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STG/I  作者: ジュゲ(zyuge)
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第百五十一話 孤軍奮闘

 STG28のコックピット内で頭を下げるマルゲリータの姿。

 モニター越しにそれを見守る河童と雌猫、そして中隊メンバー。

「やるぞ野郎ども!」

 部隊チャンネルは地鳴りのような足を踏み鳴らす音、そして河童コール。

「負けるもんか~女郎ども~!」

 黄色い声と共に拍手、上半身でダンスを踊る者も。

 一斉に灯る出撃サイン。

「本部許可申請、自動承認されましたーっ!」

「スターゲート、起動、開始! ぬ・・・丸・・八?」

「ぬ、丸、ハ、はひふへほのハ」

「改めまして、ぬ、丸ハ、六参壱、六参弐、六参参、起動しました!」

 ほとんどが使い捨てスターゲートを二から三輪装備。

 マルゲリータのSTGだけ一番多い。

 中隊の多くは船体レベル一から三と低レベル。

 五レベル以上に達しているのはマルゲリータと超長距離索敵で同行した隊員ぐらいなもの。

「ゲートライン接続開始。全機、操舵をパートナーに移譲、確認!っと」

「月詠のタイムライン同期、正常です」

「ランゲルハンスポッド自動射出設定、緑!」

「グリーンね」

「逃げ遅れるなよ~可愛い子ちゃ~ん!」

「そっちこそ! 猫の逃げ足を舐めないでよね!」

「寧ろ舐めさせて~ん」

「キモっ!」

「隊長、変態がいます!」

「通報しました」

「ゲートライン分岐!」

「ゲートラインって何ぃ~?」

「細くて長いの~。アレよーっ!」

「何あれ~っ! 千歳飴みたい!」

「舐めたーい!」

「ちとせ飴って何ぃー?」


 本拠点から飛び出した筒状のゲートラインが三つに別れ、各々の色に誘導灯が灯る。


「中隊長ぉ~一発号令を~、おなしゃす!」

「マルゲちゃん、かましてやって~!」

 マルゲは全員の顔をモニター越しに眺める。

「皆、無理だけはしないで・・・。マルゲリータ、中隊・・・全機発進!」


 丸い二輪の蛍光灯達が、まるでイカの稚魚のように一斉に飛び出した。

 本拠点の外、宙空に小隊用スターゲートが白く灯っている。

 三小隊は吸い込まれるように飛んで行き、消えた。

 ゲートは白から青へ。

 二小隊はゲートではなく闇を切り裂く白糸のように飛んで行く。

 


「雅、艶、茜、葵! スキャン範囲は三メートル以上重なり合うように!」

「御意!」「御意!」「御意!」「御意!」


 脚部にオプションスラスターを装備し、まるで氷上を滑り跳ぶように本部を滑走するアンドロイド達。

 サイコロ上のブロック達を無数に従え散開した。

 ブロックには細長いものもあり、まるでパズルゲームでも始めようと言うのか。


 彼女達は本部専用のパートナー、アンドロイドである。

 ブロックのような物体は本拠点のメンテナンスロボットの一種。

 通常、本部の外で見る事はまず無い。メンテナンス通路を使う為だ。


 本部委員会は仕事が多く、フォローする為に様々な設備がある。

 本部専用のパートナーもその一つ。大きく二種類存在する。

 一つは、部隊パートナーと同様な目的をもつ本部パートナー。

 そしてメンテナンス専用の本部メンテナンス・パートナー。

 静が連れているのは後者。

 本部専用のパートナーは、本部に居た経験が無い限りほぼ知らない。

 エイジやミリオタも当初はその存在を知らなかった。

 

 本部メンテナンス・パートナーは言い換えると、動く補助コンピューター。

 本部委員会の御用聞きとも言える。

 スーパーやコンビニで働く店員のように万能的に動き、自ら得意としない分野に関しては別のパートナーを呼んだり、代わったり、搭乗員パートナー、部隊パートナー等と協力し合うこともある。

 彼女達は「ブロック」と呼ばれる整備マシンを自在に操れ、補修の際は自動的に運用する。

 STG28に搭乗したり戦うことは出来ない。

 様々な入力ポート、装置をもち、本部搭乗員のインターフェースにもなっている。

 造形的には口が無く、黒目に相当するものも無い。

 エイジのパートナーが近いデザインだが、専用のロゴや装備、デザインをもつ。


 本部パートナーは部隊パートナーと概ね同様だが、異なる点が幾つかある。

 感情表現は抑えられており、部隊員の精神的ケアは担わない。

 本拠点内のパートナー全てを統括する能力を保有する。

 本部の意思決定をダイレクトに反映させる行動をとり、法の執行官でもある。

 部隊パートナーは理論に反しても部隊の存続やパワーバランスを汲み取る行動をとるが、本部パートナーは純粋に命令を執行する。ただし規約等に反してない場合に限られる。

 本部専用の大型迎撃装置等は本部の搭乗員もしくは本部パートナーしか操作出来ない。

 メンテナンス・パートナーと異なり、顔や身体は人間風のパーツも多い。


 本部専用のパートナーには共通点が幾つかある。

 感情表現や感情認知機能は抑えられており機械的な反応。

 基本的に人型で、組み合わせパターンを使用する。

 変更できるパーツは非常に多いが細かい調整は出来ない。

 これらは一目で本部パートナーと見分けられる為とも言われている。


 四体のデザインは全てミリオタが決定し、発言ベースは仮で静が設定された。

 本来は本部委員会で本部パートナーを統括するチームを作る。

 無設定でも必要なメンテナンス行動は自動で行う為、問題にはならない。

 ただし付加機能は指示を与える必要がある。

 エイジ達は急場の混乱、引継ぎ無し、時間が無いこともあり、彼女達を一時的に静に統括させた。

 他の本部委員会から後に不平不満も出たが、事態が落ち着いてから改めて話し合うことになっている。


 彼女達とブロックは搭乗員には不可能なペースでスキャナーを設置していった。



(何が起きた・・・)


 最初に浮かんだ言葉。

 身体が動かない。

 息が苦しいようだ。


 突然、グリンと繋がっていた感覚が途切れた。

 ビジョンは無限の如き隕石型が残像のように焼き付いている。

 対戦はおろか見た事すら無いヤツもいた。

 グリン・・・。


(グリンっ!)


 反応がない。

 電源が入っていない手応えの無さ。

 全く意図せず子供がコンセントを抜いた時のように突然だった。

 宇宙に接続されていない。


(デルタ・アサンガ! オメガ・アサンガ! 応答しろ!)


 分体とも通じない・・・。

 宇宙と切断されると分体ともコンタクト出来ないのか?

 なんだそのクソ仕様!

 俺自身なんだぞ!

 宇宙人のテクノロジーはその程度か!


 切り離された俺達はどうなる?

 圧倒的な経験と知識不足。

 普通に考えればエネルギーが切れたら死ぬだろう。

 いや、彼らは自立している。そう簡単じゃないはずだ。

 判らないことが多すぎる。


 待てよ、そもそも俺はオリジナルだよな?

 それともシータ・アサンガか?

 最後に分かれたのはシータだった気がする。

 思いだせない。

 すっぽり抜けている。

 記憶装置のその部分だけが読み出せない感覚。

 今度スライスする時に何か刻印をした方が良いな。


 今、何らかの生命体、アバターに接続されているのは判る。

 でもコレは動かない。

 動く気がしない。

 地球人か?

 いや、この感じは違う。

 もっと強力で、もっと機能的な・・・。

 そうだ。


(長い不調の経験がこんなところで役に立つとは)


 シューニャは全身の神経に丁寧に意識を張り巡らせた。

 まるで体内に小さな自分を血流にそって送り込むように。

 そうすることで様々な事が解る。

 どの程度のダメージなのか、どの程度動けるのか、回復にはどの程度かかるのか。

 そうした事を繰り返し辛うじて生きて来た。


 反応微弱。

 バッテリーが切れている感じ。

 ゼロでは無いが、僅かではある。

 全身のエネルギーが足りない。

 そして、どうやら女だな。

 ということは地球人じゃない。

 アレは男だった。

 唯一、瞼は動かせそうだ。


 半分開ける。


 真っ白な床。

 真っ白な白い壁。

 白い光。

 目を開けた瞬間、「眩しい」という感覚が無かった。

 やはり地球人では無い。

 調光反応が地球人のそれじゃない。

 もっとデジタル的な反応。


 動くのは目だけか。

 いや、聴力もある程度回復しているようだ。

 ノイズが聞こえる。

 これは空調の音か?

 テスト放送のような音も聞こえるな。

 警告音か?

 地球人の耳鳴りとは少し違う。


 目の体操でもするように、ゆっくり、ぐるりと、目だけで周囲を見渡す。


 ソファーが見えた。


 美しい若い女性の笑みが思い出される。

 搭乗員パートナーのビーナスだ。

 抹殺指令の時、二人で過ごした記憶。


 だとしたら私はオリジナルだ。

 いや、シータ・アサンガもその記憶は共有されているか。

 ・・・今はいい。原因探しをしている時間はなさそうだ。

 衰弱している。

 つまりココはSTGIの格納庫で、STG28のアバターということが判った。


 全身が接続されていく感覚に満ちてくる。

 目を瞑って頭に意識を集中。

 根本を理解すると、芋づる式にツリーの下々が一気に理解出来る。

 コマンドは生きている。

 ステータス、やっぱりスリープモード。

 栄養価が極端に低下した場合や脱水状態、生命維持に危険な状態で自動的になる、か。

 脱水、飢餓その他って感じだ。

 となると、出るのは強制転送か。


 なんで格納されないんだ?

 そうか・・・STGIの格納庫ではマザーのルール外。

 とんだリスクがあったもんだ。

 誰か説明書に書いておけ。

 と言っても、長すぎてほとんど読めていない。

 今度、格納庫にビュッフェと医療施設を作っておこう。

 出来ればの話だが。


 まてよ。

 普通に出るのは・・・駄目じゃないか?

 危ない危ない。

 動けないのだから。

 マイルームに転送されると詰むぞ。

 いや、その場合でもマザーに・・・それはヤバイ。

 抹殺指令はまだ有効と思った方が良い。

 ビーナスに助けてもらうか。

 でもビーナスがそもそもまだ居るのかすら判らない。

 なら・・・部隊のメディカル・ポッドに直転送か。

 そうだ、隊長専用のポッドがいい。


 どっと疲れる。 

 意識を集中させるだけでこんなに疲れる。

 健康な人間は気づいていないが、考えるというのは肉体のリソースを大量に消費する。

 少し休もう。


 まるでバッタの大群だった。

 いや、それより酷い。

 予想通り礫のような隕石型宇宙人がいた。

 まるで砂嵐。

 あの中を飛ぶというのは、ホワイトアウトする豪雪の中、高速道路で飛ばすようなもの。

 頭がおかしくなりそうな音を発するヤツ。

 息もつかない濁流のような隕石型宇宙人達。

 侮っていないつもりだったが、想像するのと、経験するのでは天と地ほどに差がある。

 STGIに乗りながら隕石型に恐怖を感じるとは。

 考えが甘かった・・・。


「シューにゃん、数は力だよ」


 不意にミリオタの言葉を思い出す。

 圧倒的な物量。

 夢幻の如き鉱物。

 メテオライトだけで何百万倒しただろうか・・・。

 どれほど居るんだ連中は。

 焼け石に水。


 でも、成果はあった。

 あの中では死なない。

 エネルギーは無限の如く供給出来る。

 幾らでも貪食出来る。

 攻撃がヒットしても瞬時に回復。

 よく漫画やアニメで見たが、回復を上回る場合は無理だろう。

 分体になるのも考え物だ。

 便利なようで時と場合と場所を選ばないと。


 厄介な万能感。

 湧き出る力。

 暗にどうにかなる気がしていた。

 経験してしまえば滑稽過ぎる。

 無知蒙昧。井の中の蛙。


 数は減らなかった。

 文字通り無限に居る。

 手強い敵も。

 明らかに知性があるヤツも。

 見た目も鉱物の類では無かった。

 STG21同様、そっち側についた連中だろうか?

 明らかに文明を感じる造形。

 グリンのお陰で助かったが・・・。

 何故? どうしてアッチ側につく?


「この戦いは永遠に終わらない」


 誰だか言っていた通り。

 やはり近くのコロニーを潰さない限りひと時の安息すら得られないんだ。

 つまり我々に出来る最低限かつ最高の目標は間違っていなかった。

 万に一つそれが成功しても後は運任せだが・・・。

 地球を守りながら近いコロニーを破壊する。

 それしかない。

 問題はコロニーの場所がまだ判らない点だが。

 仮に判ったところで出来るのかそんなこと・・・


 いや、やるしかない。

 他に選択肢は無いんだ。

 出来なければ死滅。

 本当に無いのか?

 あらゆる可能性を仮にしておこう。

 動きながら考えるしかない。

 今は単なる偶然の、奇跡の中で、偶々生きているに過ぎない。

 考えると恐ろしい話だ。


 分体とも上手く連携が取れない。

 考えれば当然だ。

 車だって自分の身体の一部のように動かせるようになるには相当な時間がかかる。

 俺は不器用な方だ、尚更だ。

 ましてや分体は生きている。

 何故そんな簡単なことが解らない。

 STGIはどうなっているんだ・・・

 グリンは・・・・。

 マズイ、疲れが増している。


 出来ないことを考えるな。

 発想を転換しろ。

 寧ろこの状態でアバターが死亡していたら危なかった。

 視点を変えればラッキーだったんだ。

 この状態でロストしていたら恐らくSTGIも消滅していた可能性がある。

 あくまでSTGIはSTG28あっての存在だ。

 ということは、地球のアバターがロストしても同じことか。

 地球のアバター?


(本体じゃねーか)


 そう言えば地球の俺はどうなってる・・・。

 判らない。

 また判らなくなってる!

 接続が切れている。


 ということは、今の中の人はSTG28のシューニャってことか?

 いや、どう考えたって地球の俺が死んだらマズイぞ!

 地球の俺はなんて名前だった?

 シューニャ・・・いやいや日本人だぞ・・・。


 思い出せない。

 あの時と同じ。

 リンクが切れている。

 地球に戻れる気がしない。

 どれぐらい地球人に戻っていない?

 時間間隔が地球人のそれとは違う。


 俺が生きているということは、地球の俺も生きているって考えていいよな?

 それとも、地球の俺が死んでも、STGの俺が生きていれば生きられる可能性も・・・。

 サイキさんが見つけて、前みたいに、食べ物なり、飲み物なり与えたり、呼んでくれれば可能性はある。


 シューニャは長く細く息を吐いた。


 急がないと。

 コマンド、転送、場所の指定・・・。

 意識が上手に収束出来ない。限界が近い。


 コマンド、転送、場所は・・・部隊のメディカル・ポッド。

 隊長専用ポッドを指定・・・出来ない? 何故?

 駄目だ。

 受け付けない。

 ココではエラー内容が解らないのが地味にキツイな。

 マイルームに簡易メディカルを設置しておくべきだったか・・・。


 いや、後悔している余裕は無い。

 とにかく、今はこのアバターを救わないと。

 部隊メディカルにしよう。もう限界だ。

 ものを考えるというのは思いの外リソースを消費する。

 具体的にイメージしてコマンドを送る。


(よし、転送!)

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