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STG/I  作者: ジュゲ(zyuge)
31/160

第三十一話 境界

 グリーンアイは現実だった。

 名前の通りエメラルドグリーンのような瞳。

 隊員の皆はその容姿と振る舞いから妖精ちゃんと呼んでいるようだ。

 私はこうした身体的特徴を捉えた、嫌な感覚をもってつけたあだ名を一度も言ったことはない。ずっと言われる立場だったから。慣れることはない。喧嘩をする体力もない。ただ、ただ、耐えて、耐えて、無視して、偽って。変質してしまった。

 でも今は違う。

 サイトウを知ったから。

 彼の態度。

 まるで他人事のように妬み、嫌味、非難を聞く。

 聞いていないわけでもない。

 寧ろ、しっかり聞いて、質問をしたりする。

「それはどういう意味?」

 相手は更に煽り馬鹿にし、罵る。

「あれはサイコパスだからだよ」

 少し仲良くなったぐらいの時期にリーダーはそう言った。

 頭が沸騰するんじゃないかというほど怒り踊りかかった。

 あれ以来、格闘レベルも少し上げた。

 二度と戻るかと思ったけどサイトウに諌められリーダーに謝りに行く。

 でも先に誤ったのはリーダーの方だった。


”サイトウは必ず来る”


 自分の中にどんな根拠があるんだろうかと思ったが最早関係が無い。

 リーダーは「そこまで来ると信仰だな」と言った。

(そうかもしれない)

 彼のことを思うと冷静じゃいられなくなる。

 

 夢の中のグリーンアイは一体何だったんだろう。

 リアルでの彼女はいたって無口な可愛い子だった。

 ただ、ボイチャが出来ないという点、チャットが出来ない点は同じだ。

 いつもニコニコしている。

 日本語はわかるようだ。

「外国人なの?」

 聞いてみたが、彼女は眉を寄せ、首を捻った。

 自分の無い英語力を振り絞って、

「Foreigner?」と聞いたが、首を振って、「わからない」というリアクションをされる。

 後で知ったけど、あのニュアンスは使ってはいけなかったらしい。

「学校と言っていることが違う!」

 後の祭りである。

 それでも、あのリアクションは”よそのもの扱い”されたとは違う反応に思えた。

 単純に言葉がわからないような。

 その割には何事も比較的スムーズに運んでいるような気がする。

 クソオヤジに言われたことを思い出す。

「お前は他人の観察ばかりするな」

 ムカつく。

 誰がするか。

 サイトウはこう言ってくれた。

「動きの少ない人間は自ずとより多くのものを無意識に捉えられるようになる」

 彼女は頭に浮かんだ父親に中指を突き立て、舌を出す。

 

 隊長はグリーンアイに対して好意的に捉えている。

 他の隊員は最初の頃こそもう一つ居心地が悪い感じだったが、今では彼女を愛玩動物のように見ているように思う。彼女は言葉こそ通じないけど概ねの意思疎通は出来ているようだし、口癖が可愛いこともあると思う。

「にゃにゃ?」と「にゅーん」と言う。

 キャラ作りで言っているわけではないようで、それは”おはぎ”ちゃんとも意見が一致した。彼女も警戒しているよう。

「ああいう言葉を平気で言える人間にはろくな奴がいないからね」

 全くの同意見。

 馬鹿な男どもはすっかり手玉にとられている感じで、軽くセクハラまがいの行為をする隊員もいる。彼女のリアクションが可愛いとやらで。背中を指でツンとつつくと「にゃ?」と言うらしい。

「男って本当に馬鹿!」

 彼女は笑った。

「タっちゃん、雰囲気変わったね。凄く穏やかになった・・・何かあったの~?お姉さんに言ってみ」

 彼女にも言われる。

「何も無いよ」

 言えなかった。

 今でもどこか自分を無意識にガードしている。

 正直、怖い。

 皆の悪意が。

「幽霊だ!」

「爪楊枝じゃね?」

「く~る~、やってくる~」

「よう能面!」

「美人だと思って偉そうに」

「あいつまな板だったよ」

「ごめ~ん針金かと思っちゃった。違うんだね」

 リーダーにも自分が女であることを隠している。

 リアルは一切言ったことがない。

 彼女はそれ以上聞いてこなかった。

 大人だと思う。

(でも・・・言えない)

 どうしてだろう。わからない。

(サイトウに・・・会いたい)

 声が聞きたい。

 作戦をたてたい。あの頃みたいに。

 二人で出撃して、暴れまわって。

「ざまーみろ!」 

 しっかりしないと。

 サイトウはどうして泣き言が無いんだろう。

 強い。

 凄く強い。

「そんなことはないよ」

 彼は言った。

 違う。

 本当に強い。

 私も強くなりたい。

 あの女は要注意。

 グリーンアイ。

 絶対、何かある。

 感のようなもの。

 あの女を見てるとザワザワする。

 

「よーし、行くぞ!」


 リーダーの号令がかかる。

 シューニャさんはまだログインしてこない。

 何かあったんだろうか?

 プリンちゃんがすっくかり無口になってきた。

 笑顔にも力がない。

 ケシャさんに至ってはずっとシューニャさんのマイルーム前に陣取って動かない。

 私にとってのサイトウみたいな存在なんだろうか。

 二人に言ってやりたい。

「でもそのせいでグリーンアイが彼女の居場所をとるんだよ?」

 シューニャさんの為に二人が頑張って居場所を確保して上げないといけないのに。事実、彼女らの行動で部隊内でのシューニャさんの精神的位置が下がっていることは感じていた。どう足掻いても彼が小隊のリーダーだったから仕方がない。プリンちゃんがどう言っても客観的事実は変わらない。彼女らの行動の責任はリーダーだった彼に向く。


 あの頃の自分を思い出す。

 私が暴れれば暴れるほど、サイトウが非難された。

 それがたまらなくイヤだった。

「私は私だ!サイトウは保護者じゃない!」

 余計に暴れた。

 尚の事サイトウは責められる。


「彼が戻ってきた時に立つ瀬無いよ!」そう言いたい。

 言えなかった。

 私はサイトウの為に、彼が何時来ても申し分ないように。

 サイトウの為に。

”ブラッグドラゴンの修復は明日終わる!”

 そしたら私が育てた、この”フラッシュドラゴン”を彼にプレゼントしたい。

 彼が戻るまでは最高の状態に仕上げておきたい。


「皆、無茶だけはするな。大破したら元も子もない。シューニャがいなくとも、ケシャが壊れても、我々に猶予はないんだ。忘れるな!常に覇気を放ち続ける必要がある。もう歩みは止められないんだ。海外も含め既に幾つかの部隊からコンタクトを受けている。俺たちの動きが彼らに明らかな目を向けさせている。蜃気楼効果が有効なうちに出来ることは最大限やる。いくぞ!フォーメーション聖剣。フォロー忘れるな。慌てるな。深追いするな!出撃!」

  

 リーダーが様々な思いを込めたのが感じれた。

 私らに言っているんだ。

 後戻りは出来ない。

 注目が集まれば集まるほど敵も増える。

 レベル五までは早かったけど、問題は七からだ。

 武装も勝手には強化出来ない。

 常にフォーメーションに有益な装備だけを優先的に強化。

 蜃気楼って何かと思って調べたけど、これってつまりサイトウのことなんだろう。

(彼は蜃気楼じゃない。現実だ!)

 聖剣はグリーンアイが中核になっているフォーメーション。

 彼女の突進力、粘着力、確実なる撃破は、まるで聖剣のような安堵感を与えた。

 彼女の為の形。

 リーダーに言われた。

「お前は柄になってくれ」

 最後尾。

「聖剣が強烈な一撃を放つには柄が大事だからな」

 リーダーは凄い。

 常に気配りをしている。

 前は気づかなかった。

「わかった」

 私は気にしない。

 前とは違う。

 目立ちたいわけじゃない。

 昔はそうじゃなかったけど。

「お前・・・本当に変わったな。凄くいい。これもサイトウのお陰なのか?」

 穏やかな笑顔。

「そうかもね」

 笑顔で返していた。

 思えばこんなやり取りが今まで出来ていなかったと思う。

 私が評価されればサイトウの居場所が出来る。

 リーダーにとっても私いこーるサイトウなんだろうか。

(サイトウからしたら私はお荷物でしかないのにね)

 でも言わない。

「他人は勝手にとやかく言うもんだからね。勝手に想像させておけばいい」

 彼が言ってた。

 

「グリン穿け!」


 巨大隕石型宇宙人が四散。

 同時に歓声が上がる。

 私はグリンだけを見ていた。

 まるで皆のように喜ぶ彼女。

 その姿はまるで子供のようですらある。

 素直で、力に満ちあふれていて、希望を感じさせる。

 言葉がわからないとは思えない。

 

「お前は何物なんだ!」


 言ってやりたい。

(駄目だ)

 今は彼女なくして成り立たない。

 彼女は間違いなく部隊の矛になりつつある。

 私は忘れ去られてもいい。

 前みたいに競うように勝手に動くことはしない。

 あの時に駆られていたものはなんだったんだろう。

 今はこんなにも静か。

 

”地球を守ることに繋がるのなら”


 サイトウの矛となり盾となり。


”母さんを守ることになるのなら”


”希望に手をかけることが出来るのなら”


 リーダーの言うことを拒むつもりはない。

 彼は本当に優秀だと思う。

 私より遥かに多くの物事を見ている。

 彼もまた自らを押し出すことより広く見ていると感じた。

 その景色は私より遥かに広大だろう。

 私にはその光景はわからない。

 それならば彼の景色に賭ける。


「くそ、逃れた。頼む!」


 直下にコンドライト。

 速い。

 あの時の光景が過ぎった。

 巨大な黒い巨人。

 迫りくるコンドライト達。

 パニクっていた。

 今は違う。


「了解!」

 

 気づいたんだ。

 両翼の重要性を。

 背後の死角を。

(それだけの知能があるのに・・どうして地球を襲う!)

 

「ナイス!」

「さっすが~冴え渡ってるな!」

「いいよ~黒ちゃ~ん」

 黙ってモニター越しに手を上げる。

 そのモニターに映る私は笑顔だった。


*


 日本・本拠点の独裁体制は続いている。

 日本は今まさに空中分解しつつあった。

 部隊”猫いらず”を中心とした独裁派。彼らは保守派と呼んでいるが。辛うじて中央を牛耳っている。

 元の体勢に戻そうとする回帰派。

 新たな体制を築こうとする新時代派。皆は左派と呼称しているようだ。

 そして我関せずの大多数。

 ”ブラッグナイト”が覇気を放つことは結果的に混乱に拍車をかけることになった。

「遊撃隊でもいいんだ」

 そうした風潮が広まりだし、それを群雄割拠と言ったものをいたが、実質は木が死滅する前にどんどん枝葉が細分化されていくような状態になっていく。それは”死”が近いことを意味した。皆がブラックナイトをなぞるように、それぞれの部隊部屋に引きこもり、好き勝手に動く。これはリーダーにとっても想定内の出来事だった。彼にとって目下いかにして”猫いらず”を中心とした独裁派の力を削ぐかが課題。

 問題はその次のステージであることは言わずもがな彼も理解している。回帰派との接触も試みたが失望する。結局は何もしないに等しい考えだったからだ。新時代派は現実を無視した夢想が甚だ酷いものだったようで、リーダーは失望を深める。

 海外のSTG勢も虎視眈々と日本を狙っているのが伺え、それは次第に行動となって現れる。部隊によっては海外への編入も行われたようで、それは彼ら自身が意図せず結果的にスパイのような存在になることを意味した。日本の崩壊は広くしれるようになり、各国の動きは一層機敏になっていく。

 自ずと部隊ブラックナイトには編入希望者や部隊まるごと召し抱えて欲しいといったものも増えたがリーダーはその多くを拒否し、連隊することで様子をみたいと回答。彼らは寄らば大樹の陰を希望しつつ申し出を受ける。

 リーダーのそうした対応に疑問をもった隊員が彼に問いた。

「単にでかくなりゃいいってもんじゃないよ」

 彼はそのように一言だけいい、それ以上は沈黙する。

 不機嫌でいることが多くなった。


 ”ブラック・ナイト”が再び現れることは今のところない。


 マザーに対抗装備を希望したが拒絶。

「その可能性は極めて低く現実性に欠ける。STG28には他にやるべきことがある」

 マザーの発言を裏付けるように宇宙人達の動きは余裕があった。

 長年そうであったように、まるでこちらの神経をすり減らすように常時攻撃は続く。

 それでもサイトウが追い払った時のような大規模な戦闘は失くなった。

 当然のように”サイトウの宇宙人説”はより有力になっていく。

 ばらつきのあった緩急のある戦いより、圧力のある常時戦闘が続くようになる。

 地球人が気づく頃には”いつの間にか”疲弊し、麻痺していた。

 

 シューニャが部隊に顔を出さなくなって一ヶ月。


 サイトウはもっと。

 ケシャはハチ公のように毎日彼のマイルームの前で待っている。

 プリンはログインがマチマチになってきている。口数も減る。

 これほど長いことサイトウが現れなかったことは無かった。

 今にして思えば彼らは待っていたんだ。


 この時を。


「緊急警報発令。

 緊急警報発令。

 敵宇宙生物群を捕捉。

 警戒レベル一。これは最大の警戒レベルです。

 カテゴリー八+。

 STGレベル八以上での参加を推奨します。

 部隊、連隊での編成を推奨。

 搭乗員のいないSTG28はマザー管理下において緊急発進されます。

 全機出撃願います」


 ホログラムモニターに映されたレーダー映像は真っ赤に染まっている。

 それは宇宙空間を宇宙人が埋め尽くしていることを意味した。

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