A boy parts.
「師匠、お願いがあるんだけど」
「なんだい」
ウィルがお願いとは珍しい。つい、スプーンからスープをこぼしそうになる。そう、昔…というほどでもない昔、私は少々名の売れた画家だった。と、言っても全盛は過ぎてただ生活のために慣れで依頼された金持ちの肖像画を書いていくだけの日々だった。それでも、私は絵を描き続けると思っていた。あの絵を見るまでは……
「師匠?」
「ああ、少し考え事をね。で、何の話だい」
「だから、お願いがあるんです」
「だから、お願いとはなんです」
「え、ええと…ね、コンクールに絵を出したいんだけど」
「……」
……私は全力で拒否したい所だ。コンクールは審査員の好みで大きく左右される。コンクールごとに絵を描き分ける必要があるのだ。慣れてきたらコンクールの重要度によってかける時間を制限していくことになる。それらの打算的な要素が全てではなく、ウィルには打算ができないとも思っていない。しかし……
「……なにか、あったのですか?」
「友達もコンクールで入賞したって嬉しそうだったし、審査員に僕が好きな先生がいたから」
聞かれると思って考えて置いたのでしょう。そうか。私もそのような理由でコンクールに出した記憶があります。気持ちはわかるのですが
「絶対だめです」
「で、でも…いつかは僕も食べていけるくらいに絵を買って貰わないといけないし、いろんな人に見てもらいたいし」
「だったら、出せばヨイデス」
「え?」
「私に黙って出せばよいでしょう。私の許可が無いとコンクールに出せないわけではありません。しかし、もう一度言います。私は絶対に反対です」
これでも出すのなら仕方がない。私はウィルの師匠であってウィルの主人などではない。とにかく、今日は疲れた。寝よう
”ゴツッ”
痛!なhgd
「師匠のばかーーーーーーーーーーーーー」
そこらにあるリンゴやらフォークやらを投げつけてくる。痛、い痛い
手当たり次第に投げつけた後、ウィルは部屋に籠城してしまう。
んーーーーーーツライ。もしかしたら、嫌われたのではないだろうか。このまま弟子を辞めてしまわないだろうか
「あの……ウィル」
「…………」
「そうですよね。私がコンクールを止めるのは酷いですよね。私は君の将来を保証できるわけでもない。成長を保証できるわけでもない。ただ、ウィルがコンクールに応募したからといって君を追い出したり、教えるのを止めたりしません。ただ、私が嫌だっただけなんだ」
本当は少しでとても長く感じる沈黙が続く
「…師匠は……なんで反対するの?」
「そうだね。こんな話がある。あるところに画家を目指す少年がいた。その少年は人付き合いが悪くてね、要はコミュニケーション能力が欠如してるんだね。だから、一人で空や森や草原や海とかに出かけてのんびりと絵を描いていたんだね。彼にとって心から穏やかな時間だった。そんな少年も16、17になってくると趣味で絵を描き続けるのは無理だと気が付いたのだね。消去法でプロになろうと決めた。でもね、何回出しても入選止まりだった。流行を知らなかっただけなんだけどね。そんなある日、審査員の先生に人物画を薦められて普通に描いたら絶賛されてそのまま人物画家になっちゃったんだ。そのまま、永遠と好きでもない人物画を描き続けているところに微妙に目線を合わせない子供が絵を持ってきてね、その絵に子供のころの夢?希望?よくわからないけど、そんなものを思い出したんだ。そして、彼はその子を弟子にして末永く暮らしましたとさ」
ウィルが少し顔をのぞかせていう
「風景画が評価されなかったからコンクールが嫌いってこと?」
表面的に微笑みながら答える
「ちょっと違うかな。つまり彼は表面上の成功と引き換えに子供のころからの希望、夢をなくしてしまったんだ。だから、ウィルには夢を無くさないで欲しいと思ったんだ」
パタンと扉が閉まる
「僕…少し考えてみる」
その次の日、ウィルはいなかった。