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STG/I  作者: ジュゲ(zyuge)
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第百話 守り人

 シャドウの声は本船に届いた。


「やだーっ!」

「おまっ、やめろ!」

「エイジ様・・・」

「へ~」


 彼らが反応し、次の言葉を発する前にエイジのSTGは切り離される。

 幸か不幸か、この時点でエイジの発言権はかなり上がっていた。

 決済迄の待機時間は短い上で隊長の行動を即刻妨げることが出来るのは連隊長のみ。

 その連隊長は混乱の収拾に追われ、彼が気づく頃には拒否権を過ぎた。

「イージス・ガード最大出力! 最大効果範囲!」

 三層から射出されると同時にオレンジに光る巨大なエネルギーの盾を展開。

 エネルギー風へ向かって推進。

 ガーディンの盾を抜けると、ナユタのエネルギー風を一身に浴びる。

 風は強く押し返されそう。

 真っ白だった彼の円錐は僅か十五秒で真っ赤に染まった。

「イージス・ガード臨界間近! 放熱板限界! マスター・エイジ、ログアウトして下さい!」

 彼の思惑を遥かに越えたエネルギー。

「駄目!・・・まだ耐えられる!」

「イージス臨界間近! エネルギー逆流警報! このままでは本船は三十秒持ちません!」

「まだっ!」

「強制ログアウト実行」

「駄目っ!」

「イージスが溶けたらログアウトは間に合いません!」

「ダメ・・・ダメだ・・・ダメだ・・・」


 うわ言のように繰り返す。

 コックピット内が赤く明滅。


「警告、コックピットの冷却限界を越えました」


 本船コンピューターの声。

 地獄の釜に落ちたように急激に蒸し上がる。


「搭乗員心理グラフ異常。搭乗員パートナーに指揮権を移譲」


 本船の声。

 エイジは顔を上げる。

 その顔は絶望をしめす。

 シャドウが命令を発しようとした時、エイジはシャドウを見つめた。


「僕の人生を、これ以上惨めにしないで・・・お願いだから・・・」


「警告、イージス・ガード臨界、融解までカウント十秒」


 本船コンピューターが緊急事態を告げる。


「マスターを」


 口を開こうとする彼女を制した。


「死んでもいい!」


 シャドウは毅然と言い返す。


「生きて下さい。搭乗員を・・」

「やだっ!」

 コンピューターのカウントが聞こえる。

「三・・・」


 その時。


 目の前に羽が広がる。

 気のせいじゃない。

 幻覚でもない。


「エンジェル・ウィングどうだ!」

「間に合った!」

「無謀だねぇブラックナイト! あんた隊長なんだろ?」

「信じられねぇ、嘘だろコイツ」

「全くなぁ、何の得もねーのに・・・何やってんだよ・・・」

「アリグレッタ、ヘクサプリズン急いで!」

「任せて~っ!」

「5554、4683! デカイのが流されて来る!」

「進路上!」

「だけど距離はまだ遠いよ」

「こっちは攻勢ガードは装備してない。誰かいないか?」

「俺がやる! 誰か、前を張ってくれ! シールド・バング用意!」

「バングでやれんのか?」

「俺のバングは特性なんでね」

「こちらアフロディーテ、僭越ながら前を張ります!」

「誰かしらんが二人共、今はやめろ! エネルギー値が高すぎる。瞬時に融解するぞ! ギリギリまで待つんだ!」

「あんたアイアン・ウィルか? ・・・しゃーない。わかった!」

「アフロディーテ、了解しました」

「それまで傘に入れさせてもらう」


 エイジは目をパチクリさせる。

 強制的に残留させられた上位二部隊の防御特化型達。

 そこへ加えて、不幸にもこの場に居合わせたフリーの部隊が無人機をも引き連れ駆けつけていた。

 それらはエイジが離脱するのを見て同じ特化型として即時に理解した者達だった。

 エイジの広げた盾の後ろにいなかったら瞬時に融解していただろう。


「にしてもぶっ飛んでんなブラックナイト!」

「イージスは最大効果範囲じゃ十分に活かせないだろ」

「説教たれるな、その御蔭で俺たちも前に出られたんだから」

「そうだぞ!」

「それもそうか・・・すまん」

「なんか知らんが、涙で前が見えねぇ・・・」

「ああ、洒落にならん・・・一瞬でも躊躇した自分を呪うわ・・・」

「隊長さん、どんな筋肉してんだ? ダンベル何キロ上げたらそんなにハートが強くなれんだ今度教えてくれ!」

「俺も知りたい!」

「悠長にしてんな! エンジェル・ウィングがタイムアウトする!」

「嘘でしょ! もうなの? 信じられない・・・」

「OK! ヘクサプリズン展開、構築完了、大丈夫よ! ありがとうねエンジェル!」

「美人のお願いなら何時でも歓迎!」

「とびっきりの美人よ、心はね!」

「わらかすな、手元狂うわ」

「寧ろ俺のタイプだ! 結婚してくれ!」

「ゴメンね! 彼氏も来てる!」

「なんか、すまんな」

「兄やん最速振られ記録を更新したー!」

「おうよ! 記録更新っ! イエス!」

「これぞ秒殺!」

「ダンス・ダンス蓄電変換準備よろし! バイアラス放熱板極大展開!」

「ウチのバイアラスも使ってくれー」

「助かる! 承認ヨロシ!」

「もうしている」

「蓄電レベル注意ね! これだと直ぐに限界くるから!」

「なんだそのアドバイス。素人じゃあるまいし」

「そうだ、こちとら生まれながらの脳筋じゃー」

「おうよ! マッチョゴリラ舐めんなよ!」

「非モテ上等! ダンベルが恋人!」

「マッチョ三兄弟のお通りだーっ!」


 失われていたイージスガードのエネルギーが戻ってきている。

 赤色化したエイジのSTGが白らんでいく。


「悪いけど勝手に接続させてもらった。イージス・ガードも再度展開してくれると助かる。流石にこっちの装備だけでは長くはもたないだろう。現時点で最高装備は君のイージスになるからね」

「わ、わかりました・・・」

 エイジは混乱する中、辛うじて答えられた。

「範囲はこの程度、これで十分だと思う。接続を正規に承認してもらえると嬉しい」

「シャドウ、承認、プランをロードして」

「はい。承認しました。イージス・ガード再展開します」

「隕石の破片、かなり大きい、速い!」

「今出るのは危険だ!」

「あれならヘクサプリズンで防げると思う」

「でも万が一もあるから。クローバーも手伝って!」

「はいな! アイアンメイデン・レディ!」

「頼む!」


 大小に幾重にも展開された不思議な盾達。

 全く異なる形状や質感をしている。


「エネルギー風にはムラがある。もっともヤバイのだけ優先的に防いでくれ。全部は流石に無理がある。エイジ隊長殿、余計なお節介で悪いが、レフトウィングも自衛能力はあるから頼っていいと思います」

「・・・そう・・・ですね・・・そうか・・・」

「かなり隕石が多い。イージス・ガードを私のヘクサプリズンに注入して、オプションつけているから」

「でも・・・い、良いんですか?・・・」

「いいの。お姉さんに任せて、はぁと」

「では・・・お願いします!」


 各特化にはそれぞれリンクするオプション機能がある。

 相乗効果は大きいが使うタイミングが難しい。

 また、双方STGにおける高度機能に接続する為、信頼が無ければ成り立たない。

 主に役割がハッキリしている作戦で部隊内の連携にのみ使われる装備だ。


 その様はまるで溶け合うようだった。


 主に物理攻撃に強いヘクサプリズン。

 エネルギー攻撃に対しては脆弱。

 対してイージスガードはエネルギー状の盾。

 ガーディアン型STGが基本装備としてもつエネルギー盾とは規模も質も一切異なる。

 柔軟性に富み、搭乗員やパートナーの学習レベルによって汎用性がとても高い。


 ヘクサプリズンのように割れることも無く、穴が空いてもリアルタイムに補充することが出来る。対エネルギーに対して特に強靭さを誇るが物理攻撃にも強い。ただし、物理的衝撃に対してはヘクサプリズンほどの硬性は無い。


 隕石型宇宙人に対してはヘクサプリズンの方が有効で最も装備される盾の一つだ。ヘクサプリズンはオプション装備を入れることでエネルギー状の盾系列を注入するといった芸当も人気の理由。エネルギー盾側としては汎用性や柔軟性が失われるが、エネルギーと物理双方に鉄壁とも言える防御性能を発揮することになる。同時にエネルギー盾の弱点である放熱効果も得られた。


 エネルギー系の盾はそのものがエネルギーによって形成している特性上、衝撃を受け止めた際により多くのパワーを消費してしまう。特に継続的な照射に対してはクールダウンが追いつかないこともあり、本来はランクによった適正なサイズがある。


 表と裏を形成する必要があり、裏を厚くすればクールダウンは速くなる一方でカバー範囲は狭くなる。広げることでカバー範囲は大きくなるが逆にクールダウンが追いつかなくなる。その配分や刻々と変わる戦況にどう対応するかは大きなセンスを要した。


 物理盾系とエネルギー盾系の融合には相性がある。(宇宙人は否定的な見解)いかに速く隅々まで行き届かせるか、また硬性の度合いに搭乗員同士の相性のようなものが明らかにあった。その為、別名カップル育成オプションとも言われた。お互いに相手をどれだけ受け入れているかで、その即応性や柔軟性に変化が生まれたからだ。それ狙いでこの特化型に進む男性ユーザーはいたが、女性ユーザーがこの特化に進むことはほとんどない。


 イージスを注入することでヘクサプリズンでエネルギー風を受けつつクールダウン。

 飛んでくる隕石片を弾き飛ばす。受けた衝撃をエネルギー盾に変換。

 イージス・ガードの硬性を遺憾なく発揮する。


「なんだよ~焼けちゃうな・・・相性バッチリじゃねーか・・・」

「男の嫉妬はかっこ悪いよん」


 漆黒の宇宙に大きく羽を広げる。

 遠くに不規則な回転をしながら遠ざかる巨大な円錐レフトウィング。

 エイジはそれを感慨をもって見届けた。


「僕も誰かに守れていたんだ。気づかなかっただけで・・・」


 折り重なる幾つもの盾。

 駆けつけたSTG28。

 そしてモニターに映る必死な顔の搭乗員。


「えっ・・・第三波警報!」

「ハイ知ってた!」

「間隔が短くなってる?」

「第二波のエネルギー初動の三十%まで減少、継続中」

「まだ来るか・・・」

「エイジ隊長、可能な限り距離おきたい。生意気だが俺たちに任せてもらえないか?」

「わかりました!」

「即答!・・・すげーな・・・」

「隊長なんだろ・・・」

「私は代理ですから」

「とは言え底しれねーな・・・ブラックナイト」

「彼の名はエイジだ」

「よし! フォーメーションをソニック・アルマジロへ!」

「でたー! 音速アルマジロ!」

「パチもんキタコレ!」

「イエス!」

「俺の船体ダメージは低い、しんがりは俺がつく」

「お願い!」

「頼んだケツ担当!」

「アスホール!」

「誰が担当だ」

「悪いね、いつも・・・」

「ありがとうございます!」

「アリグレッタ、ヘクサプリズン収納急げ」

「はいはいはーい! お片付けは得意よ~!」

「格納しつつ結合を開始する」

「第三波まで推定五分」

「出来るだけ飛ぶぞ! エネルギーシールド最大!」

「ちょっと待ったー! さっきのとてつもなくデカイの来るぞ!」

「進路上!」

「エイジ隊長、イージスの範囲を前方に拡張して下さい」

「わかりました」

「OKそれぐらいで、では頼みました。他の船はドッキンしながら後退」

「よし、アフロディーテさん前を頼む!」

「はい! 出ます!」

「私も手伝う。クローバー行くよ!」

「はいな!」

「僕も前へ出ます!」

「隊長なのにすまないブラックナイト!」


 エイジがイージスを展開したまま推進。

 盾と鉾を構えたSTG四機がイージスの後ろに入る。


「そうだ・・・イージス極大拡張、球形に!」


 イージスの盾が球形に湾曲しだす。

 皆が広がるイージスに感嘆の声を上げた。

 中央に回座するエイジ。


「ココを安全地帯とします、これで行けますか?」

「凄いな、こんなことも出来るのか。問題ない!」

「やっぱりイージスは凄いにゃぁ~」

「使いこなしている・・・アフロディーテ準備しよう!」

「はい! リンケージ完了! 出ます!」


 まるで強風に抗うように飛び出したアフロディーテのSTG。

 エネルギーワイヤーで接続されているのが見える。

 その後ろにシールド・バングを展開したSTGがピタリと続く。

 かなり大きい。


「よし、裏返る!」

「はい!」


 回転。


「ソコっ!」


 一瞬前へ出ると本体の3/4に相当するシールド・バングが発射。

 まるでジャンプ傘のように広がると掴むように巨大隕石を捉えた。

 隕石は減速し、止まる。

 二人の船は一気に逆噴射。


「砕けろ!」


 大爆発。


「入って!」


 シールド・バングは大きな相手の進行を止める、もしくは減速させ、場合によっては砕く防衛機能がある。単発式なので使い所が難しく、加えてSTGが身重になる為に使用者も非常に少ない。ただし愛用する搭乗員には職人的プレイヤーが多く、この場では言わなかったが、アフロディーテも密かに愛用している武器であった。


 弾丸のように降り注ぐ破片を物理盾のロイヤルシールドで防ぐアフロディーテ。

 STG一隻を覆う程度の小さな盾だが、可動範囲が広く、しかも分厚い。

 マニアックな武装である。

 激しい振動。

 後退するSTG。

 その衝撃が消えた。

 イージスの中。

 極大に広げたイージスの膜。

 貫通する大きな破片もあったが、クローバー達によって砕かれる。


「皆は!」


 後方のソニック・アルマジロを見るエイジ。


「心配性だなぁ、隊長さん」

「本当に優しいのね・・・」

「おっと・・・その発言は穏やかじゃないぞ」

「脳筋オールスターズを舐めてもらっちゃ困るぜ」

「え、私も・・・なの」

「そうですよオゼウさん」

「えー・・・。でも、守ってくれてありがとう」

「おっとー兄やんに春が来たかー?」

「あ、ごめんなさい。リアルに彼氏います・・・」

「またしても秒殺だー!」


 皆、笑っている。

 さっきまでの表情が嘘みたいだった。

 エイジも知らず笑っている自分に気づいた。


「第三波まで後二分!」

「ホッコリしてる場合じゃないか、ドッキング再開!」

「せっかちねー」

「アイアイサー!」

「アラホラサッサー!」

「オッサンかよ。俺もだ」

「わかりました!」

「はいよー!」

「逃げろや逃げろ~」

「はいな!」

「はいはいにゃ!」

「少しは落ちかせろよ~」

「仕方ないでしょ」

「うひぃ~怖い怖い」

「はよー! はよしてーっ!」

「了解ーっ!」

「ダンベル高速回転んんん!」

「プロテイン注入!」

「大胸筋の興奮が止まらねぇ!」

「後にしろ!」

「アルマジロ完成です」

「離脱する!」


 小さな光が寄り添うように結合し丸くなる。

 そして弾かれたピンボールのように飛んでいった。

 その遙か先にレフトウイングの姿。

 もう遠くて見えない。

 エイジは座席によりかかるとホログラムのシャドウに語りかける。


「守りきった・・・」

「よくやりましたね」

「皆のお陰だよ。・・・生きてるんだね僕達」

 震えている自分にも気づかない。

「ええ、生きてますよ」

「ありがとう・・・」

「こちらこそ」


 エイジは彼方に光を見た。

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