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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

落書きSS

作者: はいろく

ある時代のあるところの話。


ここには大層剣好きの殿様がいた。古今東西の名刀、妖刀を集め、試し切りをするのが趣味であった。草や竹では飽き足らず、牛や馬、いろいろなものを切ってその切れ味を確かめるときがたまらなく幸せだった。


しかし、次第にそれも飽きてくる。殿様は段々と人が切りたくなってきた。

だが、そんなことはいけないと気持ちを封じ込める日々。

せっかく戦があっても自分は戦の指揮を執るだけで敵に刃を向けることなどなかった。そうして満たされぬ欲求に思いをはせていると、ある日面白い話が耳に入った。


なんでも、この領地にあるお寺に妖刀があるらしい。

それもただの妖刀ではない。その恐ろしい切れ味から不思議なことが起こるのだという。

近頃、刀集めが滞っていた殿様はこの話に乗っかった。

うわさの通りお寺には妖刀があった。

素朴だが見事なつくり。

持って帰って殿様はさっそくいつものように試し切りをする。

今日は竹だ。

えいっと竹を斬る。斬った感覚が腕に伝わる。しかしどうしたことだ刀は確かに竹を通ったはずなのに竹が切れていない。


どういうことか家臣に尋ねると。


「おそらくはあまりの切れ味に切断面がくっついているのかと」


そうだとしたらすごい刀だ。殿様はこの妖刀に夢中になった。ある日は、家宝が眠る倉庫に入り片っ端から斬った。されども全て無事だった。

またある日は城下町の橋の下へこっそり来たこともある。そして通行人がいるのにもかかわらず橋の足を斬ってやった。だけどやっぱり何ともなかった。


「すごい。すごいぞ」


殿様は妖刀の切れ味を見てとんでもないことを思いついた。


あくる日廊下を歩く女中に後ろからいきなり切りつけた。手に伝わるのは今まで味わったことのない感覚。

斬った。

殿様はそう思うが、女中は何事もなかったかのように行ってしまった。


「これならば人を傷つけず人切りができる」


その日から殿様は人を斬って斬って斬りまくった。女中や家臣、ほかの殿様の使いや商人、ありとあらゆる人を斬った。

殿様は今こそが幸せだと悟った。でもこれが頂上ではないということも同時に思った。

そして


「愛するものを斬ったらどうだろうか」


こんなことまで考えるようになった。殿様には妻がいる。一生愛してもいいと思えるほどの妻だ。彼女を斬ることを想像するだけで殿様の心臓は高まった。だけれど、それから想像だけではもの足りなくなった。


桜が散るころ、殿様は妻とともにいた。

妻は現在待望の跡継ぎをその身に宿しているところだった。

しばらく妻との会話を楽しんだ。子供のことこれからのこと。幸福のひと時であったが殿様はどこか落ち着かなかった。目の前にいる妻が斬りたくてしょうがなかったのである。

やがてこらえきれなくなった殿様は妻が後ろを向いているすきにそっと妖刀を取り出した。


「お前。愛しているぞ」


「はい。わたくしもあなた様をお慕いもうしております」


妻の言葉に胸がいっぱいになった殿様はそのまま刀を振り下ろした。


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