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誰にも何も告げずに学院を去ったのかと思えばシルヴィアの様子を見るにそうではないらしい。
「いいえ、手紙は残しました。セシル様の幸せを思えば愛する方と共になって頂きたいですから、婚約破棄は受け入れますと。大人しくわたくしは領地へ去るので皆が楽しみにしているパーティーに水を差すような事はお辞めになって下さいと。婚約破棄も今後正式な段取りを踏み進めてほしいと」
「それだけ?」
「?、、。ええ。他に何か気にかけるべき事があります?」
「シルヴィア、あなたの気持ちは!?それでもお慕いしてますとか!」
「そ、そんな事、言えませんわ!」
「何でよ!」
この子、人が良すぎて奥ゆかしくてそれゆえに拗らせてるんだ。
他者の幸せを優先できるのは素晴らしいが、自分の気持ちに蓋をするのは違うだろう。学院を去る決断だって、皆の為とか最もらしい理由を口にしたがただ逃げただけじゃないか。セシルの気持ちがシルヴィアにあるのか、黒髪の子にあるのか、はたまた別の場所にあるのかは正直分からない。でもだからと言って想いも告げず、彼の気持ちも確かめずに身を引くなんてそれもただの逃げだ。婚約をしてシルヴィアの努力も知っていた以上、彼女がどんな想いでいたのかをセシルには知る義務があると思う。
「シルヴィア、あなたはセシルとちゃんと話さなくちゃいけなかった。例え傷つくような結果が待つとしてもセシルの言葉を聞かなくてはダメじゃない。セシルの言葉なのか分からない言葉を信じてセシルの声を聞かないなんて彼に対して不誠実よ」
「ですが!セシル様と気心の知れた教師の話が間違いであるとは思えませんでした」
「では、シルヴィアがセシルの立場だったならどう?あなたはこんなにセシルを想っているのに、それを良く思わない誰かにシルヴィアはセシルが嫌いだなんて伝えられて、それをセシルが信じたら?」
「それは、、悲しい事だと思いますが、、」
「でしょ?まあ、聞く限りセシルのこれまでの行動に問題はあるし、シルヴィアが彼を信じられなくなってしまう気持ちも分かる。ほぼ確定と思えてしまえば傷の少なく済む道を選びたくもなるわよね。でも、仮にも王妃を目指した貴女なら立ち向かえたはずよ」
「…」
シルヴィアはセシルと婚約した以上、将来は王妃となる事が決まった人生を送っていた。彼の隣に立つための努力を重ねてきた彼女がその覚悟をしていなかったわけがない。王妃となるまで、またなってからもあらゆる思惑を孕んだ人々の言葉が彼女には届くのだ。それとの向き合い方を知らない彼女ではないはずなのに今回は逃げてしまった。彼女だってまだまだ若く未熟なのだろう。だが、辛くてもその経験を自分の力にして成長していく時だ。
「シルヴィア、貴女は本当に彼を諦めるの?彼の気持ちを直接確かめもせずに。自分が傷つく事さえ回避出来ればそれでいい?」
しばらく俯き拳を握り締めて沈黙していたが、やがて頭をぶんぶんと振りだした。
「嫌です。それに、それではいけませんわね」
そう言って顔を上げる。涙をあんなに流したはずなのにその顔は美しい。
「わたくしは、セシル様と向き合わなければいけなかった。例え婚約破棄を希望されているのが本当であってもセシル様から聞かずに事実としてしまってはいけません。叶わずともわたくしの想いを、お伝えしたい」
シルヴィアの確かな決意を聞けて私は満足だった。
「よし!帰還を果たしたら貴女の想いをぶつけてやるのよ!」
「ええ!」
『己自身についても言ってやれないものかの』
「何か言った?」
『いや別に?』
成り行きを見守っていたかと思えばまた訳の分からない話が始まりそうなユエの雰囲気に、またややこしい問答が始まっては敵わないとそれ以上突っかかるのは辞めておいた。




