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異世界に精通している私達はたとえ悪役令嬢とその婚約者が転移してきても動じない いや、今回はちょっとだけ参ってます。。③  作者: さえ
第五章 穏やかじゃない朝

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 昨日で得られた情報を基本的に雄真が話す形でシルヴィアが置かれる状況を知らされた。途中怒りに満ちた表情やシルヴィアへの熱の籠った想いなどを見せるセシルや話の内容からしてとりあえずセシルが本当の意味でシルヴィアを裏切っていたわけではない事は分かった。所々でモヤっとしたり嫌悪感を覚える事はあったが、自分の理解が正しいのか取り敢えず話の内容を掻い摘んで声に出して確認をとってみる。


「シルヴィアが聖女で、それゆえに狙われ誘拐されそうになっていた所をセシルが助け出したのね。そしてシルヴィアの体は今そこで安全に保たれてる。セシルの在学中の振る舞いにも一応は理由があった。そして聖鏡の問題もあるけど諸々はもう解決間近って事でいい?」

「簡単に言うとそうだな」


 鏡の向こうでセシルも頷いている。それならあとの問題は二人のすれ違いだけと言う事か。どの道鏡の向こうの世界の事は私達にはどうすることも出来ないし、セシルやその父である国王によってもう修めてしまえる所まできているようだ。そこについては良いとして、シルヴィアを呼ばずに打合せと言うからには雄真も二人の仲について相談しようと思ったのだろう。


「シルヴィアが帰還出来るのは諸問題が落ち着く頃か、全く別のタイミングかは分からないがこっちにいる間は昨日話した行動予定で良いだろ?」


 縁結び、良縁祈願は別に両思いの者がしてはいけない事ではない。より縁を深めたり、恋愛に限らず良縁は得られるに越したことはないし。順調に王太子妃なって聖女としての役目も担うとなれば労働という経験は今後得るのも難しい。今出来る経験は今後の彼女にとってもプラスになるとも思うから今後も予定通りと言う事に対して異論はない。


「そうね。あとはシルヴィアにも真実を早く話してあげるべきじゃないかしら?そして、仕方のない事だったとしてもセシルにはシルヴィアにちゃんと謝罪してほしい」

「俺もそう思うんだけどさ、、」


 雄真が視線を鏡に移すので私もつられるようにセシルを見れば彼の顔はひどい色に見えた。


「ちょっと、大丈夫?」

「…問題ない」


 いや、全然そうは見えない。雄真もやれやれと肩をすくめる。


「嘘の情報とは言え婚約破棄を受け入れられた事で自信を無くしちまってるらしい。シルヴィアに会って話すべきだとはセシルも分かってるんだけど、彼女の気持ちを確かめるのも怖いみたいなんだ」

「へえ」


 私は思わず目を据えつまらなそな相槌を打ってしまう。


 二人が両思いだと分かってる者からすると杞憂でしかないのだが、だからと言ってシルヴィアの気持ちを第三者が勝手に伝えてやるのも違う。セシルの様子からして雄真も話してやってないのだろうし、聞かせたところで信じられるのかも分からない。


 セシルがシルヴィアに会うと言ったとしても、シルヴィアの気持ちも考えなくてはならない。帰還したらセシルと向き合うとシルヴィアは覚悟を決めたが、今その状況になったからといって心の準備がすぐに整うとも限らない。一度は逃げることを選択してしまっているしセシル以上にシルヴィアが持つべき勇気は大きいのだ。きっとセシルはそれを分かっていない。


「セシル、今夜もこうして鏡の前には来れる?」

「ああ、問題ないが?」

「セシルとこうやって話が出来ると言う事だけ、私達からシルヴィアに伝えるわ。今夜この鏡の前に立ってシルヴィアとちゃんと対話するかどうかはあなたに任せる。シルヴィアにもセシルの話を聞く気があれば鏡を覗くように言っておくから」

「そんな、今日一日で覚悟を決めろと!?」

「別に覚悟が決まらないなら姿を見せなくて良いわよ。逆にあなたが今夜そこにいたとしてもシルヴィアが姿を見せない可能性だってあるんだからね?」


そうは言ったが、シルヴィアは怖がったとしても対峙することを選ぶと思ってる。弱虫に見えるが、あれでなかなか肝が据わって芯の通った強い女性なのだ。


「おい、そんな強硬手段に出なくても、、」

「私はシルヴィアに嘘は吐きたくないもの。そして、これ以上あの子に対して嘘をつき続けてもらいたくもないわ」


 眉を寄せるセシルは気まずそうと言うより辛そうだった。どこかが痛むのかも知れないが、シルヴィアの流した涙を知らない奴の感じる痛みなど少しも気の毒には思わなかった。


「俯くシルヴィアを見てるのが辛かったと言ったわね?まさかシルヴィアが感じていた痛みと同じだなんて思ってないでしょうね?あなたの周りには事情を知った味方が沢山居たようだけど?」

「おい…」

「シルヴィアはただ一人で、何年も孤独に傷を負わされてきたのよ?今は生徒の認識は正されたと言った?そんな事でシルヴィアを救った気になってるの?すべき事はもっと他にあるんじゃないかしら。国民への信頼回復?王族だもの当然よね。それは分かるのにあなた自身が信頼を得たい人との対話を先延ばしにする意味が分からないわ」

「千歳、もうよせって」

「事故に遭って目が覚めたら文化文明の異なる世界にただ一人で飛ばされていた女の子の心細さなんか分からない訳ね。あの子を少しでも安心させてあげることより、自分の心が傷つかない時間を長く持ちたいのだものね?嫌われているかもと思うと怖い?孤独の中で一人戦っていた女の子の恐怖と比べてそれはどんな、、」

『落ち着け、千歳』


 少しヒートアップしすぎていると自覚しても止められないでいると不意にここに居ないはずのユエの声が頭に響いた。頃合いを見てこちらに向かうと言っていたから視覚でも共有していたのだろうか。雄真の静止も聞けなかった私だが、脳に直接響くユエの声のお陰で冷静さを少し取り戻せた。おそらく他の二人にユエの声は聞こえていない。


「ごめん、少し頭に血が昇ってしまったみたい」

「いや、、」

「セシル、今日のたった一日だけでも良いからシルヴィアの立場にちゃんと立って考えてみて。そうしてくれたのなら、夜鏡の向こうにあなたが居なくても責めたりしないから」


 拳を強く握って俯くセシルの返事を待たずに私は鏡をカウンターに伏せて雄真の方へスライドさせた。


「しばらくこの鏡は雄真が預かってくれる?セシルもその方が気が楽でしょ」

「ああ」


 短く返事をすると雄真は鏡を持って焙煎所の方へ行き手ぶらですぐに戻って来た。




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