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STG/I  作者: ジュゲ(zyuge)
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第四十八話 マルゲリータ

 マルゲリータは内気な子だった。

 年齢は知らない。

 恐らく竜頭巾とそう変わらないだろう。

 中の人の性別は不明。

 シューニャは恐らく女子だろうと思っている。

 竜頭巾が女性だといことは言動から直ぐにわかった。

 マルゲリータはブラックナイト隊では新参者にあたる。

 シューニャがスカウトする形となる。

 彼女はキャラクターを演じないタイプだったが、その素行から女性だということは容易に判別出来た。


 シューニャはゲームを通し「つくづく人間というのは嘘をつけないものだ」と感じる。

「貴方が何を考えているかわからない!」

 元彼女達に言われたことを思い出す。

(最も、リアルですらわからない人はわからないようだけど・・・)


 アバターは女性。

 身長は限りなく最小設定。

 恐らく百二十センチぐらい。

 痩せぎすで、髪だけがとても長く膝下まである。

 ふと、失礼ながら毛倡妓けじょうろうを思い出す。

 全身を覆いそうなほどのボリューム。

 毛倡妓を知っているとは思えない。

 子供が絵を描いている内に夢中になり得体の知れない造形が現れるような感じだろうか。

 部隊員はシューニャがスカウト目的でロビーを出歩いていると思っていたが事実は異なる。シューニャもまた大戦の直接経験者では無かった為か、どこか他人事な部分があった。その上で勤め人時代の経験からアウェーに立場を置くことも多かったので気にしないという面も大きい。面白いアバターがいるとつい興味を持ってしまう。


 彼女に声をかけたのはパブリックスペースでの食事が最初。

「君、凄いね」

 彼女はオムライスを運ぶ口を開けたまま、見上げた。

 辛うじて口が見える程度。

 右手で髪をかき分け、左手にスプーン。

 止まると、俯き、スプーンを戻すと目を合わせることなく席を立とうとする。

「あ、ご免ね!邪魔しちゃって」

 シューニャは立ち上がると笑顔で立ち去った。


 彼女に興味をもったのは単に外観だった。

 何度からすれ違っている内に不意に気になり、滅多なことではしないにも関わらずパイロットカードの戦績を見て二度驚く。


 地の底を這いずっているのだ。


 ここまで下手になれるのだろうかと思えるほど射撃、近接、設置、工作、支援、指揮等、全てが底辺。それは無気力を絵に描いたような戦績だった。恐らくBOTはおろかNPCの方がましな戦果を残すだろう。

 ところが索敵ポイントだけが異常に高い。

 それがどうしようもなく気になった。

(無気力なんじゃない)

 好きなことだけを一生懸命やるタイプなのか。

 それとも何か理由があるのか。

 サーチャーが向いているとシューニャは直感した。

 かといってスカウト目的では無い。

 単なる人間への興味。

 次第に彼女の存在が大きくなっていった。


「索敵しか出来ないから」


 六度目に話しかけた時、彼女は初めて応えた。

 髪の毛の合間から僅かに大きな瞳を覗かせる。

 ケシャの無口とはまた感じが異なる。


 いつも一人。


 ケシャが遠巻きに彼女を見ているのにシューニャは気づいた。

 それもあって聞いたことがあるが彼女はマルゲリータを嫌いと言った。

 そうは思えなかった。

「シューニャん・・・もう浮気?」

 戦前の約束からケシャとはゲーム内で彼女ということになっている。

 ゲーム内では双方とも女性アバターなのだが。

 抵抗を感じているシューニャに対し、ケシャは感じていないようだ。

 時代だろうか。

 二人だけの約束事みたいなもので公言はしていない。

 それは彼女自身が臨んだことである。


「だって・・・プリンに悪い・・・」


 何度かケシャに「一緒に行こうよ」とマルゲリータの所に誘ったが彼女は拒んだ。

「あの手の子は嫉妬心が深いから。一人がいいよ」


(そう言ったのは本人なのだが・・・どうして浮気扱いなんだ)

 

 シューニャはマルゲリータに言った。

「才能があるよ」

 彼女の目に微かな揺らぎを見る。

 アバターの動きからVRかとも思ったが、ARかもしれない。

 先日 知ったがARも対応している。このゲームの対応幅というのは費用を度外視していると思える。WebカメラとモーションセンサーをつけることでARとなる。手だけのもある。Webカメラは言っても顔しかトレース出来ない。昔と違い驚くほど安くなった。嘗ての仕事の兼ね合いもあり一年に一度は最新のショーへ顔を出すのだが、今では個人でも充分に買える値段だ。


 七度目、部隊ルームのレストランにゲストで呼んだ時、彼女をスカウトする。


「それしか出来ない・・・」

 彼女は消え入りそうな声で言った。

「”しか” のレベルじゃない。前も言ったけど凄い才能だ。凄いよ。驚いた。私も索敵をやることが多いんだけど、信じられないよ。弟子にして欲しいぐらい。私は真似出来ないだろうけどね。君に比べて私はセンスが無くて・・・」

 彼女は口をポカンと開けると、まるで幼児のように真っ直ぐ見返す。

「それにしても、その髪の毛は美しいね」

 その時の彼女は長い長い髪をポニーテールにしていたが、それでも前髪を大きくたらし顔を覆うように、まるでフェイスマスクのように垂らしていた。小さな顔、アニメのような大きな瞳、チョコンとした小さな鼻、小さな口。その唇が震えると、そのまま無言で目に涙を貯める。気づかないふりをした。

「とっても綺麗。私、黒髪が一番好きかも」

 彼女も黒髪だった。

 シューニャは自分の髪を撫でる。

「もっと伸ばそうかな~」

 マルゲリータは俯くと、小さな肩が震える。

 彼女は黙っていた。

「よ、仏のシューにゃん、必殺人殺し!」

 通りかかったミリオタが声をかける。

「ちょ!殺して無いでしょ~よ」

「いや、いい意味で」

「いい意味で人殺しって。・・・ね~」

 笑うシューニャを見て、彼女は初めて口元に笑みを浮かべる。

「良かったら私達の部隊に入らない?」

 知らず誘っている自分がいる。

 ドスドスとケシャが駆け寄ると首を千切れんばかりに縦に振る。

「彼女はケシャ、彼がミリオタさん」

「おま!俺の名前はミリオタじゃねー。お前らが勝手に呼んでるだけだろ!」

「これは失礼」

「何よー!また仲間外れなのぉ!」

 プリンがケシャの背中に抱きつく。

「彼女がプリン」

「プリンじゃね~、ミネアポリス・ププ・プリンじゃ~おら~」

 ミリオタの真似。

「真似すんな!」

 マルゲリータは小さな声を出した笑った。

「招待状、送るだけ送っておくね。嫌なら三日無視すればキャンセルされるから」

 彼女は明確な返事こそしなかったが二日後に招待を受け取った。


 サーチャーをやってたシューニャだからわかる。


 単に索敵ポッドを配布していたのでは出来ない数値。

 地味で、戦果も美味しくないサーチャーの乗り手は常に枯渇している。

 それなのに責められるのだ。

「ポッドをもっと置け!」

「抜けがあるぞ!」

「置いてないから・・・」

「そのソナーはなんだ!」と。

 そして益々やり手はいなくる。

 索敵ポッドの数は無限じゃない。

 どこに置くか、いつ置くか。

 その見極めに才能が出る。

 ただし、それを評価出来る者はほとんどいなかった。


*


「よっし、異常なさそうだな。帰ろう」

 返事がない。

 ミリオタはモニターを見るとマルゲリータは明後日の方を見ている。

(無視か?)

「聞こえてる?」

 彼女は何かを見ているようだ。

「おーい。帰るぞー。先行くぞー」

 まだ応えない。

(クソ・・・)

 今では信じられないがミリオタも無口な方だった。

 それでも副隊長に任命されて以後は関わろうと努力しているのが伺える。

(なんでこうオカシナ奴ばっかりウチの隊にはいるんだ・・・)

 彼からしたらリーダーが自分を副隊長に起用するとは夢にも思っていなかった。それはシューニャを除く皆も同じ意見。先の大戦でも大役を任された。生まれた初めて他人からプラスの意味で頼られた。

(俺だってコミュ障だっつーのに!)


 マルゲリータがソナーを打った。

 その時”ピコン”とレーダーに一瞬だけ反応が出て、また消えた。


”敵宇宙生物捕捉。分析結果・・・アメジスト!”


 ミリオタのパートナー、男性アバターの落合が告げる。

(ヤバイ!)

「マルゲリータ離れろ!お前は直ぐに本拠点に帰還!救援を要請!」

「は、はい!」

 初めて彼女の声を聞く。

 ミリオタは前のめりに操縦桿を握り、撚ると、コックピットが速やかに移動を開始。

「こちら長門!敵宇宙生物捕捉!タイプ分析はアメジスト!救援を要請する!」

 全方位モニターにコックピットが収まる。

「通信障害!」

 何の変哲もない隕石が一つだけ不自然な動き。

 マルゲリータのSTGが脱兎の如く離脱して行く。

 長門は円錐が三つ割れると、巨砲が二門姿を現す。

 あらぬ方向に動き出した隕石の亀裂から紫の水晶が顔を覗かせた。

(間違いない!)


「落合!構えー!」


 数瞬の後、唸る。


「一斉打方!」


 雷光が轟いた。

*


 ブラックナイト隊ギルドルーム。

 ハンガーに帰還するマルゲリータのSTG、トーメイト。

 竜頭巾とシューニャが気づいた。

 打ち合わせしていた竜頭巾が言った。

「あれ?どうして」

「気になることがあってミリオタさんとマルゲリータちゃんに偵察を頼んだんだ」

「ミリオタが戻ってきてない」

 本来ツーマンセルの偵察なら共に帰還するのが常だ。

 一方が常にもう片方をフォローする。

 行くも二人、帰るも二人。

 結果、逝く時は共にであることが多い。

「あら」

 シューニャは右手を右耳に当てる。

「ミリオタさん、どうしました?」

 反応が無い。

 ザーザーと土砂降りのような音が返ってきた。

 眉を寄せる。

「ミリオタさーん?」

 次は土砂降りに雷鳴のような音が交じる。

 今度は竜頭巾が耳に手を当てる。

「ミリオタ!」

 同じように土砂降りと雷鳴。

「冗談のつもりか」

 変わらない。

 シューニャは眉を寄せた顔で首を傾げる。

「何時ものおフザケですよ」

 竜頭巾は呆れたように「心配はない」といった風に言い放つ。

 シューニャはどうにも引っかかった。

(こんな時に彼が冗談を言うか?)

 土砂降り。

 雷鳴。

 相手は応えようとはしている。

 ノイズ。

 どこかで経験が。

(思い出せない)

「悪いけど・・・」

 シューニャが竜頭巾に頼み事をしようとした時、マルゲリータが戻ってきた。


 彼女は俯いたままインする。


 二人の目線に気づき身体をビクっとさせる。

「あーお帰り!ご苦労だったね。どうだった?・・・あ、その前にミリオタさんは?」

「・・・」

 彼女は黙っていた。

 竜頭巾はその場を立ち去ろうとする。

 どうやら彼はこの手は苦手のようだ。

「どうしたの?何かあったの?」

「・・・」

 応えない。

(様子がおかしい)

 土砂降り。

 雷鳴。

 返事の無い返事をしようとしている彼女。

 ノイズ。

(ノイズ・・・)

 シューニャは目を見開いた。

「まさか・・・アメジスト・・・」

 その言葉にマルゲリータが身をすくめる。

 今の日本・本拠点はレーダー網だけはしっかりしている。

 そう思っていた。

 でも、アメジストならレーダー網を掻い潜ることも可能だ。

(それでも全く一度も検知されないことなんて・・・)

 その為の有人による定時偵察。

 脳裏にザル警備が蘇る。

 何より彼女の反応は、シューニャの予感が正しいことを示していた。

「まさか・・・アメジストと交戦中?」

 怖ず怖ずと、丁寧に問う。

 立ち去ろうとした竜頭巾がこちらを凝視する。


 頷いた。


「タツっちゃん!」

 竜頭巾は頷きで応える。

 シューニャは両耳に手を当てる。

「ブラックナイト隊につぐ、現在出撃可能なLv4以上の攻撃機、竜頭巾副隊長の元出撃準備!サーチャー一機随伴希望。以下は待機!繰り返す!」

 竜頭巾はマルゲリータをキツく睨み返すと、

「見捨てたのか!」と言った。

 彼の視線を塞ぐようにシューニャが立つ。

「それは違うと思うよ。ミリオタさんが戻したんだ。彼は面倒見が良いから・・・」

「・・だとしても!アメジスト相手にソロなんて!闇の中一人で戦うようなものじゃないか!そんなこと少し考えたらわかるだろ!」

「それよりも今は・・・ね」

 竜頭巾は一度大きく地団駄を踏むと、荒々しく出ていく。

 シューニャは振り返ると、より小さく縮こまったマルゲリータを見て彼女の目線にしゃがむ。

 彼女は俯いたまま微動だにしない。

「君は悪くないよ。適切な判断だった。それは彼にとっても、ミリオタさんにとってもね。慰めているわけじゃない。事実だ」

 彼女は携帯のヴァイブレーションのように小刻みに震え出すと、蚊の鳴くような声で言った。

「私も捨てたんだ・・・ママのように・・・私も・・私も捨てた・・・」

「捨ててないよ。君があの場にいれば最初に狙われたのは君だ。そしてそれはミリオタさんが最も悔やむことだ。彼は不器用だけで任侠心に溢れているからね。かと言って君が居れば、彼の高火力兵装を存分に発揮することは出来ない。ところで君は・・・マルゲリータさんはアメジストを知ってる?」

 首を振った。

(だと思った)

 もしアメジストがどういう宇宙人か知っていればこうはならなかっただろう。

「正しい選択だった。大丈夫、彼は強いから。そして今出撃した彼もまた強い」

 出撃サインが次々に灯る。

(九機・・・マズイな。編成が相性が悪い連中ばかり・・・サーチャーも無しか)

「じゃあオジサンも行くね。君は少し休んでな。ご苦労様でした。君が見つけたんでしょアメジスト?大手柄だよ!これでオムライスでも食べると良い」

 クレジットを渡す。

「一緒にいて・・・」

「ご免ね。行かないと・・・」

「私も行く」

「・・・」

 今度はシューニャが黙り込む。

 彼女は顔を上げ、シューニャの手を両手で握る。

「・・・よし、行こうか!」


 ギルドルームにアラートが鳴る。


 これは緊急通信を意味するサウンド。

「こちら本部、ブラックナイト隊に次ぐ、申請の無い出撃が多数見られる、説明を求める」

「こちらブラックナイト隊の隊長シューニャ・アサンガです。A5宙域に敵宇宙生物、推定アメジストを捕捉。迎撃に向かわせました」

「アメジスト?・・・嘘を言うな。そんな近距離に敵宇宙生物がいるはず無いだろ!先程、定時警戒をしたばかりの宙域じゃないか」

 毎度のことながらいきなりの喧嘩腰。

 いかに疎まれているかがわかる。

「嘘ではありません。たった今しがたです。私も警戒中の様子を見ておりましたが、A5宙域は完全に無視されていたように思います」

「そんな筈はなかろう。ちゃんとクリアの報告が届いている」

「いや、ですから私はリアルタイムに見ておりましたが、A5宙域は飛んでもいない」

「じゃあ、なんでクリアの報告があったんだ」

「それは存じ上げません。本人に聞いてもらいたい」

「じゃあ聞きたいが、アメジストは隠密中はレーダーにはかからないのに誰が捕捉したんと言うんだ?」

「ウチの隊のサーチャーです」

「名前を言え!名前を!」

(テメーらは怒鳴らないと話せないのか・・・。言いたくはないが・・・)

 索敵者の名前は常に実名が重要になる。

「マルゲリータです」

 少しの後、マイク越しに爆笑が湧いたのが聞こえる。

「それじゃそれは嘘だ。出撃の正当な理由にはならない」

 苛立ちを抱えながらも自らを抑え、手を握り続けるマルゲリータに笑みを送る。

 そして握り返した。

「ならばA5宙域に索敵機体を飛ばして下さい。随伴します。それなら構わないのでは?」

「索敵機体もタダじゃないんだぞ!軽々しく言うな!」

「出撃戦果は私が払う!それでいいでしょ!」

(やってもうた・・・)

 思わず声が強くなった。

 彼女の握りが弱くなったのが感じられる。

「なんだその口のききかた!」

「大変失礼しました。現在部隊員が交戦中なのです。察して下さい」

「だから必要はない!」

 サラリーマン時代に若夫婦に離婚相談を受けたことを思い出した。

 彼女に「甘え上手になりな。基本、男はチョロいから」と言ったが、(思ったより難しいものだな)と感じた。今は外観こそ女性だったが意思強固な表情に加え、何より中の人は男性である。

(女・・・俺は女・・・女。女性ならどう出られる?何が許される?プライドを擽る。弱みを見せる・・・か、色気は・・・論外だな)

 頭を捻った。

「ゴメンさなさい。一緒に来て下さい。本当は心細いんです・・・」

(オエェ・・・気色わるっ!)

 相手は黙り込んだ。

 何を思ったかマルゲリータが強く握り返す。

 向こう側でヒソヒソと何かを話している。

「しょうがないな・・・」

(チョロッ!お前はなんぼなんでもチョロ過ぎだろ!)

「ありがとうございます!」

「指示書を送る、ダウンロードしてくれ」

「ありがとうございます!」

 通信が切れる。

 満面の笑みでマルゲリータを見る。

 彼女は深刻な顔をしている。

 何か言いたげだ。

「大丈夫よ。私がいるから・・・」

 しゃがんだシューニャの頭を撫ぜた。

 彼女はそう捉えたようだ。

「ありがとう・・・行こうか!」

 彼女はコクリと頷いた。

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