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STG/I  作者: ジュゲ(zyuge)
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第百二十六話 遭遇

「マッシュちゃん、タコパ開始!」


 彼女の言うタコパとは、球形センサーが無数に繋がれた多関節チェーンを三百六十度、無数に目一杯広げ、大規模索敵する行為を意味する。

 現時点では静止中なら最も長距離索敵が可能。

 デメリットも多く、余裕があるタイミングでしか使用出来ない。

 非常に目立ち、展開中はほとんど移動が出来ない。

 格納時間も要する為、敵襲があった際に即応出来ない。

 それら欠点から装備そのものの汎用性はある程度用意されている。

 切り捨てる場合に、武装や索敵ポッド、ビーコン、ダミーとしても用途を切り替え使用出来る他、高い隠蔽性を持ち合わせ、STGを覆うことで各種センサーから存在を消すことが出来る。

 ただし利用者はほとんど居ない。


 触手を全方位に広げていく。

 各々の触手が別々にユラユラと動いた。

 金属製の球形、たこ焼き部分が大きく膨れ上がり、色が変わった。

 範囲を広げるほど、ゾッとする数がマップに反映される。

 マルゲリータは思わず身を堅くした。

「凄い数・・・」

 生唾を飲み込む。

「マッシュちゃん、気をつけて、慎重に・・・」

「OK、マッシュ・・・」 

 知らずお互い小声になっていた。

 伸びるに従い続々と広域情報が反映。

 その数は夥しいほど膨れあがった。

 宙域辺りの密度が大戦時の数を越えていた。

 センサーがキャッチした情報が画面を埋め詰め尽くしていく。

 彼女は石像のように身を固くし、目を皿のように開いた。

「隕石型と異なる反応をキャッチ。小集団、追われてるかも」

「どれ?!」

 青く強調された。

「ほんとだ・・・どこの部隊だろ・・・」

「識別不明。STG28じゃないっぽい・・・」

「えっ!・・・じゃあ・・・なに?」


(宇宙人)


 咄嗟に頭に浮かんだ。

 本当にいるんだ。

 シューニャさんが言っていた。

 他のSTGの存在。

 私達と同じような知的生命体。

 私は何処か遠いでき事のように聞いていた。

 本当にいる・・・。


「データベースに該当無し。未確認飛翔体と認定。オーラ分析だと三十%程度がSTG28に類似マッシュ」

「・・・それって・・・STGIとか?」

「STGIは分析出来ないマッシュよ」

「あ、そっか・・・。3Dモデル出来きないかな?」

「ぼんやりなら」


 ソナーを打たないと物理モデルは正確にはわからない。

 また正確な形を捉える為にセンサー強度を上げる必要がある。

 それは危険が伴う。

 今は最も隕石型が把握しずらいセンサーで索敵していた。


 画面にモデリングされた。

 曖昧だが外形はどことなく掴めた。


「細長い、ね・・・でも、なんだろ、どことなく似てる?・・・」

 それはマッチ棒のような人工物に見えた。

 姿形は到底STG28とは思えない。

 でもマルゲリータは共通点を感じた。


(そうだ。あっちも幾何学模様に近いんだ・・・)


 小集団が夥しい数の隕石型に追われている。

 彼らは追い立てられ、散り散りになって行く。


「・・・どうしよう・・・」

「どうしようって・・・何かする気なの?」

「だって、追われているんだよ・・・あんなに・・・」

 彼女は顔を歪めた。

「もしあれが他の星系の船なら絶対に手を出しちゃ駄目ッシュ」

「なんで? 可愛そうじゃない」

「外交問題。影響が出るよ。マルゲちゃん一人だけの問題じゃ済まなくなる」

「そうなんだ・・・でも・・・」

 外交問題と言われてもピンとこない。


 分断された各機は四方八方に飛んでいく。

 その距離は増々離れていく。

 一機が、乱れ飛んだ後、最後の力を振り絞ってか、猛然と真っ直ぐ飛翔して来た。

 それは彼女のいる方位だった。


「向かってくる!」

「えっ! 気づかれたの?」

「わかんない。偶然かもしれないけど、この速度はマズイ。撤退するね!」

「でも・・・」

「マスターっ!」

「・・・うん、そうだね。タコパ終了! 撤退!」

「了解。緊急回収!」


 広がりきった触手はSTGの何倍もあり、ユラユラと不安定。

 一気に引き込むと絡みつきそうな様子に見えた。

 だからか、マッシュは緊急回収と言ったが、悠長に回収しているように見えた。


「大変! コンドライトよりずっと速い! 回収が間に合わない!」

 マッチ棒は真っ直ぐコッチへ飛翔している。

 モニター上では嘘みたいな速度で間を詰めて見えた。

「迷彩マリモに!」

「了解マッシュ!」

 触手を完全には格納せず、STG28を球形に覆い出す。

 しかしその動きもやはりスローだった。

 光学的、電磁的といった様々な迷彩反応をし、存在をかき消す。

 だが、それは一か八かの賭けだった。

 この状態では何も出来ない。

 マリモのように宇宙をじっと漂うしか無い。


 触手に完全に覆われ、STGトーメイトは姿を消した。


 センサー類は遮断されると同時に、コチラ側からも観測は出来なくなる。

 迷彩マリモの状態から格納する場合、更に時間はかかった。

 安全が確保されるまで浮遊するしかない。

 そして、物理的には存在している為、宙域に存在しているアステロイドや、隕石の欠片、デブリといった物には衝突する。


「迷彩マリモ完成したよ」

「うん」


 マルゲリータは息を潜めた。

 モニターは自機を中央にSTGを覆っている状態が描画されている。

 それ以外は真っ黒だ。

 STG独特の音色のような駆動音だけが聞こえる。

 触手カメラを写すことは出来たが、マルゲはしなかった。

 仮に何かに気づいたところで、この状態からは何も出来ない。

 塵や浮遊物が触手に接触する度にモニターに描画される。


「後どれくらいかな・・・」

「五分ぐらい」


 また、小声になっている。


「格納したほうが良かったかな・・・」

「あの速度だったら追いつかれていた。正しい判断だと思う。凄いよマスターは」

「凄くないよ・・・臆病なだけ・・・」

「臆病だったら無闇に逃げる方を選ぶよ、立派だったよ」

「ありがと・・・」


 漂う沈黙。


 声が聞こえるということは無い。

 それでも喋ることが怖かった。

 センサーに時折衝突反応がある。

 でも、それらは小さい。

 微細な塵はそのまま触手の内側を通り過ぎてそのまま反対側へ流れていく。

 言い換えると、突然消えて、突然現れる塵やデブリ。

 STGトーメイト級のセンサーが装備された船ならキャッチするだろう。

 事実、そうした違和にマルゲリータは気づきやすい方だ。

 でもそれは今更の考えだった。


 それはとても長く感じた。


「そろそろ・・・」


 マッシュの声にビクリとする。

 すっかりマッシュの存在も忘れていた。

 この宇宙に、たった一人取り残された感覚になっていた。

 後どれくらい待てばいいのだろうか。

 あの速度のままなら一分でも充分かもしれない。

 それとも途中で方向を変えた可能性も低くない。

 センサーを閉じるのが早すぎた?

 ギリギリまで見ているべきだったか!

 それともやはり逃げるべきだったか。

 追ってきたのでないなら、充分それで引き離せる。

 でも、動いているのを感知されたら逆に追ってくる可能性もある。


 後悔と選択肢が通り過ぎる。


 マッシュの警告を聞いた時、瞬間的に「逃げられない」と感じた。

 タコパのほとんど限界距離で索敵している。

 あの距離で気づかれるなんて夢にも思わなかった。

 追われていた宇宙船。

 散り散りになる船達。

 ほんとうに宇宙人なんだろうか。

 何かの間違いじゃないか。

 やっぱりタコみたいな感じなんだろうか。

 それともイカだろうか。

 昆虫が実は宇宙人なんじゃなかって聞いたことがある。

 それとも私達みたいな・・・。

 彼女たちも戦っていた。

 隕石型宇宙人と。

 アレはなんだろう。

 隕石型ってなんだろう。

 なんで岩が動き回るんだろう。

 なんで私達を襲うんだろう。

 そもそもこの宇宙船、STG28ってなんだろう。

 STG28・・STG・・・28。

 シューニャさんが、STG21の民と喋ったって言っていた。

 現実味が無かった。

 嘘じゃないとは思ったけど。

 途方も無くて、リアルに感じられなかった。

 21・・・21番目の船。

 21番目の知的生命体。

 もう無い星。

 もう居ない星人。


(戻れない故郷・・・)


 急に涙が出てきた。

 怖い。

 隕石型宇宙人はどうしてそんなことをするんだろう。

 なんで壊されないといけないんだろう。

 彼女たちは何番目なんだろう。

 仲間にはなれないのかな・・・。


『たすけて』


 マルゲリータは顔を上げる。


「マッシュちゃん、何か言った?」

「言ってないよ」

「でも、『助けてって』・・・声が・・・」


 時が止まったかのように静止する。


「どうしよ・・・」

「このまま流されるのも得策とは言えないけど、もう少し待ったほうがいいと思う」


 接触センサーが同時に全方位で反応!


「反応アリ!」

 マルゲリータはビクリとする。

 完全に覆われている!

 鷲掴みにされたように、一瞬だった。

 でも衝撃反応は無い。

 触れる程度。

 しかも、今は触れていない。


「何物かが侵入!」


 モニターでは触手が広げらているのが見えた。

 その隙間から生物的な管が無数に見える。

「どうするマスター?」

 マルゲは答えられなかった。

 裂け目からイソギンチャクのような管がSTGに伸びるのをジッと見ている。

 そして今度はハッキリと聞こえた。


『たすけて』


「ほらっ! 言ってる!」

「何を?! 防衛システムが働かない!」 

 触手はSTGトーメイトのエネルギーシールドをスルリと貫通すると第一装甲板に触れた。

「パルスショックを発生させるね!」

「待って・・・少し、聞いて上げよ・・・」

「マスター?」

 コックピットが赤く染まる。

 コアの音声が流れた。

「外部から侵入あり、搭乗員に精神汚染の影響がみられます」

「マスターっ! 操舵権を僕にっ!」

「大丈夫、怖いけど、大丈夫、私、ハッキリしているから、今、この子といる・・・」

「この子? コア・コンピューター、精神判定は?」

「イエローです。喪失状態とは言えません」


 マッシュはホログラムでコックピットに現れた。

 マルゲリータは気の抜けた顔をしており、目が真っ白になっている。


「マスターっ、僕に譲渡して! 早く!」

「大丈夫、落ち着いて・・・彼女は怖がっているだけだから。・・・今、私は青空の下にいるの。足元には短い草が生い茂っていて、立派な樹が一本立ってる。その下に白いテーブルがあって・・・」

「何言ってるの? マスターは今STGのコックピットにいるんだよ!」

「わかっている。そっちも見えているから・・・。私は浮いていて、フワフワしていて、眺めているの・・・コックピットに座っている私と、樹の下の彼女を・・・」

「コンピューター、精神汚染が進んでいる!」

「イエローです」

 コックピットに座っているマルゲリータの両目から涙が流れた。

「マルゲちゃん?」

「大丈夫・・・彼女たちの星が・・・星が・・・襲われて・・・こんなに小さいのに・・・可愛そうに・・・散り散りになって・・・なんで・・・こんな・・・」

 マルゲリータは瞬きもせず涙を流し続けていた。

 彼女に黒目が戻ってきた。

「マッシュちゃん、触手を広げて、彼女も入れてあげて!」

「そんな! それは・・・」マッシュは「出来ない」と言えなかった。

 搭乗員パートナーはその基本において命令をきく。

 搭乗員の命の危険に及ぶ場合は別であるが、コアは異常判定を示していない。

「トーメイト、主権の譲渡提案を申請!」

「パートナー権限を受領・・・否決されました。条件不十分です」

「マッシュちゃん、大丈夫だから・・・お願い・・・」


 即座に命の危険が及ぶ状況とは判定されなかった。

 命令に従わざる負えない。

 マッシュはホログラムを消すと、触手を展開した。


 全貌が間近で見える。


 STG28よりも遥かに大きい。

 長いといった方がいい。

 少なくとも全長は五倍以上あるようだ。

 直径は28の円錐底部より短く半分程度。

 全体は白く、円筒状で、先端が膨らんでおり、マッチ棒のような形状をしている。

 戦闘の為かアチコチが欠けていた。

 それはマルゲリータが思った通り、STG28にどこか似たものを感じさせた。

 タコパのメカニカルな触手とは異なり、その船の触手は有機的で海に揺らめくイソギンチャクを想起させた。青白く発光し、うごめく様はお世辞にも気持ちのいい光景では無い。

 それでもマルゲリータは愛おしそうにその触手を見ていた。


「包んであげて」


 彼女は自身の保護対象でも見るように穏やかな声で言った。

 マッシュは何も言わなかった。

 精神汚染は正常値に下がっている。

 バイタルサインにも異常は無い。

 今の彼女は数値上は完全に正常だ。

 マザーとの接続はオフラインのまま。

 オンラインだったらアウトだろうことは明らかに思えた。


「うん」


 マッシュは短く応えた。

 触手を伸ばしていき、ソレを包みこむ。

 白いマッチ棒は自らの触手を船内に格納すると、どういう原理か、小さく縮んでいった。

 今はSTG28と同じ全長にまで縮む。


 コレで包めないという言い訳も出来なくなった。

 円錐に寄り添う円筒。

 包み込んでいく。

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