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STG/I  作者: ジュゲ(zyuge)
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第百十二話 クラウド

「いいんですよ・・・サイキさん」


 サイキはその一言で全てを察した。

 絶望的状況に一ミリの変化も無いことを。

 ただ、彼の顔に絶望は満ちなかった。


「まだ足りねーか。わかった、それが聞けただけで充分だ! やってやろうじゃねーか。トコトンやる!」


 その表情は喜々としている。

 痩せ我慢ではあるのだろう。

 それも我慢のうち。

 逆境に強い人間。

 元からの性質に加え、実際に乗り越えた壁の高さと数が確固たるものに仕上げた姿。

 生命感の輝きは絶望の色が濃くなるほど寧ろ増している。

 私とは違う。

 羨ましい。

 彼みたいな人になりたかった。

 表情だけではなく本当に喜んでいるようですらある。

 恐怖を希望に変換させる術を体得している。

 生きているんだ。

 後ろを向かない。

 彼みたいになりたかった。


「期日は想像も出来ません。グリンがフェロモンを消して回ったのが功を奏しているのでしょう。我々も観測出来ません」

「だったら、もう来ないってことは無いか? 当面とか、宇宙規模で」

「・・・それは無いでしょう」

「どうして言えるんだ!」

「STGIに、乗ったからです」

「STGI・・・STGI・・・俺のわからん世界だ。反論できん!」

「そうとしか言えないんです。キツイ例えになるかもしれませんが、観測能力の高い機体が観測能力を持ち得ない機体より、より多くの情報を持っているのは当たり前です。それを知らしめろと言っても無意味です。理解出来ないでしょうから」

「わかった! もういい。STGIだな。だったら観測ブイの距離をのばせばどうだ? 少しでも早く動向を探れるようになる」

「ご存知のように大戦後に延ばしました。マザーが自身の観測結果を通知をしない事実が大戦でわかりましたから。そして、だからこそフェイクムーンは捉えられた」

「だから、もっと広げろって話だよ!」


 サイキが苛立っている。

 それなりに自信がある作戦だったのだろう。

 それが無意味だと知らされて。

 無意味ではないのだが。

 無力感に苛まれている。


(可愛いわね)


「それはリスクでもあります」

「・・お前がさっき言っていた話か。人類そのものが奴らを誘き寄せることになった可能性があるという・・・」

「それだけじゃないです。ブイを置くということは、メンテが必要になる。中継装置も必要だ。それらは常時高出力で発信している。ソレそのものが存在を知らしめることになる」

「あのさ、あの隕石が電磁波とかその手の捉えられるとは思えないんだが。またSTGIがーか?」

「隕石が、と言うより、それを利用している者達ですね」

「なんだそれ!」


 地球人とはこんなにも面倒くさい生き物だったんだ。

 グリンと違って話が一瞬で通じない。

 もどかしい。

 彼女とならビジョンで終わることなのに。


「言ったように彼らの総合的な動きには知性すら感じます。そこからの推測です。繰り返しますが、隕石達そのものは自然現象なのでしょう。天災として元からあった。月にもクレーターが沢山あるでしょ? 今も数多の彗星や流星が飛んでますよね。それと同じです。地球で言えば昨今増えている山火事と同じです。乾燥して、発火現象があり、火事になり、結果的に条件が揃い広がる。その宇宙規模と言えばいい。でも、発火をする者がいるとしたらどうです? 言われるまでもなく自然現象でも発火は起こりえます。火事の原因を探る時そこは重要ですよね。それと同じで、このケースでは糸を引いている者を感じます。あの大戦でもそうでしたよね。私はどうも違和感を感じていました」

「俺は感じなかった」

「ある種の反応に対し、更に上回る反応で返して来た」

「でも、それを言ったらウィルスだってそうだろ。ヤツらは厳密には生物じゃないだろ? でも、自らを拡散させる為に進化はする。それと似たようなもんじゃないか?」

「変化、進化が単純ならそれも頷けます。でも、ドミノ作戦におけるアルゴンバラガン反応に対する彼らの反応は単純じゃなかった」

「それはお前の主観だろ?」

「まあ・・・」


 面倒くさくなってきたな。

 話もズレて来ている。

(地球人って面白いのね)

 どこかだよ。

 面倒くさいだけだ。


「でしたら、あのフェイクムーンですが、あの航路を通ったのは偶然じゃないでしょう。明らかに日本・本拠点のカバーエリアを目指していた。彼らには目的があるようでした」

「それこそ偶然なんじゃないのか? 地球は目指したいんだろうが、日本っていうのは」

「そうでしょうか? また主観になってしまいますが、彼らの目的は常に地球と言うより・・・」


 黙った。


「なんだ、言えよ」

「・・・サイトウさんだと思います」

「また、サイトウかよ! なんでだよ、地球よりサイトウが優先って意味がわからん!」

「え、わかりませんか? 彼がいなければ恐らく地球は既に無い」

「そうとは言えないだろ!」

「・・・それは本心ですか?・・・」


 二人は見つめ合った。


「・・・結果論だろ。サイトウが救ったように見えるのは」

「我々の存在が無意味とは言わない。貴方が言ったようにスーパーヒーローにも駆けつける時間がいる。無意味なわけがない。でも、彼が居なかったらとっくに地球は恐怖の大王が降っていたでしょう」

「・・・俺たちは単なる時間稼ぎの存在かよ・・・」

「単なるではありあせん。欠かせない存在ですよ。貴方が言ったんですよ?」

「わかったよ・・・」


 地球人とは実に厄介だ。

(可愛いじゃない)

 可愛くないね。

 全員がスーパーヒーローだったら、それは最早スーパーじゃないだろ。

(スーパーでありたいんでしょ。自分だけは)

 わかるけど、己を知れって話だ。


「聞けないのか? そのSTG21の連中には」

「今は無理ですね。彼らのテクノロジーに立ち打ち出来ません。STG28で最も硬い部類に属する司令船のダイヤモンドを一瞬で撃ち抜いたほど差があります。近づけば死にます」


 待てよ、STGIなら・・・。

 そもそもどうして俺は生きていたんだ?

(私が助けたから)

 あの状況なら意識不明になっていても不思議じゃない。

 待てよ、実際に意識不明だったか。

 サイキさんが助けてくれたんだ。

(それは私が助けたから)

 俺が目覚めたのが地球ならわかる。

 でも、目覚めたのは日本・本拠点が先だった・・・。


「ソイツらは、その21とやら味方に出来ないのか?」

「無理でしょう。彼らは宇宙につくと言いました」

「それってつまり隕石型か?」

「言ってしまえば」

「意味わかんねーな。なんでだよ。テメーラの星が無くなって腰砕けになったか」

「わかりませんが、生きる為の術だったのかもしれません。何らかの取引があったのかも・・・」

「隕石が? あの鉱物がか?」

「いえ、彼らを利用している者達でしょう。言うなれば、戦場で殺されるか捕虜になるか、有益なら寝返るかの選択肢のようなものがあるのでしょう。もっとも星が消滅した後なんでしょうが。有能な者として目立ったのなら先に声をかけられるかもしれません。現地スパイとかもそうでしょう? それと似たような選択があるような気がします。そう言えば、彼らが、STG21の民が、考えておけと言ってました。どっちにつくか」

「どっちもねー! 俺なら自害する」

「私はなってみないとわかりませんね・・・」


 サイキは彼を睨んだ。


「どっちってなんだ?」

「彼らは宇宙か、マザーかと言ってました」

「やっぱりマザーは敵じゃねーか!」


 またこの繰り返しか。

 話題がループしている。

 事実ではなく自分の答えに寄せようと試みる。


「なんだよそのツラは」

「・・・とにかく、話を戻しますが、現行防衛範囲でも既に広大で、世界的に見ると日本・本拠点のエリアだけがデコポンみたいに出っ張った状況です。どのみち他所へ来たら仕舞いなんです」

「STG国際連盟に提議したらどうだ?」

「我々がですか? 本国からすら半ば無視されているのに?」

「あー・・・馬鹿共は聞かないな」

「それにコチラ側のアクションは相手側にとってもメリットを生む。過去のSTGプレイヤー達がこの防衛ラインに設定したのは偶然では無いと思うんです。だから寧ろ、我々は元の防衛ラインに下げて、索敵精度を上げることに集中すべきかもしれません。かなりいい加減になってますよ。驚くほど」

「索敵なんぞつまんねーからな。俺も他人のこと言えねーわ」

「アメジストが本拠点の傍まで来てましたからね」

「それがグリンだったってヤツか? でも、まあ、アメジストは仕方ないだろ」

「仕方ないんですかね?・・・私は単なる想像力の欠如に思えますが。索敵は情報です。基本にして最も大切な、生死を分ける部分だと思います」

「それはそうだな。撤回する。アメジストが斥候なら、なおさらか・・・連中は常時隠蔽しているわけじゃなかったよな?」

「ええ。彼女に聞いたのですが間違いありません」

「グリンか・・・。あのグリンだろ? 鉄面皮の。隕石なんだろ? 今だにピンとこない・・・なぜ人間で動いているんだ。動けるんだ? 未知過ぎる・・・そもそも本当にお前が言うように味方なのか?」

「え? 敵ですよ」

「はあああっ!? おま! おまーなーっ!」


 サイキは立ち上がってワナワナと震えだした。


「あー・・なんていうか、敵なんですが、私との契約に縛られているようなんです。その限りにおいては味方です」

「・・・ようなんですって・・・お前、そんな重大な問題を!」


 目を限界まで見開き、口を開け、シューニャを指差したまま固まった。


「なんていうか、彼女は私に絶対服従なんです。命令すれば。したことは無いですが。搭乗員パートナーに近い。彼女曰く、私が開放した際にそうした契約を私としたそうなんです。・・・正直言えば全く覚えていないのですが・・・」

「お前・・・お前そんな大切なことを・・・」

「しょうがないじゃないですか。言ったところで誰もわからないでしょうし。パニックになります。でも、なんていうか感じるんです。理屈じゃない。『ああ大丈夫だ』っていう確固たる自信がある。そんなことで驚かれたら、もうその先のことは言えませんよ」

「ちょっと待て! まだあるのか?」

「そりゃ、あるなんてもんじゃないですよ」

「お前・・・お前なあ・・・言え、言ってくれ!」


 シューニャは下を向いた。

 サイキが恐る恐るソファに座る。


「・・・止めましょう」

「シューニャ!」

「サイキさん流に言えば、これは宇宙の問題です」

「いや! しかしだな!」

「これは本当に宇宙の問題なんです。地上からどうにか出来る話じゃない」

「わからないだろ!」

「わかります。駄目です。必要な時が来たら話ましょう」

「シューニャ・・・シューニャ・・・」


 項垂れた。


「とにかく索敵範囲に関しては単に広げればいいという話ではない。ブラック・ナイトが集結している問題もありますし・・・」

「よくわからないんだがアイツらの何が問題なんだ? 何もしないんだろ? 映画や漫画でよくある攻撃しなけりゃ何もしないってタイプのヤツじゃねーのか? そもそもアイツらは何なんだ?」

「我々の宇宙とは異なるナニカです」

「どうしてそんなことが言える」

「STGIに乗ったからです」

「またSTGIか・・・」

「STGIに乗ると、なんていうか拡張能力が凄いんです。凄まじい全能感ですよ。あらゆる変化が具に感じられる。一瞬で距離を飛べるし・・・とにかく比較にならない。想像出来ない世界です。今こうして思い出しても全身が漲ってくる。冗談抜きで自分が何かしらのスーパーパワーを得たと勘違いしてしまう。驚いたのは単に攻防能力が高いというだけでもなく、知識や記憶の共有も可能なんです」

「例えば・・・クラウドみたいなものか?」

「そうですね・・・というより宇宙はもともとクラウドなんですよ」

「はっ? 意味わかんね」

「簡単に言うと元々は全て繋がっているんです。それを受信出来る権利と能力があるかどうかの差で。STGIにはある。乗るとかなり引き出すことが出来る。受信能力に加え何らかのアクセス権があるのでしょう。クラウドだってアカウントとらないとアクセス出来ないでしょ? 存在するだけでは本人にとっては何の意味も無い。そんな感じです。それにロックされた情報にはアクセス出来ませんよね。そういう感じです。そうか、クラウドだ、確かに!」


 グリンをのことを思い出した。

 彼女の情報もまた閉じているものが多くあった。


「繋がっている・・・か・・・。俺がガキ共のことなら大抵のことはわかる感じか」

「そうです。それも感覚的なものでしょ? その超拡張版です」

「宇宙規模で?」

「ええ」

「凄まじいな・・・それこそ神様レベルだぞ・・・」

「最初はそう思ってました。でも、ブラック・ナイトと対峙して、全能感は霧散しましたよ」

「アイツはそんなになのか!」

「ええ。蛇に睨まれた蛙です。ただ、STGIの快感性って本当に凄くて、本の頁ををパラパラと捲るように瞬時に把握出来る。いや、それすらコントロール出来ます。一枚の絵を連続したストップモーションのようにバラバラバラっと捲ることも出来る。それで全部わかるんです。今しているみたいに言語化する必要が無い。整理する必要もない。器のスペックがまるで違う。地球人とSTGIでは別物です。スパーコンピューターと量子コンピューターが比較にならないようなものです。処理速度が桁違いだ。また、その速度に脳が耐えられる。肉体が耐えられる。・・・そこで見えたんです。これまでの出来事が。宇宙の、地球の・・歴史・・・の・・・断片・・・が・・・」


 苦しい。

 ほんの少し宇宙にアクセスしようとしただけでコレだ。

 STGIにいる時のように自分の中を弄ると無理なのがわかる。

 完全なオーバースペック。

(危ないわ)

 推奨すら満たしていない低スペックPCでゲームをするような感じ。

 軽自動車にモンスターエンジンを積んで走っているような。

 ネットワークも脆弱で、瞬時にテラバイトをダウンロード出来るシステムと、キロバイトすらままならないような感じだ。

 下手しなくてもコレだけで死ねる。

(二度と戻れなくなる)

 バラバラバラになりそうだ。

 胸を掴み蹲った。


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