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前世悪役令嬢。現代OLに転生して、幼馴染みの年下彼氏に溺愛されてます。  作者:


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第4話 お前らの恋愛事情なんぞに興味はない。

 翌日からは、いよいよプロジェクトの本格始動。

 私たちサポートメンバーのデスクは、企画部の中心近く。同期やほか部署のサポートメンバーと一緒。

 広瀬衛は、私にちょっとした指示や、雑談を交えながら声をかけてくる。

 雑談したり声を掛けたり、それは私だけじゃなく、他のメンバーにもしてるから、過敏に反応するつもりはないんだけどさぁ、ただねぇ……。

 なんだろう? 広瀬衛が私に声をかけてくるたびに、咲村こころがすんげー目で睨んでくるのよ。


 あぁん(まぁ)!? なんじゃわれぇ(何か私に)喧嘩売っとんのか(御用かしら)!?


 はっ! 違う違う、そうじゃない。そうじゃないのよ。

 たぶん、咲村こころは広瀬衛に恋愛的な意味での好意がある、んだよね? でなきゃ、あんな目で睨んでこないでしょう?


 ただ、広瀬衛が声をかけてるのは、私だけじゃないのよ。

 企画部の正規メンバーはもとより、私以外のサポートメンバーにも、平等に声掛けしてるの。

 なのに、私にだけ睨みつけるって、何なのよ。

 睨まれる心当たりないんだけど? あ、もしかして記憶がある?

 いや記憶があっても、前世の私、金髪碧眼の美人系美少女。今世の私、黒髪黒目の童顔可愛い系。全く系統が違う容姿だしなぁ。

 そう簡単に気づくとは思えないのよね。

 それとも私のように、前世の姿が重なって見えるとか?

 う~ん、わからない。


 まぁ、睨まれる程度でビビり散らかすほど、ガラスのハートじゃないから、うぜーとは思うけど、自分から進んで絡みに行く気はない。


 ただし、咲村こころ。あんたには前世の恨み、八つ当たり的な恨みがあるからね。

 そんな女に睨みつけられて、「私、彼女に何かしたかなぁ? ビクビク」なーんて、私がすると思ったら大間違いよ。

 私の勘が、前世の私が、やられる前にやっちまえ。と、臨戦態勢に入ってる。


 よし、ここは素直に自分の直感を信じる。

 そしてこういうことを考えるのは、とっても楽しい!!

 何もなければそれでいいんだよ。

 でも何かあった時への備えは必要でしょ?


 咲村こころ。

 私に手ぇ出してきたら、無事で済むと思うなよ?


 攻撃されて、誰もかれもが黙ってやられっぱなしってわけじゃない。

 他の女はどうだか知らないけれど、私は二度とこっちに仕掛けてこようなんて考えを持たないように、完全に息の根を止めに行くからね。

 だって下手に仏心を出してごらんよ。それは相手に余力を与えることだもの。

 つまり復讐の機会を与えるってこと。


 どうせやるなら、完膚なきまでに叩きのめして、「ごめんなさい。もうしません。何でも言うこと聞くので許してください」って言わせて、二度とこっちに歯向かわないように、バキバキに心を折らなきゃね。

 私はそういう女だからさ、反撃される覚悟をもって、仕掛けてきなさいよ。


「萩原さん、こちらの資料のチェックお願いできますか?」

 脳内でシュッシュッとシャドウボクシングをしていたら、広瀬衛に声を掛けられる。

 差し出されたのは、重要度の高い企画案の資料。


 ん? ん~? これサポートに任せていい仕事か? 結構重大なやつだよ?

 ま、まぁ? 私、顔だけ女じゃないから? ちゃんと仕事できますし? これぐらいなんてことないわよ。

 広瀬衛から直接指示されるのにモヤるけれど、奴はリーダーだし、これは仕事だ。

「わかりました」

 平静を装って資料を受け取り、すぐに目を通す。


 で、なんでまた睨みつけてくるのよ。咲村こころ!

 仕事しろよ、仕事ぉ! 自分の仕事に集中せんかい!

 仕事に恋愛事情を持ち込んでんじゃねーぞ。


 午前中は広瀬衛に渡された資料を基に提案書を作成。それは午後の会議に使われるから、最優先で仕上げる。

 夢中で提案書を作成してたら、社内放送で昼メロディーがなる。


「千束、一緒にお昼食べよ」


 声をかけてきたのは沙也加だった。

「私、お弁当」

 うふふふっ。兵吾がぁ、作ってくれたんだよねぇ~。

「知ってる。私もお弁当だから、フリースペースで食べよ」


 食堂隣にあるフリースペースは、昼時になるとお弁当勢の昼食スペースになる。

 お弁当をもって、沙也加と一緒にフリースペースに移動する。


 今日のお弁当はなーにかな?

 ワクワクしながら蓋を開けると、小さなオムライスおにぎりが四つ、ウインナーとミートボール、それからズッキーニーを素揚げしたのと、ブロッコリー、プチトマト。

 別容器にフルーツ詰め合わせ。

 ん~! 彩鮮やかで、おいしそー!! 


「なんか思ってたよりも、ギスギスしてないね」

 沙也加の呟きに顔を上げる。

「プロジェクトのこと?」

 ミートボール美味しい。

「うん。企画部の新プロジェクトだし、もっと厳しい感じだと思ってた」

「あー、それはわかる。サポートって言っても、メインで動いてるのは企画部の人たちだし、もっとこう雑用ばっかり押し付けられると思ってた」

「そう、それ。けど、ちゃんと一員として扱ってくれる感じ」

 沙也加と二人でお弁当をつつきながら話してると、他の部署からのサポートに来てた笹木さんも会話に加わってきた。

「萩原さん、曽我さん、一緒に食べよー」

「いいよ~」

「あ、俺たちも一緒でいい?」

 続いて同じくサポートに入った葉山くんと、長谷川くんもやってきた。


「へー、葉山たちもお弁当組なんだ?」

「俺たち、自炊派なんだ」

 沙也加の問いかけに、葉山くんはニコニコ笑いながら答える。

「趣味にお金かけててさ。節約してるんだ。長谷川は……言ってもいいか?」

「いいよ。隠してないし。俺は料理が趣味」

「お、料理男子!」

 思わず声が出てしまった。


 からかわれたと思ったのかな? 長谷川くんは拗ねたような口調で零す。

「何だよ。おかしいか?」

「そんなこと言ってないじゃん。私の彼氏だってコックだよ? これも彼氏が作ってくれた」

 そう言って自分のお弁当を指出す。

「すご……」

 私の弁当をまじまじと見ながら、長谷川くんは呟く。


「え? 萩原さん彼氏いるの?」

 笹木さんが茶化しながら訊いてくる。

「いるよー」

 そう言いながら左手を前に出して、指輪を見せた。

「これ、誕生日に彼氏が買ってくれたんだぁ」

「うわ、惚気られた」

「まぁ、それだけ可愛いなら、彼氏がいたって不思議じゃないか」

 納得したように葉山くんが言う。

「曽我さんは?」

「付き合ってる人? いるわよ」

「だよなー。まぁ、俺は趣味にお金かけて、恋人どころじゃないんだけどさぁ」


 ワイワイ雑談をしながら、お弁当をつつく。

 そして話題は自然と、いまサポートに入ったプロジェクトのことになった。


「そーいえば、沙也加。なんであんなこと言ったの?」

「あんなこと?」

「思ってたよりもギスギスしてないって」

 私がそう訊ねると、沙也加は少し顔を曇らせ、葉山くんと長谷川くんは視線を交わしながら、こっちを見る。

「萩原さんは、知らないのか」

 ポツリと呟く長谷川くんに、首をかしげてしまう。

「なにが?」

「企画部は花形部署だけど、サポートに入った社員の扱いが良くなくって、結構問題になってたんだ」

「そうそう、部署移動して、企画に携わりたいってやつは結構いる。企画部で新プロジェクトが発足すると、移動したい社員はサポートに立候補する。いざサポートに入ったら、扱いが悪い。扱いが悪いだけなら、まぁサポートだしって思うんだけど、サポートに入ってくれた社員に対して、企画部のメンバーが下に見るって言うか、そういうことが多々あったらしいよ?」

 そうなんだぁ。

 サポートなんて今回初めてだから知らなかった。


「でも、今は違うわよね? 私も今回初めてのサポートだけど、そんな嫌な感じのことされてないよ。まだ本始動一日目だからかな?」

 笹木さんの問いに、長谷川くんが頷く。

「広瀬さんが意識改革っていうのか? そんな感じのことを企画部署の人たちにして、今の状況にもっていったんだって」

 へー、やるな。広瀬衛。まぁ、王子時代も仕事《《は》》できてた。


 じゃあ、そろそろ仕掛けをしよう。

 楽しい楽しい、悪だくみのお時間ですよ。


「そうだったんだぁ。じゃぁ、あれは気のせいかな?」


 私の呟きに、笹木さんが反応する。

「何? なんかあったの?」

「んー、何かって言うか……。咲村さんに睨まれてる感じがするんだよねぇ」

 私の言葉に、笹木さんは口を手で押さえ、沙也加は眼鏡の奥の瞳を光らせる。

「それも、広瀬リーダーと話してる時に限って。だからてっきり、広瀬リーダーに気がある咲村さんの気に障ったのかなぁ?って、思ったんだけど、二人はどう? 広瀬リーダーと話してるとき、咲村さんに睨まれたりしてない?」

 もちろん、二人が睨まれてないことはちゃんとわかってる。

 咲村こころが睨んでるのは、私にだけだ。

 でもさ、私はこの昼の会話で、サポートメンバーに、情報を落とした。


 ふふん。こういうのはな、まず先に根回ししておくのが大事なのよ。

 今なにもなくても、後々のことを考えて、種をまいておくの。


 私にはラブラブの彼氏がいるから、広瀬衛に興味はない。

 咲村こころは広瀬衛に気がある。

 そして広瀬衛に声を掛けられた私を睨みつけてくる。


 些細な情報だけど、後々咲村こころが私に何かしたとき、「そう言えば、萩原さん咲村さんに睨みつけられてるって言ってたな?」って、なるでしょう?

 その何かした理由が、咲村こころの私怨、広瀬衛と近すぎるから嫉妬して、ってなるじゃない。


「私は広瀬リーダーと話しても、咲村さんから睨まれたことはないわね」

「私も……」

「じゃぁ、気のせいか。変なこと言ってごめんねー」


 私ははっきり睨まれてるとは言ってない。睨まれてる気がする、と言ったのだ。

 でもね、この話を聞いたらさ、私と広瀬衛が話してる時の咲村こころの方を気にするよね? 本当に睨んでるのかな?って。

 うふふっ、次に咲村こころが睨んできたときが楽しみだわ~。



 昼休み後にすぐ午後の会議があって、それが終わったときに咲村こころに声を掛けられた。


「萩原さん、この提案書なんだけど、わかりにくいところがあったから、修正してくれませんか?」

 わかりにくい……だとぉ? 

「こことここを、三番資料の統計を入れて」

「なるほど、なるほど。あ、すいません。これ、口頭じゃなくって指示書ください」


 口頭指示だと言い逃れできるからね。

 咲村こころからの指示で修正したという証拠が欲しい。

 案の定、咲村こころは私からそんな切り返しをされると思ってなかったようで、口ごもる。

「そんな指示書出すほどの修正じゃないし」

「でも修正するんですよね? 一応、この提案書、会議に出す前に広瀬リーダーに確認してもらってたんですよ。そこからの修正となれば、勝手に修正したことになりますし、やっぱり指示書が欲しいです」

 邪気のない笑顔をみせて、咲村こころの悪意に気付いてませんって様子を見せる。


「千束、どうしたの?」

 私たちのやり取りに気付いた沙也加が、声をかけてきた。

「えっとね、さっきの会議に出した提案書がわかりにくかったみたい。修正する様にってご指摘貰ってたところ」

 えへっと笑いながら答えると、沙也加の目つきが鋭くなる。

「千束が出した提案書って、一番最初の議題のやつでしょう?」

 沙也加はそう言って、私の手から提案書を取り上げた。

「どこ? どこがおかしかった?」

 パラパラと提案書をめくりながら、沙也加は訊ねる。

「こことここがわかりにくいんだって。それで三番資料の統計を入れるようにって」

「え? なんで? それじゃぁ数字が変わるよ? 素材の発注数が足りなくなる。咲村さん、どういうこと?」


 ざわざわと、会議に出てたメンバーが、こっちに注目し始める。

「あ、あのっ、私……」

「萩原さん、どうしたんですか」

 ここでようやく広瀬衛が出てきやがった。

 なんで真っ先に私に訊く!? お前の直属の部下である咲村こころに訊ねろ!


「広瀬さんっ!」

 咲村こころは涙目で広瀬衛に近づく。

「わ、私……、萩原さんはプロジェクトサポート初めてだから、良かれと思って……」

「でも素材の発注数が足りなくなる修正ですよね?」

 私ではなく沙也加が、咲村こころの指示がおかしいと、容赦なく突き付ける。


 ふむ……、私が矢面に立たずとも、沙也加がやってくれるなら任せるか。

「何か、誤解があったのかな? 咲村さんとは僕が話すよ」

 好きなだけ話しあえ。そんなのいちいちこっちに言ってくるな。

 私が知りたいことは一つ。


「提案書の修正どうしますか? 修正するなら指示書お願いしますね」


 そう言って、広瀬衛と咲村こころに、無邪気な笑顔を見せてやった。



悪意を感じた時点で、暢気に「気のせいかな?」なんて油断するのではなく、即反撃の下準備を始める。それが悪女というもの。

ヤベー女だよ ((((;゜Д゜))))ガクガク


あぁん(まぁ)!? なんじゃわれぇ(何か私に)喧嘩売っとんのか(御用かしら)!?』

オマージュ元 愉快な神統記 ペルセポネVSメンテ


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