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 店は夜の人でごった返していた。

 まだ椅子に座っている者が多いから掻きわけるといってもそこまでの苦労はない。

 が、祝杯を挙げているのは俺たちだけではなく。

 今日から目出度く開漁となったため、今日の日中の仕事を終えた者たちが詰めかけていた。

 ガタイがいいのが多く、普段の夜より隙間が狭い。

 俺たち四人——ペジェ伍長・ナム副隊長・ルースに俺——だってそれなりの場所を取る。

 祝杯のはずが、予約された隅の席へ縮こまるように移動。移動。移動。

「コース予約してもらってるんで」

「こんな感じの店で何ですが」

 もうちょっとちゃんとした店があればよいのだが、あいにく高級感のある店など地方の町にはなかった。

 俺の言葉にナム副隊長が相槌を打とうとしたその時、

「悪かったわね」

 目の前に置かれた前菜の皿。

 消えていく褐色の手。

 全員の視線は、声の主チリカに集中した。

 戻ってきてたのか、とか、何か言おうにも口が動かない。

 あまりにも飄々とした、以前と変わらないチリカ。

 チラリとナム副隊長のほうに視線を向けるが、『アラ』と小さく一言しただけ。

 一方のナム副隊長は明らかに紅潮し、震える唇で、

「久しぶり」

「そーね、いつぶりかしら」

「10年だ」

 チリカは無言のまま、全員の前菜を置きに来る仕事は終えたとばかりにいなくなった。

 いつまでもその背中から視線を外さないナム副隊長とは正反対。

—————聞き込みは明日だな。

 ナム副隊長がこの様子だと、引き留めるか出待ちするか。

 三連休のうち一日はチリカで汚染されること確定なのが残念だが、単独行動しようとしているわけだから半分は自業自得だった。

「知り合いなんすか?」

 ルースの軽い一言で、

「昔同棲してたんですよ」

—————やっぱりな。

 思っているうちに別の店員が頼んだ酒のジョッキを並べた。

「へ~!! あの人定住してたことあるんすね!」

 ナム副隊長の視線はジョッキの水滴に消えていく。

「あんまり人のプライベートをほじるんじゃない。

 じゃ、酒もきたことですし」

 強引にジョッキのハンドルに手を差し込んで掲げ、

「乾杯」

「「「乾杯」」」

 最初の一口とともにチリカの余韻を消し去る。

 全員が飲み終わると、ジョッキを置いたところで妙な間ができてしまった。

 こういうのは苦手だ。何を言おうか一瞬考えて居るところに、ペジェ伍長が、

「ダン曹長はいつ頃からこちらにいらっしゃるんですか」

 ナム副隊長ともども俺のほうを向いた。

 いい塩梅の話題ではあるが、俺をほじりに来るとは思っておらずどの程度話したものかと思案しつつも、

「終戦の少し前あたりです」

 ほぅ、となったペジェ伍長。

 ナム副隊長は話を聞いている姿勢をつくっているものの、厨房が気になっているようだった。

 ペジェ伍長も何となく気づいているようだが、俺と同じく素知らぬふりで会話をつづけた。

「長いんですね。その前はどちらに?」

「首都ですよ」

「え?」

「そーなんすか? 街のどの辺すか? 俺、首都行ったことなくて、地図しか知らんのっす」

 ルースの素朴な疑問に堪えあぐね、ポリポリと頬を掻いていたところに、最後の一人のメンバーが到着した。

「こいつがいたのは王宮騎士団だぜ」

 ランドルがしたり顔でお誕生日席に座ると、通路は完全にふさがった。

 同時に、俺の心理的な退路も。

 ルース・ペジェ伍長・ナム副隊長が同時に『ぇぇええ!!』と同じように声を上げた。

 王宮騎士団。

 軍の中でも王直属の部隊であり、特に苛烈な前線への派兵を目的として構成された特殊部隊に近い。

「エリートってこと」

 ランドルがニヤニヤしながら店員が持ってきた酒を乾杯もなしに二割ほど飲み干す。

「元な」

 一応、エリートの範疇に入っていたことは否定しない。そういう扱いをされていた。

「あのままいってたら今頃王宮騎士団長だったかもしれんだろ」

「そんなわけあるか。俺があそこに残ってるってことは、ゼタ団長がいたはずだから」

 一同の視線がランドルと俺に集まりだす。

「面識があるんですか?」

「あの、ゼタ・ゼルダと?」

 ゼタ・ゼルダとは、俺がここに派遣される少し前まで王宮騎士団の団長をしていた人物だ。

 とんでもなく剣の腕が立ち、前の団長を二〇代で秒殺して団長にのし上がった後、軍事機密の持ち出しをした挙句騎士団から逃げた。

 その後戦争末期から暫く、海を荒らしまわり、大海賊として名を馳せ、打ち首になった。

 ランドルは酒に口を付けながら、

「だって、五つある隊のうち二十代のくせに二番隊で副隊長まで行ってたんだから」

 ルースが俺の顔を見たことがない生き物を見る目で、クラゲのように口元をむにゃむにゃさせているものの二の句が継げずにいる。

—————面白過ぎだ。

 肩を震わせてルースの顔を見ながら笑っていると、ルースは立ち上がりそうな勢いで、

「そんな軍人のクソエリート様が、じゃ、なんでこんなとこにいるんすか!??」

「エリートでも何でもねぇからだろ。

 それに『こんなとこ』って言うなよお前。自分の勤務地に愛を持て」

 前菜を口に放り込んで酒で流し込んでいると、

「いや、え? だって…!」

 ルースが周りの全員を見渡しながら俺の顔を指さして白黒していると、徐々にランドルがニヤニヤと悪い顔になった。

「聞きたいか?」

 ランドルは俺が止めても絶対喋るから、諦めてネタになる覚悟を決めることにしよう。

 一同が固唾を飲んでランドルの話を今か今かと待ちわびているし。

 わざとらしく俺に目配せして咳払いをしたランドルは、

「ゼタ・ゼルダが騎士団から逃げ出した後、騎士団内で派閥争いが起きてな。

 結局、三番隊の隊長でゼタ・ゼルダと仲が悪かった人が団長候補最有力になったんだ。

 で、なんの会議だっけ?」

 覚えているくせに聞いてくるランドルに『さあ、覚えてねぇな』とわざとらしく返すと、

「ふっ…ああ、思い出した。就任の段取り決める会議だったな。

 その団長候補がゼタ・ゼルダの悪口をあんまりいうもんだから、席が隣だったコイツが口答えしました、と。

 団長候補と取っ組み合いになって、コイツがその人の顎に下から一発食らわせっ…ましたっ…と。ついでにどてっ腹にも何発か入れましっ…たっ…」

 思い出し笑いでランドルが震えている。その時会議室の扉の前の警備担当だったコイツは目の前で見ていた。

 ペジェ伍長が察したように、

「もしかして、あの? 伝説の?」

 ランドルは一層いい笑顔になって頷いた。

「その人、顎が砕けちまってさ。四〇歳ぐらいだったか? 急ごしらえで代わりの鉄製の顎付けたんだけどさ。

 自分よりずっと若いコイツに皆見てるとこでぶちのめされた挙句、見た目からして明らかにぶちのめされましたって分かる奴、団長としてひな壇に上らせるわけにいかねぇだろ?

 なにせあの歴代最速出世にして最強と言われたゼタ・ゼルダの後釜だからな。

 その人、団長候補から外されたんだよ」

「『鉄顎副団長』ですね」

「うわぁ…超かっこいい二つ名なのにケツ顎より不名誉すね」

「二年前ぐらいに退役したんで、今はこういう場でその呼び名口に出せるようになったけどな」

 俺に向くナム副隊長の視線が、今や危険人物に向けるソレと同じになっている。

—————やっぱりコイツとはウマが合わなさそうだな。

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