は広いですから」

「・・・寂しいもんだな」

「私がついてますよ」

「カワエエ~」

 ビーナスがモニター越しに笑っている。

 可愛い。

 当然ながら何から何まで自分の好みに仕上げたのだ。

 可愛くないはずがない。

(でも・・・)

 人間のように生きた変遷の過程で結果的に獲得したものとは意味が違う。

 サイトウは笑いかけながら、そんなことを思っていた。

「ポッドについて少し教えてくれないかね」

 改めて過疎の理由がおぼろげに理解しつつある。

 説明を聞きながら彼の意識は茹ですぎた麺のように伸びていく。

 ここ数日は特に体調が思わしくなかった。

 甲状腺が炎症しホルモンが体に流れ出している。

 息は乱れ心臓は弾み、体感温度が乱高下している。

 皮膚がただれ外壁が崩れるように壊れ、ケロイドのようにも見える。

 自ずと睡眠も乱れ、分散的にとることになる。

 今が昼なのか夜なのかも肉体が解っていないような反応をする。

 胃が痛く、トイレへ行くと直腸から鮮血が流れた。

 最も彼が調子が良かったことは人生で十分の一もなかったが。

 

 ビーナスの表情が緊迫した。


「敵宇宙生物の反応。ターゲットされています」


 ぼんやりしていたサイトウの脳と眼が見開かれる。

「どこどこど?・・・」

 目の焦点が合わない。

 モニター前でコメカミを強く押す。

(起きろ!起きろ!)

 顔をさする。

「メインモニターに拡大投影、来ます!」

 赤い点が近づいてくる。


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