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STG/I  作者: ジュゲ(zyuge)
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第百十一話 その名は

「ナンバー28、現行のブラックナイト隊のメンバーだけでも洗い出す必要性がありそうですね・・・」

「ヤメておけ」

「どうしてですか?」

「内部のスパイを見つけるのは難しいぞ。ボロを出すのを待て。前も言ったようにこっちが先に動くのはリスクが大き過ぎる。気づいていることを悟られることそのものがリスクだからな。組織としての動きも鈍くなるし混乱を生む。猜疑心は毒だ。身に盛る毒。圧倒的大多数は流言飛語に弱い。広がり出すと、ある意味でアウトブレイクはあっという間だ。戦いはそう遠くないからマズイ」

「そうか・・・」

「自覚はないようだが、お前みたいに現実を直視出来る人間は多くない。見たくねーんだよほとんどは。現実を。わかるだろ? テメーの顔すら受け入れられない。景色すら加工する。現実ではなく虚構を残そうとご執心だ。その件は地上から探りを入れる。だが、宛にはするな」

「わかりました。・・・どーも黙っているのは、嘘をついているようでむず痒いですね・・・無駄かもしれないけど・・・言いたい。言いませんが」

「しつこいようだが無駄だ。聞く耳がねーんだ。言おうが黙ってようが変わらんよ」

「はい・・・。それにしても不幸中の幸いでしたね。露見したのは」

「全くだよ! バッティングしたのもたまたまリストから漏れていた新規プレイヤーだったからな。でも幸運だった。この段階で知れたことは大きい。とにかく余談を許さない状況だ。アメリカのカルトも思ったより手強くて、啖呵きったくせに格好悪いが手こずっている」

「彼らは最終的に何をしたいんですかね?」

「さーな。カルトが何をしたいかなんて興味ないね。STG28のプレイヤーを聖戦で戦う神とでも崇めたいんじゃねーの? 知らんけど。逆に、28人揃ったら天から大王が降ってきて、今の地球人を滅ぼして新たな楽園を築いてくれる。みたいな? 似たようなもんだろ、考えていることは。興味ねーよ。言えることは、テメーらだけは助かりたい。んで、都合の悪い連中は居なくなって欲しい。その程度の話だろ。無神論者と何も変わらないよ昔から。徒党を組んでいるか、そうじゃないかの差でしかない」

「だとしたら・・・サイトウさんは彼らからしたら神のような存在なのかもしれませんね・・・ずっと地球を守ってきたのだから」

「そう! もしくはその逆で、悪魔か・・・」

「悪魔・・・そうか、地球を滅ぼしたいとしたら、そうなるか・・・」

「神であれ悪魔であれ、恐らく連中の最大のターゲットがサイトウなんだよ。ヤツは別格だろう。もっとも俺たちもだが。俺たちも真っ先にヤツの記録を追って行ったからな」

「行ったんですか! リアルで? そうだったんですか、知らなかった・・・」

「言わなかったからな。サーバーに登録されていた連絡先は今はコインパークになっている。情報がかなり古かったらしくて、近所の聞き込みから昔は確かに一軒家があったそうだ。その後どこへ引っ越したか探偵数社に調べさせているが、これからだ」

「アレは過去のビジョンだったんだろうか・・・最近は記憶の混乱が多くて・・・いや、寧ろ直近は記憶が冴えているか・・・身体も調子がいいし・・・どうして・・・」

「率直なところどうなんだ?」

「うん・・・彼は生きてますね」

「おし決まった! その一言だけで充分だ。病院を片っ端から当たらせる! 顔の情報も参考になった。面相が知れているかどうかは大違いだから!」

「でも、こうなると警察沙汰にした方が・・・」

「まーな。でも、こういう時の連中は当てにはならない。証拠が無いからな。事が大きくなるまで動かないだろう。過去もそうだったろ。しかも28は事件が表面化しずらいよう動いている。基本は一人住まいから狙っているし。サツに下手に動いてもらっても俺らも困るしな。戦力はいるだろ?」

「ええ、喉から手が出るほど欲しいです」

「マザー達がどういうアルゴリズムで勧誘しているかわからないから効率は必ずしも良くないが、トップのゲーマーを抑えておけば間違いは無い。今な、リアルでもSTG28をオンラインゲームとして販売へ向けて開発しているんだが、」

「え! でも、それは色々マズイんじゃ・・・」

「まー聞け。その関係で一つの会社はプロゲーマー育成の会社ってことにした。丁度いいタイミングでe-sportsってのが流行っているだろ? いい口実になったよ。スカウト出来るのは日本だけだが、後の展開も考えてアメリカ、イギリス、ドイツ、フランス、ロシア辺りも手を回している。昔からあるマッチポンプってヤツだな。表向きはそういう感じだ。乗ってくる連中も多い。何にしても勧誘の方法は今後考えないといかんな~」

「でも大丈夫なのかな・・・ナンバー28の活動が活発になるんじゃ?」

「逆だよ。28の動きは封じられると考えている。看板を替えない限り世間の目が向くからな。今までは胡散臭いけど関わりたくないって感じで無視されていたのが、勝手に際立つことになる。連中が馬鹿ならボロを出す。何かやらかしたら世間が動き出し、警察が重い腰を上げる。連中が賢いなら動きを抑えるだろう。世間ってヤツはスイッチが入るとこえーぞ・・・自動追尾だから。金もかかんねーし。指示すらいらない。ある意味ではカルトより恐ろしい」

「でも、地下に潜ってしまうんじゃ? 仰ったように看板を替えてしまったら?」

「潜らせておけ。潜った分だけ小さくなる。看板を簡単に替えられるなら苦労しないだろ。仮に替えたら替えたでやっぱり小さくなる。分裂するからな。結果は同じだ。ウィルスと同じで発病に満たない程度の少量なら無視出来るだろ。どっちみち根絶はしない。そういうのが必要な連中は常にかなりの人数がいるからな」

「では、ゲームのSTG28が目立つことでリアルのSTG28に問題が波及することがあるのでは?」

「当然あるだろ」

「そんな! だったらもっと慎重にことを運ばせる必要があるんじゃないですか?」

「そんな時間あるんですか?」

「・・・そうか・・・」


 時間は無い。

 無いんだ。


「だろ? パンドラの箱は開ける」

「パンドラの箱? STG28がですか?」

「ある意味そうだろ? 白日の元に晒す。すると、宇宙人、もしくは何がしかの連中が動き出す。仮にパンドラの箱が空っぽだったとしても、少なくとも訓練されたプレイヤーは増える。俺たちがスカウトせずとも戦力になる。強いプレイヤーはプロとして金で雇う。大会を開き金も稼ぐ」


 凄い・・・。

 考えているスケールがまるで違う。

 でも・・・。

 口で言うほど現実は簡単じゃない。

 それすらもわかった上で言っているのだろう。


「サイキさんは・・・大丈夫なんですか?」

「寧ろ身を守る為でもある。思ったより大きくなっちまったからな。お前の話から急がないといけないと思っていたから結果オーライだよ。昔から言うだろ『木を隠すなら森の中』って。堂々と大っぴらやっていると逆に真意は見えてこない。枝葉末節に追われるから。理由づけにもなる。真意に目を向けられる賢さのあるヤツはそうはいない。今の話だって全部知っているのはお前だけだ」

「えっ! 私だけ? サイキさんの関係者は知らないんですか?」

「当然だ。頭がおかしいと思われるだろ。アイツらを説得する気はサラサラ無いよ。無理だからな。言っただろ。表向きは別な理由で動いている。ビジネスだ。連中が勝手に欲得で動いているだけ。連中にメリットはあるからな。嘘は言ってない。俺の目的と連中の目的は違うってだけだ。ヤツらは金、暇潰し、暴力。俺は地球防衛だ。それぞれが共有出来る部分で、今たまたま道ですれ違っているだけに過ぎない。タツにしてもサイトウ・ラブってだけで、寧ろ地球には滅んで欲しいぐらいだ。サイトウがわけわからん。何が目的なのか。暇潰しにしては少しおかしい。地球を防衛するには不真面目過ぎる。俺と同じ方角を見ているのはお前ぐらいなもんだ」

「私が? そう、なんですかね・・・」

「お前には仁義がある。俺は仁がある人間を信じる。純粋な善意は潔白過ぎて恐ろしい。極にいるから極に振れる。その点、お前はバランス感覚がある」


 自分はそうとは思えない。

 私は才能らしい才能も無い弱い人間だ。

 壊れかけた肉体に苦しみ喘ぐ小さき人間だ。

 それにしてもなんて人だ。

 普通は思いついても行動出来るもんじゃない。

 会社を作るにしてもタダじゃない。

 もしバレたらとか思わないのだろうか。

 何か一つでも表面化したら全てが台無しになりかねない。

 それなのに、このスピード感。実行力。

 凄いなサイキさんは・・・真のリーダーだ。

 リスクを知りながら前へ進んでいる。

 裏を返せば、それほどまでに必死なんだ。


「それにしても何も知らなかった・・・そんな事が起きていたなんて・・・・」

「俺も同じだよ。宇宙で何が起きていたか何も知らなかった。当然だ。お前は宇宙で戦っている。俺は地球で戦っている。今後どうなるかわからないから今のうちに言っておく。上位にいるようなゲーマーは既にある程度スカウトして、今、社の方で鍛えまくってる。赤紙が来たら送り込む。全員ブラックナイト隊に入るのが条件だ。連中ときたら今は映画みたいだと面白がっているが、そのうち現実を知るだろう。即戦力になる。絶対服従だ。収入に影響させっからな。パンピーを釣るのは金が手っ取り早い。俺にはカリスマも超能力もねーが、金はある。でも面倒くさいのは金で動かないヤツだ。・・・そうだ! 中でもとびきりのニュースがあるぞ。落とすの苦労した。多分お前も知ってる。ゲームの名前は忘れたが、そのゲームで”軍神”の異名を持ったプレイヤーだ。たしか・・・アースとかいう爺だった」


 その名前を聞いた時、時が止まったようだった。

 忘れようにも忘れ得ぬプレイヤー名。


「えっ!・・・アースさん・・・あの・・・。え、お爺さん? かなりのお年なのですか」

「爺も爺だよ。あんまり首を縦に振らないもんだから、冗談で孫を殺すぞって脅したら受けてくれたよ」

「ちょっとー! 何してくれてるんだかっ!」

「いや、冗談だって。・・・まあ、実際に軽くは言ったけどガチじゃねえよ。それに脅しは効かなかった。お前のアバター名を言ったら何故か受けてくれた。お前、そのキャラ名を使っていたんだってな?」

「まー・・・。おなじギルドに居たんです。基本的にキャラ名は変えるんですけどね私は。どうもこの名前は思い入れがあって・・・そうか、やっぱりかなりご高齢かと思いましたが・・・」

「温厚そうな顔してとんだ老狸だぞ。最初は耳が遠くてボケたふりしてたから、孫を殺すぞって部下が軽く脅したら逆に殺されかけてた。ソイツは今も病院にいる。念の為に言っておくが、あの爺、一桁じゃ済まないレベルで人を殺しているぞ。そういう目をしている。乾いた目だ。動きも好々爺じゃない。痩せているが毎日動かしている身体だ。面白いのが最初は芝居して腰曲がったふりしてたんだが、バレたとなるとピンとしやがったよ。あれはまだ勃起するタイプだな」


 大笑いしている。


「笑い事じゃないですよ・・・」

「いや、笑うだろ。やられたのは元プロだぞ。スカウトしといてなんだが軽くテストさせてもらった。すげーぞ。才能ってやつを否が応でも感じさせる。今、そっちではまともに指揮出来る人材の方が貴重だろ。実際問題、リアルでもまともに指揮出来るヤツは少なくなった。なのにだ、あんなチート級の爺が地方で好々爺やってんだからよ、宝の持ち腐れだ、ったく。この日本って国はどーなってんだ! 無能ばかり指揮とりたがるし」

「正直なところ凄い助かります。今アースさんがいれば本当に心強いです、ですが・・・彼のやり方を皆が受け入れてくれるかどうかは疑問があります。もう、時代が違いますからね。それでもありがたい。居なくなりましたからね。昔は多少なりともいたのですが、そもそもプレイヤーが指揮されても聞かなくなりましたし・・・」

「少しは勝てそうか?」


 サイキの声が重くのしかかる。


「・・・無理でしょう」

「そうっ・・か・・・」

「そういう次元の話では無いんです。人が歩いただけで蟻の巣を踏み荒らせるように、彼らからしたら特に何か策を弄する必要もない。彼らがこぞって来れば終いです。そこに意味も意図も大して無い。たまたま地球があった。その程度でしょう。それに中性子星でも弾丸のように地球へ向けて一つ飛ばせば、それで終いでしょう。STG28の耐熱温度を超えてますからね。もっとも、それは出来ないと思いますが・・・。彼らがもし、死ぬ気になったら、やりそうな気がして・・・」

「死か・・・死ぬか・・・。何時になりそうだ? 知っておきたい。今、キスやハグしすぎてガキや奥さんからウザがられて悩んでいるんだ。もっとキスさせてくれってお願いしているんだが、急に気持ち悪いって、浮気してるんじゃねーかって。だから今、我慢してるんだよ。いざという時に一緒にいられないと困るから・・・」


 こんなに怖い人が、こんな子煩悩で奥さん思いとは。

 にも関わらず、他人の不幸には今ひとつ無関心なんだろうか。

 裏を返せば、だからこそ自在に動ける。

 罪も命も全てを巻き込みながら進める。

 本当にそれでいいんだろうか。

 それでも心からのノーは、なーなーのイエスより遥かに力強い。


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