月よりもっと
「光星……」
私の、一等星。
「ずっと一緒に居てくれるって、言ったじゃない」
言ってくれた、よね。ちゃんと覚えてるよ。あなたがくれたものは、全部とっておいてあるよ。
「弱い者……か」
うん、あの時の事、覚えてるよ。あなたがくれた言葉だもんね。
暗闇の中、独りきりで花火を見ながら思い出した。付き合い始めた頃のこと。
『いっとくけど、俺は常にお前の味方ではないからな』
『どういう意味?例え私が正しくても、私の味方にはならないってこと?』
『いや、そうじゃなくて』
大きく息を吸って、ふーっと吐き出した光星は自分の言葉を考えつつ、声に出した。
『要は、常にお前の側に立つとは限らないって事だよ。俺は基本、立場が弱い方の味方になろうって考えてる。だからお前が孤独だったり、弱い立場を与えられている時は、俺はお前の味方になる。お前が多数派だったら、俺はお前の側にはいない。
カレカノがどうのこうの以前に、これは俺のやり方なんだ。悲しまないで……ほしい』
『……わかった』
そう、光星の信念も心情もわかってる。彼女だから。
「でも……さ。せっかくの花火大会なのに。
二週間ぶりのデートなのに……っ」
先刻交わした言葉を思い出した。彼の幼馴染み、那月さんの話。彼氏が突然死んでしまって、独りで寂しいって泣いてたって。
『あいつ、まだ沈んでるんだ。なのに、俺は何もできなくて……。だから』
『だから、行っちゃうの?私をおいていくつもり?せっかくのデートなのに……』
私は、知らず知らずのうちに浴衣の袂の裾を握りしめていた。しわがつくまで、強く……強く。
『俺でも、あいつに寄り添ってやる事はできる。いや、したい。俺がしてあげられる援助は、全て注ぎ込んでやりたい。
菜々(ナナ)には悪いと思ってるけど……お前には友達がいるだろ?』
あいつは今、誰にもすがりつけずにいるんだ。って、私の返事も聞かずに駆け出した。
「馬鹿、ばか……ばかっ」
何で置いてくの?私よりもあの子の方が大切だっていうの?
「今更、呼べる訳ないじゃん……っ」
友達の誘いを断ってまで、あんたと花火をみたいって思ったのに。独りにするなんてひどいよ。
「あんたの彼女は、私なのに……っ」
涙が、溢れる。虚しさと怒り、嫉妬。私は、月に負けたのだ。太陽に照らされて光っていた月に。太陽の代わりに、私の星を手に入れた月。
私は……空に浮かべない。だって雑草だもん。私も、星になりたかった。
「帰ろう……」
星をなくした私は、希望を取り戻すことなどできないだろう。彼はきっと、もう戻らない。
次は星かもしれません。