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 せっかくの休みだったのに朝から姉に叩き起こされ壮絶な一日を過ごしてきた。友人であり行きつけの喫茶店兼焙煎所の「珈琲屋」店主、雄真と共にお互いの姉に乳児のお守りを頼まれ、子を持つ親の偉大さを思い知った一日だった。秋も深まるこの頃は、まだ十八時だというのに日もすっかり落ちる。暗闇の中を疲れた体を引きずってやっと自分の部屋へと帰宅した。鍵を取り出すと鈴が澄んだ音を立て、砂金が一粒入ったキーホルダーのチャームにぶつかり更に音を大きくする。その煌めきと音色に少しの癒しをもらってから鍵を差し込んで開錠した。


『おお、懐かしいの』

「とりあえず?おかえりなさい、ユエ」


 入室しながら頭に思考を飛ばして来た傍の幼児におかえりの言葉を贈る。古風というかその見た目に似合わない語り口調は相変わらずだ。初めて会った時とは比べ物にならない程に艶やかに輝く黄金の髪も撫でれば変わらぬ手触りで柔らかい。


『まったく、また無遠慮に撫でおって』

「嬉しいくせに」

『ふん!嬉しくなど無いわ!まあ、また酒を貰う対価という事ならいくらでも撫でさせてやってもよいぞ』

「今回、力は失って無いんでしょ?もうお酒はいらないんじゃないの?」

『そんな事を言うならもう撫でさせてやらんぞ』

「本当に仕方のない毛玉さんね」

『また毛玉などと言いおって』


 ユエとしょうもないやりとりをしながらキッチン兼廊下を進んで居室へと入り明かりを灯すとカーテンを閉めに窓へと近づいた。シャッと音を立ててカーテンを閉めて振り返ると、いつもならソファーのクッションに毛玉になってダイブしていたユエが一点を見つめて突っ立っている。


「どうしたの?」


 不思議そうに尋ねる私に目を向けると、なんだか呆れた様な表情をされた。


『まったく、千歳は相変わらず鈍いのお』

「鈍いって、相変わらず失礼な物言いね」


 私は不機嫌にユエに言い返す。


『そっちの部屋に何かおるぞ』

「え?」


 ユエの見つめる先には寝室の扉がある。その向こうに何者かが潜んでいると言われ一瞬で緊張が走った。


「ちょっと、何かって?!まさか泥棒!?」


 今更意味があるか分からないが極力声を落としてユエに尋ねる。


『さてな。だが、この世の者の気配とはちと違うようだ』


 この世の者じゃないってまさかそっち?オカルト好きだが自分が経験するのは絶対に嫌なのに!なんで夏でもないのに出たりするのよ!



「待って待って待って!それって幽霊って事!?待って!無理無理無理ー!!」


 


『我と初めて会った時はなんて事無いって顔をしておったろ』

「だって!ユエは可愛い毛玉だったもの!」


 酷く動揺しながら私はユエを前向きに胸に抱き抱えた。


『千歳、我を盾に進むつもりか?』


 顔は見えないがユエはジト目になっているのが分かる。


「だって、このまま中を確かめないわけにもいかないじゃない!お願いよユエ」


 黙って盾になってくれ。





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