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 テロ集団。

「国が平和ボケしていたのは表向きだけだったか」

 チリカはこの集団のことを知っているのだろうか。

 さらに読み進めると、

「婆のことは特に書いてないな…」

「ああ」

「で、私どもはどうしたら?」

 ソニックはランドルと俺のやりとりに割って入った。

「この『 王宮騎士団および大都市騎士団治安維持連合』ってとこが危急でチームを派兵するそうだ。

 到着は明後日。

 あのアパート自体が根城になっている可能性があるって」

「住民は?」

「魔法防壁を最大限使って被害ないようにするって言ってるが」

 思わず舌打ちする。

 あのあたりは木造のアパートと一軒家が密集している。

 小競り合いで家の壁に穴が開くこともしばしばだったのに、

「無理に決まってるだろ」

 ランドルが少し黙って、

「王宮魔法師が出てくるのかもしれん」

 ソニックが生唾を飲んで、

「確かに」

「国を挙げての大捕り物だ」

 頷きながら俺は、

「五十年近く逃げ延びたテロ集団の主役級最後の一人なら、そうだな」

 『この小さな町にそんなことが起きるなんて考えてもいなかった』。

 そういう全員の思いによってだろう。沈黙は暫く続いた。

「ダン、当然だが、知らなかったよな」

 口火を切ったランドルは俺に、ため息まじりで投げかけた。

「当たり前だ」

「だよな。でもそれはそれでなぁ…」

 その通りだったが、この町に来た時からあの爺はいて、接点もほとんどなかった。

 人魚絡みの何かもこの町ではあまり聞かれなかったから、余計だったのだが、

「これまで人魚の話や末裔の話が出なかったこと自体、爺が囲い込んでコントロールしてた可能性があるんだな」

「前線でそれなりに激しい戦闘もあった場所だったのに、軍人ごと抱え込まれてたかもしれん。

 ダンがここに来た頃からあの爺いたんだろ?

 だったら、もしかしたらそのころにいた軍人らの中の古株には手引きしたのがいたかも」

 思わず天を仰いだ。

「どうしようもねぇ」

 その時の者たちには傭兵も混ざっていたし、国所属の軍人は皆とっくに退役している。

「ご記憶とか」

「さっぱりだ。

 世話にはなったが、俺そんな他人に興味ねぇから」

 世話になった、という思いはあるが、顔と名前が一致しないぐらい覚えていなかった。

「残っているのがダン曹長だけなら、間違いなく取り調べに来ますよ、これ」

 思い切り叩いたら、思い切り埃が出る。

—————チリカ。

 タイミングが悪すぎだった。

 チリカが来る時期と大捕り物がある時期がもしかすると被る。

「しょうがねぇ」

 二人に気づかれないように、チリカの美しい人魚の肢体を思い浮かべながらぼやく。

 チリカはあの夜、爺について素知らぬふりをしたのだろうか。

 そうは見えなかったが、今の俺は自分が全く信じられなかった。

 贔屓目に見ているかもしれない。あのときのキスに引きずられているかもしれない。

 引っかかり度合いが深刻な分だけ自分への猜疑心が深まっていく。

「ナム副隊長に自白の魔法をかけられるのは覚悟しとくしかないってことな」

「見たことないんですけど、やっぱり本当にあるんですかね?」

「さあな。隠密行動的なところでしか使わないようにしてるって聞いたことがあるが」

 どんどん部屋の空気が重くなる。

「なるようにしかならん」

 俺が一声掛けると、なぜかランドルとソニックがほっとした顔になった。

「こっちではもう定例の訓練を普段通りやっていって、何もない感じにするしかないってことですね」

「ああ。援軍の申し出とかもないから。

 何かあったときにいつもの小競り合いと同じように野次馬の制御をしていくぐらいしかできん」

「援軍要請ぐらい、してきたっていいのに」

 そうなのだ。

 詰所があるわけだから周辺の防備など援護指示があったっていい気がするのだが、基本的に書いてある内容を見る限り、指示は、

「『何もするな』だからな」

「その辺もナム副隊長に聞けないかな」

「無理だろ。どう考えてもこの組織自体が軍の秘密組織だろうし」

 俺はランドルの目を見ながら、手紙の上のほうに書いてある組織名を指差した。

 同時にチリカがナム副隊長に言っていたセリフを思い出す。

『あなた最後は利ザヤ取る人でしょ?』

 チリカが人魚だとわかったら、ナム副隊長はチリカをどうするだろう。

 かつて美味で珍重され、食用とされてきた人魚の最後の一人。

 しかも王族で、時空を超えてここにいることを鑑みると、

—————見つかったら実験動物扱いは間違いないな。

 少しずつ再生できる範囲内で肉を切り取られていくかもしれない。

 ナイフをその腕に当てられ、悲壮な顔でうなだれながらも唇をかみしめるチリカが瞬間的に頭に浮かぶやいなや、思考が真っ白になった。

「あえてここでやるべきことを示すのであれば、明後日までの間に不信な動きがないか見張ることだな」

「あのアパート周りとか、魔物とかってことか」

「そうだな。爺がこういう来歴だったことを踏まえると、あの魔物がテロ集団の先鋒だった可能性も検討されてたかもしれん」

「対魔物訓練にナム副隊長を招聘する手筈がスムーズだったのもそのあたりがあるか」

「根回し済みだったってことか」

「魔法陣もか?」

「見たことがある、ってことだったもんな。

 もしかしたら」

 色々と今更腑に落ちることが多くなってくる。

 人魚の末裔にだけ脈々と受け継がれてきた魔法陣があるのなら、爺がその使い手の可能性もあるわけで。

「あの、軍人が爺に気づかなかったのはそのせいじゃないでしょうか」

 ランドルは目を見開いた。

「人魚の末裔だけに伝わる魔法を使った…?」

 単純な魔法なら、最前線で歴が長い軍人や傭兵は当然知っている。

 見たことがない魔法を、こっそり使っていたのだとしたら?

 魔法陣のように埋め込んであるものはただでさえ分かりにくい。

 爺が得意とするのは『魔法陣による魔力隠蔽と人形代作り』。

「やり方も含めて完璧に隠蔽されたってことか」

「そうなるとやはり婆との関係が気になるが…」

 婆は爺を知らなかったようだったが、爺は婆について何か知っていたのかもしれない。

 不動産屋がテロ集団の情報拠点となっていた可能性もあるため、人魚の末裔の情報網を駆使して来歴を調べ、入居に問題ないと判断したとか。

『目がきれいでな。あの茶色から…』

 思い出した爺の言葉。

 もしかして、あの後続いた言葉は、

—————あの茶色から『青に変わるところが』?

 婆もまた人魚の末裔なのかもしれない。

 占いはその口伝の魔法を使っていたのかもしれない。

 少し先の未来が見えたのかもしれない。

—————だから逃げた?

 爺絡みで大捕り物があり、自分にも何かしら火の粉が飛んできてしまうかもしれないとが分かったから?

荷物がすっかりなくなっていた事は謎だし、この憶測がどこまで当たっているかはわからない。

 でも、チリカを『おひいさま』と呼んで、大切に匿ったことは、憶測を裏付けているように思えた。

————ますますチリカが危ないんじゃねぇか?

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