1 桜と彼女
君スト続!
恋愛において一番なにが大事かという話になると、半分以上の人間が「性格」と答える。「性格が合わない人なんていくら顔がよくたってダメ」耳にタコができるくらいどこでも聞くセリフだ。そしてそれをよくよく掘り下げていくと最後は「価値観が合う合わない」という話になる。僕もまた、その意見に激しく同意する一人だった。
「性格が悪い女なんてどんなにかわいかろうがスタイルがよかろうが絶対嫌だ」
そんなセリフを男友達と吐いていた。そして何組のなにちゃんは絶対性格が良いだの何学科のなにちゃんが人の悪口言うなんて考えられないだの。男友達となんだかんだくだらない話をしていだものだ。
そう。性格が悪い。価値観が合わない。そんな言葉は自分を守るための逃げの言葉だと教えてくれた、彼女に会うまでは。
あの日、彼女と出会ったのはきっと運命だと思う。
「タバコ、吸ってるの同じ銘柄だ」
学校の喫煙所のベンチに座って煙を吐いていた僕は最初、自分に話しかけられているだなんて思わなかった。だから声のするほうをちらりとも見ずに、煙を吸うと、誰かが隣に腰掛けた。
「ね。無視しないでよ」
自分のことだと理解し、あわてて隣を振り向いた。
「あ、ごめん・・・・・・」
そして、そのまま硬直した。
「吸ってるの同じ銘柄だよ。あたしもそれ、キャスターの6ミリ」
「え・・・・・・あ、そうなんだ」
「もしかして人見知りする人? ごめんね突然」
「いや・・・・・・」
「あたし、美桜っていうの。二丘美桜」
そのとき授業開始のベルが鳴り、彼女ははっとしたように顔をあげた。
「やっば。ベル鳴っちゃった。またね!」
そう言って、校舎の中へと走り去って行った。
「におか・・・・・・みお」
僕は、ただ呆然とその後姿を見送り、タバコの灰は、いつのまにか全部落ちきっていた。桜が舞い、花びらが頬をかすめる。
桜の中で見た彼女の顔は、いつまでも頭から離れなかった。