第58話! 甘味は争いを生む
花粉花粉花粉症。薬が飲んでも辛いんです。花粉花粉花粉症。
やっぱり人間っていうのは旨いものには釣られてしまうと思うんだ。
では、お楽しみ頂けると幸いです。
声をかけた瞬間、ルドメイ帝が剣をアミレイア皇后が杖を突きつけてきた。
ルドメイ王は筋骨隆々な大男で、金髪青目の髪を振りまきナイスガイな見た目だ。アミレイア皇后は金髪碧眼のこれぞエルフ! というような美人さん。
「貴様……何者だ? なぜ周りは全く反応がない?」
俺……私は手を上げて攻撃の意思がないことを告げる。
「まず、私はフウと言います。なぜ周りが反応しないかというのはここに直接来たからです。方法は教えることができません」
「この方が言っていることは本当みたいですね。魔法が使われた痕跡がありますし、何らかの未知の魔法で来たのでしょう」
皇后の方がモノクルをはめて、周りを見てそんなことを言ってきた。なんだそれ? どんな効果があるか気になるんだけど。
「アミレイア皇后、そのモノクルは周りの魔力の流れとか、そういう類のものを可視化することが出来るのですか?」
「ええ、そうよ。あなたはとても優秀なようね。あなた、剣を下げてあげてください」
結界も分かられているかもしれないな。憑依はバレるものではないだろうが。
『あんな物程度でバレるはずがない』
バレてないみたい。
「いや、しかしだな」
「敵意のない女性に剣を向け続けるとは、あなたはそれでも王ですか?」
こちらを優しい笑顔で見たあとに、王に怒り始めた。尻に敷かれてるんやなって。
「別にいいですよ。剣を向けたままでも」
「相手もそう言っているのだし」
「フウという方がもし敵なら、私達に声を掛けないで殺せばよかったのですよ? なら、私達を殺す以外のなにか……交渉ということだとあなたもわかっているのでしょう?」
「はぁー、わかっているがポーズというのは大切なのだぞ?」
そんなことを言いながら、剣を収めた。物わかりが早くてありがたい。
「話を聞くということで決まったみたいなのでお話させていただきます」
「ええ、お願いするわ」
「私の身内が先日、ルシファーの構成員によって被害を受けました」
「またルシファーか」
心底嫌そうな顔をしているが、スパイを送ってもやっぱり荒くれ者な幹部がいると、良いように動かせないんだろうな。
「ですので、報復行動としてその街に来ていた幹部の一人を色々して、私の仲間になって頂きました」
「「は?」」
「幹部を引き抜いて、そのままスパイとして潜入しといてもらうことにしました」
「……」
王の顔が険しくなる。
「王の顔を見れば、これから言うことを理解していることがわかりますが、言いますね? とりあえず私はルシファーを乗っ取ろうと思っています。それで副頭首の地位にいる、人間のミラさんに迷惑がかかると思うので言っておこうかと」
ミラとは国が出しているスパイ。
「……ん? 君はルシファーを乗っ取ることとミラ君に迷惑がかかるから伝えておけということを言いたかったのか?」
「はい、それだけです。あ! それとルシファーは別の組織に変えてもいいですよね? ってことも聞きたかったんですよね」
「ルシファーをどんな組織にしようとしているの?」
アミレイア皇后は目をキラキラさせて聞いてきた……なにか未知の魔法でいろいろやるとでも思ってるのだろうか。
「まず今までやっていた非合法ではない仕事、情報の売買と地図の売買。これはこの国にあからさまに不利になることは、基本的には売らせないようにするつもりです。後は表立って依頼ができない人の護衛依頼。これは犯罪者などはしません。そして今回追加するのは食べ物の販売をします」
こいつは何を言っているんだ? みたいな顔で見てきやがった。ケーキを食べてもその顔ができるかな?
「最後はイマイチ流れを切っている気がするが、なぜ我が国に不利にならないようにするのだ?」
まあ、そこは大事だよね。簡単に潜入する相手がなぜかこちらの国の利を考えているんだから、それがひっくり返ったら大変だ。
「私はこの国の多種族がある程度は安心して暮らせるというお国柄が好きなんです。仲間にも色々な種族がいるので、この国が無くなられると困ります」
頬に手を当てて首を斜めにする。そのポーズをしながら、困りますとか言ってみた。女の姿だからキモくない!
「なるほどわかった。食べ物の販売というのは?」
「ケーキの販売を最初にする予定ですね。これがそのケーキです。毒などは入っていないので、試食してみてください」
ガトーショコラスティックを出して二人に渡した。ボックスから出したので、アミレイア皇后はすごい気になっているようだが、渡したらすぐに皇后は食べ始めた。警戒は?
「おい、レイア」
「あなた! このケーキは私達が食べていたケーキが何だったの? と思えるようなものよ! 凄いわ! 食べないなら頂戴?」
上目遣いで胸を強調してオネダリしだした。無い乳でそんなことをやってもな。睨まれたけど、私の胸を見たら視線をそらし始めた。
「……そこまで言うなら、私も食べよう」
「あーあ」
「うまい! 生地がしっとりとしていて、このケーキの味は何なのだろう?」
「チョコというものですね。ある実を使って作っています」
「そうか! チョコというのだな。そのチョコがとても濃厚でそれでいてしつこくない。これは本当はもっと砂糖をいれて甘くするものではないのか?」
さすが王様。ビターなチョコ生地と中に生チョコ入れている二段構造にしていたが、初めて食べた類のお菓子なのにそれを見抜くとはやりおる。
「そうですね。生地は今回は少しにがめにしています」
「うむ、生地は少し苦めだが甘いチョコも入っていて、バランスが取れている。甘い溶けるチョコは口の中でねっとりと生地と絡みあい、とても満足感のある出来になっているのだな……この苦さはコーヒーを使っているのか。これは売れる!」
喋りながらめちゃくちゃレポートが出てきたな。うまかったってことだな。
「これは色々工夫をしていて材料費が高いですが、帝都にいる一般市民の方々なら、何日かお酒や少しの贅沢を我慢すれば食べられるくらいの値段の物を出す予定です。あまり下げてしまうと、パンなどの今までの食べ物を蹴散らしてしまいますからね」
「一般市民というということは?」
アミレイア皇后が先ほどの何倍ものキラキラおめめで見てきている。魔法バカでも甘いものは女性なら好きなのだろう。
「もちろん貴族の方々向けの店も作りますよ。一般市民の店に来られても困りますからね。これと同じくらいのグレードの物を作る予定です」
アミレイア皇后が思案顔になってから、頭を下げてきた……頭を下げてきた!?
「私達の子供……私が生んだ子じゃないのだけれど、その子の成人式典があるのは知っているわよね? そのパーティーでこれの大きなタイプの物を出して欲しいの……お願いします」
美人のお願いを断るなんてことをするわけないじゃないか。
「いいですよ。朝ごはんがあまり食べられなくなると思いますが、何種類か食べてみてください」
と言って、ブロックサイズの小さいケーキをいくつも出した。二人とも必死になって、試食をしているので紅茶も出してあげて少し待った。
「このチョコは特に美味しいから選ぶとして、いちごのこれは見た目がいいから、作ってもらうべきだと思うの?」
「いや、見た目ならこの果物たっぷりのタルトとかいうのの方がいいと思うのだが」
「あなたはさっきからタルトばかり食べてるじゃない。自分が食べたいからってそれはないんじゃない?」
「そんな事言ったら君だって!」
なんか喧嘩し始めたし。甘味は争いを生む……名言だな。
『51点』
『62点』
『100点! ケーキは美味しいから!』
『98点、われに捧げなかったから』
点数なんてつけなくていいから。
「別に全部作るからいいですよ? お口に合わないものがないかを聞きたかっただけなので」
「どれも最高だったよ」
「みんな美味しかったです」
「なら良かったです。必要数などは計算して置いてくださいね。アミレイア皇后の魔法研究部屋ってどこですか?」
「なんでそんなこと……もしかして私の部屋に直接来てくれるの?」
この人はなんでも目を輝かせるんだな。可愛い人だ。
「ええ、王の寝室は別の妻の方がいて誤解を与えるのも良くないので」
「それは助かる。そういうことで煩い奴もいるからな」
第三皇后かな?
「ヤアちゃんは少しそういうところがうるさいですものね」
第三皇后さんだったわ。
「では、また後日来ますので……とりあえずミラさんと連絡を取ってください。二、三日後にアミレイア皇后の部屋に行きます」
「あれ? 教えなくていいの?」
「私には遠距離通話をする魔法がありますので、それで連絡します」
「まあ! そんなすごい魔法があるのね!」
「秘密ですよ」
口の前でシーとやって言ってみたけど、こういう行動は※イケメンに限るとか※美人に限るとかだから、今なら出来るな。
「ええ、私達の秘密ですわ」
「では、また今度」
私は……俺は転移で宿に戻った。
お疲れ様でした。
ケーキで色んなことを有耶無耶にするせこい主人公。
性別が変わっても、精神構造が変わっても動じない頭のおかしい主人公っていう話でもあるんだよね。
次回、壊滅を描きたい




