表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
STG/I  作者: ジュゲ(zyuge)
49/160

第四十九話 アメジスト

 アカウントを凍結されたドラゴンリーダーが警告した最重要敵宇宙生物の一つ。それがアメジスト。

 隠密性に長け、活動を開始すると周辺宙域は通信障害が発生。中遠距離通信は完全に途絶される。度重なる要請にも限らず対応措置は今もなお施されていない。

 宇宙人曰く「どういう原理で通信障害を発生させているか不明」と。対策をとる為の条件としてアメジストを生死問わず捕獲することを要求され、幾度となく捕獲部隊が編成されたが全ては失敗に終わっている。

 そもそも宇宙人は当初アメジストの存在を否定していた。つまり彼らすら知らない新しい敵対生物。地球人によってその存在が明るみになったことで、宇宙人は逆に地球人に積極的に捕獲を促し、戦果報酬もバブル時で十倍まで跳ね上がった。

 そもそも数が少ないこと、ソナーで辛うじてでも捉えられること、世代交代、様々な理由から脅威性は次第に薄れ、いつしか多くの搭乗員にとって忘れ去られた存在になった。


 リーダーは当時の数少ない生き残りの一人。周囲は各種センサーが有効に機能しなくなり、動的にセンサーを無効化させることが出来ることも判っている。障害は接近するほど高まり、彼らの弾丸に相当する紫水晶が発射される射程内では完全にセンサー類が機能しない。地球で言うステルス効果を供え、モニター上からは、その存在がノイズ程度にしか見えないことから、彼はアメジストを「宇宙忍者」と呼称した。


 セオリーでは射程外のSTGがモニターし中継機に位置情報を共有させ迎撃に当る。最も彼らに遭遇したら逃げることが最大限に優先され、戦うことは推奨されていない。彼らに遭遇するということは限りなく大破を意味するからだ。


 名前の由来は舌が紫色をし、その射出する唾の形状である紫水晶がアメジストに似ていることから命名された。見た者は誰しも「この世のものとは思えないほど美しいものだった」と言う。現状では動体センサーとソナー以外で捉えることは出来ず基本は目視での戦闘となる。またソナーもクリアーには反応せず、目視でもモニター越しではノイズのように映るのみ。その恐怖は体験した者にしかわからないと言う。


 最盛期は対アメジスト用として考案されたSTGもあった。モニターでは無く、直視出来るよう、言うなればガラス張りのサブ・コックピットを備えたものだったが、それは更におぞましい悲劇を生んだだけに終わった。現在はギャラリーで展示されているのみを残す。


 部隊ドラゴンヘッズの皆は、夏になると妖怪百物語ならぬ宇宙人百物語と称して恒例の肝試しを行ったが、中でも最も怖いのがドラゴンリーダーのアメジスト体験談だ。これを聞いた部隊員は忘れられないと言う。


「何よりも恐ろしいのが紫の舌だ」


 リーダーの声には明らかな恐れが内在していた。

「いつの間にか近づいてきて唾を吐くようにペッと放つ。するとSTGの外装がみるみる溶け出す。恐ろしい速さで!腐食した部位は切り離し可能なら即座にパージしないと駄目だ。そうして身ぐるみ剥がさせるように追い込まれる。中でも恐ろしいのが捕獲された時。アイツに捕獲されたらそれこそ悪夢。抱え込まれた途端に溶けるように沈み込む。溶岩に飲み込まれるような・・・。おぞましい光景だよ。俺のバディが何人も飲まれた。知る限りアイツにやられて引退しなかったヤツはいない。その中で一人、リアルフレがいたんだが・・・」


 全員が目を丸々と見開き、固唾を呑む。


「不眠から鬱になった。今も引きこもってる・・・」


 隕石型宇宙人の攻撃は基本シンプルだが、一部特殊なものもおり、その一つがアメジストだった。這い寄るようにスッと近づいては遠のく。それを繰り返す。やる気があるのか無いのかわからないような攻撃。ところが知らず間合いが狭まっていき、こつ然と目の前に現れ”ペッ”と紫水晶を放つ。


 STGの外装外縁部にはシールドが張られているから物理攻撃以外はほぼ無効化される。物理攻撃であるアメジストの紫水晶は通ってしまう。それでも隕石型宇宙人の突撃を何度となく防げるほど強固な外装なのだがアメジストの攻撃だけは違った。

 アメジストの外郭は極めて硬く、それでいて形をある程度変形させることが出来る。仮に外郭を破壊しても安心は出来ない。寧ろ問題はその本体の舌にあるからだ。小口径の攻撃は逆に彼らの紫水晶が四方八方に飛び散り被害が拡散しかねない。専ら大口径の火力で瞬時に蒸発させるか、確実性を増すのなら防御特化型のガーディアン系が殲滅に当るが彼らとて油断は出来ない。


 忘れていはいけない。

 アメジストを撃破ましてや捕獲したという報告は未だにない。


*


「元帥、撤退を!」

 ミリオタはパートナーに元帥と呼ばせていた。

「出来るもんならしとるわ!」

 攻撃特化型の武装である彼のSTG長門は、その武装重量故に機敏性を欠いた。そもそもは大型隕石群を貫く巨砲艦としての運用を考えていた為である。彼の頭には先の大戦があった。

(たかが一匹の宇宙人になんでこうも手こずるんだ・・・)

 彼はリーダーの百物語を聞いてはいたが、絵空事、大袈裟、面白可笑しく捉えていた。

「お前もしっかりアシストしろよ!なんでデータが無いんだよ!」

「申し訳ありません・・・」

 パートナーの落合にミスは無い。即応性を考えるとパートナーやSTG本船に全ての戦闘データーがプール、つまり蓄えてある必要はない。常にマザーと接続出来る環境を想定しているからである。即時に必要なデータをダウンロード出来れば、パートナーはもう少し戦える筈だった。データの無い状態では似たケースの似た戦闘データを元にSTGを繰るしかない。それが逆に愚鈍と言わざるおえな対応の遅れを示す。

「副砲の反応が鈍いぞ!任せられん、操作を戻せ!」

「アイアイサー!」

 滅多に遭遇することがないアメジストに関する戦闘データをプールしいる必要性は無いが、リーダーを始め、アメジストの恐怖を身にしみて判っている者だけは常駐している。

「援軍はまだか!」

「そろそろ本部に帰還出来る時間です」

「嘘だろ!どんだけ戦っているんだよ!」

「三分です」

「さ・・・。マジかよ・・・まだ三分なのか。まさか、伏兵がいてマルゲリータは途中でやられたんじゃないのか?」

「わかりません・・・」

「援軍が来ないなんてことは・・・」

「無いとは言い切れません・・・」

 砕け散った隕石群に光るものが見えた。

「右舷、機銃照射!」

 おびただしい数の針のような光が空間を凪いだ。

 浮遊物質に絨毯爆撃のように着弾する。

「やったか!」

「いえ・・・今のノイズは映像障害です」

「・・・しっかり映せボケが!」

「申し訳ありません・・・」

(”やったか”は死亡フラグだった・・・あぶねえ・・・)

 全身にびっしりと汗をかいているのがわかる。

 恐怖でまばたきが出来ない。

(どっから来る・・・)

 主砲を一門もってかれた時は一瞬だった。

(何が起きたか今でもわからん・・・)

 落合の「被弾しました!」の言葉と同時に、ダメージモニターが一気に広がる。一瞬パージするのを躊躇ったのが災いした。どれほどあの主砲を装備するのに戦果を導入したか。どれほどシミュレーターに乗ったか。


「くそ・・・くそ・・・」


 周辺に動くものは無い。いや、寧ろ周辺の隕石が粉々に砕け散った為に動く物が多すぎる。動体センサーとソナーだけが頼りなのに、動体センサーをオンにすると真っ赤になる。サイズを絞ろうにもアイツのサイズがわからない。ヤツの大きさはどの程度だったか、落合はセンサー障害で記録出来てないと言った。何メートルだ?何十メートル?それとも何百メートル?少なとも長門よりは小さかった筈だが・・・。そうだ、いやまて、宇宙は距離感がよくわからない。小さく見えても、実は巨大だったということは過去に何度もあった。普通は距離やセンサーでわかるものだが、その全てが赤く「異常」と表示されている。狂わされている。さっきから浮遊物質が長門の外装に接触して「コン」「コン」「ゴン」と音をたてやがる。ムカツク。イライラする。貧乏揺すりが止まらない。喉が乾く。いっそ全て焼き尽くしてはどうだ?いや、もし、万が一、味方のSTGがいたら・・・本拠点は目と鼻の先だ。それに一門だけじゃ無理じゃないか。もうあの手は使えない。


(ん?・・・今なら逃げられる・・・)


 周囲を舐めるように見渡す。

 スラスタースロットにゆっくりと手をかける。

 センサーがこうでは落合は当てにならない。


(いける!)


 操縦桿を一気に倒し、スロットを全開。

 一気に噴出。

 顔を上げる。


 すると、アメジストが進行方向に。


 岩盤がパックリと割れ紫の水晶が見える。

 クジラが大きな大きな口を開け、オキアミを悠々と飲み込むように、アメジストは大きくどこまでも大きく裂け、その深淵たる紫水晶の舌が眼前に広がっていく。


「ひゃぁ!」


 女性のような高いキーで悲鳴を上げた。

 反射的に目をつぶり、顔を腕で覆い、身を縮みこませた。


「緊急回避!」


 落合が叫んだ。



 何も起きない。


 小刻みに震えながら目を開ける。

 顎が恐怖でガクガクと音をたてているのに自身は気づいていない。

 頭が意味もなく右へ左へ小さく振れる。

 目の焦点が定まらずウロついた。


「いない・・・」


 子供のようにポツリと言う。

 あれほど大きな紫水晶がどこへ行ったのか。

 息が苦しい。

 呼吸をしないと。


「被弾!」


 ハッとすると主砲がみるみる腐食しだす。

「パージ!」

「アイサー!」

 今度は躊躇いは無かった。

 切り離された主砲が溶けていく。

 長門は本体の三分の一になった。

 残りの武装は尾部の副砲と船首のアンチクロスロードのみ。

 もっとも船首の武装は未だ戦果不足で機能しない。実質、副砲のみ。

 主砲側面にあった機銃はパージした時点でロストしている。


 長門は八分で機能不全となった。

 

 アメジストは襲ってこない。

 ミリオタは恐怖からか、悔しさからか、両目から大粒の涙。

「元帥、ログアウトして下さい」

 落合が声をかける。

「嫌だ・・・」

「ですが・・・」

「嫌だ!絶対に・・・長門はあの大戦を生き延びたんだぞ・・・あの! それが・・・こんな所で、こんな形で・・・リーダーにどんな顔向け出来るってんだよ!・・・嫌だ・・・嫌だよ・・・」

「・・・」

 落合はそれ以上は言えなかった。


 海洋を漂う死骸のようにうつろうSTG長門。


 無気力とも諦めとも捉えられる状況にも関わらず、アメジストは襲ってこなかった。

 まるでその様を鑑賞するかのように放置される。

 無気力なヤツには用は無いとでも言いたいのだろうか。


(逃げた?・・・)


 ゆっくりと顔を上げる。


「正面!」


 落合が叫ぶ声にビクっとする。

 あの大きな岩の塊がどうして出たり消えたりするのか。

 まるで初めからそこに居たかのようにアメジストは存在した。

 恐怖を植え付けるかのように、さっきよりもゆっくりと岩盤が裂けていく。

 ジワリ、ジワリと紫水晶が見えていく。

 STG長門の光を受け怪しく輝いた。

 慣性で流れていく方向に大きな口を開ける。

 ミリオタには「おいで」とも「包んであげる」とでも言いたげに感じられた。

 その様子を呆然と眺める。


「リーダー・・・」


 消え入りそうな声と共に激しい衝撃。


「いやぁ!」


 目をつぶり悲鳴を上げる。

「STG長門確保しました!主砲二門を消失」

「ミリオタ!」

「タツ・・・?」

 ゆっくりと顔を上げる。

「遅くなってすまん!」

 失いかけていた何かが自分に満たされていくのが感じられる。

 これほど自分にとって心強い存在になっていたとは彼自身が驚いた。

「助かった・・・」

 震える声。

「新兵が迷惑かけた・・・。STGガンベレッティは長門を抱え、”黒蜜きな粉”は護衛、即刻帰還しろ!」

「いや、待って!」

(シューニャ・・・)

「なんで!」

「マルゲリータがまだ近くに敵がいるって」

「ミリオタ、どうなんだ?」

「・・・あ」

 気の抜けた声を出すと、モニターの前、両手で自分の顔を叩く。

「すまん!まだアメジストは健在!」

「倒したんじゃないのか?でもお前さっき一人だったぞ」

「え?・・・いや、目の前にいただろう、大きな口を開けて!」

「お前の長門だけだって」

「そんなわけ・・・」

「隊長、でもミリオタは直ぐに帰還させるべきです」

「いや・・・姿の見えない忍者が目の前にいる中で、怪我人を帰還させるということはどういうことか・・・」

「いや、だって!」

「隊長の言う通りだよ・・・」

 ミリオタは少し落ち着いたようだ。

「でも、お前!」

「大丈夫・・・俺は・・・大丈夫だ」

 彼の目線が涙のことを言いたいことに気づいた。

「雨だから・・・じゃなくて、汗だからこれ・・・」

「・・・」

「隊長の言う通り危険すぎる。俺は役に立たないけど、帰還はアメジストを倒してからがいい。あ!・・・マルゲリータは?」

「貴方のお陰で無事ですよ。今はホムスビに同乗しています」

「そうか・・・良かった・・・(長門の両腕は無駄じゃなかった・・・かな)」

 STGホムスビの操縦席にシューニャ、複操縦席にマルゲリータが座している。

 モニターに複座のマルゲリータが映る。シューニャが気をかせた。

 自分の顔に驚いたマルゲリータが顔を隠す。

 安堵からか、ミリオタは一気に脱力する。

「良かった・・・良かった・・・」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ