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操作してテーブルに置かれたタブレットには世界地図を表示させていた。
「これがこの世界の地図よ。海底を除いて未開の地はもうほぼないわね。そして今いるのがここ日本よ」
言いながら親指と人差し指で日本をクローズアップしていく。するとたちまち形を変える画面上の図にシルヴィアは驚愕している。
「ここがこの国の政治の中心の東京」
ズームして表示させたのは関東地方で人差し指で東京を示す。そのまま指を画面に滑らせ地図をどんどん北上させると現れる東北地方の一つを指差した。
「そして今いるこの建物があるのがここ、宮城県よ。この世界は政治を行う人の住む世なの。この機械は科学という技術で人が一から作り出した物質ね。決して魔法や特殊能力を私が発揮したわけじゃないわ」
まあきっと、理解は難しいだろうが。シルヴィアは案の定眉を寄せて理解に苦しむ表情をしていた。
「そして、この世界とは別の世界からなぜかこの部屋に人や神様が立て続けにやってくるようになったの。この世界ではそういう存在を転移者と呼んでいるわ。一人がこのユエ。ユエはゴルトアウルムクリューソスって世界からやって来たその世界の神様よ。世界滅亡の危機に力を失ってこの世界に流れついたの」
まあ、自分の世界を滅亡の危機に追いやった張本人ではあるが触れる必要はないかとそこは割愛して話を進める。
「再び世界を救うための力を回復するまで彼をここで保護したの。数ヶ月前に帰還したはずなんだけど、今日はまあ遊びにと言うかゴルトアウルムクリューソスの現状を報告しに来てくれていたの。なかなかこの世界に来るのは難しいらしいんだけど、ユエは神様だから簡単に来られちゃうみたい」
これで少しはここが人の世であり、神と名乗るユエがいる理由を分かって貰えただろうか。眉間に深く刻まれた皺は否と言っている気がするが話を聞く姿勢でいてくれるので取り敢えず続ける。
「そのユエが来る少し前にはまた別の世界から来てた人間の男性がいたわ。リオンと言って彼もあなたのように貴族だった。広大な自治領の領主様の後継者で転移の理由は最後まで分からなかったけど、私は留学生だったんだと思ってる。彼のこの先の人生において経験しておくべき事があって、彼の世界によって短期間だけ送り込まれたんじゃないかなって。無事に帰還を果たしたけど、それまではやはり私と私の友人で保護してあげたのよ」
シルヴィアは目をぱちくりさせて必死に理解しようとしてくれている。
「つまりここはチトセさ、チトセの生まれ育った世界で、私やこちらのユエ、は別の世界からやって来た者と言う事ですのね」
私やユエになんとか敬称をつけず辿々しげにシルヴィアは言ったが、自分が言ってる事に納得できていないのもその表情で分かる。
「その通りよ。まあ、すぐに理解するのは難しいだろうから今はそれを言葉に出来ただけで十分よ。でも、すでに転移者を二人迎えている私ならシルヴィアの力にもなれると思うの。ここに居る間は協力するから安心してね」
シルヴィアはホッとしたような表情を見せたが、すぐに曇らせてしまった。
「お二人は帰還出来たようですが、わたくしは無理かもしれません」