第88話! 俺と僕の敗北
前回のあらすじ。なんかカズシがカズシに見えない(読者談)
カズシって魂レベルで消滅させようとしても、出来ないクソ仕様だからな。
まあ、なぜ消滅しないかはこの作品では語りませんが(次回作も読んで欲しいからあえて言わない)
では、お楽しみ頂けると幸いです。
「あれ? 僕は……そうか。アンネに殺されたんだ」
今僕がいるのは真っ白の何も無い空間。神が人間と会う時に好む空間だね。神は神っぽさを醸し出したいから、何も無い白い空間をよく用意している。
ちなみに僕はその星を宇宙から俯瞰で見えるようなそんな空間を作って、転生の時に「貴方は死にました」とかやってた。
「でもおかしいな。立てないや」
目を動かすと口を動かす以外の全ての行動ができない。魔法を使うことも、指を動かすこともできない。
「もし死んでしまった時の為に、転生魔法をかけておいたんだけどな。なんでこんな空間にいるんだろう……神にインターセプトされたかな? にしても、誰も出てこないし」
人間いや、皆との人生は楽しかったな。とても名残惜しく思うよ。
俺は会場の皆をそこにいる冒険者や騎士に任せて、王都の外に出てきた。
「さっき皆を呼んだから、もうすぐここに来ると思うわ」
転移で自分の装備を呼び出して、着替えながら俺に話しかけてくる。結界で外からは見えないようにしているので問題ない。
「ああ、ありがとう」
「カズシ……どうしたの? なんであの場面で相手を無理やり倒さなかったの? いつもなら、王子を倒してその元凶も倒して、その後に全てを戻すとかすると思うんだけど」
着替えが終わったようで、心配そうに赤い瞳でこちらを覗きこんできた。うん。確かにこの前までの俺なら迷わずそうする。
「この前までの俺は怖かったろ?」
「え?」
「身内から見たらそうでもないと思うが、敵は全てねじ伏せる。嫌いなものは皆殺し。歯向かう敵は全て死ね。なんて行動をしていたよな」
「ええ。敵を洗脳したりもしていたわね。兎姉妹以外はみんな知ってるわ。私達のためだってことも」
その小さい体で俺を抱き締めて、落ち着かせるように、まるで母親のように、穏やかな声で答えてくれる。
「確かに今までの方法は楽だったよ。でもな、あの方法は俺が一番憎んでいる奴と同じ行動原理になっていた気がするんだよ」
「憎んでいたって、マールとかいう神のこと?」
「ああ。それになんていうんだ? 人間的な考え? 人間性を持った思考を回転させると、今までの行いが気持ち悪く思えるというか、故郷の道徳心とか考えを完全に思考の片隅に追いやっていたんだよ」
「カズシと同じ真っ黒な瞳に真っ黒な髪を持った女があそこにいたわよね? あの人と最後に交わした言葉は意味がわからなかったけど」
うん、そうだね。
「俺の故郷の言葉、日本語っていう言語だよ。さっき言った故郷の道徳心や人間的な考えを思い出したのは、姫様達のおかげでもあるけどその女性、命を見て故郷を思い出してしまったからかな」
マールを殺す為にその世界の全てを犠牲にした俺。その後の日本は闇を這っているかのような暗闇の中にいた。そこをルナが助けてくれて、ルナの願いで俺と夫婦になって欲しいと言われ色々していたが、そんな中マールの生存を認識した。
そこから俺はマールを殺す為だけの考え。欲望と闇に支配されていた気がする。だけど、皆によって暖かさを思い出し、ルーゼによってそんな俺でも肯定され、最後に日本人を見つけてしまった。思い出してしまった。
「俺はきっとこれからもっと弱くなるだろうな」
日本人の殺し合いへの忌避感を少しでも思い出した俺はきっといつかそれで殺されることになるだろう。ファンタジーなこの世界や神の世界はそんなに甘くない。だが、
「別にいいんじゃない?」
抱きついていたリルヒが手を離し、両手で俺の頬を挟んでぐにぐしながら、そんなことを簡単に言ってきた。
「はあ?」
「そのカズシのいう弱さは、カズシがその弱さを忘れるまでは持ち続けてたものでしょ? 一種の誇りとか貫き通すべき信念とかそんなものでしょ? カズシって何かが足りないと思ってたんだけど、私達を守るとか以外のそういう譲れない部分が足りなかったと思うのよね」
……譲れない思い。言われたこと以外にあるかと聞かれれば、自分の女の幸せを願う以外にはない。強いて言うならば、マールを殺すことくらい。でも、それは信念とは違う、ただの復讐心。
「うーん……そうね。この戦いが終わったら、昔の勇者時代のカズシの女を復活させなさい」
自分が言ったことが最善。間違いを言っていないと無い胸を張ってそんな提案をしてきた。いや、する予定だけどなぜ?
「は?」
「確か勇者なカズシの時は、殺した相手の全てを手に入れるんでしょ? 記憶は脳に記録されるけど、魂にも保存されるとか言ってたし、ならカズシの作った自爆する爆弾で死んだ双剣使いの女性、カズシを生かすために自らカズシの中に入っていった僧侶を生き返らせることも出来るでしょ」
「いや、何故いきなりそんなことを言うんだ?」
「だって、カズシはその人達を犠牲にして生き残ったから罪悪感とかを抱いてるんでしょ? ならとりあえずそれを消して、マールとかいうやつをどうにかして、そうすればきっと昔の自分を思い出せたり、弱い自分をしっかり肯定できたりするんじゃない?」
なるほど。リルヒはやっぱり何も考えてないんだな。直感だけで喋っているのだろう。
「……あはははははは。なんか言ってることがごちゃごちゃじゃね?」
「うるさいわね! 別にいいでしょ? とにかくまずはノーライフキングを倒しましょう」
言っていることが無茶苦茶なのはリルヒ自身も分かっていたようで、顔を真っ赤にさせながら、ぽこぽこ殴ってきた。籠手をつけているから、地味に痛いんだけど。
「カズシ様到着しました」
ミア、フィーネ、フラン、ホムラが到着してみんな揃った。装備もしっかり着てきているな。
「リルヒが呼んでくれたけど説明は?」
「ノーライフキングが現れ、王都の周りに敵が出現するのですよね」
「そうだ。フィーネが言う通りすぐにアンデット共が現れる。それをみんなで撃退する」
「質問いいかしら? 旦那様」
「なんだ?」
「今回の敵は完全にアンデットだけなのかしら?」
「わからん。ホムラが言いたいことは転移してきたら、そこに大規模な魔法を突っ込もうってことだよな?」
「ええそうよ」
「まず、今から転移が来るであろう場所より外側に結界を張る。結界魔法【遮断結界】 これで外側から人が入ってくることはない。で、内側には何故かこのタイミングで人がいないみたいだな。王都周り何だけどな。転移で来る奴らはほとんどが敵だろうし、開幕ブッパを狙ってくることはわかると思うから、人質がいるなら雑魚アンデットと共にはいないだろう。いても俺が何とかする」
「わかったわ。なら、新しく作った魔法を使おうと思います」
着物を腕まくりして、やる気をアピールしてくれているけど、腕細いな。それなのに一般の男達じゃ絶対にかなわない様な力を持ってんだもんな。
ステータスの恩恵はやっぱりでかいよな。あるからこそ、もっと求めてしまうのだろうな。
「皆もうやってると思うけど、いつでも体を動かせるように準備しててな。あと数十秒で転移が起きると思うから」
何十キロもの転移って無詠唱でも時間がかかるのかな? やったことねえからわかんねえや。
『スラリン、クロ、フウは会場の守りをお願いしてもいい?』
『えー。うちもカズシと戦いたい!』
『姫様達が気になって本気が出せない?』
クロがいつものように言ってくるが、スラリンは察してくれたようだ。
『ああ。お前ら三人なら何があっても守ってくれるだろう?』
『当たり前だし! うちがみんなを守ってあげる!』
『ちょろ』
『それでこそクロだ。スラリンの転移で行ってくれ』
三人、精霊2体にスライム一体だが、なんとなく人と数えたくなった。その三人を会場に転移していくのを確認して、
周りが魔力の嵐に包まれる。
「来たぞ」
一番外側の城壁の前にいる俺達の前に、視界いっぱいに埋め尽くされるアンデット。人型、鳥型、竜型、獣型などありとあらゆる魔物が所狭しと並んでいる。これだけの量だと、歩いてるだけで地面は揺れるし、雄叫び叫び声がうるさいな。うん。
『クロにフウにスラリンはこちらに至急戻ってきてください。いくら俺に火力があっても、地形を考慮しないといけないので、物量に押されそう』
言った直後にすぐに戻ってきたが、
「だから言ったじゃん! うちたちの力も必要だって」
「そんなことを一切言ってない。クロは嘘つき」
「うちは嘘つきじゃない!」
フウと憑依する時の姿を取っているフウに、黒髪ポニテオッドアイに黒基調の青ラインが入ったコートにブーツ、黒い鎖に腕に巻き付けた包帯の下からは青い炎を漏れだした美少女と、スラリン人間形態が立っていた。
人型で来たってことはしっかり頭数に数えろってことか。中にいても魔法を行使することは出来るだろうけど、一緒に戦いたいって言ってたしこういうことか。
「クロも人間の大きさの姿を取れるんだな」
「うちは精霊の姫! 闇属性では二番目に凄いんだよ!」
たしかそんな事言ってましたね。普段の言動で忘れてたわ。王都を囲うように転移されてきたみたいだな。面倒だ。
「空……結界! 【次元結界】 これであのノーライフキング以外は結界を超えて王都に入れないだろう。とりあえず目の前の敵に魔法をぶっぱなすから、高火力な魔法ができたら撃ちまくれ!」
皆が魔法を放つために集中し始めたので、俺も重力魔法でも使おうかと意識を向けた瞬間、
「主様! 危ない」
フィーネの声のする方向から、敵意の全く感じない矢が何本も飛んできて、俺の影を射抜いた。
「カズシ!」
空を見ると、弓矢の雨が俺に向かって落ちてきているので、避けようとしたが、
「動かねえ、影縫いか! 【ハンドレットライトニングアロー】」
練り上げていた魔力を一番使い慣れている雷の弓矢に変えて放つ。それで雷の弓矢は矢の雨を全て焼き切ることが出来たが、
「なんで!?」
顔を困惑させながら、俺の腹に血の装甲を纏わせた拳で貫いているリルヒが目の前にいた。
「ははは。ゴホ……冗談はきついぜ。リルヒどうした?」
「体がぁ、いやああああああああ……【ブラッドエクスプロージョン】」
リルヒの血液装甲越しに触られた俺の血が一斉に弾け飛んだ。
内側から体の血がはじけ飛ばされた俺はそのままぶっ倒れ、意識を失う間にこんなことが聞こえた。
「気を抜いていたな? 私の侵食はここまで進んでいるから、君と戦う気になったのだよ」
ぬかったわ。
そして俺、種族人間、名前カズシの人生が終わった。
お疲れ様でした。
やっと殺せたわ。カズシを殺す為に14話から準備してたからね。なんでリルヒ程度の攻撃でがっつり腹に穴が開くのかは後で説明されるはず。普通なら聖剣とかを使わない限り傷つかないですよ。
次回、俺と僕。人間と神。




