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STG/I  作者: ジュゲ(zyuge)
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第十六話 訪問者

「お疲れちゃ~ん」

「またね~シューにゃん!」

「ほいよー」

 最近プリンと行動することが多くなった。

 最早恒例となった起きがけのコール。

 邪魔くさいなと思う一方で、気にかけてくれる人がいる嬉しさも感じる。この前は仲のいいフレンドを連れて来て紹介してくれた。


(もっとも相手は無言に近かったが)


 プリンの雰囲気からすると自分を完全に女性だと思っているようだ。

 当面の目的が出来たからか、自分は七面倒臭いことは考えなくなっていた。

 日常的に宇宙人は攻めてくる。

 それこそゲームのように(いや、ゲームだが)毎日アラートはあり、最初こそ慣れていないこともあって緊張したが、今となっては「よし!アラート、稼ぐぞ」と変わる。面白いもので、出撃した段階で逃げる準備をした方がいいものと、そうでないのが大方わかる。ゲームシステムにもかなり慣れた。

 不意に思い出す。

 子供の頃に連れて行かれた戦争記念館で読んだ手紙。体験者の話、あれもこういう感覚なんだろうか。死体に見慣れ、殺すことに慣れ、死体の転がる中で談笑しながら飯をとれるようになる。そうで無い人は、行為を拒否して味方に殺されるか、発狂するか、リンチとハブを覚悟で出兵せず。

(自分にも確実にそうしたものがあるということか・・・人間っていうのは恐ろしいもんだな)

 

 公式ブログは自動記述ではなく自分で書いている。

 奇妙なことに公式サイトで書いている分にはクレームや脅し、警告といったものがない。このシステムは微に入り細に入りよく出来ている。ブログの検索に「手書き・自動記述・AIパートナー・AIサポーター」と選ぶ項目がある。自動記述はマザーコンピューターで記録された出撃や行動記録を羅列したものでAIと分けられていた。記述を停止することも出来て、デフォルトでは自動記述。停止しているブログは多い。手書きが少ないせいか、かなり読みに来る人がいるようだ。

 最初は気軽に批判めいたことも書いた。件数が数十の頃は喜んで書いていたが、桁が上がった段階でそうした記事はヤメにする。どうも最近は日本人でありながら日本語がわからない人が増えている気がする。真意を汲み取らず上澄みだけで批判されても困る。書いていることを読み取ろうとせず、自分の身の丈や影を見て読む人が多いとネットで感じていた。

(いよいよ日本人も余裕が無くなってきた証拠か。わからなでいもない・・・自分も勤め人時代の頃は大変だった)

 朝八時半から夜0時半の終電が連日続く。

 仕事そのものは楽しかったが身体がもたず神経が休まらなかったようだ。あくまで今にしてみればの話だが。些細なことで腹がたったもの。母は言った。

 

「お前はすっかり変わってしまった」


(あー・・・嫌なことを思い出した)

「さてと、今日は取りに行く日だったな。備蓄用のも買いに行かないと」

 調子が少しでもいい時に出かけないと本格的に食料が無くなる。

 週に一度、歩いて三分の集積所に一週間分の食料が配達される。個配にしてもいいのだが、余りにも楽な生活は危険に思え、わざと集配にしておいた。ネットで注文し、決まった日時に来る。この三分の道のりで健康のバロメーターを図る。遠く感じる時ほど調子が悪い。たった週に一度なのに大変なこと。天竺への道のりと言えば大袈裟に聞こえるかもしれないが、当の本人からしたらそれぐらいの覚悟がいった。


「サイトウ・・・さん?」


 帰り際、声をかけられる。

 見知らぬ人。

(誰だ?)

「人違い・・・かな?」

 二十代の男性。

 全く記憶にない。

 近所付き合いは皆無に等しい。

(サイトウにはサイトウだが・・・)

「私ですか?」

 外出時のマスクは外せない。

 隣の人が咳をしているだけで風邪をもらうほど免疫力が落ちていた。

 すっかり慣れてしまい、最近は外ではマスクをしないと落ち着かないほど。

「すいません、人違いだったようで」

「そうですか」

 会釈をしてすれ違う。

(なんだろうか)

 百八十はあった。

 痩身で手足が長くタレントみたいだ。

 顔はヤンチャ風、全体感からカリスマ性のようなものを感じる。

 声に人懐っこい雰囲気。かなり頭がよく計算で芝居出来るタイプ。

 友達は多そう。

 詐欺師、押し売りに多いタイプ。

(そうか、詐欺の手口ということもあるな。その割には引きが早いな)

 でも違うとは言えない。

 極めて優れた詐欺師は引きは早いが執拗でかつ長期間に渡ってトライしてくる。引き際と責め際の見極めに無駄が無い。あの手のタイプは自分を幾らでも演じられる。

(あーいかん・・・職業病だなぁ~俺も)

「サイトウさんて超能力あるでしょ!」

 過去に何度か言われたことがある。

「人の心を読めるでしょ!」本気で言われたことがある。

 なんの冗談かと思ったが彼女らは真剣だった。

 あれは恐怖を感じている目。

(んなのありゃ苦労せんわ・・・)

 シャーロック・ホームズが好きだったせいだろうか。

 ホームズが僅かな違いや変化から相手の職業やクセ、性格等を一瞬で見分けるのは痛快だった。

 息が苦しい。

 心臓だろうか、肺だろうか。

 軽い肺炎はレントゲンに映らないらしい。

 ここ数年はこの息が苦しさが止まらない。


「ただいま」


 誰もいないことは承知しているのだが挨拶をする。

(日本は八百万神の国ですからね)

「疲れた。シンドい。あー・・・整理するのは後にしよう」

 冷凍もの、生物は買わない。

「卵だけ入れておくか・・・」

 しゃがむと立ち上がるのに決意がいる。

「少し横になろう」

 電話が鳴った。

(また株や投資か・・・迷惑な)

 友人の証券レディから言われた。

「あんなの遊び金かリークがない限り無理だから」

 番号を見ると、母からだ。

 珍しい。

(でもマズイな・・)

 肉体に余裕が全くないとどうしても言葉が荒くなる。

 自制が効かない。

 人と喋るという行為は食べることの次に辛い。消耗する。


「だから言ったじゃない・・・。医者には行ったって。検査もしたって」

「じゃあなんで治らないの?」

(まただ。馬鹿みたいな質問。無限ループ。人の話を聞いているんだろうか?)

「こっちが知りたいよ!」

(あーまたやっちまった)

「何ですかその言いかた!人が心配して電話をかければ」

「言い方もへったくれもあるかよ、いい加減その馬鹿みたいな質問繰り返すのをヤメてくれよ・・・」

「馬鹿って貴方、親に向かって!」

「だって何回言った?十回か?二十回か三十回か?それでわからないなら馬鹿だろ」 

「・・・ほんと・・・貴方だけはと思ったけど、お父さんと同じね」

「またソレかよ。テメーにとって都合がいいことは私似で、悪けりゃ父さん似。傲慢にもほどがあるね。そもそも親子だから似てて当たり前だろ。それと母さんは親父のことどれだけ理解しているよ、何もわかってねーだろうが」

「・・・もういい」

 切れた。

「クソが!テメーで一方的にかけてきて一方的に言いたいこと終わったらプツンかよ!」

(疲れた・・・心底疲れた)

 結局のところ母は、父親と喧嘩した時にしかかけてこない。

 愚痴を聞いてくれる相手を探しているのであって俺の事情なんて次いででしかない。

「俺が死んだ時にせいぜい泣くんだな、ざまーみろや・・・」

 這いずりながら布団に滑り込ませる。

 母は自分を仮病だと思っている。

 父は言った「人生短いんだぞ。そんなにやる気がなくてどうする」。

(やる気の問題じゃねー)

「だって数値に異常はないんでしょ。部屋にこもってばかいるから・・・」

(息子のこと何も知らないんだな。俺は寧ろ働くのが好きなんだよ・・・)

「一年もすれば働くと思ったのに」

「俺もだよ。一年も、いや三年、どんなに天地がひっくり返っても十年も療養すれば、治るか死ぬかどっちかに振れると思ったんだけど・・・現実はすげー」 

「部屋にいてもストレスになるみたいだから」

「だから・・・」

「男として生まれたのに野心はないのか?」

「だから・・・黙れや!」

 親父も母さんも、何もわかっていない。

 何も見ていない。

 想像だけで言っている。


(STG28が現実なら、とっとと地球やっちまえよ協力すっぞ・・・)


 深呼吸をすると、知らず眠りに落ちた。


*


「わからん」

「え、どういうこと?」

 竜頭巾は指定された宙域に出向きサイトウと会っていた。

 黒き巨人と黒きヤジリ。

 モニター越しのサイトウは何時もと変わらぬ様子。

「STGIに搭乗するかどうかは俺には選べない」

「じゃ、どうやって乗るんだ?」

「気づくと乗っている。乗っていない時はまず28だな」

「え?どうして」

「だから、わからんよ」

 委員会からリーダーを通して頼まれた。

 これは彼に会う口実になりえたが。

 サイトウはSTGIに搭乗したまま宇宙を浮遊していた。

 曰く、いつの間にかSTGIを与えられたと言う。

「アイツらには言ったハズなんだけどなぁ・・・あれ?別のヤツか」

「じゃあ、サイトウは今日みたいにSTGIに搭乗していた場合はずっと浮いているわけ?」

「まあね」

「なんで黒いんだ?この前白かったでしょ」

「動いていないからかね?」

「なんで動いてない」

「わからん」

「わからないって、そんな・・・」

「わからんもんはわからんよ。推測なら幾らでも言えるが・・・恐らくだが、何か宇宙人が余計なことしたらしくて、それが原因だと思う」

「余計なこと?」

「ああ。この前来たヤツが言っていた。今までと全く操作系統が違う。模索中だよ。連中が何かする度にこんな感じ」

「えっ、それって・・・今まさにこの前のようなことがあったら・・・」

「この前?」

「本拠点急襲!」

「そんなことあったっけ?何時のだ」

「何時の?・・・俺を助けてくれただろ・・・」

「助け・・・あー」

 モニター越しのサイトウは大きく頷く。

「あの時ね。あれは結構ヤバかったな。間に合ってよかったよ」

 笑っている。

 不思議な男だ。

 他人事のような、それでいて真剣なような。

「サイトウは寂しくないのか?」

「なんで?」

「だって、こんな宇宙にたった一人放り出されて・・・」

「そう言えばそうだな・・・夢中だからかな?結構面白いんだよ。どうやって動かすか。何がどうなっているのか模索するのは。最近では宇宙人の趣味嗜好すら伺えて、かなり動かせるようになるまで早くなった。アイツらも結構遊んでるな」


「サイトウ!」


 竜頭巾の顔がこわばる。

「どうした?」

「敵宇宙生物多数接近!来るぞ!」

「おやまあ」

「宙域を離脱する!」

「じゃあね」

「って・・・動かないのか!マズイ、マズイ、マズイ、ここだと救援が間に合わない」

「だから、離脱しな」

「何言っている!お前動けないんだろ?」

「動けないけど大丈夫」

「はあ?意味わかんね!」

「連中はコイツを敵と認識出来ないらしい。いつも素通りだよ。狙われているのはお前だ。急げ」

「しかし!」

「シカシでもカカシでも無くて、速くしろ」

「牽引する。ソード、トラクタービームを用意!」

「了解しました」

「え?・・・俺に構うな。コイツは重すぎてブラックドラゴンじゃ引っ張れないぞ」

「宇宙だから重量は関係ないだろ」

「関係ない分け無いだろ!速く逃げろ間に合わないぞ!」

「トラクタービーム頭部へ向けてロック」

「やめろ!コイツに手を出すな、まだコイツことはよくわからないんだ!」

「照射!」

 鞭のようにシナッた緑色のビームがSTGIに発射されるや否や、弾き返された。

「動いた!」

「・・・マズイ。勝手に動いている。逃げろ!」


「・・・今度は逃げたくない」


 巨人の全身から赤黒い光が発せられる。

 ブラックドラゴンの表面がそれに共振し、まるで雄叫びのような声がコックピットを満たす。地震のように内部が大きく揺さぶられた。


「タッツン逃げろっ!」


 手を伸ばすSTGI。

「離脱します!」

 彼のパートナー、ソードが告げる。

「振り切れ!」

 サイトウが吠えた。

「マザーコンピューターに操作を一時譲渡しろ!」

 緊急事態を告げる警告灯がコックピットを照らす。

 辛うじて手をすり抜けた。

 尚も手を伸ばす巨人。

「かしこまりました!」

 ソードが応える。

「余計なことするな。俺はサイトウを守るんだ!」

 操縦桿を握るがロックされている。

 激しく揺れる船内で彼方此方と押しまくるが反応がない。

「ソード!俺の命令をきけ!俺がマスターだろ!」

 彼の声に従わず、ブラックドラゴンは反転し急加速。

「来ます!敵巨大宇宙生物」

 船底モニターを見ると、巨人が背後に映り、その手が伸びる。

「違う!あれはSTIG!味方だ!俺達の救世主だ!」

「マザーコンピューター接続。登場者心拍数、心理グラフ異常を認める。パートナー承認につき一時的に本船の制御権を行使します」

 マザーコンピューターが応える。

「俺は正常だ!勝手に動かすな!操作を戻せ!」

「自動迎撃システム作動。ターゲット敵巨大宇宙生物」

 竜頭巾は船内のいたるところを叩く。

「ヤメローーーっ!止まれーーーっ!」

「搭乗員”竜頭巾”を強制ログアウトします。お疲れ様でした」

「サイトウーーーっ!」

「竜頭巾さま・・・」

 彼はログアウトさせられる。

 代わりにコックピットにはパートナー、ソードの姿。

「デプスソード展開!」

 ソードが叫ぶと、STG28の先端が伸び、青く灼熱化。

 まさに巨人の手が捉えようとした瞬間、人間の操作では考えられない動きで三百六十度急速回転。


 凪いだ。


 蒼い火花と共に寸で巨人の手を退ける。

「アークモード」

 船底が伸び、まるで一本の槍のようになる。

「投擲!」

 真っ直ぐに巨人へ向かって突進。

 STGIはその巨大さから想像も出来ないほどの機敏さで簡単に避けた。

 物理法則を無視した動き。

「敵宇宙生物、宙域に到達。マザー、アラート認定を!」

 ソードはマザーに問う。

「アラート認定否決。敵巨大宇宙生物の強度不明につき設定出来ません」

「では急速離脱を提案」

「離脱不能、包囲されています」

「じゃあ・・・ブラックドラゴンは」

「現時点をもって放棄とします」

「僕は?」

「バックアップ前までロールバックされます」

「マスター・・・だから言ったのにバックアップはマメしといてって・・・」

「マイクロホール起動。ブラックドラゴンを処分します。ソードお疲れ様でした」

 船体中央の動力炉が黒く光を発すると、船体が音をたてて吸い込まれる。

 襲いかかるSTGI。

 数百という敵宇宙生物が迫る。

「お疲れ様でしたマザー。・・・ごめんなさい、マスター、ブラックドラゴン」

 目を閉じる。


 数多煌めく星々の合間に誰知れず黒い花火が一つ上がった。 

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