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3


 やはり死んだのかという問いは少し衝撃的だった。神様と名乗る者を目の前にすれば、まさかとか、もしかしてと思えなくもないかと思ったろうが、やはりとは。死を覚悟したりしなければ出ない言葉だろう。


「ここに来る前にあなたに何があったか話してもらえるかしら?」


 現状を説明してやりたいが、彼女には転移の条件が作用してしまっている様だ。不幸な身の上に自ら死を選んだか、はたまた事故にでもあったのか。どちらにせよ死を覚悟する様な事を経験して来たと思うと、とにかく話を聞いてあげたかった。転移した状況を知れば帰還のためのヒントになるかも知れないし。


『こんな暗がりでと言うのも何だ。いつもの椅子で話せば良かろう』

「それもそうね。何か温かい飲み物でも淹れるから、一緒に来てくれる?」


 ユエの提案に乗って居室への移動を打診すると彼女は頷いておずおずとベッドから立ちあがろうとする。


「ちょっと待って!」


 咄嗟に大きな声を出してしまい再び彼女を怯えさせてしまう。


「ああ、ごめんなさい。怒ったわけではないの、恐がらないで。えっとね、この国では室内は靴を脱いで生活をしているの。だから申し訳ないんだけど、足を床に降ろす前に靴を脱いでもらえる?」


 意味が分からないという表情だったが、渋々という感じで靴を脱いでくれた。


「あの、まさかわたくしと決闘をしたいというわけでは、、」


 久々の異世界あるあるだ。落とされたナイフやフォークを拾うとか、手袋を拾うとか、訳の分からない決闘の申し込み方法が異世界物には描かれることが多い。かつてここに来たリオンと言う異世界の貴族も、私が両手で握手を返すと同じ様に聞いてきたっけ。


「ええ、決闘なんてしたくないわ。まず、この国では国同士であれ、個人間であれ争いを禁じているの。たとえ今後も何かあなたの世界における決闘の作法を私たちが行ってしまったとしても、その意思は無いと覚えておいてくれたら嬉しいわ」


 私の言葉に安堵する様に頷き返してくれた。しかし、靴を脱ぐことが決闘に繋がるなんて寝る時や入浴の時はどうするのだろう。


「相手に靴を脱ぐ様に言うのが決闘の申し込みで、受けてたつ者はその場で靴を脱ぐのです。応じない場合は脱いだりしません」


 居室へと移動しながら出た私の疑問に当然の事の様に答えてくれた。つまりは誰かに命じられて脱ぐのじゃなければ身に危険は及ばないのか。


 私はソファーに並んで座っているユエとご令嬢に飲み物を用意して、ローテーブルを挟んだ対面のオットマンに着席した。ユエは酒の入ったコップに口をつけるとご満悦と言った様子だ。ご令嬢にはホットミルクを用意してみた。


「お子様が水ですのにわたくしだけミルクなんていただけませんわ」


 なんて謙虚なんだろう。貴族ってもっとこう傲慢で自分勝手とかイメージしちゃってたけど違うんだな。そういえば以前ここにいたリオンも貴族だったが特に我儘であるとか、こちらを下に見る様な事はなかったなと思い出す。


「ユエ、交換してもらう?」

『な!バカを申せ!お嬢さん、これはの神酒と言って我の力となる飲み物で特別なのだよ。気にせずそれはお嬢さんが飲みなさい』

「シンシュ?」

「ただのお酒よ。この地の水と米で出来ていて、神様であるユエにとっては力を補給する食事の様なものね。見た目は子供だけど、私達とは次元の違う存在だから子供扱いしなくて大丈夫よ」


 力を失いこの部屋に迷い込んだ神獣ユエの回復に尽力した際、神聖な物や場所が彼の助けとなった。神社縁のお酒はご神酒と言ってこれも与えてみたところ回復が捗ったが、後にただの日本酒でも良いと判明したのだった。つまりはただの酒好きだと今は思っている。


「それで、色々と聞かせて貰いたいのだけど。まずは何てお呼びしたらいい?」

「これは、申し遅れました。わたくしはシルヴィア・グレイと申します。グレイ侯爵家の長女でございます」

「シルヴィアね、よろしく。私は千歳と呼んでくれたらいいわ」

「チトセ様、よろしくお願い致します」

「様もいらないわよ?ここでは身分差など無いから千歳と呼び捨ててくれて構わないわ。私もそうさせてもらうし」

「いえ、そんな。ユエ様が神様でしたらチトセ様は女神様でしょう?呼び捨てになどとても出来ませんわ」


 再び私とユエは顔を見合わせる。死を覚悟し、見知らぬ場所で目を覚まして、神と名乗る者が居れば天国に居ると思うのかも知れない。まだ少し混乱もしているのだろう。


「シルヴィア、ここは人の世で私もただの人よ。ユエも貴女と同じ様に別の世界から来ているだけ。だから、私達には気安く接してちょうだい」


 私の言葉にいまいち理解が追いついていない様だが取り敢えず分かりましたと言って頷いてくれた。


「でも、そうね。まず簡単に私達の事を話してしまった方が良いかしら」


 そう言って私は机からタブレットを持ち出して操作するとシルヴィアの方へ向けてテーブルへと置いた。






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