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STG/I  作者: ジュゲ(zyuge)
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第十五話 謁見

 宇宙人・謁見の間。


「違うと?」

「はい」

 日本・本拠点戦の最前線で連合部隊をつくった部隊長の三名がそこにはいた。

 会うために必要な戦果は委員会への積立戦果から七割程度拠出し三割は自己負担。

 嘗ては全額委員会積立だったが、メンバーの意見対立からこうなった。

 しかも暫定的措置であり未だ対立は拭えない。

 曰く「不平等だ」というのが彼らの弁。


「では、どうして警戒警報が遅れたのですか」


 真っ白い部屋。

 広大な空間。

 構造物の内部にも関わらず霧がかっておりよく見えない。

 その一番奥に宇宙人はいる。はず。

 よく見えない。

 うっすらと錆びた胴のような青みがかった色の身体が見え隠れし、時折、霧の合間に宇宙人グレーに似た大きな瞳、大きな頭が見える。光を背にし、霧に紛れ。

 三人の一人、ドラゴンリーダーが猜疑心を込めた瞳を向ける。

 当初は”竜頭巾”も出ると言い張ったが、彼は大きな戦力だったことからSTGの強化を優先させるよう強く言い諭し、彼は折れる。

「それはあなた達がよくお分かりなのではないですか?」

「わからないね」

「まーまー・・・ひょっとしてアレですか、索敵範囲が不十分だったから」

「お分かりですね」

「つまり貴方方は我らの索敵ポッドのみで警戒警報を出していると」

「お分かりのように」

「貴方方は彼らの接近には気づいてなかったのですか?」

「気づいております」

「それを聞いてるんだよ!てめー!しらばっくれているんじゃねーぞ!気づいているならどうして知らせないんだ。テメーらにも関係があることじゃないのか。地球を守るのは結果的にお前らの利益にもなることだろ。前言ったよな!」

 滅多なことでは怒らない彼が怒鳴り声を張ったことで二人は意表を突かれ黙り込んでしまう。

「我々は気づいた。貴方方は気づかなかった。そういうことです」

「はぁっ?馬鹿にしてんのか、喧嘩売ってんのか!」

「やめろって」

 二人はようやく我に返る。

「落ち着けよお前、どうしたんだ」

「確かに我々にとっても貴方方が彼らの進行を一秒でも遅らせることは価値があります。よってこうした施設を提供もしてもおります。それと同時に我々は過度な干渉を禁じられている」

「これも過度な干渉になるのか?」

「ええ」


「・・・・」


 三人は深い失望に包まれる。

「なら仕方ない・・・か。怒鳴って悪かった。申し訳ない」

 深々と頭を下げ、宇宙人はそれを瞬きもせず見据えた。

「もっと索敵範囲を広げるしか無いか・・・寧ろそれがわかっただけでも良かった」

「多分コンドライトだ。あいつらが斥候的に動いているんだよ。そして索敵ポッドを破壊している。奴らは速いし色を変えるヤツもいる」

「じゃあどうやって防ぐよ」

「動態センサーでやろう。設定を絞ればAI判定で警報を流すことが出来る」

「エネルギー切れ以外でポッドが消失した際に警報を流すようにしてもいいんじゃないか?」

「ああ、それもいいな。いずれにせよポッドの状態を常にモニターしていないと今後はマズイぞ」

「取り敢えず警報レベルを調整しよう」

「参ったな・・・委員会の戦果だけだとポッド配布まで回らないぞ・・・」

「皆に協力してもらうしかないだろ」

「アイツらがするとは思えないが・・・」

 彼らは小声で話し合った。

「もう一つ」

 リーダーは更に尋ねる。

「これが最後です」

「わかった。サイトウなんだけど、あれは貴方方の仲間か?正直さ、あいつ一人でいいような気がするんだけど。というより、STGIを俺らに配備すれば完了なんじゃね?って話なんだが。それも過度な干渉なのかね」


「彼は地球人です。そして皆さんの言うSTGIは我々とは無関係のモノです」


 全員が呆気にとられる。

 ピタリと動きが止まり。

 目がめいめいに見開かれた。

「え?・・・どういう」

「彼が搭乗している人型を模倣した搭乗物は我々が支給したものではありません」

「嘘でしょ・・・」

「ちょっと待って・・・待った、頼む、もう少し、もう少し待って・・・」

 リーダーは両手を前に突き出し懇願する。

 目をつぶり、顔をしわくちゃにし頭をフル回転。

「お前ら以外に・・・宇宙人がいるってことか・・・」

「ええ」

「・・・どういうことだよ」

「貴方方にも外国というものがあるように、我々にも外国があります。それではまた、楽しい時間をありがとう。健闘を地球の中の日本人よ」

「待って、もう少し、もう少し!」

 霧が謁見の間の扉に向かって勢い良く吸い込まれ出す。

 半ば強制的に扉の外へ身体が引っ張られた。

 嵐に向かうようにリーダーは光の先、宇宙人のいる方を凝視し歩き出す。

「やめろ!やろって!」

 制止する声が聞こえた気がする。

 風が強すぎて前へ思うように進めない。

 二人が更に「やめろ!行くな」と止めているようだが彼は聞いていなかった。


(さっきのヤツとは違うやつだ・・・)


 霧の中に辛うじて見えたその姿。

 手足が異様に長く、頭が小さい。

 まるで松葉のように細い身体が見えた。

 芯がないようで歩く度にユラユラと揺れる。

 彼はまるでリーダーの目線に気づいているかのようにコッチを振り返った。

 風が強すぎて目が開いていられない。


「おい」


 誰かが肩を叩く。

 風に抗うように前進していたつもりだったが、いつの間にか外へ出ていた。

「あれ・・・」

「お前、ビビらせるなよ」

「何が?」

「宇宙人を怒らせたらどうなるか・・・」

「しらねーよ」

「おいおい・・・お前どうしたんだ?あれ以来おかしいぞ」

「冷静でいられるか・・・」

 普段無口な有志連合の隊長がポツリと言う。

「そりゃな・・・。ノボリんこと好きだったんだろ?」

 リーダーはジロリと彼を見た。

 しかし直ぐに冷めた顔になる。

「あのな・・・誰も彼もが恋愛厨だと思うなよ。・・・童貞が」

「は~っ?誰が童貞だって!」

 襟首を掴む。

「離せって・・・雑魚が」

「てめ・・・」

「ヤメヤメヤメヤメ、ヤメーヤ!餓鬼かお前ら・・・なんなんだ。多少なりともマトモな連中かと思ってたら・・・」

「部隊長がこれじゃノボリに同情するよ」

「リアルで殺すぞ・・・」

「だから止めーって!なんなんだよ。なんなんだよ本当にお前ら。嫌になるわ」

 最も騒いだら手がつけられそうにない風体のロボット型アバターが止めている。

「すまん・・・」

 リーダーは頭を下げたが彼は応えなかった。

「・・・」

「とにかくこれでハッキリしたことがある。サイトウは人間、STGIは別規格。別の勢力。もうこれだけで俺の頭はパンク寸前だよ。その上、揉め事を起こすな、頼むから」

「奴らが本当のことを言っているならな」

「そこを言ったら話が始まらないだろ?」

「どうだか・・・」

「・・・」

「どうしてサイトウはSTGIを手にすることが出来たんだろうな?」

「それこそタッつんに聞いてみてよ」

「それもそうか・・・」

「なんだかんだ言って、サイトウさんのこと一番くわしいのは彼でしょ」

「だと思う」

「サイトウさんがもう少し我らに協力してくれたら・・・」

「・・・俺はヤツ嫌いだよ」

「なんで?」

「なんか・・・気に食わない」

「彼がいなかったら我らは何度壊滅しているか。アメリカもサイトウとコンタクと取りたがっているらしいね」

「アメリカに限らずだろ・・・」

「そうだけど」

「・・・」


(だんまりかよ)

*

 ゲームなのか現実なのか。

 何がなんだか。

 俺は死ぬのか生きるのか。

 何が原因なのか。

 何が悲してく悪くなる方へ向かうのか。

 何がこうなるのか。


 サイトウの寝顔に笑みが浮かぶ。

 

(ビーナス・・・可愛いなぁお前)


 誰だ?

 なんだ・・・お前、結婚したんじゃなかったの?

 どうした・・・なんで泣いているんだ・・・何があった?

 俺は駄目だ・・・死ぬよりも酷い。死が待ち遠しいよ・・・。

 駄目だ・・・。

 駄目だ、死ぬな。

 死なないでくれ、死ぬな。死ぬな・・・やめろ、やめ、頼む・・・。

 誰か、助けてくれ・・彼女を・・・父さん?母さん!

 俺が・・・代わりに・・・皆は生きて・・・皆は俺が・・・。

 皆は俺の代わりに・・・生きてくれ!

 ああ・・・あぁ・・・っ!

 あー・・・・。


 彼の目尻から涙が流れる。


 微動だにしない。

 窓から強い光が差し込んでいる。

 階段を駆け下りる音。

 楽しげな声。

 若い母親と思しき声がそれに応える。

 シングルマザーだろうか、父親の姿を見たことがない。

 彼女の弾んだ声に対して、母親のソレは沈んでいる。

 伝わる疲労感。


(娘を守る為に必死なんだ)


 強くなる日差し。

 

(あー現実か・・・なんだか嫌な夢を見たような・・・思い出せない)

 サイトウは唐突に上体を起こす。

 眠りから冷めたミイラのように。

(あ・・・またパソコンつけっぱなし・・・嫌になる)

 大きくため息をつき、ゆっくり起き上がる。肉体は泥で出来た身体のようにドロリとして鈍い。画面を見ると毎度のことながらプリンからのコールが大量に入っていた。

「プリン」

 笑みが溢れる。

「全くな・・・」

 ぼそりと呟く声は楽しげだ。

「午後三時半・・・」

(どんどん遅くなる。夜更かしし過ぎた)


 サイトウのことを調べていた。

 公式サイトにはwikiも用意されている。

 止せばいいのに午前三時半までフラフラになりながらサイトウのことを調べていた。

 具体的に何か目的があったわけではない。

 これといって手応えのような情報もなかった。

 Wikiには憶測だけが飛び交い、彼のことで明確なものは無い印象。

 それでも目撃情報や彼の噂は一つの情報になりえる。

 プリンから送られた映像も見た。

 先日のロビーでの騒動も。

 中年男性のアバターということはわかるも、特に心当たりは無い。

 無精髭に精悍な顔つき。がっしりした身体。労働者の肉体だ。

 彼とは異なり働けるというのがひと目でわかる。

 自分とはまるで別人。

「・・・まあ、こういう格好いい中年になれたいいとは思うが」

 特に何かを期待したわけじゃなかった。

 ただ、なんとなく気になっただけ。

「でも声が・・・似てるような・・・」

 外見はともかく声が似ているとは感じる。

 言っても、自分の声を正確にはわからないが。

「声というか、声の雰囲気というか、喋り方というか・・・なんだろう」

 ロビーの事件は広く知るところだったようで公式サイトのニュースにもなっていたことを知る。公式情報を全く参照しない彼は知らなかった。多くの目撃情報があり、相当数のブログに記述もある。思いつく限り片っ端から読んでみる。彼の感想は、


「人はかくも同じものを見て表現が違うものか」である。


 彼が知りたいような情報は皆無に近く、川砂の中から砂金を探す行為に思いながらも取り憑かれたように読み漁った。

「捌いても捌いても金は見つからず・・・か」

 それでも気になるものはあった。


”STGを提供している宇宙人と敵の宇宙人はどういう関係?”


 思い思いの憶測が語られているスレッドの中にその投げかけはあった。

 議論にはなっていなかったが、この投げかけそのものに興味が湧く。

(確かにそうだ。この兵装を提供している連中とはそもそもなんなんだ?地球を脅かすから敵、それを撃退する武装をくれるから味方。そんな簡単じゃない。現実でもそうだろ。傀儡国家なんてまさにそうだ。寧ろ最悪の敵は武装を提供する側ってこともある・・・でも)

 ある童話を思い出す。

(彼らの協力を得られなければ地球へ接近する。追い返す必要がある。本当にその必要があるのか?災厄を自ら招いていないか?・・・わからん。もしこれが現実なら・・・。まさか・・・う~ん)


 勢い良く立ち上がる。


「やーめた」

 テーブルの上のビル群は一層高くなっている。

「片付けないとな・・」

 コーヒーを入れる。

 スティックコーヒーは尽きた。

 二百グラム入りの詰替え用インスタントコーヒーをセールで購入。

 最近は週に一度買い物へ行く程度しか外出しない。

 しないというか出来ない。

「ん~・・・苦いな・・・やっぱりあの味は再現出来ないか」


 深い深い溜め息をつく。

 

 彼は窓越しに光を浴びながら擦りガラスの向こう側にあるであろう空を見る。

 でも彼の脳はSTG28に搭乗し宇宙を見ていた。


 小学生の頃、塾の帰りに冬の星空を眺めるのが好きだった。

 吐く白い息。

 満点の星空。

 唯一わかったオリオン座。

 何がそんなに楽しかったのか、一人クルクルと周りながら燥いで帰った。


「天文学者になりたい」


 父は幼い子どもの戯言を「天文学者なんて物理学者の中でもトップクラスの人間がなるものだぞ。こんな宿題で手をやているようなお前には無理だ。しかも計算と観測ばかりで面白くともなんともない。くだらない夢みたいことばかり言ってないでさっさとヤレ!」一蹴した。作りかけのガラス細工だった彼の夢は一瞬で砕ける。


「間違ってはいなと思うけどさ・・・このザマだし」


 このゲームの宇宙に魅了されていた。

 そして自らのSTG28、ホムスビに。

 パートナーにも。

 出来ることならマッタリとマイペースに遊びたい。


(宇宙人・・・か)


 プリンの話だと委員会に所属し一定の戦果を貢いだ者は謁見することが可能だという。相当な戦果をつぎ込めば委員会を通さずに会うことも可能らしい。ただし記録は残る。プリンは委員会には属しているようだが実際にあったことが無いと言った。


「だって~そんことに戦果使うなら他に使いたい」


 最もな話である。

 とはいえ、そもそもの問題を棚上げし、STGやパートナーに戦果を導入することは「解決を遠ざけるだけのことではないか?」とも考えていた。

 サラリーマン時代に上司とやりあった経験が思い出される。根本的問題を放置し湯葉の上澄みだけすくって問題解決とした数多の仕事。「何の意味がある?」結局それが原因で遂には瓦解する。彼は現代の病巣そものだと思っている。自らの原因不明の病床から体感した。彼らの言う、治ったというのは一時凌ぎだということを十年経て気づく。


(元から絶たないと駄目だ)


 そのためには元の原因を探らないと見間違う。


「謁見に戦果を使うか・・・」


 謁見に必要な戦果は非常に高い。

 計算機をタップしながら、メモと併用し記述する。

「あ~やっばい、素で暗算が出来なくなってる、こうなるんだな」

 レベル二のホムスビでは到底稼ぎきれないことは直ぐにわかった。

 最も早く謁見に必要な戦果を挙げる実用性の高い改造レベル。

 計算しても頭が玩具箱をひっくり返したようで混乱している。

 この感覚が過ぎるとパニックを起こす。


 考えるのを止め、肉体感覚に問い合わせる。

 目を閉じ、クエストレベルと、戦果報酬を思い起こす。

 無限に広がる宇宙。

 煌めく星々。

 隕石群。

 漆黒の闇に輝く白金のSTG28。

 パートナーの笑顔とフレンドの声。

 何度も何度も。


(レベル六かな?・・・やっぱり)

 

 強化は十段階、修繕代や大破時の費用対効果が高いレベル。

 根拠は過去のゲーム経験からだが概ね似通って思えた。

 レベル五から特化系統を選べるようになる。


「おし・・・まずはレベル五だ。そこから謁見を視野に入れつつ六へ。本当に宇宙人か会えば早い。STGに搭乗中はパートナーから、何が答えられて、何が答えられないのか探ろう。それだけでもわかれば裏側は透けて見えるし。色々聞きたい。(でもな~どうも彼女らは引っかかる・・・)」

 深い溜息が漏れる。

 心臓が強く鼓動し疲労を告げる。

(疲れている・・・疲れの本質とはなんなんだろう・・・)

 疲れると決まって心臓が強く打った。

 そうなると後はあまり無い。

 考えれば考えるほどゲームとは思えなくなってきている自分がいる。

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