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STG/I  作者: ジュゲ(zyuge)
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第十七話 嫉妬

「怒ってますか?」

「怒ってるね」

 サイトウは度々訪れる宇宙人と一緒にいた。

 出された飲み物には手をつけていない。

 彼女は青く燃えている。

「アレらは君が呼んだだろ?」

「・・・」

「質問したんだけど」

「はい。・・・誰ですか?」

「誰とは?」

「黒いヤジリに搭乗した地球人です」

「あ~彼ね。フレンドだよ」

「それだけですか?」

「そうだけど、何が聞きたい?」

「・・・」

「今日の君はまるで地球人みたいだね。理に反する。君らは散々自らの知性の高さ、文明の高さを私に教えてくれ、地球人がいかに愚かで、同時にそこが面白いか聞かせてくれた。けど、言うほど君らも大したことないと感じるんだけど、どうだろ?」

「・・・大切な人なんですね」

「ああ、彼は大切な人だよ」

「・・・」

「今度 手を出したら君とは二度と会わないから」

 言った瞬間、彼女の気体のような身体はオレンジ色に燃え盛った。

「あ、あ、あ」

 言葉にならない言語以前の音を発する。

「なんだい。当然だろ。君は俺の友人を危険に晒したんだ。本来なら今こうして会うことすら無かったと思って欲しい」

 強く言い放った。

「ア・・・!ア・・・!ア・・・!」

 炎は広がり、周辺に火花を散らす。

 テーブルの端が燃えだした。

 彼女は手でテーブルの端を自らの手で消化。火花を抑える。

「恐らくあのSTGIは君自信だろ。違うかい?」

 今度は立ち上がると赤く燃え上がった。

 しかも一回り大きくなる。

 サイトウは立ち上がり椅子を大きく引くと、また座った。

 火は更に大きくなりテーブルに引火。あっという間に燃え盛る。

 彼女は慌てて消すが、時既に遅く、テーブルが崩れ落ちる。

 グラスが落ち、割れ、中の液体は一瞬で気化。

「やっぱりな・・・」

「あ・・・アー・・・あああ・・・アーッ・・・」

 頭を抱え、テーブルと彼を交互に見ている。

「君がどうしてあんなことをしたか?自分なりに考えていた」

「ごめんなさい・・・私は・・・自分でもどうして・・・どうして・・・」

「他意は無かった・・そう言いたいのかい?」

 激しく頷く。

「座りないよ」

 彼女は何もない空間から椅子を取り出すと大人しく座った。

「ならいいや。・・・ズバリ聞くけど、君は俺が好きなのかい?」

 サイトウは彼女を見つめる。

「アーッ!アッアーッ!アーッ!」

 一旦落ち着いたはずの赤い炎が更に大きく燃え盛ると椅子が蒸発した。

 気化体のはずの彼女は椅子から転げ落ちる。

 サイトウは眉ひとつ動かさず椅子を更に引き少し離れた。

「アノ!アノ!アッ!」

「わかった・・・わかったよ。理由はどうあれ、友人に手を出したのは許せないね・・・」

「アノ・・アノ・・・アノ・・・アノ・・・アノ・・・」

「なんだい?」

「もう会えない?もう。もう。会えない?」

「・・・君次第かな」

「私?」

「友人に手を出さないでもらいたい」

 激しく首を縦に動かす。

 肯定という意味だろうか。

「二度は無いよ」

 また激しく動かした。

「・・・ならわかったよ」

 一陣の風がどこからともなく吹く。

 青くなった。

 空のような透き通るような青さ。

 そして身体がみるみる小さくなる。同時に周囲が水浸しに。

 小さく、小さく。

 消えてしまいそうなほど小さく。

 終いには手のひらに乗るほどに。

 サイトウは彼女の方を向き目をとじる。

「また、また、あって欲しい・・・お願い、許して、ごめんなさい、許して、お願い・・・」

「よーく・・・わかったよ。悪気は無かったんだね。今度は気をつけて欲しい。君たちにとって些細な行動でも、地球人はチッポケで、か弱い存在だから。すぐに死んでしまうんだ。君たちは随分と長命のようだけど俺たちは短い。今の椅子やテーブルのように一瞬で燃えカスになる」

「ああ・・・ああああ・・・あああああ」

 橙色に染る。

 空間が激しく振動しているのがわかる。

 耳に圧を感じる。高層階のエスカレーターや飛行機の中でする耳抜きをする。

 水かさが減り、身体が大きくなる。大きく、更に大きく。

 普段よりも大きく。

 四メールはあるだろうか。もっとか?

「嬉しい」

 熱発した。

 自ら電熱線になったように、太陽と化したように。

 でもその放射はひだまりのように暖かかった。

「そうか・・・なるほど。酷いことを言ったようですまないね」

 彼女は雪の重さに耐えかねた桜のように大きくシナるとサイトウを覗き込む。

「あの、あの・・・あのぉ」

「なんだい?」

「また、会える?・・・あい、会いたい。また・・・会って欲しい」

「・・・君が望むなら」

「ああ・・・あああ・・・!」

 空間が再び振動する。

 得体のしれないエネルギーが全身を揺さぶった。

 全身が震える。

(耳が耳が・・・)

 堪りかねサイトウは耳を塞ぎ頭を抱えた。

「ああ・・ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・ごめんなさい」

 また青く小さくなる。

「大丈夫?ですか」

「どうにか・・・ね」

 苦悶の中に笑みを浮かべる。

「ごめんなさい・・・。あの・・・まだ・・・会ってくれますか?」

「だから、会うって」

「・・・嬉しい」

「そうかい。それは良かったね」

 笑いかけた。


*


 世界は恐るべき速度で改変されている。

 気づくか気づかないかの差はあれど。

 また気づいたところで能力がなければ土台何も出来やしない。

 分不相応に首を突っ込めば命は無いだろう。

 ゲームをプレイしていてもそれを感じる。

 結局自分らはゲーム開発者という創造主の気まぐれに翻弄されているに過ぎない。それをわかった上で自らが主導となって遊ぶことが出来るか否か。この差は現実でも同じだ。常に神の見えざる手が働いていると感じる。最も彼は無神論者。それでも一国の大統領でも天才でもこの世界をどうにかすることは出来ない。それは感じられた。どんな人間も、生き物も出来ることは常に限られている。

 彼らは強い。何せ創造主だ。

 でも我らはもっと強い。

 気に食わなければ遊ばなければいい。ただそれだけで済む。

 その瞬間から創造主は存在価値を失う。

 現実でも同じ。

 何を支え、何を捨てるか。それは常に我々に手に委ねられている。

 ただその権利を多くは放棄し、一喜一憂しているが。


 シューニャはプリンの泣き言を聞きながらそんなことを思った。


 二つの巨星が落ちたようだ。

 ドラゴンヘッズという部隊とブラックドラゴンというエースSTG。

 この世の終わりのようにロビーが沈みこんでいたことから彼女に聞いてみたところ。

 彼女は取り乱していた。怒り、悲しみ、憎しみ。様々な感情が伝わってくる。感情に翻弄され僅かな事実しか伝わらない。


 それでもわかったこと。


 ドラゴンヘッズの解体が決定したこと。

 ブラックドラゴンというエースSTGの大破。

 この二つだけ。

 部隊解散の理由はエースパイロットであるブラックドラゴンの大破が引き金になっていることは伺える。どうやら本人も引退するらしい。不確かな情報。不幸なことに先だっての戦闘で意識不明となった搭乗員が死亡したのも関わっているかもしれない。責任をとる形らしいが。

(なんで解体するのが責任なのか意味不明だが)

 ブラックドラゴン大破の要因は不明。

 本拠点の索敵圏外での戦闘がゆえだが、委員会だけが何かデータを掴んでいるらしい。

 そこから漏れたであろう恐らくトップシークレット。


 謎の巨大宇宙人との戦闘。


 ただそれは流言の域を出ない。

 上の連中は大騒ぎだろう。

 連合軍の再編成が必要になる。今の状況ですら充分とはいい難いのに。そもそも再編を繰り返す時点で末期だ。そういう意味ではドラゴンヘッズの解体は必ずしも間違ってはいないだろう。そもそも改編なんて既得権益者の時間稼ぎたみたいなものだ。全く中身を入れ替えないと。人間の自浄作用なんてたかがしれている。求心力のある部隊がいないとどうにも纏まるもんじゃない。烏合の衆。再編する度に力を失うもの。時間の無駄だ。会社で散々そういう憂き目にあった。避けられるはずの障害に正面からぶつかる愚策。挙句に反省等はない。

 委員会の誰かがサイトウを担ぎ上げようとしたところで大論争となったらしい。


 謎の巨大宇宙人とは、まさにサイトウのSTGIではないか?


 根拠の無い流言だが、必ずしもそう言い切れない証拠があったようだ。

 委員会でも下っ端のプリンは閲覧を許されなかったようだが。


「バカバカしい」


 コーヒーを入れ一服する。

「これだから・・・何が宇宙人だ。まるっきり人間そのものじゃないか。こんなクソみたいな争いは現実だけでお腹一杯だよ。なんでゲームにまでそんなしょうもない事に巻き込まれるないといけないんだ。遊べ、楽しめ、それがゲームだろ?」

 ましてや本当に今目の前に宇宙人が地球を攻めてきているのならそんなクソみたいなこと言い合っている場合ではないはずだ。それがわからないほど愚かではあるまい。

 目の前で自分の家が火事になっているのに、消防車も呼ばずに電話で家族と論争しているようなもんだろ?

(馬鹿だろ)

 まずは初期消火、無理なら消防車。警察。最後の最後に家族への電話だろ」

 考えながらあながち無い話ではない気がしてきた。

(今の日本人ならありえる)

 逆にリアル。そんな思いが過る。

 唯一の当事者である竜頭巾というプレイヤーは沈黙を守っているらしい。

「引退するからもう関係ない」

 断言したというが、それそのものが伝言ゲーム。彼女が直接聞いたわけでもないよう。

 彼のファンはさぞやガッカリしただろう。

 黙るには理由がある。

 やましい気持ちがあるか、誰かを庇っているか、言っても無駄な途方もない事実があるか。そんなところだろう。

 最大勢力が消失したらどうなるか。

「寝首をかきたいと思っていた連中が動き出す」

 そんなところだろう。

「実にくだらない。愚行、愚策、愚かの極み。これが人間じゃなくて何が人間なんだ。やっぱり宇宙人なんて嘘っぱちじゃないか」

(お湯がぬるいな・・・まだ沸いてないか) 

 一息に飲み干す。

「目的を見失っている。俺の目的は楽しむこと。以上だ。知らん!」

 目下の狙いはSTG28をレベル5。

 当分レベル四には上がりそうもない。

 最近特に面白くなってきた。

(身体が丈夫なら寝る間も惜しんで出撃したいのに)

 最も、そうなら俺はこんなことしていないが。

「一体全体、日本人はどうなっちまったんだろうな」


*

 少し前。

「本当にやめるのか?」

 ログインし直した竜頭巾は厳しい現実を目の当たりにする。

 ブラックドラゴン大破の表示。戦果は全て改造費に投入してきた為に新しいSTをオーダーする戦果は残されていなかった。

 共に地獄を乗り切ってきたパートナーであるソードのリストア記録。

 自動的にバックアップされる半年前に戻っている。

 これは委員会で決めた。バックアップにも戦果はいる。

 彼の記憶、もとい記録には、あの日本・本拠点急襲すらすっぽり抜けたいた。

 あそこでの戦闘を元に学習プログラムを組み直していたというのに。

「ソード・・・」

「おかえりなさいマスター」

 変わらぬ姿。

 でも戻らない記録。

「あの後・・・どうなった?」

「あの後とはどういう意味ですか?」

「一時間前にサイトウと会っていた時だよ」

 強制ログアウトは一時間の復帰ペナルティがつく。

 特定期間内に三回強制ログアウトをすると一ヶ月停止。

 仏の顔も三度まで。四度目はBANだ。

「*その記録は消失されています*」

 マザーからの再生。

「そうか・・・」

「どうしたのマスター?」

「いいや、なんでもないよ・・・お前・・・」

「はい?」

「いいや、ありがとう」

(ソードは死んだ・・・死んだんだ・・・)

 涙が自然と流れた。

 突然、ドラゴンリーダーが入室。

 隊長には合鍵を渡してあるので本人がいる限りはいつでも入ることが出来る。

「リーダー・・・ブラックドラゴンはどうなった?」

「それはこっちが聞きたい」

 ログインして真っ先に駆けつけたのはドラゴンリーダー。

 血相を変えて来た。

「記録を見てみる・・・しょ・・・消失?」

「消失って、なんだ?」

「聞いた方が早そうだ・・・マザー質問したい」

「竜頭巾様、ご利用ありがとうございます」

 日本・本拠点のマザーコンピューターに接続。

 委員会の特権であるが特にメリットはない。パートナーが全て答えられるからだが、パートナーやサポーターそのもに異常があった際は役に立つ。

「俺のブラックドラゴンが消失となっているのだけど、どういう意味だ?」

「マイクロホールにより処分されたことを意味ます」

「なんだそれ!初めて聞いたぞ」

 リーダーは彼以上に驚いた。

「竜頭巾様のブラックドラゴンは一時的に操作権をマザーに移譲されました。当方もそれが妥当と判断し操縦権を移管」

「うん」

「なんで?」

 黙ってろと言わんばかりにリーダーを睨みつける。

「戦闘の結果、処分相応と判断し自消しました」

「そんな仕様があるって初めて聞いたぞ・・・」

 竜頭巾は目をむく。

「日本・本拠点に関するマニュアル百五十三ノ五六。六千三百六十頁の二行目に掲載された公開情報です」

 彼は枕をモニターに向けて投げつけた。

「誰がそんなのを読めるんだよ!」

「読まれるか読まれないかは竜頭巾様のご自由ですが、少なともパートナーのソード様は把握した情報です」

「あいつはコンピューターだろうが!」

「それは当方の預かり知らぬ部分です。竜頭巾様でご判断下さい。パートナーは何時でも貴方様のご質問に応える用意があります」

「・・・」

 彼はベッドに横たわると呆然と天井を見上げる。

「以上です。ご利用ありがとうございました」

 通信が終わった。

「マジかよ・・・本当にあるぞタツ」

 リーダーは携帯型のオープンモニターで自前のネットワークからアクセスした。

「なんだこれ・・・。戦闘行為がデメリットに働く場合、機密保持の為にSTG28の動力炉を暴走させマイクロホールを発生・・・周辺部諸共完全消失。緊急事態条項だって、なんだそれ・・・」

「サイトウ!」

 起き上がる。

「マザー、質問がある」

「竜頭巾様、ご利用ありがとうございます」

「サイトウは?STGIはどうなった!」

「直近の戦闘事案ですか?」

「当たり前だろ!」

「サイトウ様はしばらくログインされていません」

 そう言えばサイトウが言っていた。

「STGI!あの時にいたSTGIは?」

「STGIの存在は確認されておりません」

「そんなはず無い!大量の宇宙人と一緒に黒いSTGIがいただろ!」

「あれはSTGIではございません」

「はあっ!?」

「敵巨大宇宙生物です」

「馬鹿を言え!あれはSTGIだろ。サイトウが乗っていたんだぞ!」

「竜頭巾様の心理グラフに異常が見られます」

「黙って質問に答えろ!俺の心理なんかクソだ!元から俺は全部オカシイんだよ!」

「正確には正体不明ですが、六十三%の確率で敵巨大宇宙生物と認定されています」

「そんなはずないだろ・・・ふざけんなよ・・・」

 崩れ落ちる。

 胸を押さえている。

「STGI登場時、サイトウ様は我々に検知することが出来ません。仮にサイトウ様が敵巨大宇宙生物にいたのであれば飲み込まれた可能性があります」

「嘘だろ・・・だってサイトウは何時もと変わらない様子だった・・・」

「あの巨大宇宙生物に関しては現在分析を進めておりますが、サンプル等の採取が出来なかった為、現時点で詳細不明です」

「おい、なんだその巨大宇宙生物ってのは・・・タツ!」

「・・・」

「以上です。ご利用ありがとうございました」

「おい!タツ」

「もうダメだ・・・俺は無理だよ。もういいよ・・もう」

「タツ!しっかりしろ」

「サイトウ・・・俺が殺したんだ。俺が呼ばなければ・・・なんなんだよ、このクソな世の中は・・どいつもこいつも・・・死んじまえよ」

 リーダーは彼の襟首を掴み無理やり立ち上がらせると言った。

「お前・・・それノボリに言えんのか?」

「ノボリ・・・?」

「死んだんだぞ」

「嘘だろ・・・」

 オープンモニターの公式情報を見せる。

 震える手。

 意思とは関係なく全身が震えている。

 音が聞こえた。

 体内から。

 水が滝のように流れている。

 目の前が暗くなった。

「タツ!」

 彼が崩れ落ちると同時にログアウト。

「おい、ソード!タツはどうした」

 立体ホログラムのソードが現れる。

「恐らく現実の方で強制ログアウトされたようです」

「なっ・・・・」

 今度は彼の番だった。

「馬鹿か俺は!・・・馬鹿なのか俺は!クソーっ!」

 ベッドを思い切り蹴り飛ばす。

「ドラゴンリーダーへ警告。保守プログラム規定により強制退出となります。マイルームの所有者である竜頭巾様が許可されるまで再度の入室は禁じられます。ペナルティがプラス一付与」

 マザーの音声が再生されると彼は強制退出される。

 

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