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STG/I  作者: ジュゲ(zyuge)
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第四十七話 スキマ

「異常な~し」

「戻りますか」

「終わった終わった。あーあ」

 宇宙を翔ける白い円錐。

 STG。

 高度な文明を有する謎の宇宙人が提供する攻撃機体。

 どことなく巨大なピラミッドに見えなくもない。

(ピラミッドも地下を掘ったらこんな感じなのだろうか)

 帰還していく三機。

 シューニャはその様子をロビーの全方位モニターで見ながら嫌な予感を募らせていた。

(平和・・・か。平和が一番なんだけど・・・)

 彼らはあくまで望まざる形で仕事をしているのが明らかだった。

 運営委員から指名され止む終えずやっている。

 言うならば”形だけ”の行為。

”やっただろ?”

 その事実を示したいだけの意味しか感じられなかった。

(わからないでもない。やり方がマズすぎる)

 広域公益索敵の任務は運営委員から唐突に言い渡される。

 選出の基準を明らかにされていない。

 広報は「適材者を選んでいる」との弁だが、パイロットカードの戦績を見ると、とても能力の査定をしているようには思えなかった。入れ替わり立ち替わり誰かしらが請け負い、最終的には一部の例外を除いて全員が任につく予定だとのことだ。そうなると広報の言う「適材者」が詭弁と言える。

 ブラックナイト隊は委員会の下部組織にすら属していない為、その任を結果的に逃れているが、それは単なる口実で信用されていないのだろう。

 参加したところで得られるのは委員会のストックする戦果から微々たるポイントが付与されるだけ。やる気を失くすのも頷ける。

 一生懸命にやられたのは初月の大戦経験者のみで、新参者は「無意味じゃね?」と口々に愚痴った。索敵成果の評価が適当であることも直ぐにバレ、形骸化は加速度的に進んだ。そして明らかな身内贔屓が感じられる。索敵任務を逃れている者も多数いるのだ。何らかの裏取引があるのだろう。


 本来なら斥候は一歩間違えが命に関わる。

 同時に最も大切な部分。

 情報一つで全体の命運が変転する。

 極めて高い能力を有し蟻の這い出る隙もないほどの目と脳を持つものが当るべきだとシューニャは考えいる。

(今日のは特に酷かったな・・・A5とG9宙域が丸々抜けている)

 宇宙は広すぎた。

 シューニャは大戦後にログインしてからというもの、毎日のように索敵の仕事を見ている。当初はそれが目的ではなかった。センターロビーが最も人が集まる場所であるから、現在の本拠点のムードやムーブメントを判断するのに適していると考えただけだ。

 委員会での発言権を持たないブラックナイト隊は、せいぜいロビー活動ぐらいしか出来ない。上層部で把握している情報は下には下りてこない。公式発表を待つしかない。

 センターロビーの散策で感じられたことは「思考停止」である。「委員会がやってるから大丈夫だろ」とか「もう来ないよ」と、先の大戦を経験した搭乗員ですら、その体たらくである。もっともそう思えるの早々に離脱した者ばかりだろうが。

(この前来たんだから、次は来ないととどうして言えるのだろうか)

 彼らの意見はは単なる内なる希望だった。現実には何らかの交渉を締結するなり、彼らの発生源を殲滅するなり、動向を観察しない限り分かるはずもない。どうして「問題ない」と言えるのかシューニャには疑問でならなかった。同時に「またか」とも思っている。仕事でも散々あったからだ。現場を見ずに妄想と理想像で事実を歪曲する。

(彼らは一体何を警戒しているのかも解っていないんだろうな)

 ロビーで様々な搭乗員に話しかけては「AIの方が楽が出来るんじゃないの?海外ではAIが網目のように調査しているらしいよ」と吹聴しては「マジで?」と答えが返ってくる。それだけで認識の差が伺える。本拠点側からの公式発表ではそうした動きがされないから無理もない。ただし様々な搭乗員の公式ブログで少し探せば出てくる情報である。

 シューニャはAIを信じているわけでもない。人間の五感、ともすれば第六感といったものがいかに超常的であるかも経験がある。AIは特例に弱いことは様々な実証実験にて証明されているし類似事項にも盲点が多かった。人間なら一発で見分けられるものが全く異なるものを類似分類してしまうことがある。天と地ほどに違うのに。人には人の、AIにはAIお得意分野がある。それを活かすのが望ましいと考えていた。

(もしその過ちが人類存亡の危機を生んだら・・・)

 大きなため息をつく。

 昨日、久し振りに長時間話したから疲れたようだ。

 未だに調子は良くも無いが、以前ほど悪くもない。

 内心複雑だ。

 ゲームをしている場合じゃない。

 一方で、これはゲームじゃない。

 目に見えて資金は底を尽きそうだ。

 今では「居る」だけで金がかかる。

 親には理解が得られないだろうことは明らかだ。

 そもそも親の脛をかじっている場合じゃない。

 病気であることは告げたが、医者の病名がつかない病気は「気のせい」「ストレス」「鬱」と断定される。

(AIの常時巡航に加え、才能をもった者が当たらないと・・・)

「こちらシューニャ、ミリオタさんいい?」

 右耳に手を当て対話を送る。

「どうだった?」

「今回は特に酷いです。A5とG9が完全に見過ごされていると思います。G9は遠いから無理でしょうけど、A5は見ておきたい。誰か適任者を送ってくれませんか?」

「俺が行くよ。丁度 鈍ってた。たまには宇宙に出ないとな」

「いいんですか?悪いですねぇ副隊長なのに」

「何いってんだよ。隊長がロビーで情報収集なんて甲斐甲斐しくて泣けてくるよ。シューにゃん働き過ぎ、はあと」

「いやいや。じゃあ・・・悪いついでにマルゲリータさんを伴走させてもらえないですか?」

「なんで?俺じゃ不安かい」

「まさかでしょ。彼女は才能がありそうだから、見ておきたくて」

「そういや言ってたっけ。・・・まあ、いいや。わかった連れていく」

「ありがとう!」

「一オッパイの貸しね!」

「その単位は止めて下さい」

 同時に笑った。

 自らの胸を見る。

(なるほど女子はこういう心境か・・・気をつけないとな)

 男からしたら他愛もない発言。

 大した意味なんて無い。

 女性が猫を見て「可愛い」と、よく見てすらいないのに言う程度のものだとシューニャは思っていたが違うようだ。何時だったか元彼女が、猫が通った瞬間に「あ、猫だ可愛い」と言った後、シューニャが猫を見て「え?あの猫が可愛い」と聞き返すと、「あ、不細工だった」と訂正した事がある。その時に複雑な心境になる。

 ゲーム内で女性扱いをされることが多くなったせいか知らず女を意識せざるをおえない心境になっていたのかもしれない。

(性的な発言はセンスが問われそうだなぁ~)

 広域索敵は公益であるが故に、ロビーのモニターであらゆるものを見ることが出来る。談笑し、時折カメラに向かってピースサインをする搭乗員を見ながら眉を寄せる。これほど明確な危機があるというのに彼らは陽気だった。

 脳裏には昨日のリーダーとの会話が去来する。


*


「シューニャーーーぁっ!」


 帝国ホテルのロビー。

 ドラゴンリーダーは大声を上げた。

 周囲を見渡すシューニャ。

 一瞬だが周囲の来客やスタッフの目を惹いた。彼はサイトウの目線に気づいたのかハッとして豪快な笑みを浮かべ周囲に会釈をする。その様子をみて安心した。

(どうにか一般常識はありそうだな)

 サラリーマン時代に着ていたスーツはもうサイズが合わず、痛みも激しいことから、唯一メンテしていたダブルの礼服にて参上する。今の時代とは異なるシルエット。ゆったりとしてダボダボ。時代の余裕が感じられる。サイトウはクラシカルなスタイルが好きだった。祖父を亡くした時、彼への思いから奮発して八万ほど、一式で十万程度で購入した。スーツを上下三万のを着ていたにも関わらずだ。ネクタイもその当時のもの。

(いちを・・・言うか・・・)

「ブラックナイト」

(口に出すのは恥ずかしいな)

「ブラックナイト。ドラゴリーダーです」

 神妙な顔。

 ドラゴリーダーは背の高い男だった。

 嘗てスポーツをやっていたであろう、ガッシリとした肩に、走れそうな足、ひと目でわかる働きそうな肉体。爽やかで人懐っこそうな笑顔。覇気溢れ健康体そのものとわかるオーラ。凡そゲーム三昧をしているとは思い難い人物がそこにいた。目印が無ければ気づかなかったかもしれない。

 上質なシルクを思わせる光沢に目に鮮やかな赤。

 そこに刺繍されたドラゴンがサイトウに睨みを利かしている。

(ウーさんが好きそうなネクタイだな)

 彼はサラリーマン時代に共に仕事をした上海のウーさんを思い出した。

(『サイトウ!赤いパソコン譲って下さい!』だったけかな)

 彼の口癖だった。

 リーダーはサイトウが清水の舞台から飛び降りるつもりで購入した礼服も霞むほどの高級な黒スーツ。今風のタイトなシルエットだが、余裕が感じられるデザイン。窮屈さを感じさせない一方で威嚇的、威厳的でもある。

 彼は既婚者だけど遊んでると直感する。

 ”名を聞くより”という古典を思い出す。笑うほど想像と違う。

(歳は三十代前半ってとこか?それとも後半・・・わからないな)

 サラリーマン時代の習慣で、年下相手につい手を差し出してしまう。

 リーダーは慣れた調子で掴んだ。

(おっと、これは強いな)

 彼も全身全霊をもって握り返す。

 更に、事もあろうかハグをしてきた。

 まるで共にワールドカップにでも出場し優勝したかのような強いもの。

 ハグして初めてわかったことがある。

(背、高いなっ!)

 百九十はありそう。

 軽くハグし返し、肩甲骨あたりを左手でポンポンと叩く。

(ハグは慣れないな。特に相手が日本人だと違和感を感じる)

 それでも彼の熱い思いが伝わって来る。

 ジワっとする感動が込み上げくるほどに。

 今も心配なのだろう。皆のことが。

 リーダーからしたら、これほどの思いだったのだ。

 ハグを通して実感する。

 シューニャとの温度差は明確だった。

(言いづらいな。早めに切り出さないと・・・)

 彼はこれを最後にしようと思ってこの場にいる。


*


 定型的な挨拶の後、ロビー横にある茶店に移動。

 給仕の態度からも、初めてではないことが伺える。

 ソファーにどっかりとリーダーは座った。

 若くして財を成した社長にありがちな態度と思った。

 苦労して上り詰めた人とは明らかに違う。

(恐らくベンチャー企業の経営者か、取締役か・・・今の時代ならITと言うより、金融系かな・・・スマゲー長者ってこともあるな。もうそれはないか・・・)

 彼は互いの状況をロクに確認もせず、いきなり話し始めた。


「シューニャ。俺の会社に来てくれ」


 サイトウは「なるほど、そういう人か」と思いながら動揺することもなく、核心から入ることに決める。この手のタイプは一方的に喋りだすと話を聞かない。会話のイニシアチブをある程度コントロールする必要があると考えた。

「すいません。ゲーム・・・STG内でも言いましたが、私はほとんど寝たきりの人間です。いつ治るかも知れない。ここ数ヶ月はたまたま少し良いだけで。例えるなら人生ずっと白夜です。私が調べた範囲からすると恐らく治らないでしょう。だから全うに務めることが出来ません。お誘いいただけるのは光栄なのですが、期待に応えることは出来ません」

 さてここから本題を切り出すという所でリーダーは遮った。

「尚更だろシューニャ。突っ込んだ話で悪いが、貯金だってもう無いだろ?ずっと気になっていたんだ」

 本来なら腹を立ててもいい無礼な質問にも思えたが、そういう印象を受けなかった。本当に自分のことを心配しているということが感じられたからだ。

「まあ・・・」

 素直に答えた。

 もって後一ヶ月といったところ。

 でもそれはこちら側の問題だ。

「俺は社長だ。俺が構わない言えば構わないんだから」

「ありがたいのですが、役に立たないのを承知で、お荷物承知でなんて、私には我慢ならないのですよ・・・」

「だからだよ!お前がそういう奴だからこそ雇いたい!あ、申し訳ありません。年上に向かって」

「ゲーム内と同じでいいですよ」

「そうですか・・・すいません。慣れるで一つ無礼をお許し下さい」

「凄い違和感」

 リーダーは笑った。

(なるほど、この可愛い笑顔で女性はイチコロだな)

 それにしても嬉しい。

 心から。

 次に働く時は恐らく死ぬ時だと実感をもって言える。

 それを理解する者は誰もいなかろうが事実は変わらない。肉体の変化は化学反応のように刻一刻と着実に起こっている。

 リーダーは再び機先を制した。

「出社しなくてもいい。仕事しなくてもいい。気になるなら家で少しやってくれればいいから。あくまでポーズで」

 無理矢理にでも話を進めることは出来た。

 でも、彼の物言いから蔑ろには出来ないものを感じる。

「どうしてそこまで?」

「感。人を雇ってきた感。この前の戦線でハッキリわかった。今の日本はキッチリ働ける人間が確実に少なくなってきている。その点でシューニャはコミュニケーションも出来るしその上でキッチリ働く。自分の領分をわかりながら相手の領分も斟酌出来る。今のもそうだ。普通なら俺みたいな若造に言われたらカチンと来る。それなのに全くそういう感じがない。いや・・・本音を言えば、そこじゃないかもしれない。お前は運がいい。運がいいお前がいるだけで、会社も俺も運が良くなる。ソコかもしれない」

 色々なプレイヤーがいる。全く印象が違う者もいる。

 でも彼はまるでドラゴンリーダーそのものだった。

「それは勘違いですよ」

 運がいい人間がどうして身体が壊れているんだ。

 とんだ見当違いだ。

 どうして長年こうも苦しむことになっているんだ。

 寧ろ運が悪いからだろ。

 言わなかった。

 言ってもわからないことはこれまでの経験からも明らかだ。

 ウンザリするほど、気の遠くなるほど繰り返した問答。

「間違いない。これは不思議なもんだけど本当にそうなんだよ。俺も散々聞いてきた。嘘だと思った。今は体感を持って言える。あるんだそういうことが。運だけは自分ではどうしようも出来ない。胡散臭い霊媒師や占い屋にひっかかる代表が時々ニュースになるだろ。図らずしもわかるよ。大いなるものを感じると頼りたくなるんだ。つまり、これはあくまでも俺の為だ。負い目に感じることはない。な、シューニャ!決まりだ!悪い話じゃないだろ?」

 ゲーム内と同じでまるで強引。

 でも悪い気はしない。

「・・・ちょっとその前に、リアルでハンドルネーム連呼はちょっと・・・」

 ここは公共の場。

 周囲の声が聞こえるほど席は近くないが。

 目線を向ける者もいはしない。

 それでも決まりが悪いことに変わりがない。

 ココはいいが、駅で呼び止めらた日には恥ずか死んでしまう。

「ああ、そうだった。でもなんだ・・・サイトウさん、なんですよね?」

「そうですよ?」

 お互いメールでリアルネームは明かしている。

「どうもアッチの方を思い出して・・・腸が煮えくり返る」

 破顔する。

 その笑顔は必ずしも嫌いではないことが伺えた。

「あ~・・・なるほど。でも流石にシューニャは・・・」

「女性以外を名前で呼びたくないし・・・。いいじゃないですか!俺のこともリーダーって呼んで下さい。それでイーブンですよね?」

「いやいやいや、それってイーブンじゃないですよ」

 思わず笑ってしまう。

 豪快に笑うサイキ。

 ゲームでの彼そのもの。

 変わらない。

 ヤレヤレと思う一方で嬉しさがこみ上げる。

 何年ぶりだろうか。

 こうして談笑するのは。

 十年、いや十五年?

 止む終えずサイトウは彼を本名であるサイキさんと呼び、サイキは彼をシューニャと呼ぶ奇妙な構図が仕上がる。

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