滑舌悪いオペレーター奮闘記
私の名前は樹里亜
今はこうして標準語をしゃべってるけど、出身は青森。
大学を卒業して上京、そのまま公務員試験を通って、警察のオペレーティング科に配属された。
成績は自分で言うのもアレだけど優秀、データ処理にも定評があるんだけど、肝心のオペレーションの部分に難があって、緊張すると出ちゃうのよね、方便が……
それで結構聞き返されて、その間にやられちゃうってパターンが何回あったか……
そんな感じで、今まで数多の味方を葬って来ちゃった。てへ。
例えば昨日のミッションで、隊長と2人の3人編成のチームの担当に当たってたんだけど、「左には敵がいます。右に言ってください」って言わなきゃいけないのに、「左さ敵がでや、右さ行ってけろ」とモロ津軽弁がでちゃって、隊長が、「どっちだ!どっちに行けばいい!?」ってテンパって、「右さ、右さ行ってけろ!」
って一生懸命言ったんだけど、「耳!?耳を抑えればいいのか!?」と言って、耳を抑えてたらやられちゃった。
「あーあ、あたしこの仕事向いてないのかなあ」
「そんなことないよ、ジュリは向いてるって」
そんな話を同僚のカナとしていた。
すると、2人のもとに昨日のミッションの生き残りがやって来た。
「おい、お前」
私はやばいと思った。
「お前が何言ってんのかわかんねえから隊長がやられちまったじゃねえか!」
いつもなら大体全滅するから、私のことをあーだこーだ言う人間はいないのだけれど、昨日は隊長以外は助かってしまったのだ。
「ご、ごめんなさい」
「天国に行った隊長にどけ座してこいや!」
そう言って、男がこぶしを振り上げたとき、
「やめろ!」
そこに割って入って来たのは、同僚のシュンである。
「シュン!」
私は彼の後ろに隠れた。
「おい、お前、そいつをかばうのか?」
昨日の男がいきり立ってそう言ってくる。
あー、やなやつ。
そんなんだから童貞なのよ。
「隊長が死んだのはジュリのせいじゃない、オペは現場を知らない。あくまでサポート役だ。最後に頼れるのは自分の腕だぞ?責任をオペに擦り付けるやつは二流だ」
相手は、くっ、とか言って言い返せない。
ざまあみろよ、いい気味ね。
「だが、ジュリ、お前にも責任がないわけじゃない。滑舌が悪いってんなら、それを治す努力をしなきゃいけないな」
え?今なんて?
「今日から標準語学校に行け」
まさかの展開よね、それで私は仕事帰りにそのスクールに通うことになったの。
週2回。
周りは外人だらけ、最悪。
講師がやって来た。
「今日は初対面の人との挨拶の練習、机の隣り合ってるもの同士でペアを組んで、初めまして、よろしくお願いします、と挨拶してみて」
私の隣にいるのは、色白の金髪の女だ。
「ハジメマーシテー、ヨロシクデース」
「初めまして、よろしくお願いします」
「オジョウズデスネ」
余計な日本語は知ってるのね。
講師がやって来て、
「あなた方は中々うまいわね、前に出てやってみて」、と言ってきた。
そりゃあ、お上手ですとも。
私と、パートナーが前に出る。
皆の視線が集まる。
あ、やばいかも……
「ハジメマーシテー、ヨロシクデース」
パートナーが言った。
私の番だ、平常心、平常心よ。
しかし、人間には制御できない部分がある。
思わず熱いものを持った際、手を引っ込めてしまう動作、普段意識してないで行う呼吸など、生存するために必要なことは意識の外で行われるのだ。
恐らく、私のこの緊張すると出てしまう方便は、この脊髄反射に違いない。
「よろしぐたのむっきゃ」
……
会場がシーンとなった。
この標準語学校で、屈辱的なことに私はCクラス。
ABCのCである。
くっそが……
翌日、私は別な任務のオペレーターを務めることになった。
「ジュリア君、緊急任務が入った。すぐに対応してくれ!」
それは、強盗に占拠された銀行の、人質救出ミッションとのこと。精密なオペを必要とする場面らしい。
「わ、分かりました!」
「オペレータージュリア、今から解析入ります!」
そう言って、銀行の建物の構造、敵の配置をスキャンし、それを隊員に送った。
「ありがとうジュリア」
聞き覚えのある声に、私は一瞬ドキリとしてしまった。
シュンである。
まさか、シュンが私のオペでミッションに参加するなんて……
終わり